TVドラマ「きのう何食べた?」 性的マイノリティともし同僚や友達だったら・・・

美味しそうな食事から透けて見える苦い現実

2019年5月24日
近年、性的マイノリティを主人公にした作品が、世界中で作られるようになってきています。テレビ東京の『きのう何食べた?』もまた男性カップルの日常を描いたドラマです。自分がもしも性的マイノリティの同僚や家族、あるいは友人だったら、どういう距離感で接するべきか? を常に考えさせてくれるのが、本作の魅力です。

ドラマ24『きのう何食べた?』 テレビ東京ほか 毎週金曜 深夜0時12分~ 放送/ ©「きのう何食べた?」製作委員会

 『きのう何食べた?』はテレビ東京の「ドラマ24」枠で放送されている、男性カップルの日常を描いたドラマだ。

 主人公は弁護士の筧史朗ことシロさん(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二ことケンジ(内野聖陽)の二人。食事を通して描かれる二人の物語は実に淡々としており、その穏やかなテイストが多くの視聴者から支持されている。

 原作は週刊モーニング(講談社)で07年から月イチで連載しているよしながふみの同名マンガ。ドラマ化もされた『西洋骨董洋菓子店』(新書館)や『大奥』(白泉社)で知られているよしながは、男性同士の恋愛を扱ったBL(ボーイズラブ)を得意とする漫画家で、今の漫画界になくてはならない存在だ。

 脚本を担当したのは安達奈緒子。昨年、産婦人科の現実をシリアスなタッチで描いた『透明なゆりかご』(NHK)が高く評価された脚本家だ。安達は出世作となった『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)の中でBL的な男の愛憎劇を描き話題となったが、よしなが作品との相性は良く、原作マンガのテイストをうまく実写ドラマに落とし込んでいる。

©「きのう何食べた?」製作委員会

 近年、性的マイノリティを主人公にした作品が、世界中で作られるようになってきている。テレビドラマでは『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)が昨年ヒットし、今クールは、本作も含めて、『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)、『俺のスカート、どこ行った?』の三本のドラマが作られている。

 その意味で『きのう何食べた?』のドラマ化は、時代の要請と言えなくないが、むしろ驚かされるのは、12年前にこの連載をスタートしたよしながの先見性だろう。

 同時に驚くのは、物語のベースにあるのが“食事”だということだ。

 本作はいわゆるグルメドラマで、劇中では、シロさんがスーパーの中村屋で安い食材を厳選し家で調理する過程が、丁寧に描かれている。

 『孤独のグルメ』(テレビ東京系)を筆頭とするグルメドラマは、深夜ドラマでは定番の人気ジャンルだ。そこで繰り出される美味しそうな料理は、深夜という本来食べてはいけない時間帯に放送して食欲を誘うため、SNS上では“飯テロ”と呼ばれ毎回話題となるが、『きのう何食べた?』も毎回、飯テロが炸裂する。

 しかも本作の場合、食材を選ぶ段階から調理過程がじっくりと描かれるため、飯テロ具合が半端ではない。何よりシロさんが作る料理を美味しそうに食べるケンジの姿が実に丁寧に描かれており、食事をしながら、その日にあったことを話したり、料理の感想を語り合える相手がいることは、とても幸福なものだと、改めて思わせてくれる。

 「男性カップル」「主人公が弁護士」といったドラマチックなモチーフは多数あるが、根底にあるのは、あくまでシロさんとケンジの日常だ。だからこそ食事のシーンを丁寧に見せるのだが、日常を精密に描いているからこそ、同性愛者の二人が直面する苦い現実がはっきりと見えてくる。

 例えば、シロさんは職場の同僚にカミングアウトしていない。逆にケンジは、同僚はもちろんのこと、お客さんにも自分が同性愛者であることをさらっと話してしまう。その際にシロが女役だという性生活のことまで喋ってしまい、後でシロに怒られるのだが、その時に店長はお客さんに自分の奥さんや子供の話をするのに、「なんで俺だけ、自分と一緒に住んでる人の話を、誰にもしちゃいけないの?」と言い返されてしまう。

 カミングアウトひとつ取っても、一人ひとり考え方が違うのだ。自分がもしもシロさんたちの同僚や家族、あるいは友人だったら、どういう距離感で接するべきか? と常に考えさせてくれるのが、本作の魅力である。

©「きのう何食べた?」製作委員会

 最後に、隠し味として筆者が面白がっているのが、シロさんが直面する40代未婚男に対する世間の目線だ。

 第1話冒頭で弁護士事務所の事務担当の小山志乃(中村ゆりか)から「なんかイヤ、あの見た目で独身なのは、はっきり言って気持ち悪い」とシロさんは言われる。

 シロさんの料理仲間である富永佳代子(田中美佐子)からも「45歳でその見た目で独身」はヤバイと言われるのだが、本作を見ていると未婚の中年男性が世間からどういうふうに見られているのかが、よくわかる。

 ショックだったのが第2話の、スーパーで知り合った佳代子と意気投合して特売で買ったすいかを分け合おうと佳代子の家に上がったシロさんが強姦魔と誤解される場面と、第6話のシロさんが司法修習生の女性を指導する際に、自分の高感度が上がりすぎて惚れられては困ると動揺し、つい「彼氏いるの?」と聞いてしまったことで、セクハラだと思われてしまうところ。

 どちらも自分が同性愛者であることを過剰に意識するあまり、相手に誤解を与えてしまうというシーンだが、他人事とは思えない冷や汗の出る場面である。

 おじさんの振る舞いが、意図せざるところでセクハラ・パワハラになってしまうことの困難は『おっさんずラブ』でも描かれていたが、未婚の中年男性を描いたドラマという観点から見ても、『きのう何食べた?』は見逃せない作品である。


■ドラマ24『きのう何食べた?』
テレビ東京ほか 毎週金曜 深夜0時12分~ 放送
ひかりTV(オンライン動画配信サービス)にて、第1話から最新話まで配信中
■「きのう何食べた?」展開催
  会期:2019年6月13日(木)~7月7日(日)
  会場:GALLERY X BY PARCO (東京都渋谷区宇田川町13-17)

★成馬零一の連載コラム

  • NHK大河「いだてん~東京オリムピック噺~」 失敗から後続の人々は学び、次の時代へと進む

    オリンピックと日本人の関わりを描いた大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)。戦国時代でも幕末でもなく、明治末から昭和にかけての日本を描く、とても画期的な挑戦です。誰かが最初に始めたからこそ道は生まれる。失敗から後続の人々は学び、次の時代へと進んでいきます。オリンピックを通して脚本の宮藤官九郎が描こうとしているのは、引き継ぎの連鎖なのです。

  • ドラマ『家売るオンナの逆襲』 シンプルな見せ方で同時代的なテーマを描く快作。

    水曜夜10時から放送されている『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)は、不動産会社を舞台に「私に売れない家はありません」と豪語する女性を主人公としたドラマだ。何より面白いのが、毎話のエピソードにとても同時代的なテーマが込められていること。脚本の大石静は恋愛ドラマの名手として知られるが、今回の作風の根底にあるのは、あらゆる人間の生き方を肯定しようとするダイバーシティ(多様性)だ。

  • TVドラマ『ハケン占い師アタル』 現代において「働くことの意味」を燻り出す問題作!

    木曜夜9時から放送されている『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)は、会社が舞台の連続ドラマだ。毎回、一人ひとりの社員の悩む姿が描かれるが、占いの能力を持ち人の心の奥底を見ることができるアタルと出会うことで変化していく。脚本の遊川和彦は『女王の教室』や『家政婦のミタ』などを手がける人気作家。今回、会社を描くことで何を見せてくれるのか?

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

コラム新着記事

  • 富裕層経営者は予防が大事!

    会社経営には最大限の労力を惜しまない経営者でも、自分自身のマネージメントは疎かになっていることがよくあります。金融商品、遺産相続、健康管理・・・。自分で対策をとることに限界がある領域については、外部の専門家に相談してあらかじめ予防することで、大切なものを守るべきです。

    2019年12月2日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する⑤

    地方創生の最重要課題である東京一極集中の是正に関し、政府は達成の目標時期を2024年度に先送りする方向で調整しているといいます。地方はどうすれば東京への人口流出を防ぎ、流入する人を増やすことができるのか。今回は新幹線開業を契機に多くの民間投資を呼び込み、変貌するコンパクトシティ富山市を例に今後、地方に求められるまちの魅力、価値とは何かを考えます。

    2019年11月22日

    コラム

  • こんにちは。クラウドサービス「カイクラ」の江尻です

    株式会社シンカ代表取締役社長の江尻高宏さんによる連載。今回は看板サービスであるクラウドCTIの名称変更という大発表です。使い慣れたサービス名を、江尻さんは今なぜ変えるのでしょうか? その決断に至る心のあやを語ってくれました。

    2019年11月18日

    コラム

  • 特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』 AIは人類にとって敵なのか味方なのか?

    「AIは人類にとって敵なのか味方なのか?」と気になる人に是非オススメしたいのが日曜朝9時から放送されている『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)だ。主人公はAI企業の2代目社長! アンドロイドが社会に普及した世界を舞台に、暴走したアンドロイドを止めるため、仮面ライダーゼロワンに変身して戦う物語だ。

    2019年11月8日

    コラム

  • 株式会社シンカができるまで Vol.6 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。第6回は前回に引き続き人材採用についてです。2人目以降は順調に採用できるはず・・・と思いきや、まったくうまくいかなかった創業初期の人材採用を振り返ります。

    2019年10月28日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑩『マリア・シャラポワ自伝』

    ビジネスでは他人とつながったほうが良い結果が出る──この指針はあらゆるケースで全面適用に近づいているようにみえます。しかし本当にそうなのでしょうか? それでグローバルなサバイバル競争を勝ち残れるのでしょうか? ひとりきりになったときに、普段からどうすればよいのかーー今回おすすめしたいのは、個人の競争戦略の教本として読み応えだっぷりな『マリア・シャラポワ自伝』です。

    2019年10月15日

    コラム

  • 映画『記憶にございません!』ある日突然、自分が総理大臣をやることになったら?

    国民的映画監督の三谷幸喜が今回映画の題材に選んだのは総理大臣。しかも記憶を失った総理大臣! 着想のきっかけは「ごくごく普通の人間が、突然総理大臣になったらどうなる?」だったといいます。主人公を演じる中井貴一の悪戦苦闘は、若い頃の理想を見失ってしまったビジネスパーソンへのメッセージにもなっています。

    2019年9月30日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する④

    地方創生戦略の重点項目の一つ、デジタル活用共生社会「society5.0」。しかし、地方に行けば、情報リテラシーの格差が見られます。スマートフォンやSNSの普及により新たな人とのつながりやバーチャル・コミュニティが形成される一方、リアルな地域のつながりは希薄化、地域コミュニティ力は減退しています。今回は地域SNSを使い、新たな地域のつながり、コミュニティの活性に挑む、若き起業家の挑戦に着目、地域におけるデジタル活用の手法を追いました。

    2019年9月24日

    コラム