斜めから見る〜今月の一冊 ⑪『食卓一期一会』

食べる前、いやUPする前に読む!

2020年1月3日
あけましておめでとうございます。2020年が皆様にとって素敵な年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。今年もHANJO HANJOをよろしくお願いいたします。新年最初の記事は長沖竜二さんの書評からです。

 糖とアミノ酸をいっしょに焦げがつくくらい加熱すると無条件に何でも美味しい。メイラード効果のことをざっくり説明すればそういうことです。お腹が空いているときに食べたほうが美味しい。それを少し難しく言うなら「稽古をするときの体の動かし方は半端ではありません。筋肉が栄養を欲しがっています。そのときにしっかり食べる。稽古しないときは夜食禁止。」(『弱くても勝てる 強くても負ける』石浦外喜義)ということ。

 そしてもう一つ、芥川龍之介の『芋粥』に出てくる五位の心理、つまり「飽きるほど芋粥を飲んでみたい五位は、飽きるほど沢山の芋粥をふるまわれるとなると、その食欲が失せました」。

 食について起こっているのは、こういうことと、あとはだいたいそのバリエーションです。美味い不味いにはいろいろありげにみえて、何度も書き記したり、人に見せたりするほどのことはないように思うのです。

 なのに、言わなきゃいけない、言いたくなるのがSNSというもので、タイムラインには料理やお酒の写真が並びます。これを苦々しく感じる勢力もあるにはありますが、膨大に掲示される写真を止めるにはいたっていません。批判そのものが総じて典型的な嫉妬だったり退屈なものだから。「飯テロ」「じまんですか」「はいはい、それは結構なことで」・・・。

 さて、ここで昭和の話をひとつさせてください。「食について何か言ったり書いたりするのはハシタナイ」というより「人前に食事姿を見せるのは恥ずかしいことだ」という考えのもと、グルメ番組に出ずそういう文章を書いたりしないのが、永六輔、ビートたけしの基本的なスタンスでした。ともに親の代からそれを躾けられていたといいます。2人の共通点は、東京の東の方で生まれ育っているという点です。2人の文筆力や感性、財力からすれば、ヒトと違ったことを書こうと思えば、ヒトよりは気の利いたことが書けたでしょう。でも、それはハシタナイから言わないのです。あくまでも本人の信条として。

 では食べながら、料理しながら、ふるまいふるまわれながら何を話せばよいのでしょう。

 表現としての料理の「美味しい」には、客観的な評価軸がないうえに、再現性がないので、料理についての評価をその調子で言っていると、「エビデンスに基づいた言い方のできないヒト」に見られるかもしれません。そう、このウェブサイトは起業家、経営者向けで、そう見られてはまずいヒトが集まっているわけです。

 もっとも、科学的計量的に誰でも喜ぶ味のつくりかたは昨今確立されつつありますが、食品メーカーやレストラン、農家さんが“高性能な釣り道具とエサ”を開発しているようなもので、その上に乗ってとかく評論するのは、釣り堀の魚が釣竿を評論しているみたいなものです。

 いっしょに食事をすると分泌するという幸せホルモン「オキシトシン」説も、毎回、同じような感想を聞かされては限界効用も逓減してしまいます。そう、問題は、美味い不味いの軸に乗っている限り、言葉の幅は狭いということ。

 今回おすすめする『食卓一期一会』は、詩人が食について言葉を紡いだものです。
 「言葉のダシのとりかた」「包丁のつかいかた」「コトバの揚げかた」・・・どのページにも書いてあります。詩をつくることと料理をつくることは似ています。

 「梅干しのつくりかた」にはこうあります。

 詩の言葉は梅干しとおなじ材料でできている。
 水と手と、重石とふるい知恵と、
 昼と夜と、あざやかな色と、
 とても酸っぱい真実で。

 その時期──正確にいうと食欲の秋から始まって忘年会、クリスマス、新年会などなど、「美味しさ疲れ、美味しさ飽きもしそうな人には、いい感じの〈調味料〉になってくれることでしょう。食事会、パーティのネタとしても超おすすめです。
●今月の一冊

『食卓一期一会』
長田 弘/ハルキ文庫

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執筆者: 長沖竜二 - スモールビジネス調査員
『現代用語の基礎知識』編集長、『小さな組織の未来学』編集長などを経て、現在、公共施設業界のコンベンション運営、中小事業者やまちづくりについてのメディア取材・編集などを行っている

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