TVドラマ『ハケン占い師アタル』 現代において「働くことの意味」を燻り出す問題作!

現代日本の問題が集約されている「会社」をどう描くのか? 脚本・遊川和彦の新境地。

2019年1月31日
木曜夜9時から放送されている『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)は、会社が舞台の連続ドラマだ。毎回、一人ひとりの社員の悩む姿が描かれるが、占いの能力を持ち人の心の奥底を見ることができるアタルと出会うことで変化していく。脚本の遊川和彦は『女王の教室』や『家政婦のミタ』などを手がける人気作家。今回、会社を描くことで何を見せてくれるのか?

『ハケン占い師アタル』は木曜夜9時からの放送。中央がアタルを演じる杉咲花(©︎テレビ朝日)

 木曜夜9時から放送されている『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)は、会社が舞台の連続ドラマだ。
 物語はイベント会社「シンシアイベンツ」の制作Dチームに、アタルこと的場中(杉咲花)が派遣社員として入社してくるところからはじまる。
 Dチームの社員は一癖も二癖もある人ばかり。アタルの教育係で現在妊娠中の神田和実(志田未来)、コネ入社で腫れ物のように扱われている目黒円(間宮祥太朗)、上から目線で喋る上司の上野誠治(小澤征悦)、いつも会社をやめたいと思っている品川一真(志尊淳)、仕事はできるが、いつもギスギスしていて周囲から干渉されるのを嫌う田端友代(野波麻帆)、そんなバラバラの考え方の社員をまとめるのに一苦労している課長の大崎結(板谷由夏)と、出世欲が強くて社長にゴマをすることばかり考えている部長の代々木匠(及川光輝)。
 毎回、一人ひとりの社員の悩む姿が描かれるのだが、実は占いの能力を持ち、人の心の奥底を見ることができるアタルと出会うことで変化していく。
 みどころは、おとなしく振る舞っていたアタルが、正体を知られると態度を変えて、占い師として同僚にダメ出しをするシーン。
 アタルは「質問に3つだけ答えてあげる」と言って心がズタズタになるようなキツイことを言うが、最後に愛情のある言葉を与える。第2話では、空気が読めない無能な男だと思われていた目黒に、散々ダメ出しした後、頭が空っぽだが純粋なところがあんたの良いところだと告げる。
 アタルの言葉をきっかけに、目黒は自分と向き合い成長していく。
 脚本は遊川和彦。『女王の教室』や『家政婦のミタ』、最近では『過保護のカホコ』(それぞれ日本テレビ系)などを手がける人気脚本家だ。近年は脚本だけでなく、映画『恋妻家宮本』の監督も務めており、『ハケン占い師アタル』では初めて連続ドラマの演出を担当している。

これまで学校や家族を通して社会を描いてきた脚本・遊川和彦。本作では会社を描くことで何を見せてくれるのか?(©︎テレビ朝日)

 80年代から活躍する遊川は、時代にマッチしたヒット作を何本も打ち出してきた。2012~13年に手がけた連続テレビ小説『純と愛』(NHK)では遊川本人のメディア露出も増えたため、遊川本人の人間性の面白さも含めて注目されるようになっている。
 作家として注目されるようになったのは『女王の教室』以降だが、当時の遊川の作風はかなり露悪的で、登場人物を絶望のどん底に突き落として、そこからの逆転劇で物語のカタルシスを作っていた。しかし、『過保護のカホコ』などの近作は、方向性が変わってきている。本作も神田や目黒といった若手社員の描き方は痛々しく、当初は見ていてハラハラするのだが、露悪性は薄まっており、もっと前向きで明るい物語を志向している。
 そういった作風の変化と同時に興味深いのは、「会社」というコミュニティを、遊川が描いていることだ。
 『家政婦のミタ』や『過保護のカホコ』で遊川が描こうとしてきたのは夫婦を中心とした家族の物語であり、ホームドラマの姿をしたラブストーリーだったと言えよう。
 対して本作が描いているのは、会社という年齢も性別もバラバラの人々が集う場所である。もちろん個々人の背景には親子や夫婦といった家族の問題があるのだが、何より描こうとしているのは「会社で働くということの意味」ではないかと思う
 80年代末のトレンディドラマブームの頃から、テレビドラマは会社を描き続けてきた。しかしバブルが崩壊して、終身雇用、年功序列という昭和的な企業形態が、正社員と派遣社員が同じ職場で働く雇用形態が多様化する00年代になると、共通認識としての会社を描くことが難しくなっていった。
 それは同時にロールモデルとしての働く女性をテレビドラマで描くことが困難になっていく時代の始まりだった。
 そんな時代に作られた『女王の教室』で遊川が生み出したのは、機械のように振る舞うスーパーヒロインが人々を翻弄する物語だった。遊川が生み出したそのスタイルは、今では『ハケンの品格』や『家売るオンナ』(ともに日本テレビ系)といったドラマにも伝播し、一つのスタイルとして定着しているが、これらの作品やキャラクターは、戯画化している側面が強いため、会社や働く女性をリアルに描いているとは言い難いものがあった。
 対して、近年は池井戸潤の原作小説をドラマ化した『下町ロケット』(TBS系)や野木亜紀子脚本の『獣になれない私たち』(日本テレビ系)など再び会社で働くということの意味を問い直す作品が増えてきている。

占いの能力を持ち、人の心の奥底を見ることができるアタル。社員は彼女と出会うことで変化していく(©︎テレビ朝日)

 これは、ブラック労働や女性差別といった現代日本の問題が集約されているのが、会社だと、改めて多くの人々が気づきはじめたからだろう。
それは本作も同様だ。会社員一人ひとりの悩みを掘り下げていくことで、現代社会で働く人々の抱える困難を燻り出そうとしている。
 おそらく最後に謎に包まれたアタルの物語が明らかになるのだろうが、かつて、学校や家族を通して社会を描いてきた遊川は、会社を描くことで何を見せてくれるのか? 遊川の新境地となることを期待している。
■木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』 
テレビ朝日系 毎週木曜 夜9時~ 放送
テレ朝キャッチアップ(オンライン動画配信サービス)にて、放送終了後に最新話配信中

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執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

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