複合型飲食店が急増! “ミクストラン”は店舗事業の救世主となるか?

「カフェ×コインランドリー」「バー×花屋」「カフェ×ジム」・・・流行の背景にある消費者心理とは?

2019年6月17日
このところ、カフェ×コインランドリー、バー×花屋といった複合型の飲食店が目につくようになりました。人気の秘密は「効率的な時間の使い方ができるから」「好きな空間に長時間いられるから」。限られた時間を有効に使おうとする消費者心理がうかがえます。一方、事業者側には「他店舗との差別化を計りたい」という思惑が浮かんできます。

【カフェ×コインランドリー】「フレディ レック・ウォッシュサロン トーキョー」(東京都) 「ただのコインランドリーではなく“ウォッシュサロン”」がテーマ。中ではスタッフTシャツやオリジナルの洗濯かごなどのグッズ販売も。クリーニングや洗濯代行サー ビスのほか、アイロンのかけ方ワークショップやミニライブも開催する など、地域のローカルコミュニティーの場となっている

このところ、カフェ×コインランドリー、バー×花屋といった複合型の飲食店が目につくようになりました。人気の秘密は「効率的な時間の使い方ができるから」「好きな空間に長時間いられるから」。限られた時間を有効に使おうとする消費者心理がうかがえます。一方、事業者側には「他店舗との差別化を計りたい」という思惑が浮かんできます。外食のトレンドを調査・研究する「ホットペッパーグルメ外食総研」ではそんな店舗を“ミクストラン”と呼んでいます。「ミックス」と「レストラン」を合わせた造語です。店舗事業者にとっては見逃せないトレンドについて、ミクストランを命名したホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員の有木真理さんに話を聞きます。

ホットペッパーグルメ外食総研・上席研究員の有木真理さん

様々な業態で複合型飲食店が増えている

――最近、カフェ併設のお店が増えています。こうした飲食店と他業種を組み合わせた複合型店舗を、ホットペッパーグルメ外食総研では“ミクストラン”と呼んでいますね。

カフェと書店という組み合わせは当たり前になりましたが、最近では、コインランドリー、花屋、美容院や理容室、ジムなどと飲食店のミクストランも登場しています。

――ミクストランの原型を探すとすればどんなお店でしょうか?

2003年にオープンした六本木のTSUTAYAの影響が大きかったと思います。最近のような気がするかもしれませんが、16年前のことです。それまではジュンク堂書店が、ゆっくり座って本が読めるという店構えを作っていましたが、「本を探しながら併設カフェでお茶ができる」という発想はTSUTAYA以降だと思います。その頃からミクストランがじわりじわりと広がっていったわけです。

――書店からほかの業態へと広がりをみせ、ミクストランがある種の現象化したのはいつ頃のことですか?

17年頃からだと思います。ホットペッパーグルメ外食総研が市場研究しているなかで「最近こういうお店が増えていない?」と認識し出したのはここ数年のことです。

――このところ増えている形態は?

「カフェ×花屋」ですね。代表的な例としては、首都圏でチェーン展開している青山フラワーマーケットの表参道店がカフェを併設しています。もうひとつ目立っているのが「カフェ×アパレル」です。カフェコムサやMUJIカフェなどをあげることができます。花屋の場合は飲食と本業が融合したものが多いのですが、アパレルの場合は同じスペース内でもふたつが切り離されているように見受けられます。最近、顕著に増えているのは「カフェ×コインランドリー」です。

【バー×花屋】「HANABAR」(東京都) ドライフラワーアーティストが手掛ける、花と食事の融合を目指す店。店内にはドライフラワーが飾られ、食事にも花を取り入れている。視覚でも味覚でも花を楽しめる。エディブルフラワー(食べられる花)を使用したカクテルを用意。ランチタイムにはイエローカレーとタコライスを提供する(数量限定)

ミクストランが支持される背景に消費者の「効率性重視」

ーーミクストランが流行る背景は?

飲食店視点で言うと、別の業態を掛け算することで、他店との差別化をはかることができます。ターゲットを絞りこむことにつながるからです。

飲食店は参入障壁が低い反面、オープンして約3割が1年で廃業する厳しい業界です。特にブランディングが非常に難しい。たとえば居酒屋を考えると、消費者が何をもってそこに特別な色を見いだすかというと曖昧です。しかし他の業態がプラスされると、他店との差が比較的はっきりします。

居酒屋と同様にカフェにもその傾向があります。しかし同じカフェであっても別の業態が加わることで、「花が好きな人」「本が好きな人」「このブランドの服が好きだという人」・・・と特徴が明確になるため、ブランディングがしやすくなるのです。

――ミクストランによって売り上げは向上するのでしょうか?

お客様は結果的に好きなものに囲まれた空間にいることになるので、お店に長期滞在する場合が増えるでしょう。結果、客単価があがる可能性が高い。

コーヒーひとつとってもS・M・Lのサイズがあったら、長い時間を過ごすためLを頼む可能性が高いのではないでしょうか。あるいはおかわりをするお客様がいるかもしれません。ターゲティングされていることが客単価をあげることにつながるのです。もうひとつ大きなプラス要因があります。ミクストランには趣味や嗜好にあった商品があるので、リピーターが生まれやすいという点です。

――ミクストラン利用の理由調査*の2位「飲食することで好きな空間に長時間いられるから」はピンとくるのですが、1位の「効率的な時間の使い方ができるから」は意外でした。(*ホットペッパーグルメ外食総研による)

複合型飲食店“ミクストラン”に関する調査結果(ホットペッパーグルメ外食総研)

ミクストランは主にふたつの傾向に分けることができます。ひとつは嗜好品を楽しむもの。「○○×本屋」「○○×花屋」がこれにあたります。もうひとつは「○○×ランドリー」や「○○×美容室」など、日常に近いライフスタイルものです。利用1位の「効率性」には、消費者心理の現実的な側面が働いていそうです。

――忙しい30~40代女性に支持されているのかもしれません。

例えば美容室はサービスとしてお茶を出す店が多い。忙しくてカフェに行く時間をあきらめて美容室に行く女性にとって、お茶を出されると満足度があがるからなんです。ホットペッパーで私たちは美容室とはおつきあいがありますが、お茶をお出しするよう提案しています。ミクストランはその派生系とも言えますね。

ビジネス的にプラス材料が多いミクストラン

――ビジネスの側面からミクストランのメリットはどこにあるのでしょうか?

差別化、ブランディング、単価アップとリピーター増。これらが一番大きいと思います。

――一方、ふたつの業態を同時運営するという点では、従業員の手配やコスト的な面が懸念されませんか?

お店のサイズと経費を精緻に照会しないと明確には言えませんが、逆にコスト効率があがると思います。小さなカフェが併設されていれば、スタッフが時間をもてあましているときには、お茶を提供する業務にシフトできます。単価と人材の効率性はあがるのではないかと思います。

「カフェ×花屋」の場合、花は毎日買わなくても、花好きのお客様はカフェには頻繁に訪れるようになるし、たまには花を買ってくれる日もあるでしょう。それらはプラスワンの単価アップにつながりますし、店全体としての単価があがっていくことにもなります。

――飲食店を併設するために最低限すべき手続きや制度を教えてください。

食品衛生管理者や防火管理者の許可を取って保健所に登録することが必要です。非常口を設ける、入り口に水場をつくる、屋根の高さなど、お店の構造も関わってきます。ただ飲食店経営は調理師の免許は要りません。最低限の条件をクリアすれば飲食併設のデメリットはさほど大きくはないのではないでしょうか。

ただひとつ気をつけないといけないのが「食材ロス」です。書店、ランドリー、アパレルなどは消費期限が長い商品を扱いますが、飲食店は生もののため足が早い。色々な商品を出すと、ロスのほうが大きくなり、原価率が悪化してしまう場合があります。

ミクストランは今後も増えていく

――成功しているミクストランの事例を教えてください。

京都の老舗化粧品メーカー「よーじや」が京都市内や羽田空港のショップでカフェを併設しています。そこではブランドマークをラテアートにしたカフェラテが人気です。既に認知されているシンボルを使った商品開発で成功しているミクストランの良い例ですね。

――組み合わせがユニークな店も増えていますね。

福岡にブルックリンスタイルのバー併設バーバーがあります。アメリカの禁酒時代、店の入り口はバーバーなのに奥はバーになっている「ブラインドバー」があったそうです。同様のスタイルでミクストランを開いています。

昼間はバーバーで夜はバー。理容店と飲食店で同じ場所を選ぶ客が増えるのではないでしょうか。髪を切るのは月一回ですが、同じ場所であるバーには月2、3回行くでしょう。結果的に同じ店を月3~4回訪れることになります。

スタイル自体の格好よさと本格的なバーという組み合わせ。そういうのが好きな人にはたまらないと思いますね。ターゲットをしぼって他店との差別化をはかり、リピート率をあげることにつながっているはずです。

この店に初めて入るには勇気がいる(笑)かもしれませんが、逆に馬が合えば常連になる可能性が高い。昼間に躊躇した人でも、夜のバーで「髪を切ってあげるからきなよ」という会話から店との距離が縮まることもありそうです。

【バー×理容室】「メリケンバーバーショップ 福岡」(福岡県) 男を磨く場。バーラウンジ併設のカルチャー発信地。月2回のイベントでは100名以上の参加も

――ふたつの業態のどちらかに興味をもってもらえばいい。

ただし併設ということだけでは意味がありません。美容室でコーヒーを出すにしても、無償サービスとしてやっている店もあります。併設カフェでちゃんとお金をいただくということは、それなりの付加価値を出さないといけません。

――ただかけあわせているだけではだめなんですね。このバーバーの場合、「本格」という点でふたつの業態の共通項が明確にあるからリピート率があがる。

ミクストランの経営者はこだわりの強い方が多いように思います。美容師やファッション関係者だけでなく、ランドリーでもランドリー店自体がハイセンスなつくりになっています。
昨年、虎ノ門にカフェ併設の自転車専門店ができました。私もトライアスロンをやっているためお店に行きますが、トライアスリートがバイク(自転車)を見てもらうついでにそこでお茶をしたり、ランチをしたりしている姿をよく目にします。

バイクショップは、訪れる度にバイク関連商品にお金は落とさない(笑)。だから「お茶いっぱいくらい飲んでいくか」となるわけです。今までは商品を見て、オーナーと会話するだけでお金を払わなかった方たちが500円でも使う。この積み重ねは大きいと思います。と言いながら、カフェで情報収拾しているうちに新しい製品も買いたくなるものなんですけどね。

――両者にとっていい循環とも言えます。

カフェにはバイクラック(スポーツ自転車用のスタンド)もあって、座っている席から自分のバイクを常に確認することができます。実はそれはトライアスリートからすると重要なことなんです。バイクは数十万円~100万円を超える商品もありますから。盗難防止のために目視できるところにバイクは置いておきたいんですよ。

ふたつの業態での共通項という意味では、オーナーは客の心理を理解していることが必要です。本にしても花にしてもランドリーにしても、運営者は訪れるカスタマーがどういう心理であるかを考えて飲食店側のつくりをしています。それができれば満足度があがっていくし、だからこそ居心地がよくなるのです。

――ミクストランの流れは今後も続きそうですか?

【カフェ×ジム】「BROS TOKYO」(東京都) カフェとジムが合体したフィットネスラウンジ。運動だけでなく食事面でもサポートしてくれる場。カフェはアスリートフードマイスターが監修したタコライスなどのヘルシーフードが中心で、現在はテイクアウト・デリバリーのみ

どんどん当たり前になっていくでしょう。最近の健康ブームにあわせた「カフェ×ジム」など大きな可能性を感じます。

これからミクストランを始めたいという方も増えてくると思いますが、軽はずみにやって怪我をした例も見てきました。本業の実績が確かで、ある程度ブランディングができている。そこに飲食を通してプラスの付加価値をつけるのがミクストランの基本だと理解することが大切です。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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