NHK大河「いだてん~東京オリムピック噺~」 失敗から後続の人々は学び、次の時代へと進む

新しいことに挑戦する若者、彼らを支援するおじさんたちをカッコよく描いた物語

2019年4月26日
オリンピックと日本人の関わりを描いた大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)。戦国時代でも幕末でもなく、明治末から昭和にかけての日本を描く、とても画期的な挑戦です。誰かが最初に始めたからこそ道は生まれる。失敗から後続の人々は学び、次の時代へと進んでいきます。オリンピックを通して脚本の宮藤官九郎が描こうとしているのは、引き継ぎの連鎖なのです。

NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』 [総合]日曜午後8時00分~ [BSプレミアム] 日曜 午後6時00分~

 日曜夜8時から放送されている『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)はオリンピックと日本人の関わりを描いた大河ドラマだ。

 物語は1964年の東京オリンピック開催に沸き立つ昭和からはじまり、明治末へと遡る。東京高師校長の嘉納治五郎(役所広司)は、日本人初のオリンピック出場選手を決めるために奔走していた。加納はストックホルム五輪に出場する選手を決める選考会を開催、マラソンで世界新記録を出した金栗四三(中村勘九郎)と三島財閥の御曹司で“痛快男子”と呼ばれた三島弥彦(生田斗真)が選手に選ばれる。

 脚本はクドカンこと宮藤官九郎。チーフ演出は井上剛、音楽は大友良英、プロデューサーは訓覇圭。2013年に話題となった連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)のチームが再結集した本作は、クドカンドラマとしてはもちろんのこと、日本のテレビドラマとしても過去に例のないスケールの大きな作品となっている。何より、戦国時代でも幕末でもなく、オリンピックを題材に明治末から昭和にかけての日本を大河ドラマで描くこと自体、とても画期的な挑戦だ。 

 だが一方で、宮藤がオリンピックを題材に大河ドラマを書くと知った時は、とても意外だった。

 出世作となった『木更津キャッツアイ』から近作の『監獄のお姫さま』(ともにTBS系)まで、宮藤がドラマで描いてきたのは、歴史に名を残すような偉大な人物ではなく、普通に生きている無名の人々だ。話題となった『あまちゃん』も、主人公のアキ(能年玲奈)がアイドルを目指す物語でありながら、華やかな成功が描いたシンデレラストーリーではなく、苦い挫折を味わった人々の姿を愛おしく描いたものである。

 スタジアムで大勢から喝采を浴びるスポーツ選手や、オリンピック誘致に尽力した政治家や官僚たちの姿は、クドカンドラマとうまく合致せず、どうしてオリンピックなのか? と不思議だった。しかし、放送がはじまると、なるほど、宮藤が描きたいことはこういとだったのかと理解できるようになった。

 ストックホルム五輪に出場した金栗と三島だったが、短距離で参加した三島は予選敗退。金栗はレース中に熱中症で途中退場となる。苦い敗北を味わう二人。だが、それ以上にショックだったのは、金栗が心を通わせたポルトガルの選手・ラザロ(エドワード・ブレダ)がレース中に命を落としたことだ。国を背負う選手たちを精神的に追い込み、時に命すら落としてしまう競技スポーツの負の側面から本作は目を逸らさない。しかし、だからといって単純なスポーツ批判、オリンピック批判にも向かわない。

 コーチの大森兵蔵(竹野内豊)は三島に対して「いっしょに走る選手のことはライバルではなく、タイムという同じ敵に立ち向かう同士と思いたまえ」と言う。

 ラザロの死に心を痛める選手たちが、墓標の前で祈る場面には深い哀しみが満ちていた。だが同時に、同士としての一体感も伝わってくる、国や文化を超えて平和を願うというオリンピックの精神が確かに体現されていた。

 タイムをオリンピックに置き換えれば、金栗にとって、三島も大森も嘉納治五郎も、旅費を捻出してくれた兄の金栗実次(中村獅童)も同じ目的に挑む同士だ。

 『いだてん』は多数の人物が登場する群像劇だが、主演級の俳優が次々と登場するため、全員が主人公のように思えてくる。つまり、全てのキャラクターは、同じ時代を生きる対等な同士と言える。それは宮藤が過去作で描いてきた精神そのものだ。

 第14話から物語は第二章に突入。時代は大正となり、帰国した金栗は、4年後のベルリンオリンピックに出場するために鍛錬に励む。今後は金栗に続くように新しいスポーツに励む者や、女子スポーツの勃興などが描かれる。

 金栗は箱根駅伝の開催に尽力したことでも知られているのだが、まるでタスキを渡すように金栗の意思は後続の若者達へと引き継がれていく。

 一方、美濃部孝蔵(森山未來)は橘屋円喬(松尾スズキ)と出会い落語を教わることで落語家・古今亭志ん生(ビートたけし)へと成長していく。

 円喬を演じた松尾スズキは宮藤の所属する劇団 大人計画の主宰で、宮藤にとって師匠と言える存在だ。

 そして志ん生を演じるビートたけしは、宮藤が芸能の仕事を志すきっかけとなった尊敬する芸人である。二人の師匠が重要な役割を占める志ん生の物語には、宮藤にとって自伝的な側面が強いのだが、それ以上に描きたいのは、師弟関係のような世代間のタスキの受け渡しだろう。

 物事には始まりがあり、誰かが最初にはじめたからこそ道は生まれる。金栗と三島は苦い敗北を味わったが、その失敗から後続の人々は学び、次の時代へと進んでいく。
オリンピックを通して宮藤が描こうとしていることは、そういった引き継ぎの連鎖なのだ。

 職場で部下に何を伝えられるかと悩む中年世代にこそ『いだてん』は見てほしい。新しいことに挑戦する若者を支援するおじさん達がカッコよく描かれたドラマである。

■NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』
[総合]日曜午後8時00分~ [BSプレミアム] 日曜 午後6時00分~

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執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
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