ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』に見る“契約”の価値観

2016年10月25日
 秋クールの新作ドラマが出揃ったが、一番の注目作は『逃げるは恥だが役に立つ』(以下『逃げ恥』)だろう。TBS系で夜10時から放送されている契約結婚をモチーフとしたドラマだ。本作には、夫婦を会社に見立てることで、お金が介在する雇用主と従業員の関係と、お金が介在しない男女(あるいは家族)の関係を対比することで、現代を生きる男女にとっての労働や結婚に対する考え方を揺さぶる思考実験的な面白さがある。
 秋クールの新作ドラマが出揃ったが、一番の注目作は『逃げるは恥だが役に立つ』(以下『逃げ恥』)だろう。本作はTBS系で夜10時から放送されている契約結婚をモチーフとしたドラマだ。

 主人公の森山みくり(新垣結衣)は大学院に進み、臨床心理士の資格を習得。しかし、どこにも就職できずに派遣社員として働いていたが、派遣切りに遭ってしまう。父親の紹介で家事代行の仕事を始めるのだが、そこでIT企業で働く津崎平匡(星野源)の家を訪れる。津崎は潔癖症で他人と関わることを極端に嫌がる性格だったが、丁寧な仕事が認められて働くことになる。しかし、父の定年退職をきっかけに両親が田舎に引っ越すことに。

 みくりは一人暮らしをするか親と同行するか選択を迫られるが無職で収入がないために親について行こうと決める。別れの挨拶を津崎にするみくり。しかし、ふとしたきっかけで、二人は契約結婚をして周囲に内緒で、津崎が雇用主=夫、みくりが従業員=妻という関係で一緒に暮らし始める。

 初回の平均視聴率は10.2%(関東地区)と決して高いものではなかったが、第二話では12.1%(同)へと上昇。ほとんどの連続ドラマの視聴率は第一話が高く、第二話で下がるものだ。逆に言うと、第二話で視聴率が上がる作品は、初回が面白いと評価されたドラマだと言える。今後どうなるかはわからないが、序盤は文句なしのスタートだと言えよう。

 人気のポイントは、何と言っても主演のガッキ-こと新垣結衣と、ミュージシャンとしても高い評価を得ている星野源のコンビだろう。近年のドラマはどうしても男性ファンか女性ファンの人気に特化しがちだが、男優も女優も魅力的で、双方にファンがついてる状況は珍しいのではないかと思う。

 また、ドラマ以上に話題となったのは、エンドロールで星野源の「恋」にのって流れるガッキーたちのダンスシーン。この「恋ダンス」は放送終了後にフルバージョンがYOUTUBEにアップロードされ、一週間で609万再生を果たした。

 脚本を担当したのは今年の春に放送された連続ドラマ『重版出来!』(TBS系)が高く評価された野木亜紀子。『図書館戦争』シリーズや『俺物語!!』といった映画の脚本を手掛ける野木は原作モノの名手だ。近年、漫画や小説を実写映像化すると必ず物議を巻き起こすが、彼女の手掛けた原作モノはどれも評価が高い。
 この『逃げ恥』も講談社から出版されている海野つなみの少女漫画が原作だ。まだ第二話で物語自体ははじまったばかりだが、饒舌で理屈っぽいが淡々としていて心地いいという漫画の持ち味を殺さずに、まずは二人を魅力的に見せることに成功している。

 本作は2015年に講談社漫画賞を受賞し、漫画好きの間では既に高い評価を獲得していた。筆者はドラマ放送に合わせて、今回はじめて手に取ったのだが、これは一筋縄ではいかない問題作だと感じた。これから漫画を読む人やドラマを見る人のためにネタバレは極力避けるが、契約結婚を扱っている本作は、恋愛モノであると同時にお仕事モノの傑作である。

 みくりと津崎は、「夫婦を会社」、「結婚を仕事」に見立てて、主婦の仕事に賃金を支払い、労働時間をしっかりと決めて契約したらどうなるかを、淡々とシミュレーションすることで、お互いにわずらわしい感情やしがらみが生まれないようにしようと努める。しかし、そこは同じ家で暮らす男女、どうしても“仕事では割り切れない特別な感情”が生まれてしまう。

 本作には、夫婦を会社に見立てることで、お金が介在する雇用主と従業員の関係と、お金が介在しない男女(あるいは家族)の関係を対比することで、現代を生きる男女にとっての労働や結婚に対する考え方を揺さぶる思考実験的な面白さがある。かなり、理屈っぽい話だが、こういったことは、普通の会社を舞台にしたお仕事モノだと逆に見えづらいのではないかと思う。

 また、契約結婚を通して、二人を取り囲んでいる現代の若者を取り囲む困難を浮き上がらせているのも面白い。

 第二話では(偽装)結婚した二人が、森山家に挨拶に行くのだが、喜ぶ親に対して津崎が「結婚式をしません」と言う場面は見ていてヒリヒリする。彼らのやっていることは犯罪ではないが、両親や友人に嘘をついていること、あるいは社会の一般常識をはみ出した生活をしていることに対する後ろめたさは、原作以上に強調されている。だから、基本的には明るいラブコメなのだが、みくりたちが笑顔で悲鳴を上げているかのように見えてくる瞬間がある。

 タイトルの「逃げるは恥だが役に立つ」はハンガリーのことわざ。このことわざを言った後、津崎は「後ろ向きな選択だっていいじゃないか。恥ずかしい生き方だったとしても生き抜くことの方が大切で。その点においては異論も反論も認めません」と言う。二人は“何から逃げることで”生き残ろうとしているのか? ガッキーと星野源にうっとりしてると、時々ピリッとした痛みが走る意欲作である。

●関連リンク

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

コラム新着記事

  • 特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』 AIは人類にとって敵なのか味方なのか?

    「AIは人類にとって敵なのか味方なのか?」と気になる人に是非オススメしたいのが日曜朝9時から放送されている『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)だ。主人公はAI企業の2代目社長! アンドロイドが社会に普及した世界を舞台に、暴走したアンドロイドを止めるため、仮面ライダーゼロワンに変身して戦う物語だ。

    2019年11月8日

    コラム

  • 株式会社シンカができるまで Vol.6 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第6回は前回に引き続き人材採用についてです。2人目以降は順調に採用できるはず・・・と思いきや、まったくうまくいかなかった創業初期の人材採用を振り返ります。

    2019年10月28日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑩『マリア・シャラポワ自伝』

    ビジネスでは他人とつながったほうが良い結果が出る──この指針はあらゆるケースで全面適用に近づいているようにみえます。しかし本当にそうなのでしょうか? それでグローバルなサバイバル競争を勝ち残れるのでしょうか? ひとりきりになったときに、普段からどうすればよいのかーー今回おすすめしたいのは、個人の競争戦略の教本として読み応えだっぷりな『マリア・シャラポワ自伝』です。

    2019年10月15日

    コラム

  • 映画『記憶にございません!』ある日突然、自分が総理大臣をやることになったら?

    国民的映画監督の三谷幸喜が今回映画の題材に選んだのは総理大臣。しかも記憶を失った総理大臣! 着想のきっかけは「ごくごく普通の人間が、突然総理大臣になったらどうなる?」だったといいます。主人公を演じる中井貴一の悪戦苦闘は、若い頃の理想を見失ってしまったビジネスパーソンへのメッセージにもなっています。

    2019年9月30日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する④

    地方創生戦略の重点項目の一つ、デジタル活用共生社会「society5.0」。しかし、地方に行けば、情報リテラシーの格差が見られます。スマートフォンやSNSの普及により新たな人とのつながりやバーチャル・コミュニティが形成される一方、リアルな地域のつながりは希薄化、地域コミュニティ力は減退しています。今回は地域SNSを使い、新たな地域のつながり、コミュニティの活性に挑む、若き起業家の挑戦に着目、地域におけるデジタル活用の手法を追いました。

    2019年9月24日

    コラム

  • 株式会社シンカができるまで Vol.5 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第5回は会社を興した後、初めて社員を採用した時の気持ちが揺れ動いた日々を振り返ります。

    2019年9月19日

    コラム

  • アパレル業界を変えるIT戦略! 熊本発ベンチャー、シタテルが描く「服の未来」【Vol.3】

    アパレル業界は、メーカー、工場ともにテクノロジー化が遅れており、在庫問題や工場稼働の不均衡、手作業による工数の増加など様々なビジネス上の課題を抱えています。そんななか、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする衣服の小ロット生産サービス「sitateru」が注目を浴びています。優れた技術力を持つ縫製工場の「時間・技術・資源」のデータ管理を行い、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする、衣服の小ロット生産サービスです。「sitateru」を提供しているのは、熊本発ベンチャーのシタテル株式会社。アパレル業界の課題をテクノロジーでどう解決するのか? シタテルCTOの和泉信生さんによる連載、その最終回です。

    2019年9月9日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する③

    今、地域に足りないものは何か? カギを握るのは連携協働、事業を推進するプレイヤーの存在です。連携というと、かつては官民や産学、産学官が一般的でしたが、その実態は名ばかり。真の連携、共創のパートナーシップはどうあるべきか。水津陽子さんのシリーズ第3回は、行政、市民、企業の三者が連携、地域のストックを活用し、老化した都市を再生した先駆的取り組みに迫ります。

    2019年9月2日

    コラム