おもてなし規格認証 2019 最高位「紫認証」取得事業所に聞く 1(後編)~株式会社西村屋 西村屋本館~

世界に通じる「一期一会」を大切にしたおもてなし

2019年5月29日
「おもてなし規格認証」の最高位「紫認証」取得者インタビュー。前編に引き続き、城崎温泉を代表する老舗旅館「西村屋本館」浮田支配人にお話を聞きます。後編では、ダイバーシティ経営や地域創生など日本が抱える喫緊の課題を、いかにして解決したのか? に焦点をあてます。
 「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」に、2019年の第一弾として5事業所が認定されました。紫認証は、認証機関から推薦を受けるとともに、顧客・従業員・地域社会の満足を促進することにつながる取り組みや、さらに、従業員の人材育成・業務効率化・顧客満足の向上につながる独自の取り組みの実施について確認された事業所に対して付与されるものです。

 紫認証にいたった施策や取り組みはどのような内容なのでしょうか? そして生産性向上はどのように実現されたのでしょうか? 表彰を受けた紫認証取得者の皆さんにお話をうかがいます。第1回は「株式会社西村屋 西村屋本館」(兵庫県)を紹介します。

 西村屋本館は兵庫県の城崎温泉で江戸安政年間の創業以来160年続く老舗温泉旅館。歴史を守りながら新しい時代を切り拓く「伝統と革新」を体現してきた西村屋ですが、どのような戦略でグローバル時代に対応しているのでしょうか? 後編では引き続き、西村屋本館支配人の浮田礼子さんにダイバーシティ経営や地域創生などについて話を聞きます。

2019年度「おもてなし規格認証 紫認証」を取得した「西村屋本館」。兵庫県の城崎温泉で江戸安政年間の創業以来160年続く老舗温泉旅館

ビジュアル優先の時代、接客はどうあるべきか?

ーー海外からのお客様の割合はどれほどになるのですか?

西村屋本館では20パーセント、もうひとつの西村屋ホテル招月庵で7パーセントくらいです。本館は欧米比率が高く、2/3が欧米、1/3がアジアからのお客様です。

ーー海外からのお客様が西村屋を選ぶ理由には傾向がありますか?

海外からお越しのお客様は日本的な日本らしいものを体験したいという方が多くいらっしゃり、日本旅館は和食、おもてなし、しつらいなど色々な意味で日本文化が凝縮されている場所として捉えられていると思います。どこの旅館を選ぶかについては、既にご利用のあったご家族、知人からのお薦め、またSNSなどのクチコミを参考になさっている方が多いように見受けられます。実際に西村屋にいらっしゃったお客様のコメントは信用度が高いのだと思います。

ーーグローバル戦略ではどのような施策を打ってきたのですか?

豊岡市大交流課が先頭を切って欧米を中心にプロモーションをしてきました。わたくしどももその戦略に則って展開してきました。逆にアジア系がここ1〜2年、減ってきています。今後はアジアに向けてのプロモーションを考えていきたいですね。基本的には団体客ではなく、富裕層の個人客を獲得する方向です。宿泊料金を崩すことなく、サービスの質を維持したいと考えています。

ーー最近の海外訪日客は「体験型」を好む傾向にありますね。

海外からのお客様は浴衣を着て下駄を履いての町歩きを、新しい経験として喜んで受け入れてくださってます。また、浴衣姿で部屋でお食事をされているのを写真に収めることも好まれます。部屋係がわたくしどものカメラでも撮影して、チェックアウトの際にはプリントしたものをお待ち帰りいただいております。お客様が国に帰られた時、その写真をお友達に見せたられたり、お宅に飾っておられるのを来訪者が目にされることも多いようで、そこから口コミが始まることも結構あるようです。

ーーインスタの時代にはビジュアライズの要素が重要なんですね。

着物や浴衣の着付けはとても喜ばれます。日本人でもご自分では浴衣を着られない方が多い昨今、海外のお客様にはかなり難しいと思います。お客様が外出される度に電話でお呼びがかかって浴衣の着付けにあがります。時々、ご自分流のスタイルで着付けをされる方もいらっしゃいますが、外出されるときに、「ちょっとよろしいですか」とこちらから声がけするようにしています。正式な着方のほうが、お客様も後々恥をかかないでしょうし、正しい着方を教えて欲しいといわれる場合が大半です。嫌な顔をされる方はいらっしゃいませんね。玄関から大浴場にお連れして、そこでおしゃべりしながら着付けをするとすごく喜んでくださいます。

着付けの間にお客様とおしゃべりをしながらいろいろな情報を得るのも、わたくしどもにとっては貴重な時間です。「今日のお客様はどこそこからいらして、うちの前はどこそこに泊まられた」「つい最近まで航空会社のアテンダントをされていた」――そういった情報をスタッフの間で共有し、部屋係や他のスタッフがコミュニケーションを取りやすくするのに役立っています。

様々な場面でダイバーシティを積極的に取り込む

海外からのお客様の増加にともない、ダイバーシティ経営も具体化している。アメリカ人社員のほか、研修生、インターンシップ、技能実習生を受け入れている

ーー西村屋にはアメリカ人の社員もいらっしやいます。ダイバーシティ経営の現場はどのような状況でしょうか。

彼は英語教育などをはじめ、主に海外戦略を担当しています。その他に、研修生、インターンシップ、技能実習生を受け入れていますし、ワーカーとしても外国人を雇用しています。今年4月に改正出入国管理法ができたことを受けた特定技能の方はこれからの対応になります。

技能実習生はいままでは「惣菜業」の区分でしたが、今年の9月頃からは「宿泊業」として受け入れられると聞いています。そうすると採用する枠が広がってきます。日本人の考えだけでやってきたことを、海外の方にスタッフとして加わっていただくことにより、グローバルな視点に立った接客ができると確信しています。

現在、海外からのワーカーは8人です。今後「高度人材」、つまり優秀な外国人の受け入れをするために海外の大学を卒業した外国人を2人雇用しました。リーダー的なポジションで活躍してもらうためです。外国人向けのマニュアルを作ったり、新たな人材を獲得した時に世話をするようになってもらうべく教育中です。

ーーパリにも事務所がありますね。

主に予約についての対応を行っています。時差を考えると日本とパリで、大体1日のうち18〜9時間がカバーできます。この2箇所にアメリカを加えると24時間対応できるようになるので、いまアメリカでの予約受付に向けて計画中です。

お客様にとって電話で外国に予約を入れるのはなかなか勇気がいる作業です。しかしメールだと時間帯によっては時間がかかってしまいます。その間を埋めるものとしてチャットでの対応を行っています。チャットだといただいた予約の問合せの4割くらいが確定します。

ーーグローバル展開も着々と進んでいるようですね。

ゆくゆくは客室部やフロントにも外国人スタッフを配属する予定です。接客の最前線に配属することで海外からのお客様の対応を充実させていきたいですね。

「城崎あっての西村屋」――町全体での繁栄が大前提

町全体の繁栄、共存共栄をモットーとする城崎温泉。「特に西村屋は地域のリーダーとして町を牽引していく役割があると考えています」(浮田さん)

ーー旅館と地域は運命共同体です。

「城崎あっての西村屋」――このことを念頭に町づくりに積極的に携わっています。特に西村屋は地域のリーダーとして町を牽引していく役割があると考えています。城崎全体の宿泊人数は年間約70万人です。西村屋の2館で約9万人ですので、全体の1割以上になります。この地域の一番店としてのリーダーシップをもつことが求められていると肝に命じています。

弊社社長の西村は城崎全体の温泉を管理することにも力を入れています。西村は城崎町湯島財産区議会議員でもありますし、全国レベルでは最近まで全国旅館連盟の青年部長も務めていました。

西村がライフワークとして進めているのは、城崎町内の外周にバイパスを通して町中の車を少なくしようという活動です。城崎温泉をもっとそぞろ歩きのしやすい町にしようという取り組みです。数年前から始めたのですが、ようやく県のレベルでOKがとれました。

ーー「城崎は町全体が宿である」といわれますね。

城崎温泉は共存共栄をモットーとしています。町全体で繁栄していきましょうということです。「駅が城崎温泉の玄関、道路が廊下、それぞれの宿が客室、お土産物屋さんが売店、外湯が大浴場」。電車で到着されたお客様は大きなお荷物を駅前の旅館案内所で預けていただくと各旅館まで手ぶらで向かっていただけますし、お帰りの際にも旅館の方でお荷物を駅まで届けますので、重い荷物に悩まされることなく、お買い物や散策を楽しんでいただけます。

――城崎温泉では外湯めぐりに代表される散策が観光の楽しみのひとつです。

西村屋としてはお客様を囲い込むのではなく、どんどん町なかへ出ていっていただく仕組み作りを始めています。「このお店のこれを食べてみてください」「お土産にこれはいかがですか」「ここにこんな面白いものがありますよ」など、西村屋独自の視点で城崎の食べ歩きや見所を案内しています。

ーー4月にはグループ企業としてレストランができましたね。

囲炉裏を中心に据えたレストランダイニングで「さんぽう西村屋本店」と申します。「地元の農家、漁業者、牧畜業生産者さんたちと思いをひとつにして、料理をつくり、但馬の食文化を発信する」というコンセプトの下、旬の味覚をご用意しております。西村屋両館にご宿泊ではない方々にも気軽に「西村屋」を味わっていただける場所になればと考えています。この施設には有料のラウンジスペースもあり、外湯めぐりや散策の際にも立ち寄っていただけます。

満足以上の「驚き」を提供する

「小さくてもいいからお客様に感動していただく。満足していただくだけではだめなんです。いまの若い世代には『サプライズ』という発想でお客様に接してくれればいいと伝えています」(浮田さん)

ーー来年は2020です。この先の目標を教えてください。

関西では2021年に「ワールドマスターズゲームズ」という中高年齢者のための世界規模の国際総合競技大会が開催されます。そして2025年には「大阪・関西万博」があります。関西では2025までが大きな目標となっているのです。関西には京都・大阪という大観光地がありますので、そのお客様をいかに兵庫県の北の端まで導いてくるのか、というのが目下のわたくしどもの課題です。

ーー「城崎温泉は京都の奥座敷」というキャッチコピーを目にすることがあります。

アクセスについては道路や鉄道の問題も含めていろいろなところとの関係性で解決していくことになります。特に海外のお客様がこのエリアを回りやすくすることを考えています。そのなかで西村屋の文化や歴史、伝統をいかに知っていただくか。素材は揃っているので、あとはそれをいかにわかりやすく広めていけるかにかかっています。

ーー創業から160年です。歴史を感じる瞬間はありますか?

西村屋本館の玄関をはいったところに「湯西谿邨茶屋」という書を掲げています。これは「お湯があってその村の中に西村屋がある」(「邨(むら)」と西村屋の「村」をかけている)という意味です。江戸時代から長く続く旅館ですので、社員以上に西村屋のことをご存知のお客様もいらっしゃいます。4世代(本人、子供、孫、ひ孫)で来られるお客様もいらっしゃるほどです。

先日も金婚式のお祝いでお越しになったご夫婦が、「新婚旅行は西村屋さんだったんだよ」とおっしゃりながら、そのときの領収書のコピーをみせてくださいました。今から50年前、お二人で宿泊代が1万円、ビールが一本2百円でした(笑)。宿代は今とはゼロがひとつ違いますね。そういう会話をさせていただくにつれ、「時を紡ぐ」とはこういうことなのかなと改めて感じました。

ーー社員に日頃伝えていることはありますか?

小さくてもいいからお客様に感動していただく。それが次につながる。満足していただくだけではだめなんです。いまの若い世代は「サプライズ」を実にうまく仕掛けます。

彼ら/彼女らにはそういう発想でお客様に接してくれればいいと伝えています。これは旅館として当然してくれるであろうというということではただの満足でしかありません。お客様が思ってもみないことをタイムリーに提供することで、感動していただけるのだと思います。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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