斜めから見る〜今月の一冊 ⑦『演技と演出のレッスン 魅力的な俳優になるために』

会議も商談も演劇の舞台である

2019年2月25日
「芝居がかっている」「演技が上手い」というと、ビジネスでは0点の評価です。というより、日常コミュニケーションの場でも、大概はだめな方です。しかしなお、「ビジネスも俳優じみていこう! 意識的にそういこう!」というのが今回のすすめです。俳優という生産性のまるでなさげな、ビジネスの対極にいるような人の真似をしてみましょう、という話をします。

 「芝居がかっている」「演技が上手い」というと、ビジネスでは0点の評価です。というより、日常コミュニケーションの場でも、大概はだめな方です。しかしなお、「ビジネスも俳優じみていこう!意識的にそういこう!」というのが今回のすすめです。俳優を生業としている人たちの(ネガティブな方の)イメージは、夜通しお酒を呑みながら、結論の出ないような話を延々ループさせている、たまに掴み合いの喧嘩までしているというものです。そういう生産性のまるでなさげな、ビジネスの対極にいるような人の真似をしてみましょう、という話をします。

 というのも、これから紹介する本書『演技と演出のレッスン』では、こう言っています。

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俳優は失業を前提とした職業です。
うんと下世話に言えば、俳優は声がかかってなんぼです。
ですから、俳優は失業している時間をなるべく短くする必要がある、と僕は思っているのです。
(中略)
この「どんなジャンルの演技でも、最低限は演じられる実力」が、スタニスラフスキーが教えてくれる一般的で基本的な技術だと僕は思っているのです。
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 まったくです。常に失業の水際にある職種の方々のために、失業しないための技術として、どこでもより高いパフォーマンスの出せる技術の紹介として“スタニスラフスキー・システム”を紹介しているのがこの本です。

 ならば、スタニスラフスキーが書いたものを直接読めばいいじゃないか、ということになりますが、それは若干哲学めいていて演劇を本当にやっている人でないと難しい。それこそ、夜通し呑みながら議論することになる。なので、今回は、スタニスラフスキーについて読み解いている本を2冊紹介しています。鴻上尚史ならご存知の方も多いでしょう。テレビにも出てたし。

 ちなみに私は役者ではなく観劇すらしていない。演劇論を読み継いで今ココにいます。スタニスラフスキー・システムも名こそ知れ、中身を知ったのは今回です。なので本稿は、すでに演劇に詳しくて、実践されている方、役者の方は読み飛ばしてください。さて、それ以外のビジネス方面の方へ。

 なかなか、いいことを言います。

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私達は、「動機」と「目的(意図)」をはっきりと理解・区別しなければいけません。この二つは、正反対の言葉です。二つの言葉は、「行為(動き)」の解釈ですが、「動機」は、過去からの見方であり、「目的」は未来からの見方です。
未来こそが、俳優の演技の手がかりなのです。
(中略)
やってみればすぐに分かりますが、「動機」を演じることはできません。
あなたは、「否定的な目的」を演じることはできません。
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 皆さんの周りにも居るでしょう。「気持ちはわかるんだけど、いったい何をしたいのかわからない」という人が。仕事のできない人たちです。取引先でも内部の人間でも相手に表現できるアクションは、目的のあるもの、しかも肯定的な目的をもって行わなければ伝わりません。

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私達の日常では、自分自身、サブ・テキストが明確でないまま、話していることはよくあることでしょう。本当は、自分は何が言いたいのか分からず、言葉をしゃべり続けることは特別、珍しい事ではありません。しかし、台本では、この状態は許されないのです。
人に見せる作品になった時、観客はそれを許さないのです。
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 ビジネスだってそうです。客は、目的も見えない、含意も見えないような商談や会議を長々されるのを許してくれません。「舞台の上では常に相手に伝わるよう、意識的にいけ」ということです。

 さらに言います。

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門番も晩餐会のセリフのない参加者も、ドラマを高いレベルで成立させるためには、絶対に必要なのです。昔から、「役には、セリフの多い少ないという違いはあっても、重い軽いという違いはない」と言われます。これは、セリフの少ない役の人をなぐさめるために言われている言葉ではなく、本当にそういうことなのです。
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 会議・打合せに加わっているけれど、何か発言するわけではない人がでます。立場もあろうし力量差もあるのでそれは仕方がない。しかし、舞台の上に居る以上、あなたにも役割があるのだから、黙々として座っているなら、そうしているべき意義があるのだから、そこを意図的にいけ! それがスタニスラフスキーの教えです。

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悲劇でも喜劇でも、どんなタイプの物語でも、作品にとって価値あるものは「葛藤」です。ですから、あなたは自分の「目的」に対する「障害」を見つけることが絶対に必要になります。
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 つまり、イイ仕事にするとき、その舞台上のすべての人間は、自分の役割を考え抜き、その場における「目的」「障害」またその先にある「葛藤」をもたねばなりません。話を退屈じゃないものにするのはコレです。

 自分の好きなことにしか身を入れない、若い者にも言ってやりましょう。

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僕は、役とは、「自分の人生の可能性のひとつ」だと思っています。つまり、どんな役でも、自分の人生とつながったものだと考える必要があると思っています。
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…自分と切り離して演じようとする人たちの演技は、きわめてパターン化されたものになります。具体的に感じないまま、説明の演技を続けているからです。役を生きるのではなく、解説しているのです。
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 表面的な技術だけで、良い仕事は決してできません。

 この本、また並べて挙げた『英国の演技術』の何より良いところは、俳優修業者のためのものだけあって、具体的なトレーンング法が載っているところです。ビジネスパーソンには新鮮な──でも少し恥ずかしいかもな──トレーニンング法が載っているところです。

 もっとも、多少疑いも生じます。「では、演劇関係者は軒並み、営業マンとして一流なのか」と。いや、そうでもない──しかし、少なくとも、組織の大船に乗って多少気を抜く瞬間があっても大丈夫なサラリーマンと違い、俳優たるもの、舞台上ではいつでも個人営業≒フリーエージェントということです。見習いましょう。
●今月の一冊+α
『演技と演出のレッスン 魅力的な俳優になるために』
鴻上尚史/白水社
『英国の演技術』
三輪えり花/玉川大学出版部

★長沖竜二の連載

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑤『大本営参謀の情報戦記』

    今年は戦争、特に太平洋戦争の際の日本軍(の失敗)についての本が、ビジネスとの絡みでよく読まれました。そのなかでも定番とも言えるポジションを得ているのが、今月の一冊『大本営参謀の情報戦記』です。文庫本の帯では田端信太郎さんも絶賛されています。70年前の戦史をいま、どうビジネスに活かせばいいのでしょうか? 長沖竜二さんが斜めから読み解きます。

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ④『シリコンバレー式頭がよくなる全技術』

    今月の一冊は、シリコンバレーの経営者で、かつてはすごく不健康に太っていたこれまた典型的なアメリカ人で、それを単純で前向きで疑わない方法で克服した、最強の脳をもってスタイルも改善した経営者によるハウツー本です。今どきのアメリカの経営者スタイルがぷんぷん溢れてて、そうなりたい人には、おすすめしたくなる内容です。この一冊を長沖さんが「斜め」から分析します。

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ③ 『自己愛過剰社会』

    現代人の傾向としてあげられるのが「自分のことが大好き、自分を実際以上に素敵にみせる営み、それが成功の近道。しかもそれは気持ちいい」。企業の発するメッセージにも同様の傾向が出てきています。とくにSNSを通じたPR活動において顕著です。さてその流れをどう分析すればよいのでしょうか?

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ② 『戦争にチャンスを与えよ』

    サッカーのフィールド上や土俵上で起こることの行動基準について、一般社会の常識を被せるのがブームとなっています。道徳や精神を世の中で一本化するというのは、“わかりやすく”“便利で”“正しい”とは思いますが、経営という場面でそれが絶対的に正しいアプローチなのかどうかはわかりません。

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ① 『アリ対猪木』

    新参者は負けてはいられません。若いうちに負けが込むと、益々萎えさせられてしまうひどい時代だからです。それで今こそ読んでいただきたいのが、モハメド・アリ、そしてアントニオ猪木についてです。

執筆者: 長沖竜二 - スモールビジネス調査員
『現代用語の基礎知識』編集長、『小さな組織の未来学』編集長などを経て、現在、公共施設業界のコンベンション運営、中小事業者やまちづくりについてのメディア取材・編集などを行っている

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