<シリーズ>歴史的ハコモノで終わらせない! 地域の潜在資源の活かし方②

第2回 埋もれた地域資源、ローカルヒーローの活かし方 

2019年1月7日
ひとつのテーマにしぼって徹底取材する新シリーズ。地域活性化・まちづくりコンサルタントの水津陽子さんが全国各地に足を運び、地域創生の道のりをたどります。第2回では、地域の偉人、ローカルヒーローの活用法を考えます。

かつて木都の名を冠した能代市、その木都能代の偉人が設立した東洋一の木材会社「秋田木材」

 郷土の偉人は時に地域に大きな経済効果をもたらします。坂本龍馬しかり、伊達政宗しかり。NHKの大河ドラマや朝ドラなどで取り上げられれば、その効果は絶大。仙台市が日本を代表する人気観光地になったのも1987年の大河ドラマ「独眼竜政宗」のお陰です。
 ただ、こうして脚光を浴びる偉人は一部、多くは偉大な足跡を残しながら歴史に埋もれ、地域の中ですら忘れられ、埋没しているのが現状です。
 今回はそんな地域の偉人、ローカルヒーローの活用法を考えます。

お札になってもよく知らない? 偉人たちの悲しい現状

 何故、大河や朝ドラ頼みの一過性のブームではなく、地域の偉人を恒久的な観光資源にすることができないのか。要因は主に二つ。一つはブームも一過性なら訴求も一過性。イベントや映像化等に合わせ大規模なPR予算を組んだ時は威勢がいいが、予算が尽きるとそれまでのやる気もどこへやら、後はブームの残り火とともにフェードアウト。

 地域資源の認知度は情報接触度に比例し、情報接触が減れば、認知度は低下し消費・観光意欲も減退します。トップに君臨する勝ち組は常に情報接触、一度でもアクセルを緩めれば、上り詰めた位置から転落することを知っているから。一発屋で終わりたくないなら切れ目なき情報訴求は不可欠なものとなります。

 もう一つはその手法が歴史的ハコモノの域を出ないことです。歴史上の人物は建造物などと違い、死ねば肉体は失われ、実体を持たない存在になります。

 私たちは偉人の名や史実については学校で学び、常識的な知識としては知っています。ただ、そのキャラクターやドラマをどれだけ紐づけして記憶しているかといえば、すぐに思い浮かぶのは戦国武将や新選組、幕末の英雄である坂本龍馬や五条大橋の源義経と弁慶など、一部の人気キャラクターです。

 たとえば、五千円札の図柄に樋口一葉が選ばれた理由は、女性の社会進出の進展や教科書にも登場する知名度の高い文化人とのことですが、日本国民の何パーセントが樋口一葉について語る言葉を持ち、関心を持っているでしょう。

 一葉の肖像画を所蔵する台東区立一葉記念館の2016年度の入館者数は20,095人に留まります。一葉のキャラクター、ストーリーの何に現代人は共感しえるのか。ゆかりの品や史実のパネルを並べているだけではそれを喚起することはできません。

 一方、地域の外では近年、キャラクターを活かしたビジネスが盛んです。歴女ブームを巻き起こしたアクションゲーム「戦国BASARA」に端を発し、刀剣を擬人化したゲームからアニメ、2.5次元に派生、推しメンの刀剣を鑑賞するため全国で博物館や刀工を訪ねる刀剣女子を生み出した「刀剣乱舞」。

 芥川や太宰など、実在の文豪を異能のイケメン・キャラクター化した漫画・アニメ「文豪ストレイドックス」。キャラ設定では各自の能力や人物像もそれぞれの文豪のエピソードや作品にちなんだものが多くみられます。

 興味深いのは主人公に中島敦というややマイナーな作家を据えたところ。人食い虎をおびき寄せる餌というストーリー設定は中島の作品「虎狩」から発想か、主人公の性格は中島の山月記の主人公に似ているとされています。

 ファンなら推しメンゆかりの作品や場所があれば、それを読んでみたい、訪れてみたいと思うは必然。実際、こうした人気作品と地域のコラボは恩恵も大きいところです。

 とこう書くとまた、変な萌えキャラを作り出すイタい勘違いが増えそうで怖いのですが、言いたいことはその偉人の魅力、凄さをどう伝えれば共感が得られるかという点です。

 2018年世田谷区の「世田谷文学館」が開催した企画展「林芙美子 貧乏コンチクショウ-あなたのための人生処方箋-」は話題を呼び、多くの20代女性の来館を得ました。

 林芙美子は明治から昭和に活躍した作家で、貧しかった自らの幼少期など、その人生をユーモアを交え描いた『放浪記』は、困難にも前向きに生きる人の姿が昭和恐慌の中、多くの共感を得てベストセラーになりました。

  林芙美子という作家は現代の若者には馴染みがなく、名前すら知らない人もいます。その中で若い女性を惹きつけたのは、”貧乏”とそれに対峙する”コンチクショウ”という言葉。現代風の若い女性キャラクターを使ったポップなフライヤーも秀逸で、偶然それを目にした筆者は企画の妙に思わず唸りました。

 要はその偉人のどこにスポットライトを当てるか。今の時代に共感を得られるキャラクター、エピソードは何か、その偉人のユニークさがどこかを見出し、伝える。そのためには企画力はもとより、その前提として地域がいかにその凄さ、魅力を理解しているかが問われます。

レアメタル級の偉人も地域は活かせず

かつて東洋一の木都の名を冠した能代市、その天然の秋田杉を使った国登録有形文化財「旧料亭金勇」では、木都能代とその父とされる偉人の功績を紹介する企画展示を行っている(写真提供/一般社団法人秋田県観光連盟)

 本シリーズ第1回で紹介した能代市旧料亭金勇を訪ねた時、館内でとある偉人の企画展示を目にしました。市内にはその偉人の遺品や能代の木材産業の資料を集めた記念館もありますが、全国的にはほぼ無名の人物です。

 2月半ば、雪が舞う平日の午後、お座敷に空きがあり幸運にも人気の「金勇らんち」を頂くことになり、弁当が届くのを待つ間、展示のビデオを見ていた筆者は思わず泣きそうになりました。

 平成が終わろうとする今、世界は混迷し、激変する社会構造や相次ぐジャパンブランドの失墜など、様々な社会不安により先行き不透明感が漂う中、信頼に足るリーダーや指針は見当たりません。

 その偉人の生涯と企業人、経営者としての姿は、今この激動の時代を生きる私たちに勇気と希望を与えてくれるものでした。これだけの逸材であれば、朝ドラや大河の主役にもなりえるものを、地元ですら埋もれ忘れさられているレアメタル級の偉人です。

 しかし、その生涯に感銘を受け、訪れた記念館は11~3月は基本閉館。その凄さを地元で熱弁しても無反応、冷ややかな視線が返ってくるだけでした。
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■「<シリーズ>歴史遺産をハコモノで終わらせない! 地域の潜在資源の活かし方」第3
回は「地域に埋もれたレアメタル級の偉人、今、知るべき井坂直幹、その生涯と経営」をお送りします。
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★シリーズ「歴史的ハコモノで終わらせない! 地域の潜在資源の活かし方」

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執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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