株式会社シンカができるまで Vol.5 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

「一人でできることなんて限られている」。私が初めて社員を採用した時のこと

2019年9月19日
株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第5回は会社を興した後、初めて社員を採用した時の気持ちが揺れ動いた日々を振り返ります。
 こんにちは。クラウドCTI「おもてなし電話」の江尻です。

 前回のコラムでは、私自身が一人で起業したため、「一人で起業すべきか? 仲間と起業すべきか?」というテーマで、そのメリットデメリットなどをお話しさせてもらいました。

 一人で起業したとはいえ、ビジネスを大きくしていくためには社員を採用する必要があります。今回は、初めての社員採用に関して、当時の心境を思い出しながらお話ししたいと思います。

 社員を採用すると決めたことーー私にとって、この決断が起業してから初めての大きな意思決定だったように思えます。

 実は、初めての社員採用まで、なんと10カ月もかかりました。つまり、初めて社員が入社したのは、起業してから10か月後だったということです。10か月間は一人でビジネスをやっていたのです。採用までにとても時間がかかりました。なぜすぐに採用できなかったのか? なぜすぐに採用に踏み切れなかったのか?

 それは、自分自身の「覚悟」に原因があります。

 社員が0→1人になること。0を1にするのは、とてもパワーがいります。本当に社員を採用して大丈夫なのか、会社を継続していけるのか、その社員の人生に責任が持てるのか、さらにはその社員の家族にまで責任が持てるのか。その決断をするのにとても時間がかかったのです。「よし!採用するぞ!」と強い意思決定をして、何が何でも社員を採るのだという気持ちで採用活動を行っていれば、もっと早くに採用できていたと思います。しかし、どこかに小さな迷いがあったため、だらだらと採用活動が続き、採用に至るまで10カ月もかかったのだと思います。それくらい、初めての人の採用は慎重にもなりましたし、いろいろ考え、悩みました。

 採用までに時間がかかった原因を、「自分の覚悟」以外に挙げるとするなら、「ベンチャー初期の採用活動」でしょう。一人ベンチャーの場合、採用活動をしようと思っても、驚くほどうまくいきません。いい人が集まらないのです。いい人と出会えないのです。誰も好き好んで、海のものとも山のものともつかないような、将来がとても危ういベンチャーに飛び込んできませんよね。しかも、採用にお金をかけられないため、メジャーな媒体に広告を出せません。そのため、どうやったら採用できるのか、とても悩みました。このベンチャー初期の採用活動に関しては、とても苦労しましたし、いろんな地雷も踏みましたので、別の機会でお話ししたいと思います。

 話を戻しましょう。

 初めての社員採用で「悩んだ」理由は、採用した時のマイナス面を考えたことにあります。それは「お金」です。ベンチャー初期って本当にお金がありません。いろんなやりくりをして経費を下げています。たとえば、当時は、電車に乗るときも、地下鉄の回数券を買い、少しでも安く乗れるようにしていました。そんなけなげな努力をしている中で、社員一人を採用した時の費用インパクトに会社が耐えられるか。その点を一番悩みました。

 一番の経費インパクトはもちろん給与です。ちゃんと給与が支払い続けられるのか。自分だけだったら、少々我慢はできますが、社員の給与は止めるわけにはいかない。また、一人だったらオフィスはなくとも何とかなります(自宅とか、喫茶店とか)が、社員ができたらそうはいきません。オフィスが必要です。集まる場所が必要になります。

 社員を採用すると大変なことも増え、悩むことも増えます。しかし、それは正常なことですし、何よりも採用したらいいことのほうが多い。プラス面のほうが大きいのです。

 社員が増えるから、ビジネスでやれることが増える。ビジネスのスピードが一気に上がる。

 一人でできることなんて本当に限られているし、一人だと自分が止まったらビジネスも止まる。一人のほうが気軽にいろんなことができるというのは幻想で、社員がいたほうがいろんなことにチャレンジできる。時間も限られている中で、一人でやっていると一向に進まないこともある。体感ですが、一人から二人になったことで、スピードが2倍になったというより、数倍になったと感じています。ベンチャーにおいてスピードは大事ですよね。

 そして、何よりも「仲間が増える」。

 経営者にとって、これが一番の「プラス」なのではないかと思います。一人でビジネスをやっている間は、すべて自分一人でやらないといけない。いろんなこととすべて一人で戦わないといけない。勝った時、負けた時に分かち合える仲間がいるということ。うまくいったときに一緒に心から喜べること。乾杯して思いっきり笑えること。失敗した時に、思いっきり悔しがれること。反省し、未来を語れること。こういう仲間がいると、頑張れます。

 そう、気持ちで負けそうになった時にもうひと踏ん張りできるようになる。

 社員を採用すると経費も増え、責任も増え、もう逃げられなくなるのではないかという不安が起こりますが、それを大きく上回るほどの「やる気」が出てきます。

 この経営者のモチベーションを上げることが、社員を採用するということなのだろうと思います。社員を採用するまで、このことに気づけませんでした。

 私は、初めての社員を採用するまでにとても悩みました。ただ、採用したら自分自身のモチベーションがこんなに上がるものだとは思ってもみませんでした。悩んでいたのは、採用した時のマイナス面(責任感や経費)とプラス面(ビジネスのスピードが上がる)を天秤にかけ、そのバランスで悩んでいたのだと思います。プラス面に、自分自身のモチベーションが上がるということを加えたのなら、すぐにプラス面に傾いていたことでしょう。

 あの時の自分に言いたいです。「1日でも早く社員を採用して、仲間を見つけよう」って。仲間がいたほうがどんなにビジネスが楽しいか。どんなに自分がもっと頑張れるようになるか。

 今回も最後までコラムをご覧いただき、誠にありがとうございました。

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執筆者: 江尻高宏 - 株式会社シンカ代表取締役社長
関西大学大学院工学研究科修了後、株式会社日本総合研究所に入社。金融系の情報システム開発に従事し、広範囲の開発プロジェクトに参画、チームリーダやプロジェクトマネジャーを経験。その後、株式会社船井総合研究所に入社。営業、マーケティング、商品戦略を中心に、中小IT企業向けのコンサルティングに注力。特にクラウドビジネス分野に強く年間約20本の講演を担当。2014年1月に株式会社シンカを設立。「おもてなし電話」をはじめ、クラウドサービスを中心にITを世界に広めることに注力している。

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