<シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する②

第2回 増加する空き家、ストック再生の最前線!〜MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト〜

2019年7月8日
人口減少等によって増え続ける空き家の問題。内閣府の地方創生戦略では「人口減少を踏まえた既存ストックのマネジメント強化」施策が打ち出されています。水津陽子さんのシリーズ第2回は、この状況下で成果を上げる公的賃貸住宅団地の再生と福祉拠点化にフォーカス、空き家ストックの活用と再生を考えます

板橋区にある高島平団地はかつて東洋一といわれたマンモス団地は街開きから50年が経過、住民は高齢化、建物の老朽化が課題だったが、新たなコンセプトのもとストック再生が進められている

 近年、人口減少等によって増え続ける空き家の問題。最新の調査で全国の空き家数は総住戸の13.6%を占める846万戸に増加。地方創生戦略では「人口減少を踏まえた既存ストックのマネジメント強化」施策が打ち出されています。

まちに溢れる846万戸の空き家

 総務省統計局の「平成 30 年住宅・土地統計調査結果」によると、我が国の総住宅数は 6242 万戸で平成25年と比べ179万戸(3.0%)増加。うち空き家は846万戸で、前回と比べ26万戸(3.2%)増加し、空き家率は過去最高の13.6%を記録しました。

 都道府県別では山梨県が21.3%と最も高く、和歌山県20.3%、長野県19.5%と続き、四国は徳島県19.4%を筆頭に4県すべてがワースト10入り、甲信越・四国で高い数値を示しています。

 空き家率15%以上の自治体は23に及び、空き家率が低い埼玉県でも10.2%で、東京都10.6%、神奈川県10.7%、愛知県11.2%と大都市も例外ではありません。

 また空き家の43.5%にあたる2334万戸は共同住宅で、昭和63年から平成30年までの30年間で2倍以上増えました。特に東京都では住宅に占める共同住宅の割合が71%と高く、うち17万戸が15階建て以上となっています。

 最近のタワマン・クライシスなどと呼ばれる超高層マンションの修繕危機もさることながら、マンションなどの共同住宅は建物の老朽化に伴い居住者も高齢化、居住者が流失し空室が増加すると建物の維持管理にも支障をきたし、住環境や資産価値も低下します。

 戸建てと違い、共同住宅の建て直しや解体には所有者の5分の4以上の賛成や決議が必要で、合意形成ができないまま放置されれば、最悪廃虚化も免れません。

 国土交通省によると2018年末現在、築40年超の分譲マンションは全国に81.4万戸、ストック総数の約1割を占め、これが10年後には約2.4倍の197.8万戸、20年後には約4.5倍の366.8万戸になると推計されています。

 こうした空き家の増加で生じる「都市のスポンジ化」は、治安や景観の悪化を招き、ひいては地域の衰退につながりかねません。

 こうした懸念に対し、地方創生では都市のコンパクト化や都市間連携、中枢中核都市の機能強化、エリアマネジメント、公的賃貸住宅団地の再生と福祉拠点化などの施策が掲げられています。

 今回はこの中で成果を上げる公的賃貸住宅団地の再生と福祉拠点化にフォーカス、空き家ストックの活用と再生を考えます。

出典:平成30年住宅・土地統計調査結果(総務省統計局)

人口減少社会に対応したまちへの再生

 各都道府県に立地する住宅団地は高度経済成長期を中心に開発され、建設から40年を経過したものも少なくありません。街開きしたばかりの頃は子育て世代が多く、活気に満ちていた住宅団地も年月を経て建物の老朽化と並行して住民も高齢化、住まいへのニーズの変化などにより大量の空室が生じるなどの問題が生じています。

 これに対し国は2006年に住生活基本法を制定、基本方針でストック重視の政策が打ち出し、その推進役となる賃貸住宅団地の再生や福祉拠点化が図られました。

 これまでの住宅を作っては壊す社会から、いいものを作って長く大切に使う社会への移行をコンセプトに、公的賃貸住宅の「量から質への転換」や「住宅単体でなく街区の価値を高めるまちづくり」への転換。

 施策の中核を担ったのは公的賃貸住宅のストック数で公営住宅の約200 万戸に次ぐ、約72万戸のUR賃貸住宅を有するUR都市機構(正式名称「独立行政法人都市再生機構」、以下UR)です。

高島平団地はかつて東洋一といわれたマンモス団地、写真は30棟が集まるUR賃貸住宅の中にある公園

 URは前身の日本住宅公団時代、高度成長期の国策として大都市圏に集中して大量の住宅供給を行う土地開発や住宅建設、いわゆる公団住宅の整備を担いました。しかし、その約7割を占める47万戸が2019年に管理開始から40年を経過、住民の年齢構成やライフスタイルへの対応が課題となっていました。

 URは2007年にUR賃貸住宅ストックの再生・再編への取り組みを開始。2018年末に策定した2033年までの「UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン」では多様な世代が生き生きと暮らし続けられる住まい・まちをビジョンに掲げ、① 多様な世代に対応した住環境整備、② 持続可能で活力ある地域・まちづくり、③ 賃貸住宅ストックの価値向上という3つの視点でUR賃貸住宅のストックの多様な活用を行うこととしました。

 ストック再生では、画一的なモデルを地域に当てはめるのではなく、地域や団地の特性に応じた活用、整備方針を団地ごとに策定。事業では地方公共団体をはじめとする地域関係者と連携、UR賃貸住宅ストックを地域資源とし、その役割や機能の多様化を図る活用手法が取られています。

進化を遂げる団地、リノベでMUJIと連携も

団地のテナントにはスーパーや商店、病院、コミュニティ・カフェなどが入る

 板橋区の高島平団地はかつて東洋一と謳われたマンモス団地です。都営地下鉄三田線の高島平駅の目の前に広がる街区には賃貸住宅29棟7741戸、幹線道路をはさんだ反対側にある分譲住宅34棟1883戸、賃貸住宅1棟546戸を含めると、その規模は64棟10,170戸にもなります。

 1969年に開発が開始された高島平団地は1972年入居が始まると若いファミリー層の人気を集めました。しかし街開きから50年を迎え、住民は高齢化、施設の老朽化。そこで推進されたのが地域医療福祉拠点化です。

 取り組みでは、① 地域における医療福祉施設等の充実の推進、② 高齢者等多様な世代に対応した居住環境の整備推進、③ 若者世帯・子育て世帯等のコミュニティ形成の推進を図っています。

 たとえば、多様な世代に対応した居住環境の整備では、現在のライフスタイルに合わせた間取りや設備のリニューアル、サ高住や健康寿命などの高齢者向け住宅の整備、若者に人気のブランド無印良品と連携したリノベーション住宅「MUJI×UR」を供給。

 団地の地域医療福祉拠点化では板橋区と連携、在宅医療センターが団地内に移転・開業したほか、東京都の「認知症とともに暮らせる社会に向けた地域ケアモデル事業」として、東京都健康長寿医療センターが運営する地域拠点「高島平ココからステーション」を団地内に開設しました。

MUJI×UR団地リノベーションプロジェクトで生まれ変わった部屋(こちらはモデルルーム)。窓からは赤塚公園の豊かな緑や首都高速5号線を行き交う車の姿が見える

 特に無印良品と連携したリノベーション住宅「MUJI×UR」はこれまでの団地のイメージを一新するもので、若い世代を取り込む魅力にあふれています。

 かつて団地というと画一的な間取りやデザインというイメージでしたが、ここでは住戸一つ一つにコンセプトがあり、リノベーションの内容も各住戸の特性を生かしたものとなっています。

 またすべてを壊すのではなく、使えるものは残すという基本的な考えのもと、古いものを生かすことで新築にはない温かみや味わいを生むと同時にコストを抑えることにも成功しています。

 柱や鴨居など大きな空間をつくる部分はできるだけそのまま残す一方、新たな団地の魅力を引き出す新たな素材の採用や細やかな工夫がなされています。

 軽くて移動が容易な段ボールふすまは部屋の間仕切りを自由に変えることができ、丈夫さと心地よさを兼ね備えた麻畳は洋室のように使うこともできます。

 団地は官公署、幼稚園や小中学校などの教育機関、都立赤塚公園に隣接、団地のテナントにはスーパーや商店街、医療機関が集積。23区にありながら団地内には緑豊かな公園や遊び場が幾つもあり、生活の利便性や都心へのアクセスの良さだけでなく、贅沢な住環境を備えます。

 コミュニティの活動も活発で、住民同士の交流を図るサークルやイベント、団地内には地域の人が気軽に立ち寄れる喫茶のほか、留学生との交流の場や各種教室、何でも相談コーナーなどを備える民間運営のコミュニティ・カフェなどもあります。

 UR賃貸住宅は礼金・仲介手数料、更新料や保証人も不要で、2世帯で近くに住む近居割や子育て割、U35割など、ライフステージに応じたお得な家賃プランも充実しています。

 多様な世代がともに暮らし、高齢者になっても安心して暮らせる住まいとまち、それは 今求められる理想の住まいや暮らしです。

 URが進める「ミクストコミュニティ」の形成と「ストック再生」はさらに進化を続けており、次回はそのより先駆的な取り組みを追います。

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★水津陽子の連載

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執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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