SelfieW.Me ……プリクラから進化したマーケティングツールの実例に学ぶ

2016年10月25日
 地域や業界に関わらず、筆者には「温故知新」はいつの時代もビジネスモデルのブレイクスルーのキーワードになるという信念がある。時代は移ろい、消費の中心となる層も常に様変わりする。技術の進歩と世代の入れ替わりで、需要の形態は異なったとしても、人類の消費行動自体には大きな変化がない。よって過去に流行ったモノやサービスが形を変えて再流行することがビジネスチャンスとなる。
 地域や業界に関わらず、筆者には「温故知新」はいつの時代もビジネスモデルのブレイクスルーのキーワードになるという信念がある。時代は移ろい、消費の中心となる層も常に様変わりする。技術の進歩と世代の入れ替わりで、需要の形態は異なったとしても、人類の消費行動自体には大きな変化がない。よって過去に流行ったモノやサービスが形を変えて再流行することがビジネスチャンスとなる。
 最近ではPokemon GOによるポケモン熱の再ブレイクがこれである。我が家でも子供たちは急に昔のポケモンの動画を見始めるし、巷にはポケモングッズがまた並び始めた。とかく「オワコン」などと言って過去に見向きもせず新しいものばかりを追いかけるだけではいけない。
 アメリカにおけるそんな温故知新ビジネスモデルの一事例として今回紹介したいビジネスが Selfie With Me(セルフィー・ウィズ・ミー、SelfieW.Me、以下SWM)である。運営会社であるSocial Rewardsの共同創業者マイク上杉氏は日本人で米国の高校時代からの親友であり、会社を数社売却した経験のあるシリアル起業家のジョーと共にこのビジネスを立ち上げた。今回は上杉氏へのインタビューを中心にこのビジネスモデルの特筆性と展望、着眼点についてまとめてみた。

Social Rewards共同創業者のマイク上杉氏

 Social Rewardsはアメリカでシード調達も済ませているITベンチャー企業だが、もともとは映画館向けのソーシャル・プロモーションを中心に事業を展開していた会社だ。しかし、停滞気味の映画業界におけるビジネス展開が当初思うようにいかず、ピボットして新たに立ち上げたのがSWM。一見これは映画館やスポーツ・アリーナ、イベント会場などに向けた「プリクラ」の焼き直しなのだが、インスタグラムやフェイスブックなどソーシャル拡散に特化しているため「印刷」機能がなく代わりにマーケティングに活用できる様々なデータ解析ツールを実装しているのが特徴だ。前述の技術の進歩と世代の入れ替わりによる需要の変化に絶妙に対応したことで成功しており、実はプリクラとは似て非なるものである。

SelfieW.Me ……プリクラから進化したマーケティングツールの実例に学ぶ

 最初のビジネスで映画館や配給会社とのコネクションができたことから、まずは同様に映画館に特化した事業展開から着手。写真の背景画像にプロモーションを行っている映画の壁紙やキャラクターを挿入することで映画の宣伝になり、消費者の拡散を期待している。映画の興行収入は封切り直後の初動が極めて重要であるため、この宣伝は主に新作上映の直前2~3週、上映最初と翌週という3~4週間に的を絞って行われている。
 インターフェースもごく簡単で単純なステップで撮影と共有ができるようになっているのが特徴だ。ユーザーは電話番号かメールアドレスを必ず入力する必要があり、そのどちらかにランディングページつきの画像が届くようになるという仕組み。このランディングページでは動画のトレーラーやクーポンなどが含まれており、ダイレクトマーケティングの要素が強い。
 1枚を撮影する際の平均時間はわずか40秒ほど。ソーシャルに特化したことにより、印刷の手間が減り回転がよくなった上にメンテナンスの手間も省けることでスケールしやすいビジネスモデルになっている。将来的には動画やエフェクトなどの導入も予定されているとのこと。
 設置対象となる映画館だが、マーカスなど独立系の映画館を重点的にカバーしてきており、年末までに全米50の映画館で展開、来年度中に200館を目標としている。いよいよリーガルやAMCといった最大手のシネコンとの提携も近々始まる。スポンサーである配給会社のほうは、主要配給会社全ての作品において既に取扱実績があるというから人気のほどが伺える。交渉をうまく進めている背景には有名配給会社で副社長経験を有する顧問を数名抱えていることにもあるようだ。
 映画産業といえばアメリカのエンタメ業界を代表する存在だが、実店舗の映画館はこれまでNetflixやHULU、Redboxなどオンラインや簡易レンタルに押されて年々集客が苦しくなっている(映画館も収益の大半をポップコーンやソーダなどの売上から得ている。映画の配給自体は大した儲けにならない時代なのだ)。
 気になるSWMの収益モデルだが配給会社から撮影枚数に応じて出稿費用を提供してもらい、それを設置先の所有企業とSocial Rewards社で按分する形態になっている。つまり収益源と集客に苦しむ実店舗にとっての救世主的となりうるものだ(実際SWMでシェアされた写真を見て、映画館に足を運ぶ消費者が多いため集客は金土が多いにも関わらず撮影枚数は日曜日が多いという現象が起きているらしい)。
 このモデル自体は映画館に留まるものではない、次に上杉氏が目をつけたのがこれもエンタメ業界に並ぶ花形のスポーツ業界。映画館は映画毎にファンを集めるが、各スポーツチームは熱狂的なファンを抱えている。今年の1月下旬にロサンゼルスのドジャース球場で開催されたファンフェスタでも採用されたところ、時間あたりの撮影記録を更新するほどの盛況ぶり。筆者も実際現場で見たが、列が締め切りまで途絶えることがなかったことからも親和性の高さは折り紙つきである。ドジャース球場はちなみにスポーツ界では実質世界一位、ディズニー系列を含めたリゾート施設を入れても世界トップレベルの集客力をもつベニュー(会場)である。この場で採用されたことが、他の会場にあたる際に大きな信用となったことから、門戸が次々に開かれたそうだ。

2016年1月にドジャース球場で催されたファンフェスタでの設置実例 行列は最後まで途絶えることがなかった

 このビジネスモデルが単なるプリクラの焼き直しであればここまで大きな成功には繋がらなかったに違いない。上述のファンフェスタで実際に利用されているところを目の前で見たが、ファンは大喜びで撮影し、それを見て他の人も列に並ぶ。これはビジネスデザインが極めて直観的だということでミレニアル世代に対応している。そしてデータが全てデジタルであるため、解析ツールの実装が可能になったことから、出稿主はリアルタイムでPRの反響を見ることができる。詳細は企業秘密だが、被撮影者の属性を分析するツールも含まれていることから、どの映画がどういう人種あるいは年齢層、性別にウケているのかという貴重なデータを得ることができる。これがビッグデータ時代にどれだけ重要かというのは説明するまでもないだろう。

 プリクラやこれまで映画館に置いてある看板はB2Cだった。写真は取れてもトラックする方法は皆無だったし必要もなかったが、それがB2Bのビジネスモデルを通じてインタラクティブなダイレクトマーケティングツールに進化したという事実は大変興味深い。
時代の流れに伴い、費用対効果の測定も様変わりしている。印刷の無駄を削ぎ落とし出稿元が必要なデータを提供することで、古いビジネスモデルが最新のそれに変わり、マーケティングにうるさいアメリカで消費者、出稿主、設置先の三者を全て満足させてヒットしているこの事例から学べることは多くあるはずだ。現在海外や有名リゾートチェーンからもオファーがあるという。
執筆者: 立入勝義 - 世界銀行元ソーシャルメディア広報担当官
元ウォルトディズニーリゾートデジタルプロデューサー。北米で、ライセンシング交渉、M&A、法務交渉(対米国起業)、ローカライゼーションなど起業支援コンサルティングを行う。日本語での著作は4冊、米キンドルストアでは100冊以上を出版。

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