お店はメディアだ! “エンターテイメント”としての売り場を創造する

店舗をコンテンツ化した「銀座伊東屋」の改革/ライフスタイル総合EXPO

2019年8月2日
2015年にリニューアルした銀座伊東屋本店。そこで行なった改革は、従来の「商品を買う店舗」から「過ごせる店舗」へと変化させ、自分の場所や心地よい空間の提供を目指すものでした。ネットがものを買う場所になっている現在、店舗はメディア(伝える場所)となることが必要です。リアル店舗はメディアとしていかにお客様を楽しませることができるかがポイントになります。
 モノ消費からコト消費への変化、個人のライフスタイルに合わせた消費ニーズ、ECサイトの活発化など、小売業・流通業を取り巻く環境は大きく変化しています。

 そんななか、消費者の購買意欲を刺激するような製品が集結する「ライフスタイル総合EXPO」と「国際文具・紙製品展 ISOT」が2019年6月26日〜28日の期間、東京ビッグサイトにて開催されました。

 今回のライフスタイル総合EXPOは、「雑貨EXPO」「ベビー&キッズ EXPO」など7つの専門展で構成され、日本国内・海外から合わせて1610社もの企業が出展。また、国際文具・紙製品展には国内外340社が出展し、多くの業界関係者で賑わいました。

 また、小売業の成長戦略やマーケティングなどの課題に対して、業界を代表する人物によるさまざまなセミナーが開催され、課題解決のヒントを得るべく多くの関係者が聴講に訪れました。

 今回の記事では6月26日に開催されたセミナー「“買う店舗”から“過ごす店舗”へ 伊東屋が提供する体験づくり」(講師:松井 幹雄さん/株式会社伊東屋 取締役 企画開発本部 本部長)より、伊東屋が提案する「モノを楽しむコト」のポイントついてレポートします。

株式会社伊東屋 取締役企画開発本部長の松井幹雄さん。「現代はモノをたくさん持つことよりも、自分のこだわりのモノを所有することに消費者ニーズが変化しています」

小売り再生のポイントは「店舗がメディアになる」こと

 最初に松井さんは、消費者ニーズの変遷について解説しました。「高度成長期は機能消費、バブル期は象徴性消費が中心でした。現代は自己実現の意味合いが強く、こだわり消費や体験・同趣向者とのつながりが中心になっています。モノをたくさん持つことよりも、自分のこだわりのモノを所有することに消費者ニーズが変化しています」

 確かに近年、こだわりのペンや高級なノートを持つ人を多く見かけるようになりました。また、SNS上でも文房具ファンによる投稿が増えており、多くの人が自分の使う文房具にこだわりを持つようになっていることが見受けられます。

 ディープなファンによる「文房具ブーム」が起こっている一方、全体としての文房具の市場動向に目を向けると、ECは成長しているものの、リアル店舗での売上は減少傾向にあると松井さんは話します。市場がECに移っている今、リアル店舗はどうすればよいのでしょうか?

 「従来のメディア(ネット)が店舗(ものを買う場所)になっているのであれば、逆に店舗(体験する場所)がメディア(伝える場所)となることが必要です。確かにネットショッピングは便利ですが、ワンクリックでの商品購入には、ある意味虚しさが伴います。しかし、実店舗には実際に商品に触れ、体感できるというメリットがあります。リアルな店舗はメディアとしていかにお客様を楽しませることができるかがポイントになります」

「リアルな店舗はメディアとしていかにお客様を楽しませることができるかがポイントになります」(松井さん)

「商品を買う店舗」から「過ごせる店舗」へ

 それではメディアとしての店舗とは、一体どのようなものなのでしょうか? 松井さんは2015年にリニューアルした銀座伊東屋本店を例に挙げました。

 「銀座伊東屋は、『過ごすための空間・働く場所の提供・体の中からサポート・働く道具の提供・楽しく過ごす』の5つをコンテンツとしてお客様に提供しています。従来の「商品を買う店舗」から「過ごせる店舗」へと変化させ、クリエイティブに働く人をサポートし、自分の場所や心地よい空間の提供を目指しています」

 例えばコンテンツの一つである「働く道具の提供」として、銀座伊東屋では商品をカテゴリーごとに分けるのではなく、コンセプトごとにフロアを分けるユニークな陳列方法をとっています。「メルシーアプリ」というアプリでは、スマートフォンを商品にかざすとバリエーションや詳細情報を確認できたり、気に入った商品をアプリ内のカートに入れるだけで購入することができたりします。ここには新しい買い物体験があります。

 カートに入れた商品は店内で受け取ることができるだけでなく、配送も可能。決済もアプリ上で完結できるので、レジに並ぶ必要もありません。お客様は手ぶらで気軽に店内を見て回ることができるそうです。

 「伊東屋では単にIT技術を使って何かをするのではなく、店頭での買い物の不便な部分を解消しています。これにより、お客様はこれまで以上に自由で快適な買い物ができるようになります」

「伊東屋では単にIT技術を使って何かをするのではなく、店頭での買い物の不便な部分を解消しています」(松井さん)

銀座伊東屋はエンターテイメント

 銀座伊東屋では楽しく過ごすための体験やサービスにも力を入れているそうです。これまでの価値観が変化し、モノからコトへ、所有よりも経験や思い出、人間関係を重視することに人々の感覚が移行していると松井さんは話します。

 「モノは機能性だけで売れるわけではありませんし、買うという行為そのものに小売店は必須ではなくなっています。小売店舗でどこまで付加価値を提供できるかがポイントになります」
 
 例えば銀座伊東屋では文房具を楽しむためのさまざまなイベントやサービスを展開しています。文房具への名入れや万年筆のカスタマイズといったモノを大切に長く使うことができるサービスだけでなく、手紙を書くための空間の提供やオリジナルのノートや万年筆を作ることができるサービスまでやっています。

 また、近年は万年筆のインクブームということもあり、国内外1000種のインクを試すことができるイベントを開催した際には、連日多くの文房具ファンが訪れたそうです。

 最後に松井さんは「伊東屋はエンターテイメントです。エンターテイメントとは人を喜ばせること。これを一つひとつ地道に実践することが大切だと思います」と締めくくりました。

 ECサイトの発展により小売店舗を取り巻く状況は厳しいものになっています。実店舗ならではの商品を直接体感できるという強みを活かし、単にモノを売るための場所から、体験などを通じてモノを提案する場所へと進化することこそが、これからの小売店舗に必要なものなのかもしれません。

2019年6月26日〜28日の期間、東京ビッグサイトで開催された「ライフスタイル総合EXPO」。日本国内・海外から数多くの企業が出展。業界関係者で賑わった

(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

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