<シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する⑤

第5回 民間投資を呼び込み変貌したコンパクトシティ富山の活況

2019年11月22日
地方創生の最重要課題である東京一極集中の是正に関し、政府は達成の目標時期を2024年度に先送りする方向で調整しているといいます。地方はどうすれば東京への人口流出を防ぎ、流入する人を増やすことができるのか。今回は新幹線開業を契機に多くの民間投資を呼び込み、変貌するコンパクトシティ富山市を例に今後、地方に求められるまちの魅力、価値とは何かを考えます。

2016年竣工の複合ビル「ユウタウン総曲輪」

 地方創生の最重要課題である東京一極集中の是正に関し、政府は達成の目標時期を2024年度に先送りする方向で調整しているといいます。

 2018年の東京圏への転入超過数は前年比約1.6万人増加。内訳は転入者数の増加が約1万人、転出者数の減少が約0.6万人。特に女性の転入者数の増加が目立ちます。東京圏への転入超過数の大半は10代後半~20代の若者が占めます。進学や就職が一つのきっかけになっていると考えられていますが、女性は東京に一極集中し地元に帰らない傾向も非常に強いといいます。

 大阪・名古屋ですら転出超過が続き、12の政令指定都市の多くで人口が減少。2050年に人口が半分以下になる地点は6割を超え、うち2割が無居住化するとしていますが、転出元上位を占めるのには愛知、茨城、静岡、栃木、大阪と大都市や首都圏近郊の都市です。

 三大都市圏も有名虚実のまさに東京一極集中。東京圏を除く地方の若者人口(15~29歳)は2000年からの15年間で約3割(532万人)減少。一方、大企業の約半数は東京圏に集中しており、その集中度は未だ上昇傾向にあります。

 地方はどうすれば東京への人口流出を防ぎ、流入する人を増やすことができるのか。今回は新幹線開業を契機に多くの民間投資を呼び込み、変貌するコンパクトシティ富山市を例に今後、地方に求められるまちの魅力、価値とは何かを考えます。

新幹線開業を呼び水に、民間投資を呼び込む

賑わいが感じられるようになった中心市街地。(左)グランドプラザ、(右)総曲輪商店街

 2006年中心市街地活性化法の改正を受け、青森市とともにコンパクトシティ政策を推進する中心市街地活性化基本計画の第一号の認定を受けた富山市。ただ、2008~2013年の5年、筆者が継続的にウオッチした期間、同市の中心市街地が活性化したと感じたことは一度もありませんでした。

 2015年北陸新幹線が金沢まで延伸しましたがしばらく立ち寄ることはありませんでした。しかし、今年6月久々に立ち寄った富山市の中心市街地は大きな変貌を遂げていました。

 かつて衰退が激しかった賑わい拠点施設のグランドプラザ周辺は明らかに通行者数が増えており、シャッター街と化していたその裏の総曲輪商店街には新たな店舗が多数出店。歩いている人も以前と違い若い女性やカップルの姿が目立ちました。

 新たに建設されたガラス美術館や図書館等が入る隈研吾氏設計の「TOYAMAキラリ」やシネコンやホテル、分譲マンション等が入る「ユウタウン総曲輪」は街区を明るく華やかにしていました。中でも今年5月整備された「プレミストタワー総曲輪」は大きな変化をもたらしています。

(左)2019年竣工の「プレミストタワー総曲輪」、(右)ガラス美術館や図書館が入る「TOYAMAキラリ」

 プレミストタワー総曲輪は富山市の中心市街地では最高層となる地上23階地下1階のタワーマンションで、下層階にはフードマーケット等の商業施設やオフィスが入ります。

 実はこのエリアでは2007年以降、市街地再開発事業により7棟(住戸数701戸)のマンションが供給されており、今年度中にスポーツ交流施設や商業施設、住戸約200戸のマンション等が入る複合ビルの整備事業が認可予定で、別の再開発事業の構想も進んでいます。

 これらを合わせると半径約500メートル内に供給されるマンション戸数は千戸近くに及びます。共同住宅の建設費には市から助成等の支援もありますが、基本的には民間投資による開発です。

 周辺では新たな観光施設の整備も続いており、2012年にはフランス絵画の巨匠ミレーの作品等を展示する美術館「ギャルリ・ミレー」が開館。2015年には富山城址公園に和風庭園と茶庭が整備されました。

 富山市ではホテルの新規開業も相次いでおり、2016年「ユウタウン総曲輪」にドーミーインの和風プレミアムホテル、富山駅前では18年に東横イン、19年にダイワロイネットが開業。今年末にはリブマックス、2022年にはJALシティも開業を予定しています。

 北陸新幹線の開業やインバウンド市場の活況があるとはいえ、富山市は何故これだけの民間投資を呼び込むことができたのか。

歩行者数は3倍以上増加、地価の上昇も続く

(左)日本庭園の整備で魅力が増した富山城址公園、(右)富岩運河環水公園を一望、天門橋展望台

 富山市の中心市街地活性化基本計画の柱は、①公共交通の利便性向上、②まちなか居住の推進、③賑わい創出です。2007~2012年までの1期5年はいずれの指標でも目標の達成には至りませんでした。

 2期に入り、2015年に①の評価指標である路面電車の一日平均乗車人数、③の中心市街地の居住人口の社会増加が目標値」も目標値を超えましたが、②の「中心商業地区の歩行者通行量(日曜日)」は目標を大きく下回りました。

 一方、新たなランドマークの周辺では2015年、2016年と目標を超える歩行者通行量を獲得しました。TOYAMA キラリ前の歩行者通行量は開業前の2014年と2016年を比較すると約3.4倍に増加。ユウタウン総曲輪前は約3.7 倍になりました。

 富山市の地価は2014年以降上昇に転じており、2019年の地価公示では市全体(全用途平均)で前年比0.7のプラス、地価が上昇した地点は2017年の19地点から52地点に増えました。

 プレミストタワー総曲輪前の公示地価は1平米当たり40万円で、マンションの分譲価格は3170~4470万円とされ、入居者はアッパーミドル層が中心と想定されます。一定の経済力を持つ居住者が集積すれば、より大きな経済効果や賑わいが期待できます。

 富山市が2015年に行った「中心市街地居住者アンケート」によると、居住年数3年未満の人が定住の選択条件として上位に挙げたのは「緑や自然環境」や「通勤・通学の便利さ」でした。美しい立山連峰を望む富山市、そこに利便性や都市機能の充実、また暮らしや人生を豊かにするクリエイティブ、知的刺激の魅力も加わりつつあります。

 富山市では2017年、富山駅の北にある富岩運河環水公園に富山県美術館が開業、観光客が急増。以前の富山市のまちづくりはハード中心でソフトの弱さが目立ちましたが、今はソフト・コンテンツの面も充実も感じます。

 中でも目を引くのが多世代交流拠点「総曲輪レガートスクエア」です。

PPP手法で多世代交流拠点、新たな賑わい生む

多世代交流拠点「総曲輪レガートスクエア」

 2005年に廃校となった旧総曲輪小学校跡地に整備された総曲輪レガートスクエアはPPP(公民連携)方式により整備された多世代交流拠点。富山市まちなか総合ケアセンターなどの公共施設、調理や看護、医療福祉の専門学校、スポーツジム、カフェなどの民間施設が一つの街区を形成しています。

 通りをはさんで外国語専門学校やスポーツクラブ、生涯学習センターや子ど連れでも気軽に入れるカフェやショップ等が入る富山市民プラザがあり、そこを利用する子育て中の主婦、高齢者が相互に行き来して、健康や生活文化など様々な活動や交流を行っています。

 陽光の差し込む外のテラスでは専門学校の学生たちが和気あいあいとして過ごす姿が見られ、老若男女が集う場となっています。隣には週に数日、調理の専門学校の生徒がオープンするカフェ・レストランがあり、地元富山の食材を使ったこだわりのランチコースをリーズナブルに提供。平日でも多くの女性客を集め、行列ができる人気店となっています。

 2014年立地適正化計画制度の創設により、国が新たに打ち出した住居、医療福祉、商業等の都市機能と公共交通を連携させるコンパクト・プラス・ネットワーク政策が打ち出されました。総曲輪レガートスクエアは富山市におけるその第一号の事業となります。

 事業者は公募により大和リースグループが選ばれ、PPP手法により民間提案で整備されました。グループを構成するのは大和リースのほか、専門学校を運営する学校法人青池学園、グンゼスポーツ、ローソン等が入ります。

 テナントリーシングは施設の成功必須条件ですが、総曲輪レガートスクエアの成功はそこに富山市との公民連携が加わったことにあります。富山市の中心市街地は観光・商業ゾーンに隣接して、この健康・生活文化ゾーンを整備、魅力的な都市へと再生しました。

 もちろん課題もありますが、疲弊した地方の再生に一つの希望を感じさせる事例となっています。

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執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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