株式会社シンカができるまで Vol.1 〜ベンチャーはこうして世に羽ばたく〜

デット(負債)でまかなった立ち上げ初期の資金繰り

2019年5月9日
株式会社シンカ・江尻高宏さんの連載、今回からはシリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。
 こんにちは。クラウドCTI「おもてなし電話」の江尻です。

 2014年に一人で始めた株式会社シンカも、早いもので5年経ちました。シンカのこれまでの成長をインフォグラフィックにまとめてみました。

 また、4月には大型調達を行いました。ここから一気にビジネスを拡大させていきます。まさに第二創業期だと考えています。
 これを一つの区切りとして、これまでを振り返ってみたいと思います。
 会社を起業することとは、ビジネス拡大に立ちはだかる様々な困難な壁とは、その時の苦しみ、そしてそれを乗り越えた方法など、なるべく生々しくお伝えできればと思います。

 これから起業を目指す方、全く起業なんて考えていないけど起業家の人生を少しのぞいてみたい方などに、お役に立てられることがお伝えできれば幸いです。

 今回は「お金」に関してお伝えしたいと思います。

 起業したてのベンチャーはないものだらけです。
 信用もない。メンバーもいない。とりわけないものが「お金」です。
 ビジネスもスタートし始めはほとんど売上も立たない。なけなしの貯金で始めた会社であれば、資本金もすぐに食いつぶしてしまう。
 何とかお金を集めないとビジネスで勝負をかけられない。

 そこで、まずベンチャーを起業して考えることは“お金集め”です。
 お金集めで思いつくのはデット(負債)かエクイティ(株主資本)です。いわゆる、融資をしてもらうか、投資をしてもらうか。
 私の場合、この点に関して勉強不足であったため、当時は銀行融資しか思いつきませんでした。しかも考えがとても甘かった。銀行は金貸し業だと思っていたため、すぐにお金を貸してもらえると思っていました。思いついたのが都銀だったので、すぐに都銀にお金を借りるべく相談したのですが、全く話にならない。検討すらしてくれない状況で、文字通り“門前払い”。自分の考えの甘さを痛烈に感じました。

 もちろん、このままではキャッシュアウトしてしまうため、すぐ周りの経営者を訪ね融資に関して相談しました。共通して言われたことは「売上がほとんどないベンチャーにお金を貸してくれる都銀なんてない。まずは信用金庫にいくべき」
 さすが、中小企業の味方、信金さん。早速オフィスから近くにある信金さんに行くことにしました。都銀の時は正面突破でストレートにお金を貸してくださいと攻めましたが惨敗だったので、今回はしっかりと戦略を練っていくことにしました。信金はお金を貸してくれやすいとはいっても、すべてのベンチャーに気持ち良く貸してくれるわけではない。では、どういうベンチャーならお金を貸してくれるのか? 私が「貸してください」ではなく、信金が「貸したい」と思ってくれることが大事だと考えました。

 そこで出した戦略が、ビジネスへの熱い想い、将来性、地域にどう貢献できるのか、そして“中小企業を救いたい”という信金と同じ志を持っていることを伝えること。私にお金を貸すことで、ビジネスが拡大し、その結果、多くの中小企業が喜んでもらえるのだと熱く語り、共感してもらおうと思いました。
 ベンチャーはないものばかりですが、“ある”ものもあります。
 それは「熱意」「情熱」「志」です。

 これで勝負をしようと思いました。

 しっかりストーリーを練って、いざ信金へ。

 窓口に行き、名刺を渡すと同時に軽く自己紹介、そして「ぜひ融資してほしい!」と伝えました。すかさず、窓口でノートパソコンをひらき、プレゼン資料を用いて、ビジネスに対する熱い想いを熱弁しました。自社サービスもしっかり見てもらおうと、窓口でデモを行いました。かなり熱く語り、このサービスの有効性、将来性を理解してもらうよう全力で臨みました。その結果は・・・。

 窓口の担当の方はちょっと困った顔をして、
「ここは個人担当の窓口で、法人担当は別となります・・・」

 ・・・・・・。

 ちょっと意気込みすぎました。どうやら、個人窓口で一生懸命にプレゼンし、法人融資をしてほしいと頼んでしまったみたいです。でもひとまず、勢いと真剣さは買ってもらえたのではないかと思っています。

 すぐに法人担当の方が来て、別の部屋に通されました。よし、第二ラウンド開始だと思い、しっかり熱意が伝わるようにデモも交え、サービスの説明を熱く語りました。結果は、「なかなか面白い」と評価いただけたのです! もちろん、その日即日融資決定とはいきませんが、前向きに進めていただけるとのこと! とてもうれしくて、その場で飛び上がりそうになりました。それから何度か打合せを行い、念願の融資決定となりました!

 ポイントは担当者さんに気に入ってもらい、サービスに共感してもらうこと。担当者さんが本気で「この会社を支援したい」と思ってもらわないといけません。営業数字のためではなく、本気でこの会社を手伝いたいと思ってもらうこと、そのためには会社のビジョンやサービスのコンセプトに共感してもらわないといけません。

 私が熱く語ったことは、
 ・どういう会社を作りたいのか(理念やビジョン)
 ・なぜこのビジネスをやろうと思ったのか(背景)
 ・このビジネスで何が解決できるのか(課題解決)
 ・このサービスを通じて、日本をどうしたいのか(社会性)
 ・このビジネスがうまくいく勝算(将来性)
 です。

 これらを、熱を込めて語れば、ベンチャーにも融資の可能性がグッと高まると信じていました。

 さて、決まった融資額は300万円。
 こちらの希望額は1,000万円だったのですが、いきなりそんな額の融資は無理だということでした。現実はやはり厳しいですね。会社ができて数カ月の信用も何もないベンチャーに初めての融資をするわけですから、銀行としてもいわば博打です。ビジネスがうまくいく保証もないし、売上もほとんど立っていない状態の会社のため、つぶれるほうが可能性として高いと考えてもおかしくない。そんな中、担当者さんには何とか行内で頑張ってもらい、決まったのが先述の金額です。もちろん、金額はどうあれ、融資決定はとてもうれしいです。会社が社会に認められたような気がしました。

 ただ、300万円なんてすぐに使ってしまう額です。実際、ホームページを作り、チラシを印刷し、営業活動費やらなんやらで、あっという間に使い切ってしまいました。

 このままではビジネスを拡大するための次の手が打てないと思い、すぐに次の融資に動きました。紹介してもらったのが、日本金融政策公庫。すぐに連絡して、融資のお願いのための熱いプレゼンを行いました。さすがに三度目のプレゼンとなるため(信金で2回のプレゼンを実施)、結構スムーズに進み、融資も決まりました。もちろん、このプレゼンでも注意したのが担当者に共感してもらい、自社のファンになってもらうことです。

 融資確定金額は500万円。このお金を元手に、次に動いたのは採用活動です。一人でできることはたかが知れている。社員を増やし、活動範囲を広げたかったためです。うまく採用できたのは良かったのですが、人が増えると固定費も一気に増える。活動費ももちろん増える。結局、この500万円もすぐに使い切ってしまいます。
 当初の融資活動は、本当に勉強になりました。
 信用も何もないベンチャー企業がお金を借りるのはかなり大変だということ。担保も何もない状態であれば、まとまった金額を借りることは困難なこと。とはいえ、会社とビジネスをしっかり語れば、ちゃんと評価して貸してくれる銀行はあること。とにかく、信じた道を熱い想いをもって進めばいい。必ず何かは得られる。そう学べました。

 とはいえ、大きなお金を借りることができなく、数百万という金額はすぐに使ってしまう。常にキャッシュアウトの恐怖と戦うのも精神衛生上よくない。このままデットを続けてもまったくビジネスで勝負できない。今の会社では大きく融資をしてくれる銀行なんてない。このままではいつまでたっても会社が大きくならない。

 そう感じ、資金調達方法を大きく変えることにしました。エクイティファイナンスに舵を切る決断をしたのです。

 このエクイティも波瀾万丈の道のりでした。この続きは次のコラムでお話しさせていただきたいと思います。

 今回も最後までコラムをご覧いただき、誠にありがとうございました。

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執筆者: 江尻高宏 - 株式会社シンカ代表取締役社長
関西大学大学院工学研究科修了後、株式会社日本総合研究所に入社。金融系の情報システム開発に従事し、広範囲の開発プロジェクトに参画、チームリーダやプロジェクトマネジャーを経験。その後、株式会社船井総合研究所に入社。営業、マーケティング、商品戦略を中心に、中小IT企業向けのコンサルティングに注力。特にクラウドビジネス分野に強く年間約20本の講演を担当。2014年1月に株式会社シンカを設立。「おもてなし電話」をはじめ、クラウドサービスを中心にITを世界に広めることに注力している。

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