斜めから見る〜今月の一冊 ⑩『マリア・シャラポワ自伝』

本当に「コートではひとりきり」です

2019年10月15日
ビジネスでは他人とつながったほうが良い結果が出る──この指針はあらゆるケースで全面適用に近づいているようにみえます。しかし本当にそうなのでしょうか? それでグローバルなサバイバル競争を勝ち残れるのでしょうか? ひとりきりになったときに、普段からどうすればよいのかーー今回おすすめしたいのは、個人の競争戦略の教本として読み応えだっぷりな『マリア・シャラポワ自伝』です。

 ビジネスでもそれ以外の各方面でも、他人とつながったほうが、いろいろ共有したほうが良い結果が出る──という指針は、実際にその通りであるようにみえる事案も多いことから、あらゆるケースで全面適用に近づいているようにさえみえます。もうこの成功手法については、後戻りできない気すらしています。おそらく、そうなのでしょう。一般の人がうろうろしているようなレベルでは。

 いや、そうなのか。一方では皆がみな、グローバルなサバイバル競争に曝されているとも言うじゃないですか。勝ち残れるのか。というわけで、今回のおすすめしたいのは『マリア・シャラポワ自伝』です。本書は、薬物使用疑惑で地位を失いかけた彼女の弁明のための出版といった事情がちらつくにせよ、そんなことは措いて、個人の競争戦略の教本として読み応えだっぷりなのです。そう、テニスについてルールや勢力図を知らなくてもぜんぜん読めます。本書の軸は、事をなすにあたっての精神の組立て方にあります。
──本が苦手なひと(どんどん増えてると思う)、特に男のひとにおすすめです。髭面の男の話ではなく、シャラポワの話だから。そういうことは大事。──

 さて、端的に結論を言うなら個人の競争戦略の教本として読み応えだっぷりな「そんなことは言われなくてもわかってる」そうでしょう。その上で、勝ち残ろうとするなら何をする? 「ひとりきりになった場面でどうすればよいのか」「ひとりきりになったとき勝ち残るために、普段からどうすればよいのか」この本では、シャラポワ6歳の時、父子2人、ロシア語しか話せずほぼコネもなく、フロリダにやってくるところから4大大会優勝、五輪で銀メダルをとるまで延々してきたこと、考えてきたことが語られます。

 時にロシア的なメンタリティが、時にいかにもアメリカ的で移民的な手法が、彼女のキャリア形成を裏打ちします。状況が悪く先が見えなかろうと、兎にも角にもやり続ける、一度失敗したからといっても同じ事をもう一度トライできる、そういう鈍感さ。そして、現役を退くまではライバルとは仲良くしない。決定的な場面ではひとりだから。

 と同時に、ひとりきりになったときに勝つために、広いつながりをもっていなければならないことも教えてくれます。成長し続けるために、つながる相手は更新する。永らく連れ添った親だろうと切ってしまう。

 親といえば、私個人は、子供にゴルフやテニスをさせるのに、どうして親がああまでつきっきりになっているのか理解できていなかった──結果を出しておろうとも小馬鹿にしていた──のですが、本書を読んで、そういうテニス・ペアレンツにも2種類があって、勝つために必要なペアレンツもあるのだ、ということがわかりました。

 あ、そうです。“コートでひとりきり”といえば、特にある年代以上の方は、何か思いだしませんか。『エースをねらえ』とくにアニメの方ではなくコミックの方を、せっかくですから、読み比べてほしいのです。シャラポワと岡ひろみでは、30年ほど年に開きがあります。しかも、片やフィクション、片や実話(自伝なので脚色はあるにせよファクトはファクト)。テニスの技術・戦術・トレンドも一変しています。それでも読めるのです。なぜなら『エースをねらえ』も精神の成長が物語の軸で、テニスのルールや技術をほぼ知らなくでも十二分に読めるので。

 そして驚くべきは、シャラポワも岡ひろみも「勝つためのしくみがまったく同じ」ということです。『エース』のほうは漫画なのでもちろん都合のよい出来事が次々起こるという点でかなり違うのですが、『シャラポワ』の方だって、凡百からみれば、(ほんとうは才能の賜物なのに)都合よく、良い出会いが次々起こります。「コートでひとりきり」になったとき、どうやってそれに耐え抜くか、そのために普段から何をすべきか。そして、現代の文脈での「つながる」などない時代のことなのに、『エース』もつながりはなくてはならないものです。両者が違うのは・・・ロシア人(半分アメリカ人)と日本人の違いか。シャラポワのコーチはロシア人やアメリカ人ですが、岡ひろみの後期のコーチはお坊さんです。その差も読んでおもしろいところです。

 話がずれてしまいました。何にせよ、この2冊は、団体スポーツの素晴らしさに焦点が当たっているこの秋に、勝つための、ひとりきりとつながりのバランスについてよく教えてくれる本としておすすめです。

●今月の一冊+α

『マリア・シャラポワ自伝』
 マリア シャラポワ/文藝春秋
『エースをねらえ』(全10巻・全巻セット)
 山本鈴美香/ホーム社漫画文庫

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執筆者: 長沖竜二 - スモールビジネス調査員
『現代用語の基礎知識』編集長、『小さな組織の未来学』編集長などを経て、現在、公共施設業界のコンベンション運営、中小事業者やまちづくりについてのメディア取材・編集などを行っている

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