「銀座おのでら」が「トラベラー・フレンドリー金認証」を取得! 訪日客への最高のおもてなし、その核心を探る(前編)

銀座から世界へ。「鮨 銀座おのでら」世界統括総料理長が語るグローバル職人への道

2019年11月26日
日本のサービス産業と地域経済の活性化を図るために誕生した「おもてなし規格認証」。サービス品質を「見える化」するための規格認証制度として、様々な業種の会社や事業所が有効に活用しています。2019年度からは「トラベラー・フレンドリー金認証」「トラベラー・フレンドリー紺認証」を新設、「経営者の意思」をもって積極的にインバウンド対応に取組んでいることを可視化することができるようになりました。今回紹介するのは、8月に7店舗でトラベラー・フレンドリー金認証を取得した「株式会社LEOC」の外食事業部門「銀座おのでら」です。
 日本のサービス産業と地域経済の活性化を図るために誕生した「おもてなし規格認証」。サービス品質を「見える化」するための規格認証制度として、様々な業種の会社や事業所が有効に活用しています。2019年度からは「トラベラー・フレンドリー金認証」「トラベラー・フレンドリー紺認証」を新設、「経営者の意思」をもって積極的にインバウンド対応に取組んでいることを可視化することができるようになりました。

 大熱狂を巻き起こしたラグビーワールドカップですが、訪日外国人による日本経済への影響を見てみると、長期間の滞在や富裕層が多いことなどから、観光や外食産業に大きなプラスのインパクトを残しました。そして2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年の関西ワールドマスターズゲームズ、さらには2025年の大阪万博。大規模イベントが次々に控えています。世界の注目が日本に集まり、より多くの外国人が日本を訪れることになるでしょう。この一連の流れをチャンスととらえて、積極的に活用してもらいたいのがトラベラー・フレンドリー金認証/紺認証です。

 今回紹介するのは、8月に7店舗(鮨、鉄板焼き、天ぷら、薪焼き、ワイン&レストラン)でトラベラー・フレンドリー金認証を取得した「株式会社LEOC」の外食事業部門「銀座おのでら」です。「銀座から世界へ」のスローガンを文字通りに展開、ニューヨークやパリ、上海など世界7都市に13店舗を構え、食を通じて洗練された日本文化を世界中に広げています。海外でもミシュランの星を獲得する最高峰がトラベラー・フレンドリー金認証を取得したことは、外食産業におけるインバウンドの重要性を再認識させてくれるものとして注目を集めています。認証取得の背景には何があるのでしょうか? 「銀座おのでら」で世界統括総料理長を務め、「鮨 銀座おのでら」で自らも板前として鮨を握る坂上暁史さんに話を聞きます。
(前・後編でおおくりします)

2019年から始まった「おもてなし規格認証 トラベラー・フレンドリー金認証」を取得した「株式会社LEOC」外食事業部門「銀座おのでら」世界統括総料理長の坂上暁史さん

「トラベラー・フレンドリー金認証」は訪日外国人客にわかりやすいサイン

──「銀座おのでら」では「トラベラー・フレンドリー金認証」を7店舗で取得されました。認証をなぜ取得しようと思ったのか、その理由をお聞かせください。

おもてなしを外国の方により浸透させるためには、認証はわかりやすいサインとなります。たとえば「鮨 銀座おのでら」の海外店舗でも獲得した「ミシュラン」もそのひとつです*。外国の方はそういうわかりやすいところからだと入って来やすい。何もないところでは、外国の方は本物が何かはわからない。入り口は非常に大事です。
(*編注:「鮨 銀座おのでらロサンゼルス店」「鮨 銀座おのでらニューヨーク店」でミシュランの星を獲得)

──「銀座おのでら」はいまでは世界7都市に13店舗を構え、世界で確たる地位を得ています。

「銀座おのでら」は「銀座から世界へ」をコンセプトに、2013年にLEOCがたちあげた外食事業です。日本の本物を世界に広めたいという思いから、精神面や内装などについても日本の本物を海外にもっていくという方針で運営しています。たとえば使用する木ひとつとっても日本からの檜を使用していますし、器や壁なども備前焼や有田焼です。経費を抑えればそれなりにやれる時代ですが、中身や人について本物を伝えるために必要なことは省きません。

「銀座おのでら」では、8月に7店舗(鮨、鉄板焼き、天ぷら、薪焼き、ワイン&レストラン)でトラベラー・フレンドリー金認証を取得した

── 海外店舗の運営は思い通りに進んだのですか?

「銀座おのでら」の銀座店をオープンした半年後に、ハワイに海外初出店しました。日本からかなりのお客様がいらっしゃるし長期滞在の方も多く、海外ならではの経験はさほど深くなりませんでした。

次に香港とパリに出店しました。香港店(現在は閉店)では食材も店のしつらえもそろい、日本でやりたいことのほぼ100パーセントが実現しました。一番苦戦したのがパリ店です。日本からの生鮮物が送れないのです。鮮魚類についてヨーロッパの衛生基準が非常に厳しいため、つきつめていくと養殖物だけになってしまう。それまでは「日本の再現でやっていくんだぞ」と決めていたのに、いざ向こうにいくとそれが叶わない。いろいろな港を回りましたし、現地の物流なども調べました。苦労していくなかで頭に浮かんだのが「日本と現地の融合」です。不可能なことは可能にできません。そのなかで理想にどう近づけていくか。自分たちのやりたいことばかりを現地で再現しようとすると無理が出てしまう。押し付けになってしまうと現地のお客様との間に壁ができてしまいかねません。そこで「現地との融合」をテーマにしてやっていく方向に、思考をガラッと変えることにしたのです。

── たとえば食材においてはどんな「現地との融合」があるのでしょうか?

日本の鮨屋は、キャビアやトリュフなど洋風のものを使うことはなんとなくタブーとされています。それと同様に和牛もNGです。海外の方は肉が好きです。和牛を求められる場面もありました。食べると美味しいのは認めますが、「銀座でやれるのか?」「それが本物か?」と自問自答する自分がいました。しかし「現地との融合」という方向を得て考えたのは、「思い」がブレなければ、現地の方を目の前にして和牛もありではないかということでした。

──「思い」というのは?

「本物を伝える」です。その基本をしっかりともっていれば、ある種の壁を乗り越えられます。しかし基本がないと迷走してしまい、気がついたら根幹を忘れてしまう。ブレ始めると元に戻らなくなってしまいます。

── 思いという抽象を料理という具体に落とし込む──たとえば和牛を鮨ネタに使う場合、スタッフにはどう伝えているのでしょうか?

「シンプルに」ということです。和食とは素材の味を引き出す技法です。それを複雑なものにしすぎるとどんどんかけ離れたところにいってしまいます。すばらしいA5ランクの和牛が手に入ったときには、それを軽く炙ってわさびで握って出す。これだけで十分美味しい。それが、アボガドをのせようか、ちょっとソースかけようか、となると違うものになっていきます。そこの歯止めは難しいですね。職人としてのベースをもっていないと違うところにいってしまいます。

食べ物は数字で表せるものではありません。9まではいいけれど10はだめ。じゃあ9と10の間は何なの? と聞かれても答えられません。つまり感覚値の問題です。職人のセンスがブレないように私が海外を巡回しています。そうしないといつのまにかすごいメニューになっていたりするんです。

現地で働く職人はメニューを変えようとしてやっているのではなく、気がついたらそうなっていただけなんです。そこには現地の生活も関わっています。食事も朝から納豆と味噌汁というわけにはいきません。99セントの安いピザなど、なにかしら舌もマインドも現地に流されてしまう。まかないも当然、洋っぽくなります。ニューヨークなどは多民族ですから、メキシカンの従業員がつくるとスパイシーなものになるわけです。そこに流されないように、定期的に「意識のコントロール」を指導しています。

「銀座おのでら」のコンセプトは「銀座から世界へ」。現在、世界7都市に13店舗を構える。「鮨 銀座おのでらロサンゼルス店」(写真)と「鮨 銀座おのでらニューヨーク店」ではミシュランの星を獲得した

おもてなしの背景には「面倒くさい」日本の文化がある

── 日本のサービスを象徴するおもてなしですが、坂上さんはその核心はどこにあるとお考えですか。

フレンチ、イタリアン、中華・・・日本発祥じゃない料理は日本にたくさんあります。日本には日本人の有名なフレンチシェフがいます。しかし逆にフランスにフランス人の有名な鮨シェフがいるでしょうか? たぶんいません。食材や調理方法だけでなく、その背景には独特の日本文化があるからだと私は思うんです。

日本独特のおもてなしを表す例が、お店に来ていただいたときに行う礼儀作法や挨拶、お見送りです。うちの海外スタッフにも研修として銀座店で経験させます。お客様が見えなくなるまでいっしょにお見送りをしたあと、「どう、こういうの?」と尋ねると「受ける分には気持ちいいと思います。だけど自分でするのはすごく面倒くさいですね」と言うのです。でもこの「面倒くさい」が非常に大事なんです。

英語だと自分と相手は「I」と「You」です。どんなに偉い人でも違いはありません。しかし日本ではシチュエーションによって呼び方が何通りもある。日本人でも正確に使い分けられないのに、海外の人にとってはさらに面倒くさいはずです。

海外の生活環境にいるとそういう面倒くさいことを避けるようになります。私も出店のためハワイで1年間、暮らしましたが、ブレていく自分がわかるんです。たとえば器などの洗いもの。音を立てずに丁寧に洗うことが面倒に感じるようになってくるんですね。音を立ててざっと洗ったほうが早く片付きます。でもそれだと器が欠けてしまうかもしれない。欠けた器でも現地の感覚だと問題ありません。しかし日本だったらどうでしょう? ちょっと欠けているだけでも高級店だとクレーム対象になります。食器を大事に洗う、扱う、片付けるなんて面倒臭いじゃないですか。だけれど、その面倒くささこそが日本文化の良さではないか、と海外に住んでいるときに気づいたのです。面倒くささを面倒くさいと思ってやらないと日本の良さは維持できない。今はそう思っています。

── 一手間をかける鮨の技に通じるものがありますね。

「維持し続けること」は「進化し続ける」という思いがないとできません。維持だけだったら、そのうち自然と退化してしまう。1ミリでも0.1ミリでも進化させようと思い続けていてやっと維持できるものです。

── 日本と海外で社員教育の方法は変えているのですか?

私の場合、店や国が変わっても風景はどこも同じなんです。だから逆に自分の話していることが日本のスタッフにはクエスチョンのところがあるほどです。

坂上さんは世界の店舗を回り、指導・監修を行っているだけでなく、いまも自らもカウンターに立ちお客様に鮨を握る

英語が話せなくても、思いが伝わればいい

── 多くの日本の飲食店が訪日客の対応に苦慮しています。坂上さんのこれまでの経験から得たことを教えていただけますか。

英語への過剰な意識がお客様とのコミュニケーションの妨げになっています。言葉が伝わらないからしゃべらない。まちがったら恥ずかしいからしゃべらない。しかしお客様は言葉が通じなくてもいいからアクションをおこしてもらいたいんです。笑顔でもジェスチャーでもなんでもいいんです。それもなければお客様には何も伝わらない。

ハローという言葉は知っているのに、ハローが言えない。「ハローハワユー、ファインサンキューアンドユー」という定型句をいう人は現地にはいません。ハローだけでいいんです。ハイでいいんです。言えなかったら笑顔やお辞儀だけでも充分です。笑われるかもしれないからでは、文化は伝わらない。いまそのあたりを徹底して指導しています。

たとえば営業中のスタッフの声の掛け合いもそう。いらっしゃいませという歓迎の言葉が象徴するように、鮨屋にとって威勢がよかったり元気だったりするのもひとつの文化なんです。

うちは海外に派遣するスタッフの教育ということもあり、店内の従業員数が多い。人が多くなっていくと伝わるものも伝わらなくなってしまいます。「あがり(お茶)ひとつちょうだい」「はい」。その返事で終わるとあがりがこないことがあります。なぜなら聞き直すときも同じ「はい」だからです。全員が「はい」だと、誰がわかっていて誰がわかっていないのか、わからない。集団心理が働いて誰かがやるだろうとなり、それがミスにつながります。そこで復唱しようということにしました。

あがりをだすときの復唱はこんな感じです。まず「お願いします」から始めます。すると裏のスタッフが何か来るなと気づく。そして「あいよ」と返す。それから「あがりひとつちょうだい」「あがりぴんいきます」という掛け合いがおこる。まちがいのおこりようがありません。するとこの掛け合いがいつのまにかうちの名物になっていたんです。外国からのお客様も「アガリ、オネガイシマス」と真似されるようになりました。喜ばれているんですね。海外で日本食レストランにいくと「イラッシャイマセ」と現地のスタッフが元気よく対応してくれるじゃないですか。日本のお店は同じことをやっているでしょうか? 海外の日本食レストランの方が日本文化に忠実にやっているかもしれません。

「維持し続けることは進化し続けること。1ミリでも進化させようと思い続けていてやっと維持できるものです(坂上さん)

本物の裏側にあるものを自らの言葉と行いで伝えていく

── 海外のお客様は食べること以外に何を店に求めているのでしょうか?

私たちも海外では英語を使ってコミュニケーションをとりたいと思いますよね。それと同じで何度も日本に来られる外国人は日本語をしゃべりたいと思っているんです。こちらが英語を使っているのに日本語で返事がかえってくるシーンもよくあります。つまり日本を感じたいんです。

海外支店でお客様に「日本に行ったことはありますか?」と尋ねることがあります。「行ったことはないです」「ではなぜうちの店を選ばれたのですか?」「ここに来ると日本が感じられるから」と。その言葉をいただくと店を続けてきてよかったなと改めて思います。コストを抑えてなんとなく日本風にすることはできるでしょう。でもそれをやってしまったら自信をもって伝えられないし、お客様もがっかりするはずです。うちの店に来てもらえる誇りというか、上辺だけじゃないということをお伝えしたいと思っています。

── 上辺ではない本物を追求することをすべてにおいて徹底していますね。

なぜ備前焼をわざわざ作家さんに焼いてもらっているのか? 備前焼発祥の地・伊部(いんべ)の土を使っている作家さんです。伊部の土は難しくなかなか使える人がいません。その作家さんは土作りからやっています。われわれの店のために一個一個、土をたたいて形成して、乾燥させて・・・それはすごく手間のかかる仕事です。その意味をスタッフに伝えていくことも私の大事な仕事です。

おのでらの基礎となる思いや意味は、自分がお店を何度となく回って伝えるしかありません。器が欠けた場合、日本だと金継ぎを施したりして、新しいものととりかえることもできますが、海外だと一個欠けたからといってその都度送るわけにもいかない。「大事に使いなさいよ」と注意しても行くたびにちょっとずつ欠けています。そんなときには、洗い方や器に対する思いを私自身が洗いながら伝えています。

(後編に続く)

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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