日本の屋外広告をすべてデジタル化する! 看板が最強の広告メディアになる日(第3回)

LIVE BOARD(ライブボード)/ドコモのデータで屋外広告価値を見える化、XYZ世代にも届くメディアへ

2019年12月13日
「OOH」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? OOHとはOUT OF HOMEの略称で、街頭広告をはじめ、家から一歩外に出た際に触れるすべての広告のことを指します。そんなOOHをデジタル化することで、まったく新たなコミュニケーションメディアを日本に生み出そうとする会社が登場しました。今年の2月に設立された「株式会社LIVE BOARD(ライブボード)」です。代表取締役社長の神内一郎さんに話を聞く第3回は、DOOHの公共性や可能性についてのほか、LIVE BOARDの理念に焦点をあてます。
 「OOH」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? OOHとはOUT OF HOMEの略称で、街頭広告をはじめ、家から一歩外に出た際に触れるすべての広告のことを指します。看板や駅構内のサイネージ、電車やバスの車内広告・・・。いわゆる屋外広告は歴史上一番古くから存在する広告でもあります。そんなOOHをデジタル化することで、まったく新たなコミュニケーションメディアを日本に生み出そうとする会社が登場しました。今年の2月に設立された「株式会社LIVE BOARD(ライブボード)」です。LIVE BOARDは、NTTドコモと電通の合弁会社。そこで鍵を握るのは携帯電話から集積される膨大な量のデータです。アナログ&アナクロだったOOHの世界に明確な基準となるデータや数値を与えることは、広告のあり方に変更を迫るだけでなく、日本の街の風景を一変させる可能性すら秘めています。今後ますます成長が見込まれるOOH。それはデジタル化=DOOH(DIGITAL OUT OF HOME)によって加速されることは間違いありません。DOOHがもたらす未来について、株式会社LIVE BOARD 代表取締役社長の神内一郎さんに3回にわたって話を聞きます。第3回はDOOHの公共性や可能性のほか、LIVE BOARDの理念や神内さんの思いなどに焦点をあてます。

株式会社LIVE BOARD 代表取締役社長の神内一郎さん(左)と同代表取締役副社長の伊藤哲哉さん。LIVE BOARDはNTTドコモと電通の合弁会社。「大企業であるドコモと電通がこんなスピード感でビジネスを実現させたのは初めてかもしれません」(神内さん)

OOHでは公共空間の一部という自覚が必要

── OOHの誰の目にもつく=強制視認性という特長は、一方で大きな責任を伴います。

その通りです。広告の審査、媒体基準は、大きく3つのレイヤーに分かれています。国の法律、自治体ごとの条例、そして媒体社による個別の規制です。たとえば京都や鎌倉のような歴史的エリアでは色や大きさなどの景観条例があります。厳しい地域もあれば緩やかなところもあります。広告の内容も公序良俗に反するようなものは許可されません。公共の場所に出る以上、OOHの審査基準は数あるメディアのなかでも最も厳格に決められています。

── このところグローバル企業の広告表現が、中国やイスラム圏で批判を受けて掲載を取りやめになる例が増えています。LIVE BOARDでは、クリエイティブチェックをどのように行っているのですか。

われわれ自身ですべてのクリエイティブを事前チェックします。機械的なシステムで判断するわけではありません。業種などはフィルターを通して自動的にチェックできますが、表現物は最終的には人間が見て判断します。文化的要因が多いからです。

マレーシアでのOOHの失敗事例はわかりやすいかもしれません。マレーシアはイスラム教国です。イスラム圏では女性の肌の露出はタブーとされていますよね。そこで問題となったのはグローバル企業によるシャンプーの広告でした。女性モデルの肌が少し露出していたのです。肩が見える程度だったのですが、イスラムのモラルではNGです。

「広告主は大企業だから」という理由でOKにするのではなく、ちゃんとクリエイティブを見て、「これは肌が出ているから掲出できません」と断らないと大きな問題を引き起こしかねません。ローカルの媒体社は地域ごとの個別の対応が求められます。

「無知でした」ということはありえます。ただそれで済ませないためにも、「明確なガイドラインを持っています」ということ、「人間の目でクリエイティブチェックをしています」ということが必須なのです。

── 2020ではDOOHが大きな役割を果たしそうです。

世界中から大勢のお客様が日本にやってきます。ディスプレイを単なる広告媒体と捉えるのではなく、風景の一部として、街の装飾として、街全体が一体になるような考えが大切だと思います。

広告だけでなく、行き先案内版などのサインボードは放っておくとバラバラに作られていきます。それらは都市計画と一体となって開発されるべきだという大きな視点が必要なのではないでしょうか。われわれは会社をスタートさせたばかりで高尚なことを言っている余裕はないのですが、「都市の一部としての役割」ということをいつも心にとどめ置かなければと思っています。

2020では世界中の人々が日本を訪れる。「ディスプレイを単なる広告媒体と捉えるのではなく、風景の一部として、街の装飾として、街全体が一体になるような考えが大切です」(神内さん)。写真は赤坂にあるLIVE BOARDの自社メディアより

「0を1にする」。日本では誰もやっていないことを始めた

── 会社創設から今までの間、何が一番印象に残っていますか。

圧倒的にスピードです。構想から実現まで本当に早くて、大企業であるドコモと電通がこんなスピード感でビジネスを実現させたのは初めてかもしれません。世界最古の広告である看板でも、デジタルトランスフォーメーションによって進化させられることを証明したいーーそんな熱意が両者にあったから一気に凝縮したんです。

── スタート地点でまず誓ったことは何ですか?

「0を1にする」。それを「1を1000にする」より重視しています。OOHのデジタルトランスフォーメーションという日本では誰もやっていないことを始めるわけです。そこにはまったく新しい考え方が必要です。恐怖心もありました。マーケットは受け入れてくれるだろうか? 既存のビジネスをやっている人は振り向いてくれるだろうか? 業界全体を変革させるという思いは強く持っていましたが、スタート台についたときには恐怖しかありませんでした。

── そして10ヶ月。思い描いた道筋を歩めていますか?

初めゼロだった自社媒体を増やしていき、渋谷の道玄坂をはじめ、現在では17箇所19面までになりました。さらに今年度中に100面まで増やしていく予定です。これまでアナログの看板だったところや多くの視認数が期待できそうな場所の権利をわれわれが買って、デジタルサイネージに変えています。お陰様で、問い合わせが増え、売り上げも伸びてきています。

主な広告主は、DOOHに慣れた外資、映像コンテンツ、不動産、化粧品、飲料などです。若い層はウェブでもリーチするのが難しいのですが、DOOHはそこが非常に強いので注目されています。LIVE BOARDではターゲット配信が可能なので、若い層の含有率の高いタイミングに広告配信を寄せて結果を導き出しています。その他にはゲームですね。またDOOHとIT関連は相性がいいようです。これから消費の中心となるXYZ世代に向けた商品の引き合いが増えています。

会社のメンバーと(中央が神内さん)

リアルな世界に「新しいものさし」を提供する

── LIVE BOARDという会社名にはどんな意味があるのですか?

看板=「ボード」がデータの力で生き生きする=「ライブ」でもあるし、デジタルトランスフォーメーションによるOOH広告の可能性の広がりを意図しました。

── 矩形の会社ロゴが印象的です。

このロゴ自体が看板を表しています。世の中にはいろいろな形の看板がありますから、ロゴも縦型だったり横だったり5種類を用意しています。それに合わせて名刺も複数のタイプを作りました。

LIVE BOARDのロゴ。世の中に存在する様々な形の看板を表すため、複数の形を用意した

── 企業理念を教えてください。

「Figure the real world」。「世界を計測する」という意味です。テレビや新聞には視聴率や購読者数が、オンラインだとインプレッションやクリック数があります。しかしOOHは閉じたメディアではなく、人が一歩外に出たところにあります。そのリアルな世界を、データを用いて計測する。「新しいものさしを作る」ことと言ってもいいでしょう。われわれはこれを会社の第一義としてあげました。

── この先にどんなプロジェクトを準備していますか?

これまでは携帯電話の基地局とGPSを使った屋外計測の手法を中心に、開発を行ってきました。衛星であるGPSは地表にあるものならきちんと計測できますが、屋内だと無理です。そこで次のステップとして、屋内でのデータ集積のための実験を始めています。

屋内におけるOOH広告のデータ計測には様々な方法がありますが、LIVE BOARDではカメラとWifiで計測する方法を検証中です。当然、個人情報に関わるものは取得しません。カメラではAI技術を利用し「顔が看板のほうを向いています」というような広告を視認している人数だけをカウントするのです。そしてドコモWifiを活用して看板の周りにいる人の属性(年齢や性別など)を推計しています。当然、看板の周りには他キャリアの携帯の人もいるわけですが、ドコモWifiのデータを元に統計処理を行い、拡大推計しています。

そのほかのプロジェクトとしては、「プログラマティックOOH」という完全にOOH広告取引を自動化したシステム〜広告のプランニングから、枠の売買、そして配信まで〜の実験も実施する予定です。それが完成するとほぼオンライン広告と同じような仕組みができあがります。

相手をリスペクトして初めて、議論は成立する

神内さんの人生に大きな影響を与えた『古今和歌集』(左上)や『スター・ウォーズ』(右)。映写機を持っていないのにも関わらずアメリカから通販で8ミリビデオを購入するほどのめり込んだのが特撮映画だ(左下)

── 神内さんご自身についても話を聞かせてください。プレゼンを聞くと、言葉遣いがとても丁寧な印象があります。

それは『古今和歌集』からの影響かもしれません。大学に入ったとき、教養を身につけなければいけないと思い、家と学校を行き来する間に本を読むようにしました。大学の講義や選考科目とは関係ない内容をあえて選びました。

あるとき、岩波文庫の『古今和歌集』を手にしました。驚いたことに、そのときの僕の恋の悩みやもやもやがそこに表現されていたんです。そこで僕は何を思ったか? 人間は1000年経っても変わらない。人間には共通で感じあえる部分があり、そのセンサーが間違わなければ、物事は伝わる。そんなことを『古今和歌集』から学んだように思います。恋についても学びました(笑)。いまだにたまに読んでいます。

人と言葉を交わすとき、先輩後輩の関係なしに丁寧語や敬語を必ず使うようにしています。そんな日本語の美しさを感じるようになったのは和歌がきっかけでした。

そのあと万葉集にさかのぼりました。面白いのですが言葉が難しい。語られていることは『古今和歌集』と変わりません。つぎに読んだのが『新古今和歌集』、これはイマイチでした。技巧に走り過ぎていることが気に入らなかったのでしょう。しかし、古典が僕に「言葉」というものを意識させるきっかけになったことは間違いありません。

── 神内さんはこれまで何度かの海外勤務もされています。外国との出会いはいつ頃からですか?

とにかく『スター・ウォーズ』です。1977年の「エピソード4〜ニューホープ〜」、シリーズ第1作目です。当時、映画館に50回も通いつめました。迫力といいエピソードの壮大さといい、映画というメディアに感動を覚えた初めての作品です。そこでセリフを理解したくて、英語に対する興味が湧いてきたのです。

「スター・ウォーズ・ファンクラブ」がアメリカで創設されてすぐに入会しました。会員番号が1000番台でした。インターネットのない時代ですから、英語の専門誌を必死で読みかえしました。当時、アメリカでは映画を8ミリビデオにして販売していたのですが、家に映写機もないのに特撮ものを通販で買っていたほどのめり込みました。『スター・ウォーズ』をきっかけにして、海外とコミュニケーションすることを学んだように思います。

── リーダーとして座右の銘はありますか。

「Love is patient and kind〜愛は寛容にして情け深い〜」。聖書の一節です。結婚式でよく引用されるフレーズですが、そこでは甘い感じが漂っています。日本人はラブを「私のことを好きになって」という風にとらえがちです。しかし「アイラブユー」というように、本当はラブは与える方なんです。僕が重要だと思っているのは、愛することは特に辛抱(patient)が必要だということです。ベクトルは自分から相手に向けるのであって、相手から自分に来るのではありません。自分の方に来て欲しいと思えば思うほど嫉妬もするし、私はこんなにしてあげているのになぜあなたはしてくれないのという風にも考えてしまう。でもラブとは「ギブアンドテイク」ではない。「ギブアンドギブアンドギブ」なんです。

── そういうことを日頃、社員に話しているのですか?

たまに飲みの会で(笑)。

「一人ひとりが価値を提供しあい尊重し合う世の中になってほしい」(神内さん)

── これから社会はどんな風に変わっていってほしいと神内さんは考えますか?

「リスペクト」の社会になってほしい。地球からいつまでも戦争や紛争がなくならないのは、互いへのリスペクトがないからだと感じています。相手をリスペクトして初めて、議論は成立します。自分の意見を一方的に言ったところで、相手をリスペクトしていない関係では返事は戻ってきません。返事をしない側もリスペクトを持っていません。なぜなら相手を無視する方が楽だからです。一人ひとりが価値を提供しあい尊重し合う世の中になってほしい。言葉だけではなく、毎日のなかで実践していこうと思います。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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