おもてなし規格認証 2019 最高位「紫認証」取得事業所に聞く 3(後編)~株式会社ワンダーテーブル ロウリーズ・ザ・プライム リブ 赤坂店~

伝統の継承とブランド価値の向上はいかにして達成されたのか?

2019年6月24日
「おもてなし規格認証」の最高位「紫認証」取得者インタビューの第3回。前編に引き続き、「ロウリーズ・ザ・プライム リブ 赤坂店」支配人の横溝慎一さんにお話を聞きます。後編では、人材育成と独自の顧客管理方法を中心に話を聞きます。
 「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」に、2019年の第一弾として5事業所が認定されました。紫認証は、認証機関から推薦を受けるとともに、顧客・従業員・地域社会の満足を促進することにつながる取り組みや、さらに、従業員の人材育成・業務効率化・顧客満足の向上につながる独自の取り組みの実施について確認された事業所に対して付与されるものです。

 紫認証にいたった施策や取り組みはどのような内容なのでしょうか? そして生産性向上はどのように実現されたのでしょうか? 表彰を受けた紫認証取得者の皆さんにお話をうかがいます。第3回は「株式会社ワンダーテーブル ロウリーズ・ザ・プライム リブ 赤坂店」(東京都)を紹介します。

 「ロウリーズ・ザ・プライム リブ 赤坂店」は、株式会社ワンダーテーブルが運営するアメリカ発祥のプライムリブ専門店。18年前に国内1号店を出店したゆかりの地である赤坂に2017年、オープンしました。約300坪の店舗スペース、5mの天井高を活かしたゆとりある空間。そして利用目的に応じて選べる複数タイプのテーブルなど、細部に至るまで居心地の良さを追求しています。お客様の目の前で仕上げるサラダやプライムリブ、印象に残る接客や雰囲気を提供することで、記念日などの特別な食事だけでなく、ビジネスユースの場所として訪れる顧客ニーズに応えています。後編では引き続き、ロウリーズ・ザ・プライム リブ赤坂店支配人の横溝慎一さんに、人材育成と独自の顧客管理方法を中心に話を聞きます。

2019年度「おもてなし規格認証 紫認証」を取得した「ロウリーズ・ザ・プライム リブ赤坂店」。お客様の目の前で仕上げるサラダやプライムリブ、印象に残る接客や雰囲気を提供することで、記念日などの特別な食事だけでなく、ビジネスユースの場所として訪れる顧客ニーズに応えている

フィロソフィー経営を多国籍スタッフに浸透させる

――高いホスピタリティを保つには社員教育が重要です。どのようにトレーニングしているのですか?

基本的には座学とOJTが中心になります。店ごとにトレーナーがいて、初期教育からサーバー(テーブルのサービス担当者)のデビューまでを指導します。ひとりでテーブルを担当できるまでほぼつきっきりという形です。

かつてはひとりのスタッフが一人前になるために約120時間かけていました。しかし、限られた時間のなかで効率化するために、お客様100人につきひとりしか尋ねられないような知識については割愛し、学習内容をスリム化したりイーラーニング化することで80時間まで削減することができました。今後は60時間にすることが目標です。

ーー紫認証の理由のひとつが「フィロソフィー経営」です。その内容をどうやって社員に浸透させるのですか?

グループ会社の全社員に向けて「フィロソフィートーク」を週一回、配信します。各店では、一回のミーティングで最低ふたりのスタッフが与えられたテーマについてコメントを出します。入社したばかりだとうまくはいきませんが、お客様と接していくうちにしっかりとした内容を話せるようになります。

ーーワンダーテーブルには様々な飲食店ブランドがありますが、採用の基準は共通なのですか?

そうです。採用基準にある「賢い=かしこい」スタッフ――「か」は感謝できる人、「し」は親切な人、「こ」は好奇心のある人、「い」は飲食が好きな人――は変わりません。

ーースタッフの出身国は10カ国におよぶそうですね。

赤坂店の総スタッフは120名ですが、そのうち約1/4を外国人が占める多国籍な職場です。メキシコ、ベトナム、韓国、インドネシア、ガーナ、台湾、フィリピン・・・。

ーー出身国がその数だとまかないが大変そうですね。

それぞれのスタッフに食文化背景があるので、豚はダメ、ラムしか食べない、など配慮が必要になってきます。基本的に肉は鳥、あとカレーが中心ですね。10年前からこういう環境ですから、昨今議論されている宗教の問題もすでに経験済みです。

「ロウリーズ・ザ・プライム リブ赤坂店」支配人の横溝慎一さん。「紫認証取得で社員の間には『ブランドの価値がより高まった』という気持ちが強くなりました」と語る

現場への権限委譲でやりがいのある職場環境をつくる

ーー外食産業で大きな課題である人手不足にはどう対応していますか?

私たちも例外ではありません。特に赤坂は近隣居住者が少なく、また大学の利便性がよくないため、学生は採りにくい。アルバイトにおける学生の割合は下がってきているので、外国人の採用を積極的に行っています。

ゲストリレーションのひとりがチリ出身なのですが、外部折衝が得意なんです。アメリカ大使館やコロンビア大使館にお伺いして、お客様獲得だけでなく人材紹介についてもお願いをしているところです。

ーー離職率が業界では驚異の一桁台です。何がそれを可能にしたのでしょうか。

できるだけ権限委譲して責任感を持ってもらうことが大きな要因だと考えています。アルバイトのなかでも優秀な人は正社員登用もしています。最近、ネパール出身で正社員になった者がいます。彼女はホールとキッチンの間をとりもつ役割を担当しているのですが、日本語の不得意な外国人スタッフをフォローするなかで、人の育成にもつながっています。

ただ、外国人だから、アルバイトだから、正社員だからという区別はありません。誰もがやりがいを持って安心して働ける環境づくりをしています。

――大学時代の4年間、ずっとアルバイトを続けるスタッフも多いそうですね。

入店した当初はなにもできなかったスタッフが、ひとつのタイミングを機にとても楽しそうにサービスをし始める風景を何度も見てきました。「この子すごくいいね!」とお客様からいただくお褒めの言葉は、私にとって何ものにも代えがたい喜びです。

ロウリーズではアルバイトの卒業式を必ず開き、彼/彼女を送り出します。「就職活動のときにロウリーズで働いたことがとても役に立ちました」「ミーティングでの話が面接でプラスになりました」といった卒業の辞を聞くと、もう一年頑張ろうかという気になります。

ロウリーズでは、大学の4年間、アルバイトを続けるスタッフも多い。安心して働ける環境がそれを可能にしている。写真は学生スタッフを囲んで。左が横溝さん、右はゲストリレーションのジョージさん

ーー働き方改革ではITをうまく利用していますね。

社内教育におけるイーラーニング化、映像のDVD化などによって効率を図ることで、限られた時間をできるだけお客様へのサービスに向けています。

特に最近導入した予約管理ツールは効果がありました。以前はアメリカの店と同じものだったのですが、日本製に変えたことで問題解決につながりました。

入り口のキャッシャーでは一日中予約電話が鳴り続け、「電話がつながらない」とお客様からお叱りを受けるような状態でした。しかし新たに入れたツールには、あるコール以上になるとお客様のケータイにショートメールを送る機能があり、そこに予約フォーマットを送ることができます。それによりかなりの電話対応の時間軽減が実現できました。

「シーティングチケット」が顧客情報共有と個別対応を可能に

ーー「シーティングチケット」という、ロウリーズならではの仕組みがあると聞きました。

接客を支える仕組みとしてシーティングチケットがあります。お客様が到着されたときに、予約管理システムからプリントアウトされるレシート状の紙のことです。入り口のスタッフがテーブルを案内するスタッフに渡し、その情報を読み取りながらサービスを行います。

お客様の名前や予約時間はもとより、お子様のお名前、乾杯の時に何を話されたか(誕生日なのか卒業なのか)、趣味、誰の紹介で予約されたのか、好みは何か、前回来店時に何が起きたか、どの薬味のおかわりをされたか、水はガス入りか抜きかなどを細かく記載しています。

ーー「伝えていなかったのにハッピーバースデーがあって嬉しかった」という口コミをグルメサイトで見たことがあります。

リピーター獲得のためにテーブル担当のスタッフが新たなお客様情報を書き加えることもします。それを積み重ねてより深い内容にするのです。シーティングチケットのシステムがあるのは日本ではロウリーズ以外で2〜3店舗しかありません。当初、システム会社にはない仕様だったので断られたのですが、そのおかげでロウリーズの文化を保つことができました。

ロウリーズの接客を支える仕組みがシーティングチケットだ。お客様の様々な情報を記したシートにより、いつでも高級ホテルのような細やかなサービスを行えるようにしている

ーー高級ホテルのような仕組みですね。リピーターが多い理由が理解できます。

「ロイヤルゲスト」と呼ぶ10回以上ご来店されるお客様もたくさんいらっしゃいますし、100回以上という方もいらっしゃいます。

お客様がいらっしゃったら、まず支配人がテーブルにご挨拶に伺いご来店のお礼をします。初来店であれば名刺をお渡しすることを徹底しています。

「チェックバックシステム」という仕組みでは、担当サーバーは必ず2回テーブルを訪れることにしています。日本はチップがないため、各テーブルに出向く「テーブルビジット」が緩くならないようにするためです。

プライムリブは焼き加減が命です。2口目を見計らってテーブルビジットし、「いかがですか?」とおうかがいすることで、お客様の様子を確認させていただいています。特に日本人のお客様は、何かあっても黙っておられる場合が多くあります。チェックバックすることで、いち早くお客様の要求にお応えするのです。お客様に「すいません」と手を上げさせたらアウトです。

ーー2020はもう目の前です。

なによりも外国人スタッフの採用に力をいれています。具体的な施策としては、様々なパーティが増えることが予想されますので、そのための仕組みを作っています。先日も「日本のなかでアメリカを感じる店、使いやすい店」ということをより深く知ってもらうために、アメリカ大使館のオリンピック担当の方をご招待しました。オリンピックだからということで特に大きく間口を広げることはしませんが、ポイントポイントでは手を打っていく予定です。

ーー外食産業では初めての紫認証です。外部にどう伝えていきますか?

社員の間では、紫認証取得で「ブランドの価値がより高まった」という気持ちが一番強いのではないでしょうか。「ロウリーズはやっぱりすごいでしょう!」と皆が心のうちで叫んだと思います。特にゲストリレーションの2名がとても喜んでいて、お客様にもアピールしたいと話しています。

大使館関係のお客様が多い当店にとって、紫認証はブランドに対する信頼や安心感を海外のお客様にもっていただくのに役立つはずです。お客様の目の前のサービスだけでなく、お店の根本がしっかりしていることを伝えていきたいですね。

「紫認証はブランドに対する信頼や安心感を海外のお客様にもっていただくのに役立つはずです」(横溝さん)

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★【連載】おもてなし規格認証 2019 最高位「紫認証」取得事業所に聞く

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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