斜めから見る〜今月の二冊 ⑥『チャヴ 弱者を敵視する社会』『男子劣化社会』

構造的な負け続けはあなたのせいじゃない

2019年1月4日
あけましておめでとうございます。2019年が皆様にとって素敵な年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。今年もHANJO HANJOをよろしくお願いいたします。新年最初の記事は長沖竜二さんの書評からです。

負けてるからって卑屈になんな!

 差別というのは、不当だという理由があればこそ腹も立ち抗議もしようと思えるのですが、こちらに落ち度があったり然るべくして負けている場合は、どうにも形無しです。「やられてもしかたないか」と。なんとも言えぬ諦め、無力感。

 いや、そんな卑屈になることはないのです。いま劣勢に追い込まれているその人生ゲームも、もともと出来レースだったかもしれません。負けているからといって差別的な仕打ちに甘んじずに怒るのは恥ずべきことではありません。

 逆に言えば、いま勝ちの側に回っているあなたがた、「現在の状況は競争の結果、私の努力の結果なのだから、誇るも勝手、敗者が社会から軽んじられることはしかたがなかろう」、そう思うのも少し待ってはどうでしょう。理由は同上。

 これに若干でも共感される方は『チャヴ』を読んでみてください。

 いまの自分が位置している社会的、経済的地位は各人の努力の結果なのだから、勝っている側は大いにそれを謳歌してよい、今後の競争ルールも自分で決めてよい、負けている側はそれなりに…、という枠組みが、1980年代のサッチャー政権に始まったことが書いてあります。無論、現代にいたるその風潮です。

 「だから、怒れ」と。本書の言うその結論が個々人にとっての最適戦術なのかはわかりませんが、打ち砕かれている自尊心を再構築する一歩にはなる。

 で、この何だか重苦しい「競争のルールや前提がどうあったにせよ、勝ち負けは結果なのだから、あなたの扱われ方もそれに従うものであるのは当然です」という風潮に光が見えないのは、こういう社会が本当に人を幸せにするかを批評し行動すべき、新聞、テレビ、学者などがまさに、「勝っている側──だからこそ今後もルールを変えたくない側」にどっぷりはまっているからです。

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差別偏見を糾弾してやまない知識人の世界で、下層中流階級階級に対する妄言だけは「尊敬される偏見」として半ば奨励されている。(M.ラーナー)

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より深刻で構造的な勝ち負け問題

 さて、スパイラル的に貧乏に陥っている10%とか20%の人たちのことをここでは措き、もっと深刻な構造的勝ち負けを問題にしましょう。

 そう、総人口の半分をちょっと割るほどの国内最大のマイノリティ=男性群のことです。ちなみに出生時統計でいうと男性は多数派。若者関係やビジネス関係の情報に触れていればお気づきのとおり、こちらでは圧倒的に女性陣が高評価です。「成績でふつうに採用したらみんな女子」「女子のほうが優秀」etc.etc. 今年も私立医大受験合格者問題について、大前提のように語られていました。

 総じて平成の世はこうした基調で進んできたと思われ、また女性>>男性という傾向は止む気配がまるでありません。本当の意味でのイーブンの来る気がしない。社会全般にみると、なお男性が優位な場面も多く、「負けに甘んじる甲斐性もまた男気」という理屈もあるにはありますが、男としては少々ツラい。

 一方、メディアの報じ方をみれば、「日本人は総じてダメ」「中高年は総じてダメ」「サラリーマンは総じてダメ」という論調も声が大きくて、その上に「男」が乗ってしまうともう四重苦。もう、立つものも立ちません。

 そう感じているニッポンの殿方に読んでいただきたいのがこちら、『男子劣化社会』です。

 まず、安心してください! 男子がダメダメなのは、日本だけではありません。合衆国、イギリス・・・、先進国の男子たちは軒並み堕ちてきています。

 そしてもうひとつ、安心してください! 男子はガチンコ勝負、公平なスタートラインからの競争で負けているわけではありませんです。

 しかし、安心するのはそこまで。

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今の幼稚園はかつての小学校の第一学年に近い。女児の脳とは違った発達の仕方をする男児の脳は、今の幼稚園で行われているような集中した本読みは受け入れられない。頭脳がまだ準備のできていない状態で何かを学ぶよう強いられた男児は、無意識のうちにその作業を嫌いになり、早い段階でのそのいやな経験により学ぶことに抵抗と怒りを覚え、たいていは学校嫌いになる。

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 幼稚園の時点でもう、「負け」が組み込まれているのです。人生ゲームの序盤つまり自助でどうにもできない段階で、もう構造的な負けに嵌められている。

 ざっくり言えば、ポルノとゲームにやられ、環境と家族事情の変化に対応ていないのが、敗因の大半。個人の責ではなく、男に生まれたがために。

 そして本書の最終章は、男子を構造的な劣化から守るための様々な方策が掲げられているのですが、どうにも画餅感が強いといえます。どうやら「男子が男子でなければならない新しい役割」を発見しない限り、当の男子も残り半分の方々も、男子の生存戦略を本気で考えないもようです。

 どうしたものか。
●今月の二冊
『チャヴ 弱者を敵視する社会』
オーウェン・ジョーンズ/海と月社
『男子劣化社会』
フィリップ・ジンバルドー/晶文社

★長沖竜二の連載

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑤『大本営参謀の情報戦記』

    今年は戦争、特に太平洋戦争の際の日本軍(の失敗)についての本が、ビジネスとの絡みでよく読まれました。そのなかでも定番とも言えるポジションを得ているのが、今月の一冊『大本営参謀の情報戦記』です。文庫本の帯では田端信太郎さんも絶賛されています。70年前の戦史をいま、どうビジネスに活かせばいいのでしょうか? 長沖竜二さんが斜めから読み解きます。

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ④『シリコンバレー式頭がよくなる全技術』

    今月の一冊は、シリコンバレーの経営者で、かつてはすごく不健康に太っていたこれまた典型的なアメリカ人で、それを単純で前向きで疑わない方法で克服した、最強の脳をもってスタイルも改善した経営者によるハウツー本です。今どきのアメリカの経営者スタイルがぷんぷん溢れてて、そうなりたい人には、おすすめしたくなる内容です。この一冊を長沖さんが「斜め」から分析します。

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ③ 『自己愛過剰社会』

    現代人の傾向としてあげられるのが「自分のことが大好き、自分を実際以上に素敵にみせる営み、それが成功の近道。しかもそれは気持ちいい」。企業の発するメッセージにも同様の傾向が出てきています。とくにSNSを通じたPR活動において顕著です。さてその流れをどう分析すればよいのでしょうか?

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ② 『戦争にチャンスを与えよ』

    サッカーのフィールド上や土俵上で起こることの行動基準について、一般社会の常識を被せるのがブームとなっています。道徳や精神を世の中で一本化するというのは、“わかりやすく”“便利で”“正しい”とは思いますが、経営という場面でそれが絶対的に正しいアプローチなのかどうかはわかりません。

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ① 『アリ対猪木』

    新参者は負けてはいられません。若いうちに負けが込むと、益々萎えさせられてしまうひどい時代だからです。それで今こそ読んでいただきたいのが、モハメド・アリ、そしてアントニオ猪木についてです。

執筆者: 長沖竜二 - スモールビジネス調査員
『現代用語の基礎知識』編集長、『小さな組織の未来学』編集長などを経て、現在、公共施設業界のコンベンション運営、中小事業者やまちづくりについてのメディア取材・編集などを行っている

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