<シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する③

第3回 SDGsを先取り、老化する都市を「市×住民×企業」で再生~日野市×UR「多摩平の森」~

2019年9月2日
今、地域に足りないものは何か? カギを握るのは連携協働、事業を推進するプレイヤーの存在です。連携というと、かつては官民や産学、産学官が一般的でしたが、その実態は名ばかり。真の連携、共創のパートナーシップはどうあるべきか。水津陽子さんのシリーズ第3回は、行政、市民、企業の三者が連携、地域のストックを活用し、老化した都市を再生した先駆的取り組みに迫ります。

老朽化した既存住棟ストックを活用、UR住棟ルネッサンス事業で再生した「たまむすびテラス」

地方創生の成否を左右するもの

 人口減少や少子高齢化による地域の疲弊、人材の偏在や経済の縮小に対し、地域はどう立ち向かうのか。地方創生はそのビジョンと戦略を練り、地域の持続可能性を担保するものです。

 ただ、地方自治総合研究所が行った「地方版総合戦略の策定に関するアンケート調査」では、7割超の市町村がこれを外部委託したと回答。自らビジョンや戦略を描けていないところにジャブジャブお金が出ているのが現状です。

 京都新聞によると、京都府笠置町は宿泊施設の整備等で7億円の地方創生事業費を獲得しましたが、町ではこなせないとして半額近くを国に返上。副町長は「戦略を描けないまま、国がお金を出す流れに地方が慌てて乗ってしまった。次があるなら確実に効果を出せる方法を選ばなければならない」と発言しています。

 地域に足りないものは何か。カギを握るのは連携協働、事業を推進するプレイヤーの存在です。

 今、トレンドの経済・社会・環境の3つの視点から新しい価値の創造、持続可能な開発を行う「SDGs」しかり、特定エリアで民間主体のまちづくりや地域経営を行う「エリアマネジメント」や様々なかたちで地域に関わり変化をもたらす「関係人口」の創出も同様です。

 連携というと、かつては官民や産学、産学官が一般的でしたが、最近では金融機関や労働団体等を含めた「産官学金労言士」というワードも飛び交います。しかし、その実態は名ばかり、年間約1兆8千億円の地方創生関連予算目当ての烏合も少なくないように感じます。

 真の連携、共創のパートナーシップはどうあるべきか。今回は行政、市民、企業の三者が連携、地域のストックを活用し、老化した都市を再生した先駆的取り組みに迫ります。

SDGsを先取りする、市×住民×URの3者連携

余剰地整備事業で2014年に開業した「イオンモール多摩平の森」(延床面積約7万5千平米)/画像提供:UR都市機構

 東京都多摩地域の南部にある日野市の人口は約18万5千人。高度成長期には大規模団地が開発され、ベットタウンとして人気を得て人口が急増しました。市内にはJR中央線・京王線の2つの鉄道、多摩都市モノレールが通り、日野、豊田、高幡不動の主要3駅からは新宿駅へ約30分と交通アクセスにも優れます。

 日野市の主要駅の一つ、豊田駅周辺には北口の多摩平地区に約1万7千人、南口の豊田地区に約7千人、併せて約2万4千人(市人口の約13%)が暮らしています。

 北口周辺は1955年、当時の日本住宅公団(現UR都市機構、以下UR)の土地区画整理事業によって整備され、1958年多摩平団地の入居が開始されました。開発当時の団地の敷地面積は約29ha、そこに247住棟2792戸の住戸が立ち並び、多くのファミリー層が暮らしていました。

 しかし1990年代後半、その多くが建設から40年を経過し、建物の老朽化と住民の高齢化が進み、住宅の面積や設備も現代のニーズに合わなくなっていました。1996年URは多摩平団地の再生事業に着手、UR賃貸住宅の建替えが行われることになりました。

 この時、事業を進めるに当たり取り入れたのが市、住民、URによる「3者勉強会」で、暮らしやすい住まいやまちづくりについての話し合いが重ね、合意形成を図っていきました。並行して、間取りや共用部分など暮らしやすい住まいを考える「戻り住宅ワークショップ」、多摩平団地の緑や屋外空間を考える「緑のワークショップ」も開催され、建替計画には住民の意見や提案が反映されることになりました。

 実は当初の建替計画は4400戸の賃貸住宅の建設を予定していましたが、最終的な建替事業は建物を高層化し集約、従前居住者の戻り入居用を中心に1528戸を整備。計画変更により生じる余剰地18haには、公共施設や民間事業者による住宅や商業施設を建設するなど、単なる住戸の建替に留まらない、新たなまちの魅力や価値を高める複合的なまちづくりへと発展しました。

 こうした開発の背景には、前回も紹介した2006年制定「住生活基本法」による「住宅の量確保から、国民の住生活の質向上へ」という国の政策転換があります。URは施策上その推進役と位置付けられました。

 多摩平団地の取り組みは国際的にも高い評価を得て、質の高い環境・景観の保全・創造による住みよいまちづくり国際賞「リブコムアワード2008」で、環境配慮型プロジェクト賞建築部門銀賞を受賞。

 2015年国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)で提唱された「アウトサイドイン・アプローチ」という概念は、これまでの企業が己のみの目先の利益を追う「インサイドアウト(内的・短期的)」の視点から、長期的に社会・環境・経済の側面から計画や目標を設定していくものですが、3者連携はそれを先取りするような取り組みとなっています。

進化系ミクストコミュニティ「たまむすびテラス」

たなべ物産が手掛けた都会のクラインガルテンをイメージした菜園付き住宅「AURA243多摩平の森」、(上、右下)貸農園

 1997年にスタートした団地建替事業は2008年完了。約11haの敷地に6~13階の30棟の住棟が建設され、名称も「多摩平の森」に変更。2002年には余剰地整備事業も始まり、新たに戸建住宅や民間のマンション、市の認可保育園、図書館や児童館などが入る公共施設の整備、イオンモールなどの商業施設が誘致されました。

 また団地再生事業は建替えだけでなく、ストック活用の観点から既存住棟を有効活用するより実験的な「住棟ルネッサンス事業」も試みられました。

 事業は民間事業者に住棟単位で躯体(スケルトン)を賃貸、それぞれが総意工夫した活用や改修方法で社会実験として事業化。アイデアを民間から募り事業者を選定、それぞれが創意工夫した提案に基づき活用・改修するものです。

 2009年にアイデアの募集を開始。そこで3事業者選定され、5つの住棟が「若者向けシェアハウス」、「菜園付き住宅」、「サ高住」に改修され、2011年「たまむすびテラス」として生まれ変わりました。

 緑に囲まれ、ゆるやかな小径で繋がれたゆったりとした共有スペースはイベントもできる屋外テラスなどもあり、そこに学生、ファミリー層、高齢者など、多種多様な人や世代がともに暮らし、居住者同士や地域との交流も図られています。

 八王子や多摩地域で建築資材の販売やリノベーション事業を手掛ける「たなべ物産」が手掛けた菜園付き住宅「AURA243多摩平の森」は、都会のクラインガルテンをイメージ。着想はデンマーク式のコミュニティガーデン「コロニヘーブ」から得たもので、住棟(1棟24戸)のほか、貸農園、バーベキューが楽しめるスペースもあり、居住者同士、菜園利用者の交流の場にもなっています。

 住棟1階の住戸は専用庭を入れると専用面積が90平米にもなり、庭には広いウッドデッキ、住戸の床材には国産の無垢材を使用。スタイリッシュなキッチンや広い庭とつながる開放的で贅沢な空間を有す、デザイン性の高い住宅へ改修したことで、周辺相場を上回る家賃を得ています。

 こうした取り組みは市の政策にも変化をもたらしており、「地方版総合戦略」では改めて郊外部における居住価値を提示する「ポスト・ベッドタウン」を都市のコンセプトに、多様な世代が社会とつながるミクストコミュニティなどを政策の柱が掲げられています。

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執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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