TVドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』 仕事や人間関係に疲れている人への一服の清涼剤

レンタルおやじとして働く兄弟のオフビートな物語

2020年1月31日
テレビ東京の『コタキ兄弟と四苦八苦』は、「レンタルおやじ」として働く無職の中年の兄弟を主人公にした深夜ドラマです。1時間1000円で相手の話を聞く仕事を引き受け、それをきっかけに、様々な人々と関わるようになっていきます。無職のおじさんでなくても、繰り返し観ると新たな発見が多い奥の深い本作、仕事や人間関係に疲れている人なら、一服の清涼剤として楽しめる作品です。

ドラマ24『コタキ兄弟と四苦八苦』第4話より 左:兄の一路(古舘寛治)と右:弟の二路(滝藤賢一)/テレビ東京ほか 毎週金曜 深夜0時12分~ 放送 Ⓒ「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会

 テレビ東京系のドラマ24(金曜深夜24時12分~52分)枠で放送されている『コタキ兄弟と四苦八苦』は、「レンタルおやじ」として働く兄弟を主人公にしたドラマだ。

 長男の古滝一路(古舘寛治)は元予備校講師で、現在は無職。今は馴染みの喫茶店に通って時間を潰す日々を送っている。そこに同じく無職で、妻から離婚を告げられた次男の古滝二路(滝藤賢一)が8年ぶりに戻ってくる。
 2人は、二路が衝突事故で怪我を負わせてしまったムラタ(宮藤官九郎)の代わりに1時間1000円で相手の話を聞く「レンタルおやじ」の仕事を引き受け、それをきっかけに、様々な人々と関わるようになっていく。

 脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』TBS系)、『アンナチュラル』(同)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)で知られる野木亜紀子。
 監督は『リンダリンダリンダ』、『マイ・バック・ページ』、『ハード・コア』といった映画で知られる山下敦弘。テレ東の深夜ドラマでは『山田孝之の東京都北区赤羽』や『山田孝之のカンヌ映画祭』といったドキュメンタリーテイストのドラマで知られているが、今回は純粋なフィクションとなっている。

 見どころは野木の脚本を山下が演出する過程で浮かび上がってくる2人の作家性だろう。
『逃げ恥』のヒットによって大きく知られることとなった野木は、近年もっとも注目されているドラマ脚本家の1人だ。2018年の『アンナチュラル』以降はオリジナル作品を手掛けるようになり、毎回話題作を産み出している。

第4話では、レンタルおやじはあるマダム(樋口可南子)の元に派遣されることに Ⓒ「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会

  今回の『コタキ兄弟と四苦八苦』は、古舘寛治が「古舘と滝藤賢一のW主演のドラマをテレ東で書いてくれないか?」と、野木に脚本をオファーしたことからはじまった企画だ。役者2人(言うまでもなくタイトルのコタキとは古舘寛治と滝藤賢一の名前から取られている)に対する当て書きから着想されたドラマだけあって、物語は2人の掛け合いが中心となっている。

 真面目で理屈っぽいためモテない一路と、軽薄でモテるけど、生活能力がないため妻に愛想をつかされた弟の二路は、愛すべき“ダメおじさん”で、この2人が毎回登場するゲスト俳優とどう絡むかが、毎話の見どころだ。
 そこに、無職のダメ男たちの日常を淡々と描き続けてきた山下敦弘の演出が加わることで、テレ東の深夜ドラマらしいオフビートな物語に仕上がっている。

 ゲストも含めて出演俳優が数人しか登場しないコンパクトな作品で、話によっては行きつけの喫茶店で会話をしているだけで終わることもある。それでも安っぽく見えないのは、映像の完成度が高く、背景に見え隠れする物語が濃厚だからだろう。だから、繰り返し観ると、新たな発見が多い。

ドラマ24『コタキ兄弟と四苦八苦』/テレビ東京ほか 毎週金曜 深夜0時12分~ 放送 Ⓒ「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会

 毎話のタイトルは苦しみを表す四文字熟語で構成されている。第1話「怨憎会苦」は夫の暴力を受けて血まみれの顔で登場した女性が離婚届の証人として名前を書いてほしいと依頼する話。第2話「求不得苦」は新郎の親戚役として結婚式に出席する話。そして第3話「曠夫受苦」は「デートのプランについて相談に乗って欲しい」という大学生男子の話を2人が聞く話となっている。

 『逃げ恥』等で、現代日本で生きる女性の苦悩を描いてきた野木の脚本らしく、女性の描写はシリアスかつ鬼気迫るものがあり、逆にレンタルおやじの描写には、ダメ男たちをチャーミングに描いてきた山下敦弘のカラーが強く出ているという印象だ。
その意味でも一つの作品の中で、2人の作家のカラーが混ざりあい、時に融合し時に衝突するという緊張感が、作品を面白くしている。

 また、『コタキ兄弟と四苦八苦』を見ていて思い出すのは70年代に萩原健一と水谷豊が主演を務めた名作ドラマ『傷だらけの天使』(日本テレビ系、以下『傷天』)だ。
 この作品はテレビドラマの金字塔的作品で、多数のドラマに影響を与えている。しかし、当時の『傷天』が体現していた70年代の挫折感、最終話のタイトル「祭りのあとにさすらいの日々を」に象徴されるような気だるい気分を作中に取り込めたものはほとんどない。しかし『コタキ兄弟と四苦八苦』には、例外的に70年代の挫折感が、2020年の気分として刻まれている。
 おそらく、70年代と今の時代に通じる何かがあるのだろう。
 これは昨年ヒットした映画、同じように『傷天』の引用があった新海誠監督のアニメ映画『天気の子』や、70年代に作られたアメリカン・ニューシネマからの引用で作られたトッド・フィリップス監督の『ジョーカー』にも通じる手触りだ。

 「正論だけで生きていける幸せな世の中なら私たちなんて必要ありません」と、別のレンタルおやじに一路が言われる場面があるが、この台詞は、このドラマに惹かれる視聴者の気持ちを言い表している。
 忙しない日々を過ごしていると『コタキ兄弟と四苦八苦』のようなドラマが存在すること、それ自体に、救われた気持ちになるのだ。
 無職のおじさんでなくても、仕事や人間関係に疲れている人なら、一服の清涼剤として楽しめる深夜ドラマである。

■ドラマ24『コタキ兄弟と四苦八苦』
テレビ東京ほか 毎週金曜 深夜0時12分~ 放送
オンライン動画配信サービスにて、第1話から最新話まで配信中

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執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
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