おもてなし規格認証 2019 最高位「紫認証」取得事業所に聞く 1(前編)~株式会社西村屋 西村屋本館~

2019年5月27日
「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」に、2019年の第一弾として5事業所が認定されました。紫認証にいたった施策や取り組みはどのような内容なのでしょうか? そして生産性向上はどのように実現されたのでしょうか? 表彰を受けた紫認証取得者の皆さんにお話をうかがいます。第1回は「株式会社西村屋 西村屋本館」(兵庫県)を紹介します。
 「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」に、2019年の第一弾として5事業所が認定されました。紫認証は、認証機関から推薦を受けるとともに、顧客・従業員・地域社会の満足を促進することにつながる取り組みや、さらに、従業員の人材育成・業務効率化・顧客満足の向上につながる独自の取り組みの実施について確認された事業所に対して付与されるものです。

 紫認証にいたった施策や取り組みはどのような内容なのでしょうか? そして生産性向上はどのように実現されたのでしょうか? 表彰を受けた紫認証取得者の皆さんにお話をうかがいます。第1回は「株式会社西村屋 西村屋本館」(兵庫県)を紹介します。

 西村屋本館は兵庫県の城崎温泉で江戸安政年間の創業以来160年続く老舗温泉旅館。風情あるその佇まいは日本が世界に誇る伝統的な旅館の象徴といえるでしょう。歴史を守りながら新しい時代を切り拓く「伝統と革新」を体現してきた西村屋ですが、どのような戦略でグローバル時代に対応しているのでしょうか? 今後、日本経済のカギを握る旅館・観光業。その道しるべとなるであろうビジネスモデルについて、西村屋本館支配人の浮田礼子さんに話を聞きます。

2019年度「おもてなし規格認証 紫認証」を取得した「西村屋本館」支配人の浮田礼子さん。西村屋本館は兵庫県の城崎温泉で江戸安政年間の創業以来160年続く老舗温泉旅館

ーーおもてなし規格認証・最高認位の「紫認証」を取得されました。まず率直なご感想をお聞かせください。

びっくりしました。よくとれたなと思います。

ーー西村屋は「日本旅館の最高峰」という、おそらく自他共に認める存在です。それでも外部的評価を得るというのは価値のあることだと感じていたのでしょうか?

おもてなしのレベルはなかなか可視化できないので、外部組織の評価によって社員の接客レベルが向上しますし、さらに上を目指すきっかけになると考えました。

ーー社内の反応は?

皆が喜んでいます。大変士気が上がりました。一方では、サービスレベルを維持しないといけない、いただいた評価以上のサービスをこころがけないといけない、と気持ちが引き締まりました。おもてなし規格認証紫認証取得には、自信と向上心、両方の意味があったように思います。

旅館の最大の問題は人材確保。「ES(従業員満足)=CS(顧客満足)」で解決へ

人材難を克服するために行ったのが労働環境の改善。「お客様にご満足いただく対応をするには、まず社員の労働環境を整備することが重要だと考えるようになりました」(浮田さん)。

ーー西村屋を取り巻く状況に対して「何かを変えなければ」という問題意識はあったのでしょうか。

最大の問題は社員の人材確保です。部屋を空けていればお客様はどんどんきていただけるのですが、対応できる社員の数が足りなくて、部屋を販売できないことがあります。

ーーお客様を断らなくてはいけないのですか?

オンシーズン(繁忙期)には長らくそういう状況が発生していました。部屋数を制限しなければ、社員の休みを確保できない状況がありました。お客様にご満足いただく対応をするには、まず社員の労働環境を整備することが重要だと考えるようになりました。

ーーES(従業員満足)がCS(顧客満足)につながるということですね。

予約をとるまえに社員の公休消化を第一にするようにしました。社員にはしっかりと休んでもらいプライベートを充実させてもらいたい。お客様数や部屋数と客室係の人数の調整など部屋の予約管理や社員の休みの調整はコンピュータと人力できっちりとコントロールしています。オンシーズンにはたくさんのご予約をいただけるので、社員の休みをそこに集中させないように配慮しています。

ーー効果のほどはいかがですか?

大きな成果をあげています。以前はお客様が予想以上にはいってしまって社員の休みを変えたりすることがときどきありましたが、いまはほぼそういうことはありません。コンピュータ画面をみながら予約係が「今日はあと何部屋くらい受けられる」という判断をしています。

ーー社員の休暇が確保できると同時に無駄もどんどんなくなっているのですね。

ある程度の日数で休館日を設けながら、メリハリをつけるようにもしています。

なぜ「部屋食」を続けるのか?

西村屋では部屋食に力を入れている。「一期一会にこだわらないと本当の顧客、本当のおもてなしが守れないと考えています」(浮田さん)

ーー接客という点では、西村屋は部屋食に代表される「一期一会」を大切にしています。紫認証の評価基準である「お客さまの期待を大きく超えるおもてなし」でもその点が高く評価されました。部屋食に力を入れるのはなぜでしょうか?

生産性という意味では議論が分かれるかもしれませんが、部屋食での一期一会にこだわらないと本当の顧客、本当のおもてなしが守れないと西村屋では考えています。この業界は接客が占める割合が高いため、やはりマンパワーが必要なんです。バックヤードでどこまで機械化できるか、省略形ができるか、そこのところをつきつめていきたいですね。

ーーここ数年で客単価が上がっています。付加価値が高いといえます。

いま「お客様はみな一緒に食堂で」という旅館が増えています。部屋食を維持するのはとても大変なのですが、できる限り夕食については続けてまいります。

ーーお客様と部屋係とは、どのようなコミュニケーションをとっているのですか?

わたくしどもでは部屋係を一人につき2部屋を持たせています。お客様をお迎えしてから出発まで同じ係がお世話させていただきます。お世話をさせていただくなかでお客様の好みなどもわかってきますので、「自分の部屋の係」という感じになっていきます。リピートされるときには同じ部屋係をご指名いただくことがほとんどです。

ーーお客様からの声はどのように集めているのですか?

アンケート用紙を各部屋に用意しています。その際に固有名で評価されることが多いですね。「◯◯さんの接客がよくて素敵な滞在をすることができた」「次回もぜひ◯◯さんにお願いしたい」といったお褒めの言葉をいただいています。アンケートはコピーして客室部長から本人に手渡し、チャットを使って社内全体でも共有しています。

ーーAIやITが強調されがちですが、旅館業にとって「36度の体温」が出せるかどうかは決定的な違いかもしれません。

いかにバックヤードでIT化できるかどうか。料理を運ぶシステムを機械化する、器の洗浄を自動的にするなど、そちらの方面でAIやITを活かしていかないといけないと考えています。しかし、お客様に接する部分はやはり人間=マンパワーが担うべきです。

グローバル時代に対応した社員教育

新卒の採用セミナーの際に西村社長が力説するのが、旅館・観光業が今後の日本の期間産業になるだろうということ。「学生さんには響いていると思います」(浮田さん)

ーー社員教育ではどこに力をいれているのですか?

新入社員については入社後2週間、いろいろな分野のオリエンテーションを行っています。基本的に1年間はトレーナーが指導役としてバックアップしています。最初のうちはべったりとトレーナーがつきっきりなのですが、2〜3ヶ月を過ぎれば途中経過を振り返ったり、相談役に回ったりしながら自立へと向かわせます。

ーー「日本ならではのおもてなし」を代表するのが西村屋です。海外のお客様にたいして社員にはどのような教育をしているのですか?

5〜6年前は英語を話せるスタッフも数えるくらいしかいなくて、毎日あたふたしていました。それを解決するべく、新卒採用時に外国語ができるスタッフを徐々に雇いいれるようにしました。他にネイティブの社員もおりますので、彼を中心に英会話のレッスンをしたり、去年からはある出版社とタイアップして西村屋専用の英会話教材を作製してスマホで練習できるようにしました。日々、海外からのお客様と対応することによって生の英語を話さざるを得ないわけですから、実地訓練でもいい勉強になっています。

ーー「和」をどう修養していますか?

例えばお抹茶をお出しするときの身のこなしとして、裏千家の先生にきていただいて教えをうけています。もちろん先輩社員からの継承もあります。

ーー新卒の採用が大変な時代になりました。若い世代に向けて西村屋の魅力をどういう風に発信しているのでしょうか。

いままさに採用活動のまっただなかですが、社長の西村自ら大阪、神戸を訪れてセミナー形式で会社説明会をしています。そこで力説しているのは、旅館・観光業は今後の日本の基幹産業になるだろうということです。目標の数字に到達すれば、旅館・観光業は自動車産業を抜くことになるーーそういう夢のある話をしています。もうひとつはインバウンド。海外からのお客様に日本の文化を発信していく。若い人たちにはその担い手になってほしいと訴えかけています。学生さんには響いていると思います。
(後編に続く)

「おもてなし規格認証」の最高位である「紫認証」。顧客・従業員・地域社会の満足を促進することにつながる取り組みや、さらに、従業員の人材育成・業務効率化・顧客満足の向上につながる独自の取り組みの実施について確認された事業所に対して付与される

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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