自分の知らないものは売らない〜『パンと日用品の店 わざわざ』急成長の理由〜

山の上の小さなお店が繁盛するまで/合同展示会 大日本市

2019年10月2日
長野県東御市にある『パンと日用品の店 わざわざ』。食と生活をテーマにしたさまざまなものを販売しています。山の上にぽつんと建つこの小さなお店が、実店舗・オンラインストア合わせて、なんと2億円を超える金額を達成しています。ターニングポイントは在庫の持ち方を変えたことでした。
 日本の工芸を語るとき、キープレーヤーとして必ず名前があがるのが「中川政七商店」です。中川政七商店は1716年創業を誇る奈良の老舗企業。日本の工芸をベースにした生活雑貨を企画製造し、全国に50を超える直営店で小売業を展開するほか、地域活性事業や各地の工芸品メーカーに向けたコンサルティング事業も行っています。

 そのコンサルティングの一環となる販路開拓支援のために開催しているのが合同展示会 「大日本市」(2019年9月4日〜9月6日開催)です。今回で4回目となるそのテーマは"アタラシイものづくりと出会う3日間"。全国各地から集った49ブランドに加え、国内最大級のクラウドファンディングサービス「Makuake」とのコラボレーションにより、スタートアップの工芸メーカーも出展。ものづくり・店づくりを知るためのトークセッションや特別展示も数多く開催されました。

 今回の記事では9月6日に開催されたトークセッション「知らないものは売らない わざわざの仕入れ方」(講師:平田はる香さん/株式会社わざわざ 代表取締役)より、自分たちが納得したものしか販売しない、わざわざの仕入れ方や売り方についてレポートします。

株式会社わざわざ代表取締役の平田はる香さん。山の上にぽつんと建つ小さなお店『パンと日用品の店 わざわざ』では、食と生活をテーマにしたさまざまなものを販売している

こだわりの商品を下支えする4つの定義

 長野県東御市にある『パンと日用品の店 わざわざ』、山の上にぽつんと建つ小さなお店では、食と生活をテーマにしたさまざまなものを販売しています。

 そんなわざわざの売上は2016年を境に急上昇し、2018年には実店舗・オンラインストア合わせて2億6457万円を達成しています。その理由について平田さんは「2015年までは機会損失をしていました。確実に売れる商品があるのに在庫がない状態だったのです。2016年に在庫の持ち方を変えたことがターニングポイントになりました」と話します。

 また、売上げを底上げした要因として平田さんはSNSの活用を挙げました。わざわざのSNSフォロワー数はメルマガやLINE、noteも含めると約16万人。「例えばどうしても売りたい商品をSNSに投稿すれば、一気に16万人へリーチすることができます。これはただのお店の『メディア力』ではありません」と平田さんはSNSの威力について強調します。

 わざわざでは、取り扱う商品にもこだわっており、本当に価値のあるものを売るための選択基準として4つの定義を最初に決めたそうです。その4つとは、『長く使えるもの』『飽きのこないもの』『暮らしに寄り添うもの』『きちんと作られたもの』です。

 「1つ目の長く使えるものとは、耐久性が高く長く使えるもので、仮にゴミになったときに環境に負荷をかけないものです。2つ目の飽きのこないものとは、シンプルなデザインやおいしすぎないことを指します。例えば、一口目がおいしいパンは後で飽きてしまいますが、わざわざでは飽きのこない、ご飯のように主張しない味のパンを販売しています」

わざわざの売上は2016年を境に急上昇、2018年には実店舗・オンラインストア合わせて2億円を超えるまでになった。在庫の持ち方を変えたことがターニングポイントになった

良いものだけを売る、わざわざ流仕入れの考え方

 「3つ目の暮らしに寄り添うものとは、朝起きてから夜寝るまでに使うもの全てを指します。4つ目のきちんと作られたものとは嘘偽りのない作り方、そして生産者やメーカーが良い人であるということです。どんなに良い商品を取り扱っていても、取引先との相性が悪ければわざわざでは取引しないことにしています」

 これら4つの定義を守るとことを基準に、わざわざでは全て使用経験のある商品だけを取り扱っています。「お客様を友だちだと思って、自分が本当に良いと思うものを共有するーーこれが本来のお店の役割だと思います」と平田さんは話します。

 わざわざではこれら4つの定義に基づき、従業員であれば誰でも商品を提案できる全員バイヤー制度を取っており、そこで提案された商品を社内で会議にかけ、実店舗での販売実験を経てオンラインストアに掲載しているそうです。オンラインストアに掲載されるのはいわば厳選された商品、メーカー廃番にならない限り売り続けると平田さんは説明します。

 「仕入れとはお店のポリシーを、商品を通じてお客様に伝えるものです。店そのものを表すものとも言えます。したがって単にセレクトが良いだけでは売れません。そこからさらに感じる何かを仕入れの段階でチェックします」

「仕入れとはお店のポリシーを、商品を通じてお客様に伝えるものです。店そのものを表すものとも言えます」(平田さん)

商品の持つストーリーの伝え方にこだわる

 どんなにすばらしい商品でも、カタログスペックだけを紹介して、その魅力が伝わらなければ売ることはできません。平田さんは「ただの商品説明では売れません。いかにお客様に欲しいと思わせるかが大切です。商品と一緒に心も買っていただくことができれば、口コミやSNSで拡散しやすくなります」と話します。

 そんな平田さんが現在試みているのが、わざわざで取り扱っている商品のメーカーや生産者のもとに足を運んで話を聞くということ。「ネットから得た情報だけでオンラインストアを作ってはいけません。メーカーや生産者の話を直接聞き、写真を撮ることができれば、それは他のオンラインストアにはない貴重な一次情報となります。現状で満足せず、クオリティの追求にチャレンジし続けることが重要です」

 実際にわざわざのサイトでは生産者のもとを訪れ、取材をしたときの様子が日記風の読み応えある文章で掲載されています。日記には生産者がどのような仕事をしているかだけでなく、人柄や生活まで綴られており、読むだけで商品に対する思い入れが強くなりそうです。

 「日記風の読み物は長くなってしまうので、商品ページになかなかたどり着かないのですが、これは継続してやるべきだと考えています。一見すると無駄にも見えますが、お客様が商品をわざわざで買うきっかけになるのではないでしょうか」

 自分で実際に使ってみて納得した商品を集めるだけでなく、商品に込められた思いやストーリーを真摯に受け止め、その魅力を消費者へきちんと伝える。そんなわざわざの仕入れと販売の姿勢が、モノ消費から離れつつある消費者の心をつかんでいると言えそうです。

中川政七商店が各地の工芸品メーカーの販路開拓支援のために開催しているのが合同展示会 「大日本市」。今回のテーマは"アタラシイものづくりと出会う3日間"。全国各地から集った49ブランドに加え、国内最大級のクラウドファンディングサービス「Makuake」とのコラボレーションにより、スタートアップの工芸メーカーも出展。ものづくり・店づくりを知るためのトークセッションや特別展示も数多く開催された

(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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