RPAしくじり先生が語る、RPA導入と働き方改革の関係とは?

いきなり業務全体を狙わずに、5分程の小さな作業から手を付ける/総務・人事・経理ワールド

2019年7月12日
各企業がこぞって導入を検討しているRPA。働き方改革を進める一手として注目されています。しかし、一般の社員は経営陣ほど変化を求めておらず、新しいことはやりたくないのでそれほど興味がありません。「気づいたらRPAを使っている状態に持っていくことが重要です」と「RPAしくじり先生」の進藤圭さんは話します。
 2019年4月より順次施行された働き方改革関連法、IT技術の進歩によるセキュリティ対策、地震や水害などの防災対策、人手不足時代の採用など、企業が対処すべき課題は年々増えています。

 そんな課題解決のための製品やサービスが集結する「総務・人事・経理ワールド」が2019年5月29日〜31日の期間、東京ビッグサイトにて開催されました。

 今回の総務・人事・経理ワールドは、「働き方改革EXPO」「HR EXPO」「福利厚生EXPO」「オフィスサービスEXPO」「オフィス防災EXPO」「オフィスセキュリティEXPO」「省エネ・節電EXPO」の8つの展示会で構成され、800社の企業が出展のために集結しました。また、さまざまな課題に対して深い知見を持つ第一人者によって、さまざまなセミナーが開催され、最新情報を得ようと多くの人が聴講に訪れました。

 今回の記事では5月30日に開催されたセミナー「しくじり先生が語る、いちばんやさしいRPAのすすめかた」(講師:進藤 圭さん/ディップ株式会社 次世代事業準備室 室長)より、企業がRPAを導入する際に陥りがちな失敗事例とその対処法についてレポートします。

「RPAしくじり先生」こと進藤圭さん(ディップ株式会社 次世代事業準備室 室長)。「RPAが得意なのは小さな作業です。誰でも簡単にできる現場レベルの作業から導入するのは理にかなっています」

本当に自動化が必要な業務を社員に整理させる

 各企業がこぞって導入を検討しているRPA(ソフトウェアロボットにより定型的なデータ入力などを自動化する技術)は、働き方改革を進める一手として注目されています。

 「経営陣や人事部門、IT部門は改革という言葉が大好きです。しかし、一般の社員は変化を求めていないし、新しいことはやりたくないのでRPAにもそれほど興味がありません。ですから気づいたらRPAを使っている状態に持っていくことが重要です」と話すのは講師であるディップ株式会社の進藤圭さん。進藤さんは「RPAしくじり先生」として、講演や執筆活動を精力的に行っています。

 まず、進藤さんは失敗事例として「ROIの高いところから業務全体にRPAを導入することを考えましたが、これは失敗に終わりました。いきなり業務全体を狙わずに、5分程の小さな作業から手を付けることが必要です」と話しました。

 そもそもRPAが得意なのは小さな作業ですから、誰でも簡単にできる現場レベルの作業から導入するのは理にかなっています。例えば自動化したい作業を現場社員にヒアリングすると、自動化のアイデアがどんどん集まります。そこから自動化すべきもの、アウトソーシングするもの、業務をやめるものを選別するのが良いと進藤さんは説明します。

 「組織や制度を変えようとすると大ごとになってしまいます。まずは現状のまま、人が動きやすい仕組みを作ることが大切です。まず一歩踏み出せば、あとは勝手に回っていきます」

RPAやAIだけでは全てを解決することはできない

RPAそのものはシステムのつなぎ役に過ぎない。全てをRPAにするのは効率的だとは言えない

 RPAを導入しても社員に浸透しなければ業務改善につながりません。実際に進藤さんもロボット開発チームを作り、RPAの全社導入を計画しましたが失敗に終わったそうです。

 「RPAを社内に広めるには、まず現場の社員全員に触ってもらうことです。また、売上重視の体質が強い日本企業においては、RPAによる経費削減などは評価されにくい傾向にあります。そこで社外のメディアにRPA導入の実例を取り上げてもらうのも一つの方法です。社外に評価されると黒船効果で社内にも広がっていきます。RPAそのものを評価するのではなく、自動化や効率化を評価する社論を作ることも必要です」

 また、全ての業務をRPA化することについて、進藤さんは注意を促します。RPAそのものはシステムのつなぎ役に過ぎませんから、全てをRPAにするのは効率的だとは言えないそうです。例えば名刺管理や電子承認などは、RPAを使わずに専用のサービスを導入する方がコストを抑えつつ高い効果を上げることができます可能性があると進藤さんは話します。

 さらに進藤さんはAIについても「AI導入で一気に飛躍を目指してもすぐには効果が出ません。AIで飛躍をしたいなら、まずはデータを使う会社になるべきです。AIの前にBIを使ってデータの扱い方を覚え、予測が有効だと分かったら機械学習に使い、AIを使うのはその次のステップです」と説明し、「AIに奇跡を願ってもほぼ失敗します。AIはBIの延長という冷静な判断ができれば、AI導入の失敗は減らせるはずです」と続けました。

自動化にこだわれば本来の業務に注力できる

「自動化によって仕事がなくなることはありません。自動化によって浮いた時間を使った生産性をセットで考えることが必要です」(進藤さん)

 ディップ株式会社ではRPAロボットが8000時間以上の仕事を行っているそうです。しかし、RPAやAIの導入が必ずしも働き方改革につながるわけではないと進藤さんは強調します。

 「RPAやAIは今までの働き方が効率化しているだけです。例えばトヨタはRPAを導入しなくても工程や環境を整備することで生産性を上げています。働き方改革で注目すべきは従業員が能力を発揮できる環境作りだということです」

 例えば新しいPCを100台導入した方が生産性が上がる可能性もあります。必ずしもRPAやAIの導入が働き方改革につながるわけではないということでしょう。

 それでも進藤さんが自動化にこだわるのは、自動化によって本来行うべき業務に注力できるからだと話します。

 「自動化によって仕事がなくなるという話を耳にしますが、そんなことはないと思います。例えば銀行のATMは一種の自動化ですが、銀行員の仕事はなくなっていません。むしろ、窓口業務が減った分、本来の仕事であるコンサル業を増やすことができています。自動化による削減効果だけでなく、自動化によって浮いた時間を使った生産性をセットで考えることが必要です」

 少子化や年金問題などを抱えている日本にとって、RPAやAIは未来の成長戦略の1つであると話す進藤さん。最後に「働き方改革はすぐには大きな変化をもたらしません。しかし、トレンドであることには変わりないので乗っかるべきだとは思っています。まずは人事・総務・ITに部門が率先して小さく変えていく事が必要です。日本は課題先進国です。世界を変えるのは日本の役割です。まずは小さなことから始めてみてください」と締めくくりました。

 RPA導入は働き方改革にとって有効な一手ですが、必ずしも効果を生むとは限りません。まずは自社の業務を見直し、自動化できるものとできないものを洗い出すことが求められます。

 その上でRPAを導入するか、他社にアウトソーシングするか、不要な業務として廃止するかを決めることが、働き方改革の第一歩になると言えそうです。

働き方改革関連法、IT技術の進歩によるセキュリティ対策、地震や水害などの防災対策、人手不足時代の採用・・・企業が対処すべき課題解決のための製品やサービスが集結する「総務・人事・経理ワールド」。2019年5月29日〜31日の期間、東京ビッグサイトにて開催された

(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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