赤字路線からブランドへと成長した「いすみ鉄道」の発想と戦略

「地域の足を守ろう」「乗って残そう」というスタンスではうまくいかない!/中小企業 新ものづくり・新サービス展

2019年2月12日
廃線寸前の赤字路線からブランドに変貌した千葉県房総半島を走る「いすみ鉄道」。現在ではさまざまなメディアで取り上げられ、鉄道ファンのみならず多くの人が訪れる強力な観光コンテンツに成長しました。沿線には目的地になるような場所がないため、外部から人が来ることはほとんどありませんでした。そこで発想の転換をしたことが成功を導きました。

いすみ鉄道株式会社 前代表取締役社長の鳥塚亮さん。公募によって選ばれ、赤字路線を人気コンテンツに変えた立役者だ

 中小企業がものづくり補助金を活用して開発した新製品・サービス・技術などの成果が集結する「中小企業 新ものづくり・新サービス展」が2018年12月11~13日の期間、東京ビッグサイトで開催されました。

  今回の「中小企業新ものづくり・新サービス展」は、「医療・福祉・生活・サービス・その他」「情報・通信」「繊維・木材・ガラス・土石」「紙・紙加工・印刷」「農林水産・食品・建設・工事」「化学・石油・プラ・ゴム」「鉄鋼・金属製品」「機械器具製造」の8つのゾーンで構成され、総勢733社が出展、来場者は3日間で37000名を超す盛況ぶりでした。

 また中小企業の課題解決に役立つセミナーも多数開催され、事業のヒントを求める聴講者で賑わいました。

 今回の記事では12月12日に開催されたセミナー「いすみ鉄道公募社長の常識にとらわれない発想と経営戦略」(講師:鳥塚亮さん/いすみ鉄道株式会社 前代表取締役社長)より、地域活性化のために企業が行うべき戦略についてレポートします。

赤字路線だったいすみ鉄道が地域にできることは何だったのか?

 いすみ鉄道は千葉県房総半島中部、大原から上総中野を走る鉄道です。国鉄時代から使われていたこの地域の鉄道が廃止寸前となったときに、第3セクター鉄道として引き継がれました。現在はさまざまなメディアで取り上げられ、鉄道ファンのみならず多くの人が訪れるいすみ鉄道ですが、当初は赤字路線だったそうです。いすみ鉄道はどのように復活をとげたのでしょうか?

 「ローカル線は地域の広告塔になります」と話すのは、いすみ鉄道株式会社 前代表取締役社長の鳥塚亮さん。外資系航空会社の旅客運航部長から、いすみ鉄道の公募社長になったという経歴の持ち主です。2018年6月にいすみ鉄道での任期を満了し、現在は地方創生、地域活性をテーマに各地で活躍されています。

 「ローカル線は地域活性に使えますが、『地域の足を守ろう』『乗って残そう』というスタンスではうまくいきません。自分たちでできることを積極的に実行することが必要です。他の地域で鉄道存続について話を聞くと、JRや自治体が何もしてくれないことに不平を言いますが、鉄道を残すために皆さんは何をしているのか聞くと皆さん不思議そうな顔をします。いすみ鉄道では沿線住民の方が自発的に駅の掃除や草刈りをしたり、地元の中高生がいすみ鉄道を使ったイベントを提案しています。ここが存続の分かれ目になります」

 鳥塚さんは社長就任前にいすみ鉄道を訪れ、住民になぜ駅を掃除をするのか理由を尋ねたところ「駅は街の玄関口、掃除するのは当たり前です」という答えが返ってきたそうです。しかし房総半島は他の千葉エリアに比べると過疎地であり、いすみ鉄道に外部から人が来ることはなかったと言います。

 「社長になったら、まずはこの人達に感謝しなくてはならない。言葉でありがとうと伝えるのではなく、実際に喜んでもらう必要がある。そのためには駅にお客様を連れてくれば良いと考えました」

「ムーミン列車」を走らせたいすみ鉄道には女性客が殺到した。「初めに男性をターゲットにするとうまくいかない」(鳥塚さん)

今の人は旅に「非日常体験」を求めている

 そもそも鉄道は目的地に行くための交通手段です。しかしいすみ鉄道の沿線には目的地になるような場所がないため、外部から人が来ることはほとんどありませんでした。そこで鳥塚さんは発想の転換をします。

 「ディズニーランドの汽車、あれは園内を行き来するだけで、どこか目的地に行くようなものではありません。それでもたくさんの人が行列を作り喜んで乗っています。そこには面白そうとか、楽しいという観光鉄道の原点があるからなのです。移動ではなく乗ることそのものを目的にすることで、土地に用がなくても人が来るようになるのではと考えました」

 そこで最初に考えたのは蒸気機関車を導入することだったそうです。しかし蒸気機関車は導入すれば集客には成功するものの、コストがかかりすぎるため、赤字のいすみ鉄道では無理だということが分かったそうです。そこでまた鳥塚さんは発想の転換をし、手持ちの車両で人を呼ぶ方法を考えます。

 「そこで生まれたのが『ムーミン列車』です。これは古い車両にムーミンのシールを貼っただけなのですが、それだけでテレビが取材に来ました。今の人たちは非日常体験を旅行に求める人が多く、この人たちをお客様にすることをと考えたのです」

 ローカル線といえば男性の趣味のイメージが強いですが、初めに男性をターゲットにするとうまくいかないと鳥塚さんは話します。行動力と購買力の高い女性をターゲットにし、かわいい電車と世界観を提供して集客したところ、いすみ鉄道に女性客が殺到。女性向けの雑誌に取り上げられたり、テレビの収録に芸能人が訪れたりと大盛況となります。

 「ただしこういうお客様は観光バスで来るだけで電車には乗らないので、運賃収入を狙うのではなく、お土産等の物販で収入を得るよう工夫しました」

「田舎に落ちているのは石ころではなく、宝石の原石。ただ磨き方が分かっていない地方が多い」(鳥塚さん)

田んぼの真ん中を観光地にする方法

 女性客の次は男性客をターゲットにし、昭和40年製の国鉄型ディーゼルカーを導入した鳥塚さん。国鉄の線路に国鉄の車両が走る昭和の風景としてアピールしたところ、写真を趣味とする男性を中心に多くの人が集まったそうです。

 「一般的に撮り鉄(鉄道に乗らず写真を撮る人)は敬遠されていますが、いすみ鉄道では写真を撮るだけでもいいから来てくださいとアピールしました。今までのやり方でうまくいかないなら、どんどん新しい方法を試すことが必要です」

 このアピールが功を奏し、いすみ鉄道の評判はインターネット上で拡散。その評判を聞きつけたファンによりオート三輪やボンネットバスが集まり、駅の観光地化が進んでいきます。さらにいすみ鉄道の沿線の田んぼの真ん中にも人が集まっているそうです。実はこの場所はいすみ鉄道のポスターを撮影したスポットだったのです。

 「都会の人の心をつかむことができる写真が一枚あれば、田んぼの中でも観光地になります。都会の人から見たら田舎の風景は良いところだと感じるんですね。地方の人は何もないからダメだと思わず、自分の住んでいる土地が良い土地だと思ってください。今あるものをどうやって使うかがカギです。落ちているのは石ころではなく、宝石の原石。ただ残念なことに磨き方が分かっていない地方が多いのです」

 鳥塚さんの新発想はとどまるところを知りません。地元のホテルやレストランと協力して食堂列車を作ったところ、テレビで取り上げられ、ホテルやレストランは予約でいっぱいになっているそうです。いすみ鉄道自体の黒字化よりも、地域に人を呼ぶことを目指した結果の一つといえるでしょう。

 さらに子どもたちに掃除や稲刈りの体験をさせることで、20年30年後の日本の地方を支える仕組みを作っているという鳥塚さん。最後に地方の活性化について「地方の人がローカル線という木になった実(テレビや雑誌)を食べる(恩恵を受ける)ことができる仕組みを作ることが必要です」と締めくくりました。

 廃線寸前の赤字路線から、ブランドへと成長したいすみ鉄道。地方創生や地域活性は、すでにあるものを活用するための新しい発想と、住民との密な連携の掛け合わせによって成功へと近づくといえそうです。

中小企業がものづくり補助金を活用して開発した新製品・サービス・技術などの成果が集結する「中小企業 新ものづくり・新サービス展」。2018年12月11~13日の期間、東京ビッグサイトで開催された

(レポーター/HANJO HANJO編集部 川口裕樹)

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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