「銀座おのでら」が「トラベラー・フレンドリー金認証」を取得! 訪日客への最高のおもてなし、その核心を探る(後編)

銀座から世界へ。「鮨 銀座おのでら」世界統括総料理長が語るグローバル職人への道

2019年11月28日
「おもてなし規格認証 トラベラー・フレンドリー金認証」取得者インタビュー。前編に引き続き、「銀座おのでら」世界統括総料理長の坂上暁史さんにお話を聞きます。後編では、近代的なビジネスと日本的徒弟制度の融合や世界に通じるおもてなしなどについて話を聞きます。
 日本のサービス産業と地域経済の活性化を図るために誕生した「おもてなし規格認証」。サービス品質を「見える化」するための規格認証制度として、様々な業種の会社や事業所が有効に活用しています。2019年度からは「トラベラー・フレンドリー金認証」「トラベラー・フレンドリー紺認証」を新設、「経営者の意思」をもって積極的にインバウンド対応に取組んでいることを可視化することができるようになりました。

 大熱狂を巻き起こしたラグビーワールドカップですが、訪日外国人による日本経済への影響を見てみると、長期間の滞在や富裕層が多いことなどから、観光や外食産業に大きなプラスのインパクトを残しました。そして2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年の関西ワールドマスターズゲームズ、さらには2025年の大阪万博。大規模イベントが次々に控えています。世界の注目が日本に集まり、より多くの外国人が日本を訪れることになるでしょう。この一連の流れをチャンスととらえて、積極的に活用してもらいたいのがトラベラー・フレンドリー金認証/紺認証です。

 今回紹介するのは、8月に7店舗(鮨、鉄板焼き、天ぷら、薪焼き、ワイン&レストラン)でトラベラー・フレンドリー金認証を取得した「株式会社LEOC」の外食事業部門「銀座おのでら」です。「銀座から世界へ」のスローガンを文字通りに展開、ニューヨークやパリ、上海など世界7都市に13店舗を構え、食を通じて洗練された日本文化を世界中に広げています。海外でもミシュランの星を獲得する最高峰がトラベラー・フレンドリー金認証を取得したことは、外食産業におけるインバウンドの重要性を再認識させてくれるものとして注目を集めています。認証取得の背景には何があるのでしょうか? 前編に引き続き、「銀座おのでら」世界統括総料理長の坂上暁史さんに、主に近代的なビジネスと日本的徒弟制度の融合について話を聞きます。

2019年から始まった「おもてなし規格認証 トラベラー・フレンドリー金認証」を取得した「株式会社LEOC」外食事業部門「銀座おのでら」世界統括総料理長の坂上暁史さん

グローバル展開する高級鮨店に必要だったのは「企業と家業のバランス」

──「鮨 おのでら」は徒弟制度を維持しながら、会社として組織化にも成功している稀な例です。

私がいつも言っているのは「企業と家業のバランス」です。私は16歳からこの業界にいますが、お父ちゃんお母ちゃんのやっている小さな鮨店で育ちました。親方や女将さんの思いや愛情が伝わりやすい環境です。厳しいですがそのなかに優しさがあります。感情を中心にした仕事のあり方を「家業」とすると、われわれがいま実際行っているのは「企業」と言えます。どちらにもいいところがあり、一方短所もあります。われわれのプロジェクトの強みは「企業と家業のバランス」を保っていることです。

家業色が強いと、「こんなもんでいいでしょう」という具合にいろいろな場面でルーズになってしまいがちです。働く時間だったり給料だったり、なんとなく許されてしまう。そういった点は企業だとしっかりとカバーしてくれます。逆にスーツを着た人間が現場に入って数字のことだけを言っても、伝わりません。料理人は家業のお店で育っている場合が多いからです。このバランスをコントロールできるのは自分しかいないと思っています。

── 家業的な職人にどのようにして企業の意識を芽生えさせるのですか。

家業を前提としながらそこから企業のマインドを高めていき、組織への帰属意識を徐々に高めていきます。逆に管理を担当する人間には、家業のマインドへと寄せていきます。この双方のセンスがないとわれわれのビジネスは成功しないと考えています。

従業員一人ひとりに伝える難しさと短期間でかなりの数を出店する難しさ。このふたつを同時に進めていかなければなりません。ある意味、チャレンジだと思っています。うちは外食産業としては大きい会社ですので、先行投資はできます。しかし箱はできても、中身である人をしっかりさせないと意味がありません。出店スピードと人の教育のバランスをとることが私の課題のひとつです。

「箱はできても、中身である人をしっかりさせないと意味がありません」(坂上さん)

── 家業と企業のセンスの違いですが、現場ではどんなことが起きているのですか?

管理担当の人間を世界各地に配属しています。彼らから数字の話ばかりされてしまうと、一種のアレルギー反応のように職人たちに拒絶反応が出る場合が多い。食材費が上がっている、売上げが悪い・・・。しかし、食材費にしろ売上げにしろ、ビジネスバランスがあるわけじゃないですか。管理担当者は「数字を改善する」という目標を立てても、現場で具体的に何をしていいのかわからない。「どうやってお客さん呼ぶの?」「料理内容は?」「メニューは?」「サービスは?」

問題はひとつの原因から起こるわけではありません。たとえば食材費を考えてみましょう。ただたんにロスが多いのか。仕入れが高いのか。メニューのグレードがよすぎるのか。これは現場に入らないとわかりません。スーツを着た人間が数字のことだけを言っても、あるいは会社の考え方を言っても、伝わるものではありません。

お店の数字バランスが悪いとき、じゃあどこが悪いのか? 私が現場に入ると原因がすべてわかります。従業員の動きだったり仕入れだったり、あるいはチームワークだったり・・・いろいろな角度で見ることができるからです。

カウンター越しにお客様との信頼関係を生むために

「銀座おのでら」では、8月に7店舗(鮨、鉄板焼き、天ぷら、薪焼き、ワイン&レストラン)でトラベラー・フレンドリー金認証を取得した

── 高級和食店のチェーン展開は効率の悪いビジネスのようにも思えます。

どんなにお金のある会社でも手の出しにくいことを、われわれはいまやっているんじゃないかと思います。ビジネスだけで考えれば、もっと薄利多売の方がリスクは少ない。たとえばうちのニューヨーク店はディナーで400ドルです。50ドルの居酒屋さんを経営する方が断然楽です。

── おのでらのような高級店では、経営やお客様の対応においてどんな点に注意を払っているのですか?

人間の五感は、値段が高ければ高いほど鋭くなっていくように思います。安い飲食店に入ったとき、従業員の服装や身なりがだらしなくても、あるいは器が欠けていようが器に指が入っていようが、「安いからまあいいかな」と許してしまいますよね。でも、3〜4万円のお店でそれをやられたら、嫌じゃないですか。

われわれは鮨職人の採用面接のときに「髪は短く刈り上げてくれ」と必ず伝えます。髪型も出会いや決意、潔さを表現するものだからです。「覚悟」という日本文化を象徴するありようだと思います。

薄利多売の業態では、短時間に相当な量をさばかないといけないため、カウンターだけでなくテーブル席をたくさん設けています。これは流れ作業といっていい。廉価な鮨屋の場合、職人は誰が食べるかわからない鮨を握っているわけです。われわれは基本的にカウンターです。お客様と握っているわれわれの間に信頼関係が成立しないと通じない世界です。

そこで問われるのはやはり人です。使っている魚やしゃりが一緒でも、最後は目の前で握っている人間の思いがお客様に伝わってしまう。お客様も価格が高くなればなるほどそれなりの地位の方がいらっしゃいます。そういう方には、言葉が通じなくても見透かされてしまいます。恐いですよ。言葉が通じないからといっていい加減なことをしてしまったら、2度とお店に来てくれなくなります。

人間は結局、動物なんだなと思います。動物は言葉を話せないから、本能で動きます。人間だって、しゃべらなくても、表情や目や口で大体なんとなくわかるじゃないですか。スタッフには「君がこのお客様を嫌がったら、お客様も君のこと嫌がっていると思うよ」とよく言っています。避けている雰囲気や嫌な雰囲気は知らず知らずのうちにどこかに出てしまうものです。

── 居合の先生が「演舞の際に自分の技を見せつけるのではなく、相手とピタリと息があったとき、すべてが流れるようになる」と話していたことを思い出しました。

いくらいい素材、いいしつらえであっても、人に思いがなかったら全部台無しになってしまいます。そこに文化があり、おもてなしにつながるのだと思います。よく皆に言っているのは「血の通った商売をしよう」ということです。上辺を整えたところで伝えたいことが伝わるわけはない。日本はもちろん、言葉が通じない海外だともっと顕著になります。

「銀座おのでら」のコンセプトは「銀座から世界へ」。世界7都市に13店舗を構える(写真は「鮨 銀座おのでらニューヨーク店」)

行間のなかに本質を見極める

── 従業員が増えると、坂上さんの思いを文章化することが求められるのではありませんか。

思いをいろいろな文言で書いて一人ひとりに渡しても、それを読んでいるだけでは相手に伝わりません。書いていないことのなかに本質を見極めることが大事です。料理のレシピ通りにできればいいのであれば、誰でも鮨屋を始められます。しかし行間にある思いや感覚は感性の部分ですから、書いた人にしか伝えられません。「感性」を伝えるのが「完成」できない(笑)。

── とは言え、坂上さんが世界中を回っている中で、ある程度下の人に任せないといけないわけですよね。

関係性を常に構築していくしかありません。そこはアナログです。しかし、LINEなどを使って無料で連絡できるいい時代になりました。仕入れも自分の携帯に各国情報がすべて届きます。

── 海外のお客様を満足させるこつはどこにあるのでしょうか? 

ハワイ店での話です。店を任せていたスタッフが言うには、「お酒があまり出ない。食事の追加もない」。そこで様子を見るために私がカウンターに立つことにしました。日本は「まずビール」でとりあえずアルコールを頼みますが、海外の人はお水やお茶スタートです。

お冷をお出しした後、自分がちょっとくだけた冗談を言うと雰囲気が変わり始めました。お客様はニコッとされて、「日本酒ちょうだい」となったんです。それからは楽しくなってきて二杯三杯、「シェフもどう?」「いただきます!」と。英語で「自分は酒を飲まないと手が震えてしまうけれど、飲んだらいい仕事をしますよ!」とジョークを飛ばすと「もっと飲め!」。どんどんハッピーになっていったんです。お客様もご自身の想定以上に飲んで食べて。お会計もそれなりになります。でもまた来てくれる。何が違うのか? 板前はしゃべらないでたんたんと握るだけ。要はお客様を楽しませていないだけだったんです。

── 高級なお鮨は味で一本勝負というのが固定観念としてあります。

それは日本人だけじゃありません。海外の方はなおのことそう思っています。「鮨職人はノートーク、ノースマイルで、スケアリー(怖い)」と言うお客様もいらっしゃいました。私は「ライクミー」と応えているんですが(笑)。

── そういった会話でお客様と打ち解けていくんですね。

「鮨職人は怖い」── 自分たちの演出でお客様のディナーをハッピーにすることができるのに、それをしないのは失礼だと思うんです。

「自分たちの演出でお客様のディナーをハッピーにすることができるのに、それをしないのは失礼だと思うんです」(坂上さん)。写真左はハワイ店、右はロンドン店

── 人手の確保についてはいかがでしょう。おのでらのやり方は旧来的な徒弟制度とは違いますね。

昔の感覚でやっているといくらいい給料でも人材は続きません。一方では思いがないとこれもまた続かない。バランスを保っていかないと難しい。人手不足はあることはあります。しかし労働環境を魅力のあるものにしたりすることで、離職率は下がっています。特に大きな問題はありません。

海外勤務については業界の水準以上の給料を出しています。海外進出はある種の戦いです。戦いのなかに身を投じる従業員に対するエールという意味もありますし、生活の不自由さといった見えないストレスへのケアでもあります。

自分もまだ修行のなかにいる

「ここまでしかできませんとラインをひいてしまうと、それ以上は絶対に上には行けません。だから努力をし続けるべきなんです」(坂上さん)

── 親方、そして経営者として、坂上さんが大切にしていることは何でしょうか。

私は家業職としての思いが強いので、「鮨はひとつの修行である」と考えてきました。もちろん自分もまだ修行のなかにいます。そういう意味では、大切にしてきたのは努力です。努力には絶対に裏切られません。接客やサービス、技術を覚えるのには時間がかかるし、知識も経験も必要です。それらすべて自分なりに努力してきたことがやがて評価につながるのだと思います。努力をスタッフ全員にし続けてもらいたい。海外の方に言葉が通じないのであれば、英語を覚えればいい。接客が苦手であれば、コミュニケーションを強くする工夫をしてほしい。僕はこういう性格だからここまでしかできませんとラインをひいてしまうと、それ以上は絶対に上には行けません。だから努力をし続けるべきなんです。

── 悩むときに立ち戻る場所はどこですか。

親方から言われたことを守っていくこと。それはいつも自分に対する戒めとなっています。かつてのような時代ではなくなりましたが、時には厳しく、スタッフに伝えたいことはしっかり伝えたい。それ以外の場面では、四六時中、同じ屋根の下にいるファミリーみたいなものですから、気持ちの通じ合う環境にしていきます。職人の世界は家業色を強くしていかないと、いつのまにか醒めた職場になってしまいますからね。

── 今日のビジネスライクなスーツ姿からイメージできないお話ですね。

そうですか? いますぐ白衣に着替えてカウンターに立ちますよ(笑)。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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