アパレル業界を変えるIT戦略! 熊本発ベンチャー、シタテルが描く「服の未来」【Vol.3】

衣服生産のプラットフォーム 〜 シタテルクラウド〜

2019年9月9日
アパレル業界は、メーカー、工場ともにテクノロジー化が遅れており、在庫問題や工場稼働の不均衡、手作業による工数の増加など様々なビジネス上の課題を抱えています。そんななか、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする衣服の小ロット生産サービス「sitateru」が注目を浴びています。優れた技術力を持つ縫製工場の「時間・技術・資源」のデータ管理を行い、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする、衣服の小ロット生産サービスです。「sitateru」を提供しているのは、熊本発ベンチャーのシタテル株式会社。アパレル業界の課題をテクノロジーでどう解決するのか? シタテルCTOの和泉信生さんによる連載、その最終回です。
 アパレル業界は、メーカー、工場ともにテクノロジー化が遅れており、在庫問題や工場稼働の不均衡、手作業による工数の増加など様々なビジネス上の課題を抱えています。昨年『誰がアパレルを"生かす"のか』がベストセラーとなりましたが、まだ業界として解決に至っているとは言えません。
 そんななか、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする衣服の小ロット生産サービス「sitateru」が注目を浴びています。優れた技術力を持つ縫製工場の「時間・技術・資源」のデータ管理を行い、服を作りたい人と縫製工場を橋渡しする、衣服の小ロット生産サービスです。
 「sitateru」を提供しているのは、熊本発ベンチャーのシタテル株式会社。2014年の創業よりテクノロジーの力で業界が抱える課題の解決に取り組み、大きく変化するアパレル業界のニーズに合ったサービスを開発・提供しています。それだけでなく、多くの地方の縫製工場などをネットワークし、発注者につなげることで、地方創生にも寄与しています。
 アパレル業界の課題をテクノロジーでどう解決するのか? アカデミック出身で異色の経歴を持つシタテルCTOの和泉信生さんに語っていただきます(全3回シリーズ/最終回)。

シタテル株式会社 CTO 和泉信生氏

 シタテルは衣服生産のプラットフォームをビジネスとして展開しています。しかし、「衣服生産のプラットフォーム」って、実際のところなんだろう? と思われる方も多いのではないでしょうか。今回はシタテルの展開する「衣服生産プラットフォーム」、そして、その先に提供しようとしている、「衣服生産の“クラウド”プラットフォーム」シタテルクラウドについてお話します。

 服を作りたい方の衣服生産を請け負いますという話をすると、ああ、アパレルOEMね! と理解されることが多くあります。現にシタテル社内でもアパレルOEMと何が違うんだろうという疑問を聞くこともあります。OEMと生産プラットフォームの違いのわかりにくさは、ITの世界でレンタルサーバーとクラウドプラットフォームの違いが理解されなかった10年ほど前によく似ています。
 レンタルサーバーもクラウドプラットフォーム*1も、インターネットを通じて利用できるコンピューターのサーバーを貸し出すという”機能”は同じでした。ですが、貸し出し方や料金設定に違いがありました。”機能”は同じでも”方式”が違ったのです。そして、この”方式”の違いによって、クラウドプラットフォームは、ただコンピューターサーバーを貸し出すということにとどまらず、計算リソース、ソフトウェアを構築する環境やソフトウェアを利用する環境を包含して提供できる”プラットフォーム”を実現できる仕組みだったのです。
(*1 ここでは特にAmazon EC2などのコンピューターリソースを提供するサービスを想定しています)
 OEMと衣服生産のプラットフォームの違いも同じ構図で考えられます。衣服生産を請け負うという“機能”は同じですが、それを実現する“方式”が違います。シタテルの提供する衣服生産のプラットフォームは、国内外の縫製工場や加工工場、デザイナー、パタンナーなど、衣服生産に必要なリソースをネットワーク化することで、多種多様な生産の要望に答えられる仕組みです。この方式ではネットワーク効果が利用できるため、関わるプレイヤーが増えるほどできることが拡大していきます。多くのOEM企業が得意なアイテムを定めることで価値を強く提供するのに対して、シタテルは幅広いアイテムを効率よく処理し、高い付加価値を生み出せるようにすることで社会に価値を提供していこうとしています。そして衣服生産を請け負うことにとどまらず、更に広い範囲の機能を提供できるように進化しています。この進化の先に「衣服生産の”クラウド”プラットフォーム」があります。
 「衣服生産の“クラウド”プラットフォーム」の説明の前に、クラウドコンピューティングの世界でよく使われるSaaS/PaaS/IaaSという形態について紹介します。既に知っているという方は次の段落まで読み飛ばしてもらっても大丈夫です。たとえば、グーグル社が提供するG-mail(ジーメール)を使うといつでも自由にメールをやり取りできます。インストールや面倒な設定、アップデートは全てグーグルがやってくれます。このようなサービスの形態をSaaS(Software as a Service - ソフトウェア・アズ・ア・サービス)と呼びます。完成した製品をインターネット上で利用するイメージです。しかし、G-mailのようなものを自分で自由に作りたいとしたらどうでしょうか? そのような目的に対して利用できるサービスの形態がPaaS(Platform as a Service ー プラットフォーム・アズ・ア・サービス)です。G-mailが動作しているのと同じようにパワーや耐久性のあるコンピューターリソースの組み合わせをつかってソフトウェアシステムを作ることができます。最後にPaaSよりも更に細かい単位でコンピューターリソースを制御したいときに使われるのがIaaS(Infrastructure as a Service ー インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)という形態です。
 これまでシタテルが提供してきたサービスはSaaSの形態です。シタテルを使うと自分で工場とつながっていたり十分な知識がなくても自由に衣服生産を行えます。工場の選定やコミュニケーション、生産管理、トラブル対応など全てをシタテルが行います。これは、初めて衣服生産をする方やユニフォームを作りたい企業など、衣服生産の知識が無い方にはベストな形態です。しかし、衣服生産の知識がある方やアパレルブランドにとっては過大な機能も含まれています。もっと最適にシタテルを利用できるようにするために、シタテルの一部機能だけを組み合わせて使えるようにするPaaSの形態での提供を準備しています。例えば、資材の調達などは自社機能を使い、生産管理や工場選定、コミュニケーションなどはシタテルの機能を使うなどが可能なります。さらに、シタテルは縫製工場とスムーズに情報共有やコミュニケーションを行う仕組みを持っています。パタンナーや資材メーカー、物流企業向けの機能開発も行っています。これらを利用することで衣服生産のリソースを効率的に管理できるようになります。これはIaaSの形態です。
 SaaSからPaaS、IaaSとなるにつれて、ユーザー自らが関わることは増えますが利用料金は下がります。しかし、関わることが増えても、それらを効率よく扱えるためのコンピューターソフトウェアも合わせて提供しますので、ある程度簡便に利用できるはずです。シタテルは今後、衣服生産のクラウドプラットフォームとして、ユーザーのニーズに合わせた利用形態が選べるよう SaaS/PaaS/IaaSそれぞれの形態でのサービス展開を進めていきます。

アメリカで行われた展示会 SOURCING AT MAGICでは、(株)ヤギと共同で、アメリカのブランドや小売業者向けに日本国内でのデニム生産をオンラインでオーダーできるサービスをベータローンチ。シタテルが持つ、インターネットで衣服生産を受ける仕組みや工場と連携する仕組みを活用している

 クラウドプラットフォームになるということは、それを利用したサードパーティーと様々な新しい取り組みが実現できるということでもあります。既にいくつかの取り組みが始まっています。SHOWROOMが行った人気配信者16名のデザインしたオリジナルTシャツの企画・制作プロジェクト*2では、シタテルの生産機能を利用することで、衣服の生産を通じて配信者と視聴者がつながることが実現されました。先日、8月11日からアメリカのラスベガスで行われた展示会SOURCING AT MAGIC*3では、シリーズCラウンドの出資企業でもある株式会社ヤギと共同で、アメリカのブランドや小売業者向けに日本国内でのデニム生産(今後アイテムは増える予定です)をオンラインでオーダーできるサービスをベータローンチしました。ここでもシタテルが持つ、インターネットで衣服生産を受ける仕組みや工場と連携する仕組みを活用しています。
 これからもイマジネーションを形にできる衣服生産のプラットフォームとして進化していきます。最後までお読みいただいてありがとうございました。シタテルを活用した新しい取り組みをご一緒できる日を楽しみにしています。
(和泉信生さんの連載は今回で終了です)

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執筆者: 和泉信生 - シタテル株式会社 CTO
2009年に博士(情報工学)を九州工業大学大学院情報工学府にて取得。同年4月から9年間熊本県の崇城大学情報学部助教として教育・研究活動に従事。「市民共働のための雨水グリッドの開発」などの学術研究を行う一方、アプリを企業と共同開発するなどエンジニアリングを実社会に応用するソフトウェア開発者としても活動。2017年4月、シタテル技術アドバイザーに就任。2018年4月、シタテル株式会社入社。主な著書に『Unity4マスターブック―3Dゲームエンジンを使いこなす』(カットシステム)などがある。

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