次の食のキーワードは「食習慣リスク」。小売・外食は顧客データ活用の道を探れ!

機能性食品から大阪万博まで。「食と健康」の未開拓エリアはどこにある?/ダイエット&ビューティーフェア 2019

2019年10月31日
今月施行された「食品ロス削減推進法」。食に対する関心は高まる一方ですが、次に注目されそうなのが、食習慣に起因する代謝リスクなどの「食習慣リスク」です。食生活や生活習慣の変化によって、健康に不安を抱えている現代人は少なくありません。しかし行政や公の団体がアピールしても、消費者との接点が少ないため啓蒙にはつながっていません。逆に言えば、消費者に近い立場である小売や外食産業に新たなビジネス開拓のチャンスが訪れているのです。
 ヘルスケア領域のビジネスが拡大を続けています。2013年には16兆円だった市場規模は30年には37兆円にまで大きく拡大することが予測されているほか、ITなど新規参入も相次ぎ、活況を呈しています。現在では、健康的な生活が美容にも良い影響をもたらすという考えのもと、美容と健康をセットで考えるのが一般的になってきました。

 そんな中、美容と健康の総合展示会「ダイエット&ビューティーフェア 2019」が2019年9月9日〜11日の3日間、東京ビッグサイトにて開催されました。会期中はコスメや美容機器、健康食品などを扱う企業や団体365社が出展。また、2万2000人を超える関係者が最新情報を求めて来場しました。

 今回の記事では9月11日に開催されたセミナー「地域食品産業と機能性食品への期待」(講師:青木幹夫さん/経済産業省 経済産業政策局調査課長、森下竜一さん/大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学 教授・特定非営利活動法人日本抗加齢協会副理事長)より、地方企業の役割と機能性表示に期待されるヘルスケア産業のポイントについてレポートします。

食習慣リスク、データやインセンティブで顧客を取り込む

経済産業省 経済産業政策局調査課長の青木幹夫さん。「食習慣のリスクについては、消費者に近い立場である小売や外食が啓蒙する方が効果的です」

 食生活や生活習慣の変化によって、健康にリスクを抱えている現代人は少なくありません。中でも食習慣に起因する代謝リスクとたばこの煙によるリスクは大きな問題として取り上げられています。しかし喫煙についてはさまざまな対策が打たれているものの、食に関しては具体的な対策が打たれていないのが現状です。

 経済産業省 経済産業政策局調査課長の青木さんは「食習慣のリスクについて厚生労働省や学術団体がアピールしても、消費者との接点が少ないため啓蒙にはつながっていません。むしろ、消費者に近い立場である小売や外食が啓蒙する方が効果的です」と話します。

 具体的にはどのような方法があるのでしょうか。青木さんは参考になりそうな海外の事例をいくつか紹介しました。

 例えばトルコのスーパー『MiGROS』では、食材を豆・ナッツ、乳製品、果物・野菜、穀類、肉・魚・卵の5種類に分類し、専用のアプリを使うことで過去の購入データから食事バランスを割り出し、パーソナライズしたグラフで表示します。他の食材に比べて野菜の購入量が少ないようであれば、野菜が割引されるという仕組みを取っているそうです。

 「MiGROSアプリのアクティブユーザーは100万人、そのうち44%に行動変容が見られ、72%がアプリのオファーに従っています。結果的に顧客数が増えて売上は17%増加、割引しても売上や客単価は上がっています」

 他にも特定の健康食材を買うとキャッシュバックされるスーパーや、食品が健康に寄与する度合いを格付けし、パッケージで星印で表示する企業、世界的食品メーカーの製品をスコア化してランキングする企業など、世界的にさまざまな試みが行われていることを説明する青木さん。

 「メーカーやスーパー、外食は消費者と接点があるので、健康を訴求することで付加価値を高めることができます。買い物は金銭決済ですからデータが残り、ポイントや値引きといった価値還元もしやすい。データとインセンティブを、食品バランスを取るために上手く使えば面白いと思います」

2025年大阪万博、テーマは健康長寿

大阪大学大学院医学研究科教授の森下竜一さん。「2025年の大阪万博は日本の健康長寿を世界に発信するチャンスだと思います」

 続いて大阪大学大学院医学研究科臨床遺伝子治療学 教授の森下さんから、健康寿命について産業の重要性と果たすべき役割についての説明がありました。

 「セルフメディケーションの推進は国民の健康増進や医療費削減、新産業の創出につながります」と話す森下さんは、事例として2015年に施行された機能性表示食品制度の届出件数が4年で2135件(2019年6月12日時点)になったことを挙げました。届出のあった食品は栄養補助食品(サプリメント)がほとんどですが、中には生鮮食品や缶詰のような加工食品の届出もあるそうです。

 機能性表示食品市場は右肩上がりで急成長しており、2018年の市場規模は2400億円になると見込まれ、健康食品ビジネスにとってのチャンスとなることが期待されています。

 また、2025年に大阪で開催される日本国際博覧会の万博基本構想委員を務める森下さんは、「健康長寿をテーマに万博を開催し、SDGs(持続可能な開発目標)達成に貢献します」と強調しました。

 「例えば10歳若返るパビリオンというものを考えています。入場者の血管年齢や肌年齢を測定し、若返りにふさわしいサプリメントや運動、食事を提案して行動変容につなげます。他にも健康に関するイベントを広場で行ったり、万博後は大阪をメディカルツーリズムの拠点にしたりといった構想もあります。万博は日本の健康長寿を世界に発信するチャンスだと思います」

食とヘルスケア、地方自治体や中小企業に大きなチャンスが

ヘルスケアがテーマのひとつの2025年の大阪万博。ヘルスケア関連は中小企業や地方自治体にとって大きなチャンスになりそうだ

 セミナーの後半は食品機能性地方連絡会 幹事の河合雅樹さんを進行役に、青木さんと森下さんによる対談が行われました。

 森下さんの「消費者の行動変容を促すのは難しく、またさまざまなデータも個人情報保護の観点から使いにくいという課題があります。行動変容のきっかけとなる方策はないでしょうか?」という質問に対し、「消費者の行動変容を規範で変えることは難しいでしょう。トルコのスーパーのようなインセンティブは一つのアイデアだと思います。また、データ活用についても公的に集めたデータを使うのではなく、物流で集めたデータを使えばハードルが下がるのではないでしょうか」と答える青木さん。

 2025年の万博について、森下さんは「2023年には参加企業が決まります。来場者の半分は外国人、その7~8割はアジアから来ます。彼らを未来のお客様ととらえ、越境ECや新しいサービスの提供を考える必要があるでしょう」と話すと、青木さんは「開催地の大阪だけが盛り上げるのではという懸念があります。例えば健康長寿に取り組んでいる高齢者の多い自治体と組んで、全国的に広がりを見せるような万博にすれば、日本全体が盛り上がって面白くなりそうです」とアイデアを出しました。

 最後に進行役の河合さんが「大阪から1時間で日本全国どこにでも行くことができます。前回の万博は大企業のパビリオンがメインでしたが、今回は中小企業も参加できるような仕組みがあると良いかもしれません」と締めくくりました。

 機能性食品から万博まで、ヘルスケア産業はアイデア次第で大きなビジネスチャンスになりそうです。

美容と健康の総合展示会「ダイエット&ビューティーフェア 2019」(2019年9月9日〜11日)。会期中はコスメや美容機器、健康食品などを扱う企業や団体365社が出展。2万2000人を超える関係者が最新情報を求めて来場した

(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

★関連リンク

  • 今こそ、健康経営!すぐに使える次世代ヘルスケアサービス

    ヘルスケア領域のビジネスが拡大を続けています。2013年には16兆円だった市場規模は30年には37兆円にまで大きく伸張することが予測されています。一方では経営的な観点から従業員の健康に注目して投資を行う健康経営に舵を切る企業も増えています。すぐに使えるヘルスケアサービスも続々登場しています。

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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