<シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する⑥

第6回 人口千人の村が、人生100年時代の先端モデルとなる日

2020年1月30日
東京圏を除く地方の若者人口は2000年からの15年間で約3割減少。東京一極集中を食い止め、地方へ還流させるには何が必要なのか。求められるのは、都市の規模に関わらず、明確なビジョンを描く力であり、それを実現する実効力のある取り組みです。高知県にある人口わずか1300人の小さな村の挑戦を追います。

仏本家から世界で唯一の公認を受けた北川村「モネの庭」マルモッタン、モネが夢見た青い睡蓮も咲く「水の庭」

 東京圏を除く地方の若者人口(15~29歳)は2000年からの15年間で約3割(532万人)減少。東京一極集中を食い止め、地方へ還流させるには何が必要なのか。求められるのは、都市の規模に関わらず、明確なビジョンを描く力であり、それを実現する実効力のある取り組みです。

人口1300人の村の世界戦略

 高知県東部に位置する北川村はコンビニも信号もない人口わずか1300人ほどの小さな村です。総面積の約95%を森林が占める中山間地で、農地面積はわずか1%に過ぎません。基幹産業はゆずの栽培で、生産量日本一を誇る高知県で4分の1のシェアを占めます。

 しかし近年はゆずの大豊作や国内市場の縮小により、ゆず農家は厳しい経営環境にありました。これを受け、2011年高知県では年海外に販路を見出だすべく、パリで賞味会を開催。すると青果輸出の要望が高まり、北川村では2012年農産物の輸入に厳しい基準を有すEUに対し、日本で初めてゆずの輸出を開始しました。

 北川村のゆず輸出量は2017年には青果8トン、果汁72トンに上ります。北川村のゆずはフランスのミシュラン2つ星ホテルやパティシエから高い評価を得ており、ゆずを使ったチーズなどの加工品も生まれています。

 現在、北川村の販路はフランスに加え、シンガポールやアメリカへも広がっています。村には現在220戸のゆず農家がありますが、出荷量の3分の1は海外輸出で、加工用のゆずの生産単価を押し上げ効果もあり、農業収入の底上げにつながっています。

 村では基幹産業の強化に向け、①100haの農地の創出と集積、②100戸の専業農家を育成、③担い手となるUIターン者のための就農環境の整備と定住を支援等の重点施策を打ち出しています。

 北川村の人口は2030年には980人になると推計されており、人口が1000人を下回ると行政サービスの低下や学校の統廃合等が想定されます。村の活力を維持するためには、人口1000人が最低ラインとなります。

 そのため村が力を入れるもう一つの柱が観光であり、観光と一体となった村の魅力づくりです。

北川村が仏本家から世界で唯一公認を得られたワケ

(左) モネが愛したバラなどが咲く、モネの庭「花の庭」(右)クロード・モネの名を冠したバラ

 北川村には1989年ふるさと創生資金の1億円等を使い建設した中岡慎太郎館、近年人気を集める北川村「モネの庭」マルモッタン(以下、モネの庭)、2018年にリニューアルオープンした北川村温泉ゆずの宿の3つの観光施設があります。

 中でも2000年に開園したモネの庭は初年度入園者数が20万人を突破、同年高知県内でナンバーワンの観光客数を記録しました。今や県内外から観光客を集める県有数の人気観光地となっています。

 睡蓮の絵で知られる印象派の画家クロード・モネが愛したとされるフランスのジヴェルニーにあるモネの庭。その仏本家から世界で唯一、その名を冠することが許されたのが北川村です。名称使用については他の団体からのオファーもあったといいますが、何故、北川村が選ばれたのでしょうか。しかも名称にはパリにあるモネのコレクションで知られる「マルモッタン・モネ美術館」の名もあります。

 そもそも今、モネの庭がある場所は、かつて村が誘致する予定だったゆずワイナリーのため造成された土地でした。それが1996年バブル崩壊による景気の悪化等により頓挫。県からの補助金を得て整備した土地をそのままにしておくことはできず、村は頭を痛め、担当者はなんとかしなければと焦っていました。

 でも何故、モネの庭なのか? という疑問を持つ人もおられるでしょう。きっかけは航空機の機内誌でモネの庭を見たことだったといいます。土地活用の一案としてフラワーガーデンというアイデアも出ており、村はゆずの栽培など、植物を育てることを得意としています。フランスや印象派、モネなどのコンテンツは日本人に人気です。

 そこでまず村が取った行動はジヴェルニーに担当者を派遣することでした。しかも無謀にも伝手もないまま、アポイントも取らず渡仏。結局、モネの庭の責任者、ジルベール・ヴァエ氏を訪問しましたが会うことはできませんでした。

 とはいえ、諦めるわけにはいきません。村はその後も熱意を伝え続けました。すると翌年、クロード・モネ財団の理事長氏から「小さな村の頑張りに協力しましょう」という言葉をもらい、それまで門外不出だったモネの庭の名称使用の許可を得ることになったのです。

 開園に向けては仏本家から様々なサポートも受けました。今も折に触れてチェックが入りますが、村では庭園責任者が本家の大切にする精神と世界観をしっかりと守っており、2015年仏芸術文化勲章(シュヴァリェ)叙勲するなど、高い評価と信頼を得ています。

 一方、庭園経営に関しては一時期苦境に立たされ、改革が求められました。

苦境から成長へ、民間人材の登用で経営改革

(左)駅と主要観光地を結ぶ村営バス(中)高知旅で得する龍馬旅券(右)レストランで味わう、北川村ご当地グルメ

 当初、村はモネの庭を公園と位置づけ、入園料はとらず無料開放していました。しかし、開園の物珍しさから多くの県内客が訪れたのも一巡。リピーターを呼ぶには新たな魅力づくりも求められますが、庭園はメンテナンスコストもかかります。そのため2002年入園料を有料化したところ客足は一気に落ち込みました。

 低迷するモネの庭に対し、村では外に人材を求め、2016年定年を機に次のステージを探していた和田昌敏さんを支配人として迎えました。大手総合商社に務めていた和田さんは、それまでモネの庭に欠けていたマーケティングの視点を取り入れ、次々と改革案を打ち出しました。

 モネの庭の課題の一つは、花のない冬季に見るものも少なく、訪れる人が少ないため休園期間が発生します。庭園観光は天候に左右されることも多く、台風に見舞われると大きく来園者が減ります。一方、それまでの来園者は県内や四国が中心で、首都圏等のマーケットへのPRもほとんど行われていませんでした。

 そこでまず、メディアへの露出を増やし、旅行代理店等への営業や情報交換を積極的に行い、PRイベント等にも力を入れました。また来園者を増やす具体策として、夏と冬で異なっていた営業時間を9~17時に統一、来園者の多い4~6月の休園日をなくし、逆に花の少ない12月を完全休園としました。

 その上で、夜のイルミネーションの時期を紅葉が映える11月にシフト、消費やリピーターを生むレストランやショップを無料開放エリアとしました。レストランには元高知日航ホテルのシェフを招き、村特産のゆず等を使ったご当地グルメを提供。平日でもランチ時には行列ができる人気店となっています。

 2020年4月には3つある庭園の一つを、地中海リビエラ地方をイメージした庭園にリニューアル予定で、新たにゆずやオリーブの収穫体験も楽しめるようになります。

 今後、阿南安芸自動車道が開通すると関西へ3時間程度でアクセスできるようになり、ゆずの販路拡大や観光振興による交流人口の拡大にも期待が持てます。

 人口1000人の村が人生100年時代を生きる先端モデルとなる。そんな日も遠くないかもしれません。

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合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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