株式会社シンカができるまで Vol.6 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

「現実は甘くない。ぜんぜん人が採れない」。うまくいかなかった創業初期の人材採用

2019年10月28日
株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第6回は前回に引き続き人材採用についてです。2人目以降は順調に採用できるはず・・・と思いきや、まったくうまくいかなかった創業初期の人材採用を振り返ります。
 こんにちは。クラウドCTI「おもてなし電話」の江尻です。

 前回のコラムでは、初めて社員を採用した時の心境や葛藤をお伝えしました。意思決定するまでに何が邪魔していたのか、採用した後の心境の変化など、当時の気持ちをできるだけ思い出し、そのままお伝えしたつもりです。

 さて今回は、ベンチャー初期の人材採用に関してお話ししたいと思います。起業して間もない時期やシード期において、人材の採用はかなり苦労します。私も様々な経験をしました。今でこそ笑って話せることもありますが、当時はかなり焦ったものです。

 前回もお伝えしましたが、ビジネスを拡大させるためには、人材採用はとても重要です。経営者が力を入れないといけない仕事のひとつが人材採用なのです。

 初社員の採用と違い、2人目以降の採用に関する心理的ハードルは驚くほど下がるものです。1人目を採用するときはあれほど悩んだり慎重になっていたのに、2人目以降となると、「よし! 採用しよう!」とすぐに動き始められました。「1~2カ月以内に数名を採用して、ビジネスを加速させるぞ」と、意気揚々と動き始めたものです。

 だがしかし、全くうまくいきません。
 現実はそんなに甘くない。

 ぜんぜん人が採れないのです。採用活動が全くうまくいかない。

 まず採用で動き始めたのは、リファラル採用です。知り合いに声をかけまくりました。ダイレクトに採用を誘うこともやりましたし、周りでいい人がいたら紹介してほしいと頼みました。これがなかなかうまくいかない。

 何がうまくいかないのかというと、「時間」です。

 とにかく採用までの時間がかかりすぎるのです。1~2カ月以内に入社してもらうということなど皆無です。今の会社を辞めてシンカに入ると決めてもらった人でも、転職するとなると乗り越えないといけないハードルが出てきます。

 まず、今の会社に迷惑をかけないように自身の業務をしっかりと引き継いでもらうこと。この引継にとても時間がかかります。自社に欲しいと思う人材なので、もちろん今の会社でもいい評価の人材。そう簡単に引き継げるような仕事をしていません。何よりも、会社が簡単に手放してくれないので、強力な引き留め工作にあいます。それで辞められなくなる人もいました。

 こうなってくると、入社まで半年以上、長いと1~2年かかってしまうという人材もいました。ベンチャーの時間軸からすると、今すぐ事業成長させるための人材が欲しいのに、半年とか1年とか、待っていられない。もちろん長い目で見て、こういういい人材を囲っておくことは大切です。将来の事業拡大のために、たとえ数年後でも、入ってもらう優秀な人材は囲っておいたほうがいいです。

 すぐに入社してくれる人材がなかなか採用できないという焦りの中、私は大きな判断ミスをしました。

 リファラル採用で動いてはみたが、すぐに人が採用できない。短期の人材獲得にはリファラル採用は向いていないのではと思い、求人媒体による採用に舵を切ったのです。この媒体採用が負け戦でした。

 そもそも、ベンチャー初期はお金がありません。これまでのコラムでも何度お伝えしましたが、本当にお金がないのです。採用媒体に大きなお金をかけられるわけもなく、メジャーな媒体には出稿できないため、あまり聞いたことがないような媒体に登録しました。中小企業向けの採用媒体であったこと、関東中心の採用に強みがあること、そして何よりも安かったということで選びました。大手の採用媒体の三分の一程度という、とても安価でありがたいと当時は思っておりました。しかし、ここで二つの間違いを起こしていたのです。

 一つ目は、安さにはそれなりに理由があるということ。求人媒体に登録している人材ですが、曲者が多く、本気で事業を一緒にやっていきたいと思えるメンバーに全く出会えないのです。

 どんな曲者が多いのか? せっかくですので、すべて隠さずにお伝えしましょう。当時は営業とマーケティングを募集していました。営業希望で面談した応募者の、何と2割が水商売の店長でした。こんな高確率で出会うのかとかなり驚いたものです。モノを売る経験がほとんどない人ばかりのため、ITサービスをガンガン売ってくれるようなイメージが全くわきません。また、新卒採用ではないのでポテンシャル採用するわけにもいかず、すべてお断りしました。余談ですが、彼らに「これまでどんな困難なことがあり、それをどう乗り越えましたか?」という質問をしたときのある店長の回答が秀逸でした。「先日、お店で働く女の子全員が当日来ないというドタキャンをされ、お店を閉めるわけにもいかず途方に暮れていた。悩んでいても仕方がないので、店の前を通る女性に声をかけ、その日だけ働いてもらうということをお願いし、何とかお店を無事に開店できました」というものでした。なんという素晴らしい行動力! その行動が素晴らしい結果を導き出していたのですが、ここはシビアに、ご縁がなかったことにさせてもらいました。

 マーケティング希望の応募者にも曲者がいました。駅から徒歩7分の場所に弊社はオフィスを構えていたのですが、30分以上遅刻し、しかも事前に連絡もない。心配して私から携帯電話に連絡してみたところ、なんと迷っていたのです。駅から徒歩7分の距離なのに30分以上も迷っているとのこと。仕事を任せられる自信がなかったため、ご縁がなかったことにさせてもらいました。

 そんな中、1名、営業として優秀そうなメンバーに出会えました。経歴を見ても素晴らしい営業経験と実績の持ち主ですし、何よりもITサービスの販売経験がある。また、これまでの会社では、個人・チームともに素晴らしい受注実績を上げており、その実績に応じた社内の表彰を何度ももらっている。もう何も言うことがない。この人ならシンカを大きくしてくれそう! やっとこういうメンバーに出会えた! と思って採用しようとしたところ、ある事件が起こりました。事件というと大げさなのですが、なんと、その人の職務経歴に記載されている内容は全てウソだったのです。虚偽の経歴で応募してきていたのです。社内の受賞なんて全くのウソ。大きなショックを受けました。

 このように、事例を挙げればまだまだユニークな人がいるのですが、ベンチャーを共に大きくしていくと信じられる仲間になかなか出会えませんでした。結局、採用媒体からは一人も採用できず。とてもいい勉強になりました。

 ここから学ぶべきは、人材採用にもちゃんと戦略が必要ということです。

 そもそも採用市場という戦場でやみくもに戦っていても絶対に勝てません。まずやるべきは、人材採用市場において、自社を正しく把握することです。自社の強みと弱みを明確にし、それに合った戦い方を考えなければなりません。

 シンカの強みは何か?
 それは、ビジネスに対する熱い想い、将来の面白いビジョン、自分自らが事業成長に携われる刺激、やればやるほど成果として返ってくる楽しさ。

 では弱みは?
 海のものとも山のものともわからない、得体のしれない会社。信用もなく、お金もない。未来も約束されていない。とてもリスキー。

 当時のシンカの強みと弱みを正しく把握してみると、採用媒体では強みが生きず、弱みが際立ちます。

 相手(求職者)の立場に立って考えてみましょう。転職するということは、かなり強い決断が必要です。自分の人生をかけ、さらに家族のこれからの人生の責任も負う。とても重たい決断をしなければなりません。そんなときに、何やらよくわからないベンチャー企業に転職しようと考える人は、媒体に登録する求職者にはあまりいないでしょう。当時のシンカには、媒体で説得できる材料がなかったのです。いろんな熱い想いをたくさん書いても、それを信じるだけのものがないのです。

 私の経験から、ベンチャー初期で媒体を活用した採用はかなり難しいと思います。徹底的にリファラル採用を進めるべきです。ある経営者から聞いたことがありますが、30人まではリファラル採用で進めるべきとのこと。確かにその通りだと思います。とにかく、あきらめずにリファラル採用を進めるべきです。そうすれば、熱い想いに惚れ、自分の人生をかけようって、そしてすぐに合流しようって考えてくれる人材に出会うことができます。

 私のとったある行動をお伝えしましょう。どうしてもこのメンバーに入ってほしいと思い、東京から広島まで口説きに行ったことがあります。それくらい強い想いを持てば、とてもいいタイミングでいい人材と出会うことができます。そうやって、自社の強みを生かした人材採用で戦わなければなりません。

 すぐに採用できないからといって媒体に頼ってはいけません。まだ媒体は早すぎるのです。

 会社が成長し、媒体で戦えるようになったら、例えば、ファイナンスをして資金調達したり、何かのコンテストで受賞したり、メディアや雑誌に取り上げられたり、そういった第三者から認められた証をもてるようになれば、「リスクを取ってでも面白そうな会社なので入ってみよう」って感じる人材が出てくるようになります。

 ここまでくると、媒体採用でもうまくいくようになり、人材採用も加速していきますね。そうなるまでは、愚直にリファラル採用を進めていくことをお勧めします。絶対にあきらめずに。

 今回も最後までコラムをご覧いただき、誠にありがとうございました。

★関連リンク

  • 株式会社シンカができるまで Vol.2 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。

  • 株式会社シンカができるまで Vol.3 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第3回は、起業家が必ず通る道「資金調達」の艱難辛苦(!?)です。

  • 株式会社シンカができるまで Vol.4 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第4回は起業と仲間の関係――「起業は一人でするべきか? それとも仲間と始めるべきか?」について考えます。

  • 株式会社シンカができるまで Vol.5 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第5回は会社を興した後、初めて社員を採用した時の気持ちが揺れ動いた日々を振り返ります。

★江尻高宏の連載コラム

  • 今どきの新人は電話恐怖症でウツになる!? そして退職!?

    「電話恐怖症」という言葉を聞いたことがありますか? 電話が鳴ると、緊張して動悸がしたり、ひどいとパニックになったりなど、うまく電話が取れないというものです。この「電話恐怖症」、今どきの新入社員(新人)に増えてきているということをご存知でしょうか?

  • どこに“期待”をするべきか?

    コミュニケーションの達人、「おもてなし電話」の江尻高宏さんの連載コラム。今回は具体的な方法論から少し話題を変え、対人関係における心の有り様について考えます。テーマは「相手への期待」です。

執筆者: 江尻高宏 - 株式会社シンカ代表取締役社長
関西大学大学院工学研究科修了後、株式会社日本総合研究所に入社。金融系の情報システム開発に従事し、広範囲の開発プロジェクトに参画、チームリーダやプロジェクトマネジャーを経験。その後、株式会社船井総合研究所に入社。営業、マーケティング、商品戦略を中心に、中小IT企業向けのコンサルティングに注力。特にクラウドビジネス分野に強く年間約20本の講演を担当。2014年1月に株式会社シンカを設立。「おもてなし電話」をはじめ、クラウドサービスを中心にITを世界に広めることに注力している。

コラム新着記事

  • こんにちは。クラウドサービス「カイクラ」の江尻です

    株式会社シンカ代表取締役社長の江尻高宏さんによる連載。今回は看板サービスであるクラウドCTIの名称変更という大発表です。使い慣れたサービス名を、江尻さんは今なぜ変えるのでしょうか? その決断に至る心のあやを語ってくれました。

    2019年11月18日

    コラム

  • 特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』 AIは人類にとって敵なのか味方なのか?

    「AIは人類にとって敵なのか味方なのか?」と気になる人に是非オススメしたいのが日曜朝9時から放送されている『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)だ。主人公はAI企業の2代目社長! アンドロイドが社会に普及した世界を舞台に、暴走したアンドロイドを止めるため、仮面ライダーゼロワンに変身して戦う物語だ。

    2019年11月8日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑩『マリア・シャラポワ自伝』

    ビジネスでは他人とつながったほうが良い結果が出る──この指針はあらゆるケースで全面適用に近づいているようにみえます。しかし本当にそうなのでしょうか? それでグローバルなサバイバル競争を勝ち残れるのでしょうか? ひとりきりになったときに、普段からどうすればよいのかーー今回おすすめしたいのは、個人の競争戦略の教本として読み応えだっぷりな『マリア・シャラポワ自伝』です。

    2019年10月15日

    コラム

  • 映画『記憶にございません!』ある日突然、自分が総理大臣をやることになったら?

    国民的映画監督の三谷幸喜が今回映画の題材に選んだのは総理大臣。しかも記憶を失った総理大臣! 着想のきっかけは「ごくごく普通の人間が、突然総理大臣になったらどうなる?」だったといいます。主人公を演じる中井貴一の悪戦苦闘は、若い頃の理想を見失ってしまったビジネスパーソンへのメッセージにもなっています。

    2019年9月30日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する④

    地方創生戦略の重点項目の一つ、デジタル活用共生社会「society5.0」。しかし、地方に行けば、情報リテラシーの格差が見られます。スマートフォンやSNSの普及により新たな人とのつながりやバーチャル・コミュニティが形成される一方、リアルな地域のつながりは希薄化、地域コミュニティ力は減退しています。今回は地域SNSを使い、新たな地域のつながり、コミュニティの活性に挑む、若き起業家の挑戦に着目、地域におけるデジタル活用の手法を追いました。

    2019年9月24日

    コラム

  • 株式会社シンカができるまで Vol.5 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第5回は会社を興した後、初めて社員を採用した時の気持ちが揺れ動いた日々を振り返ります。

    2019年9月19日

    コラム

  • アパレル業界を変えるIT戦略! 熊本発ベンチャー、シタテルが描く「服の未来」【Vol.3】

    アパレル業界は、メーカー、工場ともにテクノロジー化が遅れており、在庫問題や工場稼働の不均衡、手作業による工数の増加など様々なビジネス上の課題を抱えています。そんななか、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする衣服の小ロット生産サービス「sitateru」が注目を浴びています。優れた技術力を持つ縫製工場の「時間・技術・資源」のデータ管理を行い、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする、衣服の小ロット生産サービスです。「sitateru」を提供しているのは、熊本発ベンチャーのシタテル株式会社。アパレル業界の課題をテクノロジーでどう解決するのか? シタテルCTOの和泉信生さんによる連載、その最終回です。

    2019年9月9日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する③

    今、地域に足りないものは何か? カギを握るのは連携協働、事業を推進するプレイヤーの存在です。連携というと、かつては官民や産学、産学官が一般的でしたが、その実態は名ばかり。真の連携、共創のパートナーシップはどうあるべきか。水津陽子さんのシリーズ第3回は、行政、市民、企業の三者が連携、地域のストックを活用し、老化した都市を再生した先駆的取り組みに迫ります。

    2019年9月2日

    コラム