起点は顧客! これまでとは違う戦い方で差別化を図る

既存事業をサービス化し、顧客を“サービス顧客”にする/JAPAN IT WEEK

2019年6月19日
どんなに優れたデジタルマーケティングを採用していても、デジタル技術を利用したサービスは模倣が容易です。デジタル分野においては業界の垣根が溶け始めているため、これまでとは違う戦い方が求められています。収益につなげるためには、既存事業をサービス化し、顧客を“サービス顧客”にすることが必要なのです。
 最新IT技術を駆使した製品やソリューション技術が集結する「JAPAN IT WEEK【春】前期」に続き、2019年5月8日〜10日の期間で「JAPAN IT WEEK【春】後期」が東京ビッグサイトにて開催されました。

 今期のJAPAN IT WEEKは、「ソフトウェア&アプリ開発展」「クラウドコンピューティングEXPO」「ビッグデータ活用展」「モバイル活用展」「データストレージEXPO」「通販ソリューション展」「情報セキュリティEXPO」「店舗ITソリューション展」「Web&デジタルマーケティングEXPO」「AI・業務自動化展」「データセンター展」の11展で構成され、合わせて1180もの企業が出展。また、各業界の最新動向に詳しい識者によるセミナーが多数開催され、課題解決のヒントを得ようとする聴講者で賑わいました。

 今回の記事では5月8日に開催されたセミナー「デジタル変革時代のいま、顧客起点がもたらすビジネスの変化~サービスマーケティング戦略立案から業務定着化~」(講師:八木克全さん/(株)電通デジタル 執行役員 デジタルトランスフォーメーション部門 部門長)より、企業のデジタル変革に必要なポイントについてレポートします。

(株)電通デジタル 執行役員 デジタルトランスフォーメーション部門 部門長の八木克全さん

基盤となる顧客を作り、新しい価値を提供せよ!

 IT技術の進歩により、顧客を取り巻く環境は大きく変化しており、その変化に合わせ企業のマーケティング戦略も変革していくことが求められています。

 講師である八木さんは「どんなに優れたデジタルマーケティングを採用していても、デジタル技術を利用したサービスは模倣が容易です。デジタル分野においては業界の垣根が溶け始めているため、これまでとは違う戦い方が求められています」と切り出しました。

 確かにデジタル上では業種を問わず類似するサービスが多く見られるようになっています。他社との差別化を図るためには、一体どのように戦っていけばいいのでしょうか?

 八木さんは「まず基盤となる顧客を作り、新しいサービスに連れて行くことが重要です。顧客との関係性を強化し、事業推進のコアに置くことが求められていています」と説明し、例として自動車の購入を挙げました。

 自動車を購入する顧客は、そもそも移動手段が必要だから自動車の購入を検討するわけですが、移動手段という観点から見るとバイクの購入や飛行機で移動など自動車の購入以外の選択肢にも目が行ってしまいます。つまり顧客にとって自動車での移動が楽しいものでないと、自動車が欲しいという強烈な欲求にはつながりにくいというわけです。

 しかし、ここで自動車以外の移動手段を提供してしまうと、自社の利益につながりません。そこで、自動車を購入した顧客に移動が楽しくなる他社のサービスを提案・提供できれば、顧客との関係性を強化できる可能性が生まれます。

 「顧客を起点に考えると口で言うのは簡単ですが、実際にやってみると難しいものです。そこでカスタマージャーニーに沿って事業展開し、自社商品と他社をつなぐサービスの提供が必要になります。同時に顧客の流れを追うように業務とITを再設計することも重要です」

従業員満足と顧客満足を高めるには?

収益につなげるためには、既存事業をサービス化し、顧客を“サービス顧客”にすることが必要であると八木さんは強調する

 顧客のカスタマージャーニーに寄り添う形で事業展開を行い、自社の収益につなげるためには、既存事業をサービス化し、顧客を“サービス顧客”にすることが必要であると八木さんは強調します。

 そもそもサービスは提供と受領から成り立つものですから、そこには顧客満足だけでなく従業員満足も求められるはずです。この二つを両立させることはできるのでしょうか?

 「従業員満足と顧客満足を高めるには、ヒューマンリソースマネジメントやオペレーションマネジメント、サービス化の成熟、マーケティングマネジメントなど、さまざまな要素が複雑に絡んできます。事業のサービス化(サービスエコノミー)の浸透により、サービスを通じての顧客体験やデータのやり取りが複雑化しています」と説明した八木さんは、配車アプリを例に挙げました。

 「配車アプリには、ユーザーがドライバーを評価するだけでなく、ドライバーがユーザーを評価できるようになっています。どうすれば顧客は満足できるか、ユーザーと従業員のやり取りがビジネスの根幹に組み込まれているのです」

 このように、一人ひとりの顧客や従業員の声を事業に活かせるようにデータを蓄積し、サービスそのものやプラットフォームを再設計することで事業推進につなげることが重要だと八木さんは話します。

組織業務オペレーションに変革を起こす

最新IT技術を駆使した製品やソリューション技術が集結する「JAPAN IT WEEK【春】後期」。合わせて1180もの企業が出展。最新の製品やサービスに触れようとする業界関係者で会場は熱気に包まれた

 単にサービスやプラットフォームを整備しても、うまく運用できなければ成果を上げることはできません。

 運用を円滑にするためには従業員を増やすことが最も単純な方法ですが、人手不足が課題となっている現在ではそれは難しいことです。また、サービスが増えるということは、仕事における活動対象が増えることです。従業員の増加が見込めない以上、一人あたりの業務が増えることを意味します。

 「現場業務を分析すると課題が山のように出てきます。それらを全部解決することはほぼ不可能です。そこで、やるべき業務とやらなくてもよい業務に分けます。そこからサービス顧客に対する新規活動領域を強化することが必要です。サービス顧客にはITよりも人による対面の方が効果的ですから、新規活動はデジタルで対応できる部分と人が対応できる部分に切り分けるのが良いでしょう」

 目的をきちんと見据えて、やるべきこととやらないことを切り分け、新しい業務を組織に定着させる、これが組織業務オペレーションの変革につながると八木さんは強調しました。

 最後に八木さんは「社会や顧客に何を提供したいか、何を提供できるかを宣言している企業は上手くいっていることが多いです。どんなサービスを新たに提供できるかを考えてみてください」と締めくくりました。

 顧客や企業を取り巻く環境は常に変化し続けています。顧客が何を求めているのか、そして求めているものに対して企業は何ができるのかを常に考え続けなければなりません。デジタル変革の時代だからこそ、ITと人の持つそれぞれの強みをうまく活かしていく必要があると言えそうです。
(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

★関連リンク

★JAPAN IT WEEK【春】 特集

  • なぜあなたの会社のRPAは業務効率に直結しないのか?

    業務効率化の打ち手の一つとして、定型的な業務を代行するRPAが注目されています。しかし、導入したものの、思うように効率化できていないというケースは意外なほど多いのも事実です。RPA導入において失敗しやすいポイントについてレポートします。

  • 星野リゾートが実現させた、ITによる生産性向上と顧客満足の両立

    あらゆる業界で顧客満足度と生産性を両立させることが求められています。その課題解決に期待されているのがITの活用。その先頭ランナーと言えるのがリゾートホテル業界を代表する星野リゾートです。いかにすればITを日常の中で仕組み化できるのでしょうか? その秘訣を紐解きます。

  • 消費者の今を知るために。リアルもデータでとらえる「OMO」に移行せよ!

    ECサイトの著しい成長は、オンラインで収集したデータのマーケティング活用を可能にしました。しかし日本での購買活動は90%以上がリアル店舗で行われており、必ずしもオンラインデータだけで生活者行動をつかめるわけではありません。そこで最近マーケティングで注目されているのが「OMO」です。オンラインとオフラインを一体としてデータで捉える考え方です。

  • それはもうすぐ! 自動運転がかなえる未来の交通

    話題の自動運転。特に実現化が望まれているのがコミュニティの足となるバスの分野です。深刻な運転手不足により、都市部ですら減便が行われています。そんななか自動運転は人手不足時代の交通インフラを改善する鍵を握っています。

  • IoT導入は低コストで効果が見えるものを!

    人に代わってさまざまな仕事をこなすことができる最新のIT技術。本日の記事ではIoT技術を活用した人手不足の解消を提案する2社に注目。最新技術がもたらすさまざまなメリットについてレポートします。

★おすすめ記事

  • 赤字路線からブランドへと成長した「いすみ鉄道」の発想と戦略

    廃線寸前の赤字路線からブランドに変貌した千葉県房総半島を走る「いすみ鉄道」。現在ではさまざまなメディアで取り上げられ、鉄道ファンのみならず多くの人が訪れる強力な観光コンテンツに成長しました。沿線には目的地になるような場所がないため、外部から人が来ることはほとんどありませんでした。そこで発想の転換をしたことが成功を導きました。

  • 成功するダイレクトマーケティングは「デジタル」と「紙」の併用!

    デジタルだけが時代のすべてではありません。古いと思われている紙メディアが今、見直されています。紙とデジタルを組み合わせたPRや広報が効果を上げています。メディアの枠にとらわれない柔軟なダイレクトマーケティングについて、「CCCマーケティング」の成功事例からひもときます。

  • 小売業界のIT導入はネットから実店舗へ〜中国AI企業とローソンの事例から見る店舗ビジネスの今後〜

    インターネットの登場以降、ECサイトが先行してきた「ユーザーの利便性向上」や「導線分析」。しかし、ハードウェアやAI技術の発達により、実店舗でもECサイトで培ってきたノウハウを導入できるようになっています。ネットショッピングに顧客を奪われ続けてきた小売業界ですが、実店舗ならではの利便性の向上が、その魅力の再確認につながりそうです。今回の記事では、10月25日に開催された「Japan IT Week」のセミナーの中から、「実店舗におけるIT活用」をテーマに中国と日本におけるAI技術の導入事例についてレポートします。

  • 次に来るのはバスのシェアリング、目指すは旅行業の民主化

    今、ビジネスを大きく成功させるために必要なのは、パイを奪い合うことではなく、新たなパイを生み出す「新業態」の開発です。では、どうすれば成功する新業態を生み出すことができるのでしょうか? 急速に広がるシェアリングビジネスに登場したのが、貸切バスの手配を手がける「ワンダートランスポートテクノロジーズ株式会社」です。代表取締役の西木戸秀和氏に話を聞きます。

執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
日本の中小企業の皆さんにとってビジネスのヒントになる「ヒト・モノ・カネ・情報」を探し出し、日々オリジナルな視点で記事を取材、編集してお届けします。中小企業の魅力をあますところなく伝えます。

イベントレポート新着記事

  • かゆい所に手が届く! 販促ツールの最新系を使いこなそう

    ビジネスチャンスの拡大に、ノベルティやインセンティブなどの販促用ツールや、マーケティングをサポートするサービスは欠かせません。そんなノベルティグッズやマーケティングツールの見本市「第60回インターナショナル プレミアム・インセンティブショー 秋2019」が開催されました。今回の記事では出展ブースの中からユニークな販促サービスについて紹介します。

    2019年11月5日

    イベントレポート

  • 次の食のキーワードは「食習慣リスク」。小売・外食は顧客データ活用の道を探れ!

    今月施行された「食品ロス削減推進法」。食に対する関心は高まる一方ですが、次に注目されそうなのが、食習慣に起因する代謝リスクなどの「食習慣リスク」です。食生活や生活習慣の変化によって、健康に不安を抱えている現代人は少なくありません。しかし行政や公の団体がアピールしても、消費者との接点が少ないため啓蒙にはつながっていません。逆に言えば、消費者に近い立場である小売や外食産業に新たなビジネス開拓のチャンスが訪れているのです。

    2019年10月31日

    イベントレポート

  • なぜ「designshop」は伝統工芸品を売り続けることができるのか?

    ライフスタイルの多様化によって、消費者は新しくて機能的な製品ばかりでなく、伝統工芸品やデザイン性の高い製品にも注目しています。そんな伝統工芸品やデザイン製品を含め、シンプルで長く使えるアイテムを多数取り扱っている「designshop」のオーナー・森博さんが、20年に渡って得た店舗運営の知見や商品開発について語ってくれました。

    2019年10月7日

    イベントレポート

  • 生まれるべきものが生まれ 広がるべきものが広がり 残るべきものが残る

    国内最大級のクラウドファンディングサービス「Makuake」。これまでに多くの製品やサービスを世の中に生み出してきました。作る側や売り出したい側にとって、Makuakeを活用した製品開発のメリットとは何なのでしょうか?

    2019年10月4日

    イベントレポート

  • 自分の知らないものは売らない〜『パンと日用品の店 わざわざ』急成長の理由〜

    長野県東御市にある『パンと日用品の店 わざわざ』。食と生活をテーマにしたさまざまなものを販売しています。山の上にぽつんと建つこの小さなお店が、実店舗・オンラインストア合わせて、なんと2億円を超える金額を達成しています。ターニングポイントは在庫の持ち方を変えたことでした。

    2019年10月2日

    イベントレポート

  • クラウドファンディングで活性化! 地方発工芸品メーカーの逆転劇

    日本の工芸を語るとき、キープレーヤーとして必ず名前があがるのが「中川政七商店」です。中川政七商店は1716年創業を誇る奈良の老舗企業。日本の工芸をベースにした生活雑貨を企画製造し、全国に50を超える直営店で小売業を展開するほか、地域活性事業や各地の工芸品メーカーに向けたコンサルティング事業も行っています。そのコンサルティングの一環となる販路開拓支援のために開催しているのが合同展示会 「大日本市」です。

    2019年9月26日

    イベントレポート

  • 古民家改修ビジネスはもう古い? これからは古民家を中心に街全体をホテルに変える!

    古民家を改修したカフェやホテルを多く見かけるようになりました。しかし「単に古民家を改修しただけのビジネス」はもう珍しくありません。これからはリフォームの仕方や活用方法が重要になります。では次の時代の古民家ビジネスのポイントはどこにあるのでしょうか? 

    2019年9月17日

    イベントレポート

  • 地域企業を活性化させる「未来の社会課題解決」という新たな視点!

    アスタミューゼ株式会社と、SBIネオファイナンシャルサービシーズ株式会社は、47都道府県ごとの地域企業に対し、各地方銀行と連携し、技術職・研究職といった専門人材の雇用支援を行うことで事業成長を促進し、地域の活性化を図る事業連携についての合同記者発表会を9月5日に行いました。社会課題解決に挑戦する独自の技術や事業をもつ多くの地域企業を見出し、採用を支援することで地方の人材不足に貢献するというのが、今回の大きな意義です。

    2019年9月11日

    イベントレポート