「アメリカ料理」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?(後編)

アメリカの食文化を伝えるレストランイベント「TASTE OF AMERICA」(テイスト・オブ・アメリカ)

2019年10月10日
アメリカの食文化を伝えるレストランイベント「TASTE OF AMERICA」(テイスト・オブ・アメリカ/TOA)。アメリカの食文化とは何か? さらにはその背景にある歴史とは何か? にまで広がるユニークな催しです。前編に引き続き、アメリカ大使館農産物貿易事務所(ATO)の青木純夫(Sumio Thomas Aoki)さんにアメリカの食文化や背後にある歴史、そして最新の食やレストランのトレンドについて紹介してもらいます。

首都圏の参加レストラン30店舗を中心にアメリカンフードカルチャーの多様性や楽しさを分かち合うイベントがTOAだ。期間中は各レストランがアメリカ食材を用いたTOAオリジナルメニューを展開する

 アメリカの食文化を伝えるレストランイベント「TASTE OF AMERICA」(テイスト・オブ・アメリカ/TOA)をご存知でしょうか? アメリカ発の料理や食材はたくさん日本に入ってきていますが、そこに「アメリカ」という意識を持つことはあまり多くないかもしれません。TOAはそんな状況に変化を加え、アメリカの食文化とは何か? さらにはその背景にある歴史とは何か? にまで広がるユニークな催しとして2011年に始まりました。

 今年で9回目になるTOAですが、2019年のテーマは「Chowder / My American Food」。アメリカを愛する都内約30店舗のレストランと、アメリカ系食品企業、アメリカ食品協会の連携により、参加レストランごとにスペシャルなメニューが提供されています。

 10月1日より始まったTOAについて、主催するアメリカ大使館農産物貿易事務所(ATO)の青木純夫(Sumio Thomas Aoki)さんに2回に分けて話を聞きます。後編ではアメリカの食文化や背後にある歴史について紹介してもらいます。

 インタビューを行った場所はTOA参加レストランのひとつである「バビーズ ニューヨーク アークヒルズ」。チーフシェフの與那覇直行さんには料理とともに会話にも参加してもらいました。

アメリカの食文化を伝えるレストランイベント「TASTE OF AMERICA」を主催するアメリカ大使館農産物貿易事務所の青木純夫(Sumio Thomas Aoki)さん

いまのアメリカの食を表すキーワードは「健康」

ーー「現在のアメリカ料理」と聞かれたとき、何と答えますか?

「健康」です。アメリカは想像以上にかなり健康的な方向に転じようとしています、というかすでに転じています。例えば、バーガーキングはビーガン向けのバーガー「インポッシブル・バーガー」を出しました。植物の材料だけの本格的なバーガーです。ベジタリアンやビーガンを楽しむアメリカ人が増えているんです。いつも肉や魚でなければいけないわけではない。たまには野菜だけ。この流れがいま、アメリカの食文化のひとつになっています。

ーー日本のレストランの多くはアメリカの食のトレンドを意識しています。アメリカの食文化が日本に与えている影響は大きいと思います。

特にレストランのシステムはそうですね。日本で注目されている健康食材という点では、プロテインをあげることができます。例えばホエイプロテイン(牛乳由来のプロテイン)。日本でスポーツ選手やアスリートたちが運動の途中や後で飲むようになりましたが、アメリカでは随分前からあります。

(ソイプロテインが含まれる)豆乳の後に、アメリカでは牛乳の代わりにアーモンドミルクがよく飲まれています。いまではオートミルク(大麦のミルク)もあります。

健康的な食材、食品がアメリカでは次から次へと生まれ、健康的な食事を普段の生活に取り入れています。最近の傾向としては、ロサンゼルスやニューヨークといった海岸地域だけでなく、真ん中の地域も新しいトレンドを取り入れるようになりました。

伝統を崩してもいいーー食にも自由な発想が

(青木) ところで、バビーズのTOA特別メニューはなぜクラムチャウダーなんですか?

(バビーズ 與那覇シェフ) 僕が初めてレシピをもらったときに作ったのがクラムチャウダーなんです。ブラウンシュガーとベーコンを使っています。

TOAの今年のテーマは「チャウダーと私のアメリカンフード」。(左)TOA参加レストランのひとつ、バビーズの特別メニューは「ニューイングランドクラムチャウダー」。(右)バビーズのチーフシェフ、與那覇直行さん

ーー「甘じょっぱい」はアメリカ料理の特徴のひとつですよね。

(バビーズ 與那覇シェフ) バビーズのメニューにフライドチキンがありますが、メイプルシロップをかけています。

(青木) アメリカには「伝統を崩してもいい」という文化があります。アメリカは自由が大事。それが発想にも感情にも入っているんです。だからフライドチキンにメイプルシロップをかけても、それが美味しいのならまったく構わないわけです。

アメリカではブレックファーストのメニューをディナーでも食べることがごく普通にあります。朝食の料理が好きな人はアメリカに結構いるんですよ。例えばパンケーキを夕食がわりに食べたりします。そういう人たち向けにいつでも朝食が楽しめるお店もあります。

かつて、朝食といえばパンケーキが中心でしたが、「アイホップ」という朝食メニューに特化したレストランチェーンが出てきて、ランチでもディナーでもパンケーキが食べられるようになりました。シカゴ発祥のチェーン店に「ワッフルブラザーズ」があります。この店ではワッフルがいつでも食べられます。

これらの前にあったのは24時間営業のダイナーです。ダイナーではハッシュドポテト、タマゴ、ベーコンが必ず出てきます。ダイナーのおかげで夜でも朝食的なものを食べることができたんです。時代を遡ってみてもアメリカの食文化はどんどん変化していることがわかります。
アメリカの食文化を代表するもうひとつは、ケロッグが発明したシリアルです。牛乳を入れて食べるシリアルがアメリカの朝食を変えていきました。「発明家」がシリアルを「発明」したんです。
TOAのイベントのためにアメリカの食トレンドを調べていたのですが、イノベーティブアイスクリームが話題になっていました。アイスクリーム専門店「ソルト&ストロー」のターキー味のアイスクリーム、「ターキーグレービーアイスクリーム」です。

その独創性にびっくりさせられました。話によると、アイスクリーム好きが「食事のなかでどうにかしてアイスクリームを楽しみたい」と考えた結果、がっちゃんこしたほうがいいのではないかということになったそうです。

ーーすごいですよね。ちょっと考えつかない。

最近のアメリカのレストランのトレンドのひとつに「メニューに載らなかった試作品を出す」というものがあります。ほかにも「絶品まかない食」を出す店も出てきました。「オンリーワンナイト、サムシングニューをカスタマーに」という感じですね。

東京オリンピックを前に食の多様性を伝える

ーーアメリカ大使館農産物貿易事務所(ATO)では、レストラン向けにユニークなガイドブックを作っていますね。

来年は東京オリンピックということもあり、「どういう料理が外国人に受け入れられるか?」「気をつけなければいけないルールは?」などをまとめた冊子「知っておきたい12の食の流儀」をレストラン用に作りました。

例えば、糖尿病食やハラールの定義やレシピ、調理の際に気をつけることをはじめ、ローフード(生食)の場合は、何度以上では火をかけないといったことを解説しています。様々なレシピ提案の写真には各々の食習慣をマークにして「こういう食習慣の人たちにはこのレシピはOKですよ」という風にわかりやすく表示しました。
ではなぜ私たちはこういうガイドブックを作ったのか? それはアメリカには実際にここで取り上げた食習慣を持つ人々がいるからです。そしてそういう人がいることは知っていても、それに対応する知識を持っていないかもしれません。それで日本のレストランやホテルの方に向けてリリースしたのです。

ーー「パレオ」という食習慣をガイドブックで初めて知りました。

それは石器時代の食べ方で、旧石器時代の人類が食べていたとされる食物を基本としたものです。アメリカでも流行りつつあります。体に負担をかけさせたくないという発想です。
カリフォルニアではナッツやくるみ、アーモンドなど昔からそこで採れるものをサラダにいれていました。そういう食べ方でずっと前から暮らしてきたんです。アメリカ人にとっては普通のことです。アメリカ=「肉、ハンバーガー、ポテト」ではないのです。アメリカも生きるために必死でした。

牛肉について言えば、もともとアメリカには牛はいませんでした。いたのはバイソンだけです。牛はヨーロッパから連れて来て、肉牛に育てたのです。放牧できる場所はテキサスから中南部から西方面でした。東海岸は森林が多いから、大きな動物は放牧できなかったんです。放牧しなくても育てられるのは豚や鶏です。バーベキューに地域性がよく表れているのですが、東海岸はチキンと豚が多く、テキサスはビーフです。アメリカの食文化にはそういう歴史背景があるんです。今回のTOAをきっかけに食の背景にある文化や歴史に思いを馳せてもらえればうれしいですね。

■「TASTE OF AMERICA 2019」

期間:10月1日(火)〜14 日(月)
概要:アメリカを愛する都内約30店舗のレストランと、アメリカ系食品企業、アメリカ食品協会の連携により、アメリカの食文化を感じられる特別メニューを提供

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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