■ニュース深堀り!■町工場主役のインダストリアルツーリズム

2016年10月5日
地方再生のひとつの方法論として「インダストリアルツーリズム」が注目を集めている。これは“産業観光”ともいわれるもので、たとえば小規模事業者も含まれる工場地帯などが、地域ぐるみで複数の工場を開放して見学会などを催す取り組みだ。
 9月7~9日に開催された「第82回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2016」でも、インダストリアルツーリズムの一環として、「オープンファクトリー(工場開放)」の報告セミナーが開催された。全国各地のイベント主催者とともに経済産業省の参事官も登壇し、同省が助成金などでインダストリアルツーリズムをバックアップしていることも説明している。

また、日本のモノづくりを海外に広めようと、インバウンドへの対策も積極的だ。埼玉県では16年6月から多言語パンフの制作などを支援する「インダストリアルツーリズム促進事業補助金」制度を開始。そのほか、国内ではすでに工場見学を行なっているビール工場などでも、外国語の案内設備を新設するなどの動きが増えている。

 インダストリアルツーリズムには、いわゆる町工場と呼べるような中小企業も参加している。そこには町工場にとってどのようなメリットがあるのか。同ツーリズムを研究するとともに、「おおたオープンファクトリー」にも参画している、首都大学東京 教授の川原晋さんと、准教授の岡村祐准さんに話を伺った。

首都大学東京 教授 川原晋さん

■小さな町工場でも参加できるインダストリアルツーリズム

――そもそも「インダストリアルツーリズム」とはどんなものなのでしょうか?

岡村 文字通り産業を観光資源として活用しようということです。従来の工場見学などもそのひとつですが、製品を購買してもらうためだけでなく、もっと広く“街づくり”といった視点で産業をとらえています。中でも、主流となっているのが“オープンファクトリー”という、工場を一般に開放する取り組みです。その目的は地域振興、住工共生、工業振興など多岐にわたります。

川原 それぞれの地域で目的は多少違いますが、自治体、観光協会、そして企業(工場)などがいったいとなっているケースが多いですね。

――お二人は大田区で開催の「おおたオープンファクトリー」に参加しています。これは、インダストリアルツーリズムでも特に大きなイベントですが、先ほどの目的の中でも、さまざまな成果が期待できそうです。

岡村 これは、下丸子駅・武蔵新田駅周辺にある工場を開放し、さまざまな加工の様子を見たり、体験したり、また職工さんと話したりするイベントです。15年には約70社の工場が参加しました。

首都大学東京 准教授 岡村祐さん

――小さな工場も参加できるのですか?

川原 大田区の工場の特徴でもあるのですが、一部を除いて参加企業のほとんどが中小企業です。その多くが部品などを製造していて、完成品はほとんどありません。なので、このイベントに合わせて金属加工技術を生かしたサイコロなど、完成品も新たにつくっています。

 これは「おおたオープンファクトリー」だけではなく、全国のオープンファクトリーで見られることです。大きな企業はもちろん、職人さんが社長だけという企業も多く参加しています。

■物販以上に無形の効果も期待できるオープンファクトリー

――インダストリアルツーリズムに参加することで、工場側にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

「おおたオープンファクトリー」向けに製作された製品。イベントではアイデアコンペも行われる

岡村 モノづくりの現場というのは、一般の人にとっても興味のあるものです。ふだん見ることのできない“裏側”を見ることで、工場そのものや、製品にも興味をもってもらえます。

川原 「おおたオープンファクトリー」の参加企業が工場を構える一帯は、住宅地と隣接しています。つまり住工が混在しているのです。これまでは住民にとって工場は騒音が出るなど“conflict(紛争)”なものでした。しかし、イベントで工場の内側を知ることによって、住民側にも“理解”が生まれてきました。共生しようという気持ちが生まれてくること、これは工場にとってとてもメリットのあることです。

 イベントで人が集まることには3つの効果が期待できます。地域資源の育成・連携といった「エリアプロモーション」。職人技術の継承や技術発信、さらにはBtoBビジネスへとつなげる「モノづくりマネジメント」。そして工場不動産のレストアである「工場不動産マネジメント」です。これらを統合してクリエイティブな街づくりを目指す「大田クリエイティブタウン構想」を策定していますが、オープンファクトリーはその大きな柱と位置付けています。

岡村 製品を製造している工場では、イベントの開催が直接の売り上げにつながります。製作工程を見た上で製品に興味をもってもらえるうえに、工場出荷価格で販売されるからです。そういう工場を多く抱える東京・上野の「モノマチ」は、工場自体の売り上げが直接伸びる「工業振興」のイベントといえるでしょう。

 一方、大田区ではネジなどの部品製造が多いので、その高度な技術を生かして新しい製品をつくり、それを当日販売することもあります。コンシューマー向け製品のアイデアコンテストも行ない、製品によっては目標数を完売したものもありますよ。イベント後の通販も販売実績につながりますね。

川原 また、中小企業の工場は、後継者問題を抱えているところが多いです。そこで、若い人たちが集まるようなイベントを開催することで、社長の子息らが工場経営に興味をもつようになります。イベント当日だけではなく、その準備で多くの時間を実行委員の仲間と過ごすため、連帯感が深まり地域に愛着を抱くようです。

 工場見学に来た人の相手は職工さんが勤めますが、彼らは仕事の話などを真剣に聞きます。そうして人の前で自身の仕事を語ることが、仕事への自信につながっているようです。最初は緊張気味で話があまりできなかった職工さんも、何度か繰り返すうちに話が上手になり、いわば社員研修のような効果も生まれるわけです。こうした無形の効果も、オープンファクトリーの大きなメリットといえるでしょう。

■全国の町工場で始まる“観光事業”

16年の「おおたオープンファクトリー」は、11月26日より開催予定

――インダストリアルツーリズムは全国の工場地帯でも、大田区と同じように実施できるものでしょうか?

川原 この動きは実際に全国へと広がっています。街の活性化の手段として認知されることで、行政も助成金などの支援体制を充実させつつあるようです。イベントに関心のある若者も多く、地方では若者と企業(工場)を結びつける役割を果たしています。

 ただ大田区の例を見ていて、もっと工場側に主体的な動きがあればよいと感じています。実行委員会や行政がイベントを仕切っているところが多いですが、街や住民だけでなく工場にもメリットのあることなので、多くの人に興味をもってもらいたいです。
<Profile>
川原晋(かわはらすすむ)さん
96年に早稲田大学 大学院 理工学研究科 建設工学専攻を修了。株式会社AURで建築・都市・研究コンサルタントを務める。08年には早稲田大学建築学科の助教に。09年より首都大学東京 都市環境学部 自然・文化ツーリズムコースに着任。専門は都市・地域デザイン、観光まちづくり、市民主体の地域運営、まちづくり市民事業。13年には「おおたオープンファクトリー実行委員会」のメンバーとして、日本観光振興協会「第7回 産業観光まちづくり大賞 金賞」を受賞した。

岡村祐准(おかむらゆう)さん
04年に東京大学 大学院 工学系研究科 都市工学専攻の博士取得。05年から茅ヶ崎市景観アドバイザーを務め、その後も韮崎市史跡新府城跡保存整備委員会委員、東京都福祉のまちづくり推進協議会委員などを歴任。08年より首都大学東京都市環境学部自然・文化ツーリズムコースに着任し、東京大学まちづくり大学院、駒澤大学法学部でも非常勤講師を務める。専門は都市計画、都市デザイン、都市保全計画、観光まちづくり。13年には「おおたオープンファクトリー実行委員会」のメンバーとして、日本観光振興協会「第7回 産業観光まちづくり大賞 金賞」を受賞した。
《関口賢/HANJO HANJO編集部》

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