2018年度「日本経営品質賞」中小企業部門受賞社トップスピーチ①〜九州タブチ〜

「ものづくり」「組織体制」「人材育成」すべてを刷新し、危機を成長機会に!

2019年3月8日
顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、1995年に日本生産性本部が創設したのが「日本経営品質賞」です。2018年度の中小企業部門では2社が受賞、2月14日に開催された「顧客価値創造フォーラム」で受賞企業トップによるスピーチが披露されました。鹿児島県で給水装置の製造を行う株式会社九州タブチ代表取締役社長の鶴ヶ野未央さんのスピーチ「人と組織のスパイラルアップを目指す九州タブチの経営革新活動」の模様をレポートします。
 日本経営品質賞とは、顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて顧客の求める価値を創造し続ける組織の表彰を目的として、1995年に日本生産性本部が創設した表彰制度です。情報技術の発展や人口構造などを要因として著しく市場・経営環境が変わりゆく中で、その変化に柔軟に対応し新しい価値を創出し、持続的な競争優位性を築きあげていくことは、現代を生きる経営者にとって喫緊の課題だと言えるのではないでしょうか。日本経営品質賞の受賞企業は、「卓越した経営」のモデルケースとしてこれから求められる経営のあり方に大きな示唆を与えてくれます。

株式会社九州タブチ 代表取締役社長の鶴ヶ野未央さん

 2019年2月14日、東京のイイノホール&カンファレンスセンターにて「顧客価値創造フォーラム Ⅰ~2018年度経営品質年次大会~」(主催:経営品質協議会)が開催されました。『顧客価値経営と生産性改革』を副題として掲げた同イベントでは、「卓越した経営」を実践し成果をおさめたモデルケースとして表彰された「日本経営品質賞」の受賞組織のトップスピーチが行われました。

 今回の記事では「日本経営品質賞 中小企業部門」で受賞した2社から、鹿児島県で給水装置の製造を行う株式会社九州タブチ(以下、九州タブチ)代表取締役社長の鶴ヶ野未央さんのスピーチ「人と組織のスパイラルアップを目指す九州タブチの経営革新活動」の模様をレポートします。

未曽有の危機を前に経営革新を決意

 鹿児島県霧島市にある九州タブチは、給水装置のパイオニア企業である株式会社タブチ(大阪市)の子会社で、1970年に設立されました。TBC(タブチ)グループの生産の大半を担う製造機能会社として、止水栓やサドル分水栓、メーターユニットなど水・水道にまつわる様々な製品のものづくりを手がけています。

 九州タブチはなぜ経営革新に取り組むことになったのでしょうか? 「創業から27、8年の間は作ればつくるほど売れていた」という経営状況に変化が訪れたのは、1997年の消費税率変更がきっかけだった、と鶴ヶ野さんは振り返ります。

 「消費税率変更の影響により急速に住宅着工数が落ち込んだ結果、需要が大幅に凹み、創業以来の経営危機に陥ったのです。当時は大ロットかつ見込みでものづくりを行っており、売れる当てのないデッドストックが工場周辺に散乱しているありさまでした。やむにやまれず1999年に初めて人員整理に踏み切ることになりました。今でも忘れられない、一番苦しい時代でした」

 その様な状況を打開するべく、九州タブチは経営革新に取り組むことを決意します。解決すべき主なテーマは以下の3点でした。1点目は「需要が減れば赤字体質」という課題。市場や顧客の変化に対応するための経営基盤そのものができていないことが顕わになりました。また、事業の目的や目指すべき姿、組織としての統一された価値観が明確になっていなかったために、「お客様を無視したものづくり」が行われていたのです。そして最後が「管理統制型の経営」です。何をやるにも常にトップダウンで、個人と組織が成長するような環境ではなかった、と鶴ヶ野さんは振り返ります。当時の離職率は10%を超えていたのです。

2018年度「日本経営品質賞 中小企業部門」を受賞した株式会社九州タブチ

ものづくりの革新となった「TPI活動」

 九州タブチが最初に着手したのは、同社の根幹をなすものづくりの革新でした。鹿児島にあるトヨタ車体研究所から講師を招き、徹底的に「トヨタ生産方式」を取り入れることに挑戦。次第にそれを独自の活動「TPI活動(Tabuchi Productive Improvement活動)」へと昇華させていきました。

 「変動に対応できるようになるために『しくみ』を改善していくチームと、『動き』を『働き』に変えて製造現場を改善していくチームの2つに分かれて改善を進めていきました。『しくみ』を改善していくチームは、『ジャストインタイムの追求』という観点から、必要なものを必要な時に必要な量だけつくる・運ぶ・買うということを実践しながら問題を顕在化させていき、それを改善していきます。製造現場を改善していくチーム は、工程の整流化を進め「細かく平準化してつくる」ことを推進しました。過去には「大ロットでつくる」ことを1番の正解と言っていた会社が、変種・変量・小ロットのものづくりに対応できるようになっていったのです」

 「見かけの能率」から「実質的な生産性」へと目を向けた取り組みを続けた結果、6年間で生産性は倍近くに向上したそうです。そこで工数が空いた部分で行ったのが「プロダクトイノベーション」(独自の価値で行うこと)でした。2000年以降、 九州タブチは親会社とともに様々な商品を開発。2003年12月からは、業界に先駆けて鉛フリー材料のエコ材料製品化の実現にも成功しています。

「見かけの能率」から「実質的な生産性」へと目を向けた取り組みを続けた結果、6年間で生産性は倍近くに向上した

「事実前提の経営」から 「価値前提の経営」へ

 ものづくりの革新と並行して、九州タブチは経営品質向上活動にも取り組んでいきます。目先の売上高や利益を追求してきたこれまでの「事実前提の経営」から、 企業としての「ありたい姿」をまず明確にして組織的目的のもとに現実を見ていくという「価値前提の経営」への転換を図るべく、経営幹部で議論を重ねていきました。その結果、同社の経営の方向性は次のように定まっていきました。

 「企業としてのあり方を示す『ありたい姿』には、『人の成長なくして企業の成長なし』を到達点に設定した一方、 事業の目標を示す『なりたい姿』には、『お客様への価値創造ナンバーワン企業になりたい』『ものづくりでトップクラスになりたい』『きらりと光る地域貢献ナンバーワンの企業になりたい』という3つのゴールを設定しました」

 経営体制にも変化を加えました。以前はトップダウンの経営でしたが、現在では多くの社員が経営に参画しています。今年1月末の合宿研修には30名を超える社員が参加、翌期の方針目標について活発に議論が行われたそうです。

 経営革新には、そのようにして定めた方針目標を現場に浸透させてゆくことも重要です。現場の社員一人ひとりにはどのように共有を行っているのでしょうか?

 「2003年度より、経営方針や目標を全従業員で確認し、意識・目線・活動をそろえるための『価値観の共有の場』として方針発表会を実施しています。ここで大事にしているのは、PDCAの前にM(Motivation=動機付け)を付けた『MPDCA』という考え方です。トップダウンで『これを達成してください』とただ一方的に伝えるのではなく、『何のための目標なのか?』『その目標を達成した暁にはどうなるのか?』を社員一人ひとりがしっかりと考え、それに対してチャレンジできるようになるための場として機能しています」

「選択と集中」と「独自能力」

 経営品質向上活動への取り組みは、単なる既存プロセスの消極的な改善に留まらず、九州タブチの事業にドラスティックな変化をもたらすことになります。

 「経営革新に取り組んでいく中で、『世の中がどのように変わっていくのか?』を強く意識するようになりました。市場の変化の中で『勝てる土俵』に立つべく、自分たちが持っている事業・技術と、本質的な顧客志向のニーズについて徹底的に考え議論し、『捨てるもの』『磨きをかけるもの』そして『新たに生み出すもの』を定めていきました」

 その「選択と集中」の結果、同社は創業以来、主力事業としてきた給水栓製品から撤退することを決意しました。それまでの売上高の約50%、13億円を占める主力事業でしたが、コモディティ化が進む中で過当なコスト競争を強いられるこの事業は「勝てる土俵」ではないという判断でした。その代わりに、独自能力を活かした新たなアイデア製品へと転換を図り、着実に売上を伸ばしていきました。実に2005年からの10年間で、同社の売上構成は7割近くも変化したそうです。

 また、鋳造技術や表面処理技術など、競争力の源泉となる「独自能力」を磨き上げることにもリソースを集中させていきました。特にこの10数年で1番力を入れてやってきたのが生産技術力だと言います。かつてはアウトソーシングして40日間ほどかかっていた鋳物の金型の製作も、現在では内製となり業界トップクラスである5日間ほどのスピードで実行できるようになりました。

経営品質向上活動への取り組みは、単なる既存プロセスの消極的な改善に留まらず、九州タブチの事業にドラスティックな変化をもたらすことになった

人の成長なくして企業の成長なし

 「ありたい姿」の到達点として設定された「人の成長なくして企業の成長なし」にも表れている通り、同社は人材育成にも多大な力を注いできました。社員一人ひとりがその能力を存分に発揮し活躍することなくしては、競争優位性をもつ事業を営むことはできないからです。

 同社では「考動する人」(考えて動く人)を育成するため、様々な仕組みや制度が用意されています。職場の問題や課題に焦点を当て自らの手で自主的に解決していく改善活動を展開していく「自主研究活動」や、各人の業務・会社内における様々な改善を提案する「創意工夫提案制度」。知恵を出すための知識の引き出しを増やすための「読書感想コンクール」や、他社の優れたところを学び吸収するための「他社工場見学会」などの活動を通して社員は成長し、それが組織力の向上にもつながってゆくのです。

 日本経営品質賞においては「社員満足(ES)」も重要視されていますが、人を大切にする九州タブチでは社員の幸せ・幸福度の追求にも精力的に取り組んでいます。ES向上委員会が中心となり、高齢者継続雇用に関する就業規則の改定や、女性社員の健康診断に子宮頸がん検査の追加などを実現してきました。

 そして、人を育てるということは、経営品質の4大理念の一つである「社会との調和」にもつながっていくことになります。

 「鹿児島高専で経営品質や品質管理について講義をしている社員がいたり、中学生向けに出前授業をやったりもしています。『人財』が成長していく中で、組織の枠を超えて、地域で九州タブチの社員が活躍する機会が増えてきたことは本当に嬉しいことですね」

 未曽有の危機を変革の好機とし、ものづくり革新と経営革新、そしてその中核をなす「人財」の育成に徹底的に取り組み、飛躍的な成長を遂げた九州タブチ。その挑戦と実現の軌跡は、変革の時代を生きる経営者に大きな示唆をもたらしてくれることでしょう。

「『人財』が成長していく中で、組織の枠を超えて、地域で九州タブチの社員が活躍する機会が増えてきたことは本当に嬉しいこと」(鶴ヶ野さん)

(レポーター/HANJO HANJO編集部 藤川貴弘)

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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