星野リゾートが実現させた、ITによる生産性向上と顧客満足の両立

業務改善は最初から上手くはいかない。そこで何をやるべきなのか?/JAPAN IT WEEK

2019年6月5日
あらゆる業界で顧客満足度と生産性を両立させることが求められています。その課題解決に期待されているのがITの活用。その先頭ランナーと言えるのがリゾートホテル業界を代表する星野リゾートです。いかにすればITを日常の中で仕組み化できるのでしょうか? その秘訣を紐解きます。
 最新IT技術を駆使した製品やソリューション技術が集結する「JAPAN IT WEEK【春】前期」に続き、2019年5月8日〜10日の期間で「JAPAN IT WEEK【春】後期」が東京ビッグサイトにて開催されました。

 今期のJAPAN IT WEEKは、「ソフトウェア&アプリ開発展」「クラウドコンピューティングEXPO」「ビッグデータ活用展」「モバイル活用展」「データストレージEXPO」「通販ソリューション展」「情報セキュリティEXPO」「店舗ITソリューション展」「Web&デジタルマーケティングEXPO」「AI・業務自動化展」「データセンター展」の11展で構成され、合わせて1180もの企業が出展。また、各業界の最新動向に詳しい識者によるセミナーが多数開催され、課題解決のヒントを得ようとする聴講者で賑わいました。

 今回の記事では5月8日に開催されたセミナー「ITを活用して顧客満足と生産性の両立を実現する」(講師:久本英司さん/(株)星野リゾート グループ情報システム ユニットディレクター)より、サービス品質を高めるためのIT活用についてレポートします。

(株)星野リゾート グループ情報システム ユニットディレクターの久本英司さん。軽井沢移住をきっかけに星野リゾートに入社。地方の温泉旅館でのひとり情シスから始め、現在では星野リゾート全施設の情報システムを統括している

顧客満足度と生産性を両立させるために

 あらゆる業界で顧客満足度と生産性を両立させることが求められています。その課題解決に期待されているのがITの活用。その先頭ランナーと言えるのがリゾートホテル業界を代表する星野リゾートです。

 今回の講師である久本さんは、軽井沢移住をきっかけに星野リゾートに入社。地方の温泉旅館でのひとり情シスから始め、現在では星野リゾート全施設の情報システムを統括しています。

 久本さんは初めに星野リゾートがどのように生産性を向上させているか、ポイントの一つであるマルチタスクについて説明をしました。

「ホテルや旅館は基本的に分業制であり、ピーク時の客人数に合わせて部門ごとに繁閑があります。時間帯によって手の空いている従業員が発生するため、これでは生産性の向上は望めません。繁閑のピークは部署ごとに順番にやってくるので、1人ですべての業務をこなすことができれば生産性を上げることができます。これがマルチタスクです」

 ちなみに、欧米はセクショナリズムが激しいため、このマルチタスクを真似することができないそうです。そして、このマルチタスクが顧客満足度向上のポイントの一つであると久本さんは話します。

ITが仕組み化するまでやりきる覚悟をもつ

「業務の改善が文化として定着するには時間がかかります。仕組みになるまでは長い痛みに耐え、やりきる覚悟が必要です」(久本さん)

 久本さんによると顧客満足度を上げるためには、ゲストの顧客体験をパフォーマーであるスタッフがどう演出できるかにかかっているそうです。そして顧客満足度と生産性を両立させるには接客時間を最大化すること、そして継続的に魅力あるサービスを作ることが重要であると久本さんは強調します。そして接客時間を上げるためにはマルチタスクが欠かせません。

 しかし、このマルチタスクも最初から上手く運用できたわけではありません。マルチタスクを導入するには、まずどの業務にどれくらい時間がかかっているか把握する必要がありますが、記録を取る煩雑さから現場の猛反発を受けたそうです。そこで久本さんはITを使い、記録を自動化する仕組みを考えます。

 例えばビーコンを使って従業員の動きを追ってみたり、スマートウォッチを身に着けさせてみたりとさまざまな方法を試してみましたが、複雑な動きに向いていない、業務によってはスマートウォッチを外さなくてはならないなどの理由から失敗に終わったと久本さんは説明。結局、モニタリングすべき内容を見直し、シンプルにすることで落ち着いたそうです。

 また、久本さんはマルチタスクだけでなくチェックイン等の手続きをゲストに協働してもらうことも試しました。リゾート系ホテルに宿泊するゲストはチェックアウト時間ギリギリまで滞在するケースが多く、フロントの混雑を避けるため自動チェックイン機を導入したそうです。しかし、機械に慣れていないゲストには扱いづらく、結局スタッフの手間が増えるということで、こちらも失敗に終わりました。

 「業務の改善は最初から上手くいくはずはありません。スタッフもゲストも人間である以上、文化として定着するには時間がかかります。仕組みになるまでは長い痛みに耐え、やりきる覚悟が必要です」と久本さんは話します。

理想と現実のギャップを知る

 また、業務効率化には旅館の女将のような「高度に察する力」が必要だと久本さんは考え、大浴場の巡回タイミングを適正化できないか検討します。大浴場の巡回は定期的に行うよりも、清掃やタオルの補充が必要なタイミングを見計らって行えば効率的です。

 そこで久本さんはセンサーを使い、大浴場への出入り数とドライヤーの使用量をかけ合わせて分析することを提案しました。しかし、この案は失敗に終わります。「効果が出るまでに時間がかかるため、他にやるべきことを先にやるべきという理由で投資が中止になりました。現在の制約と理想の成功モデルにはギャップがあります。やるべきことは熟考し、たとえ簡単に導入できるものでも不要なものはやらない。何をして、何をやめるかを考える必要があります」と久本さんは話しました。

 久本さんは今後の展望として「生産性向上は接客スタッフにかかっています。ホテルの魅力を作るのは現場の人であり、ITはあくまでも魅力をテクノロジーに乗せる役目を果たすものに過ぎません。現場の人とITの活用を今後も積極的に取り組んでいきたいと思います」と締めくくりました。

 生産性向上にはIT導入が欠かせませんが、ITだけでは顧客満足を得ることはできません。スタッフとの接点があって初めて顧客満足度が向上します。現場スタッフの声を取り入れつつ、その声を最大限に活かすためにITを導入するのがサービス品質を最大化するポイントだと言えそうです。

最新IT技術を駆使した製品やソリューション技術が集結する「JAPAN IT WEEK【春】後期」。合わせて1180もの企業が出展。最新の製品やサービスに触れようとする業界関係者で会場は熱気に包まれた

(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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