ドラマ『家売るオンナの逆襲』 シンプルな見せ方で同時代的なテーマを描く快作。

根底に流れる、あらゆる人間の生き方を肯定しようとするダイバーシティ

2019年3月6日
水曜夜10時から放送されている『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)は、不動産会社を舞台に「私に売れない家はありません」と豪語する女性を主人公としたドラマだ。何より面白いのが、毎話のエピソードにとても同時代的なテーマが込められていること。脚本の大石静は恋愛ドラマの名手として知られるが、今回の作風の根底にあるのは、あらゆる人間の生き方を肯定しようとするダイバーシティ(多様性)だ。

『家売るオンナの逆襲』(©NTV)

 水曜夜10時から放送されている『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ系)は、テーコー不動産を舞台に、「私に売れない家はありません」と、豪語するサンチーこと、三軒家万智(北川景子)を主人公としたドラマだ。

 物語は不動産会社に新居を求めてやってくる顧客に対して、理想の物件を紹介することで、お客さんの中にある悩みを解決してしまうという、アクロバティックな作りとなっている。
 そのため、お客さんの抱える悩みをサンチーたち不動産会社の社員たちが推理していくというミステリードラマ的な面白さもある。
 
 たとえば第1話では、過激な放送でいつも番組が炎上する人気ユーチューバー・にくまる(加藤諒)が客としてやってくる。にくまるは過激な番組を放送し続けたことで仕事に対してストレスを感じているのだが、彼の無意識下の悩みを感じ取った上で、それを解決するための理想の物件を案内するという感じで物語は進んでいく。

 面白いのはその際に、フリーランスの不動産屋の留守堂謙治(松田翔太)がライバルとして登場するところだ。留守堂はにくまるに、彼が幼少期に過ごした祖母の家を思わせる民家を見せて、今の仕事は辞めて、心穏やかな日々を過ごしてみてはどうか? と案内する。にくまるは心を動かされ一度は引退を決意。しかし、サンチーは逆に周囲から家の中が丸見えの「丸見えハウス」を提案し、引退なんてぬるいことを言うな、あなたの心の中にはユーチューバーとして人に見られたいという消し去ることのできない欲求があるはずだと進言する。にくまるはユーチューバーとしての自分の欲望にあらためて気づいて、丸見えハウスを一億円で購入する。

 つまり客の気持ちを読み解くミステリーであると同時に、家の販売をめぐる対決モノにもなっているのだ。
 そして何より面白いのが、毎話のエピソードにとても同時代的なテーマが込められていること。
 第1話ではユーチューバー。第2話ではインターネットカフェにつどう孤独な人々、第3話では、家族にトランスジェンダーであることを隠している父親の話、第4話では昼夜を問わずバリバリ働いてきた昭和世代の父親と、平成生まれのゆとり世代の娘夫婦とのジェネレーションギャップ。第6話では、二組の夫婦の自由恋愛を入り口にした婚外恋愛。第7話では、子どもがいるため時短勤務となっている女性社員と結婚しているが夫婦別姓でバリバリ働いている女性社員の確執など、現代的なテーマが次から次へと登場する。

 元々、本作は2016年にヒットしたドラマ『家売るオンナ』の続編となっている。最初のシリーズでは、テーコー不動産のやる気のない社員たちが、サンチーの容赦ない働き方に感化されることで成長していく姿を中心に描いていたのだが、こういった物語パターンは、日本テレビ系のドラマが得意とする手法だ。

 サンチーのような感情を表に出さない仕事のできる美女というヒロイン造形は、遊川和彦脚本のドラマ『女王の教室』(日本テレビ)で虐待スレスレの教育を子どもたちにおこなう女教師・阿久津真矢(天海祐希)から始まったものだ。
 こういった女性ヒロインを漫画のキャラクターのように極端に戯画化する手法は視聴者に強烈なインパクトを与え、遊川和彦作品では『家政婦のミタ』や『過保護のカホコ』(それぞれ日本テレビ系)といった作品に引き継がれていく。遊川作品以外でも、中園ミホ脚本の『ハケンの品格』(日本テレビ系)に登場するスーパー派遣社員・大前春子(篠原涼子)や森下佳子脚本の『義母と娘のブルース』(TBS系)の元キャリアウーマンの主婦・宮本亜希子(綾瀬はるか)などにも引き継がれており、今やテレビドラマの必勝パターンとして完全に定着している。

 この『家売るオンナ』シリーズも、マシーンのように振る舞うヒロインが周囲を翻弄していくというパターンを踏襲している。同時に、脚本を担当しているのが大石静だということもあって独自の面白さが現れている。
 不倫ドラマブームの先駆けとなった『セカンドバージン』(NHK)や、昨年話題になった『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)をてがけた大石は、恋愛ドラマの名手として知られるが、作風の根底にあるのは、あらゆる人間の生き方を肯定しようとするダイバーシティ(多様性)だ。
 特にこの『家売るオンナの逆襲』には、それが強く現れている。

 キャラクターや演出はシンプルでわかりやすいのだが、トランスジェンダーや世代間における労働意識のズレ、働き方改革による時短労働など、現代日本が抱える問題を物語の題材として盛り込んでいる。
例えば、第2話ではトランスジェンダーについて、サンチーが説明する場面があるのだが、プライムタイムの連続ドラマで社会的なテーマをわかりやすく見せる手腕には、毎回驚かされる。
 シンプルな見せ方で複雑な現実を描き続けたからこそ、本作は幅広い支持を獲得したのだ。
■ドラマ『家売るオンナの逆襲』
日本テレビ系 毎週水曜夜10:00放送
Hulu(オンライン動画配信サービス)にて、第1話から最新話まで配信中!

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執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
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