<シリーズ>歴史的ハコモノで終わらせない! 地域の潜在資源の活かし方 ①

第1回 秋田県能代市「旧料亭金勇」編

2018年12月19日
ひとつのテーマにしぼって徹底取材する新シリーズ。地域活性化・まちづくりコンサルタントの水津陽子さんが全国各地に足を運び、地域創生の道のりをたどります。3回にわたってお送りする今シリーズのテーマは「歴史的ハコモノをどう活かすか?」。第1回では秋田県能代市にある「旧料亭金勇」をフィーチャーします。

秋田県北部に位置する能代市の観光交流施設、国の登録有形文化財「能代市旧料亭金勇」。地元の柳町商店街振興組合が指定管理者となって5年。徐々に知名度もアップ、利用者も増加している。1937年築、木造2階建,鉄板葺。敷地面積3355平米、延床面積1142平米(有形文化財、本館994平米)

 地域が有する様々な資源の中で思ったような活用ができていない、不活性の最たるものの一つが地域の歴史遺産、貴重な文化財である建造物や地域ゆかりの偉人などです。
 資源としてのポテンシャルは高いのに、活用法といえば建物内部の公開やパネルの展示などに終始。施設の維持管理に多額の予算をかけながら、入館者数は地を這うような低空飛行を続けている。そうした歴史的ハコモノを全国で見かけます。
 今回は秋田県能代市の資源活用を例に、地域の歴史遺産をどう活かすべきかを考えます。

女性の心をつかみ、目標の3倍の入場者数を獲得

(左)2階大広間の畳敷きの廊下 (右上)冬、雪景色の中庭、雪の多い地域で、庭木は雪囲いされている (右下)旧料亭金勇2階の110畳の大広間

 天然秋田杉の産地として知られる能代市は秋田県北部のまちです。かつては北前船の寄港地として栄え、大正から昭和初期にかけては韓国や台湾など海外にも輸出、”東洋一の木都”の名を冠しました。

 1890年市中心部の柳町で創業した料亭金勇は、随所に天然の秋田杉を使った木都能代を代表する大規模和風建築で、2000年には国登録有形文化財に登録されました。

 その金勇が2008年に廃業となり、建物の保存を望む地域の声などを受け、2009年金勇の4代目当主が市に寄贈。市は当初、これをイベント会場として再生しようと考えていました。しかし、金勇の活用を任された小林建彦さんはそれでは先がないと考えていました。

 現在、旧料亭金勇の施設長を務める小林さんは能代市出身。高校卒業後は東京の大学に進学、卒業後は東京の音楽関連の企業で働いていましたが、2009年父親が他界したことから帰郷を決意、2011年36才の時にUターンしました。

 能代に戻った当初は市の中心市街地活性化室の臨時職員として、活気のない中心商店街の店主のやる気を引き出す仕事を任されました。ただ商店街に行ってみると個性的で魅力的な店が多いことに気づきます。そこでまずインターネットやブログを駆使した情報発信に力を入れました。2013年能代市の観光交流施設「能代市旧料亭金勇」が開館。

 施設長となった小林さんは金勇の魅力を活かした特別な体験をウリにすることを考えます。金勇は格式ある県内屈指の老舗料亭、その建物は能代を代表する歴史的建造物です。1階には天井に長さ5間(9m)の天然杉の丸太を使った42畳の中広間「満月の間」やお座敷、2階には110畳の大広間、各部屋から臨む日本庭園も見事です。

 そんな非日常空間で食事を楽しみ、優雅な時間が過ごせる「金勇らんち」を企画。お座敷を貸し切り、近くの商店街から仕出し弁当を運んでもらい、歴史的建造物の中で調度や庭を眺めながらゆっくり食事が楽しめるというものです。するとこのプランが女性を中心に話題を呼び、旧料亭金勇の名が知られるようになりました。

 初年度の来館者25,531人のうち見学者延人数は7153人、これに対し部屋利用延人数18,260人。仮に施設見学だけだった場合、来館者は3分の1になっていました。

 これにより当初目標だった年間入場者数1万2千人を大きく上回り、初年度2万5千人を突破、次年度も3万人超え。続く年度も安定した入場者数を確保、現在5年目を迎え、今期はメディアからの取材や人気テレビ番組からの問い合わせも殺到しています。

旧料亭金勇の活用、成功要因はどこにある?

(左上)格式ある高級料亭の雰囲気を知る展示 (左下)そんな高級料亭の一室を貸し切り、商店街から取り寄せた仕出し弁当を楽しめる「金勇らんち」 (右)かつて栄華を誇った高級料亭の美麗な建築も見所の一つ

 成功要因の一つ目は言わずもがな、施設長の小林さんの存在です。一度、外に出て能代に戻ってきた小林さんは外の目を通して能代の価値、魅力を再発見しました。音楽というエンタメ業界にいたことで今求められるモノの見せ方やコト化の視座も持っていたでしょう。

 館内では座敷卓に器を配したり、過去3度囲碁の本因坊戦が行われた場所では碁盤上に棋譜を再現するなど、まるでそこに人がいるかのように感じられる展示がされています。

 近年、動物園や水族館では行動展示が人気を呼んでいますが、歴史的ハコモノに終わらない横浜の山手西洋館などの人気施設で取り入れられる手法です。季節によって内容を入れ替えるなど、手間や費用もかかる取り組みですが、人が滅多に来ない受付でただ座って無駄話をしているだけのスタッフを雇うくらいなら、いっそ入館料を無料にして別のことに予算や人員を使った方がよほど活性化するのではないでしょうか。

(左上)かつて東洋一の木都の名を冠した天然秋田杉関連の展示 (左下)「能代春慶塗」の常設展示 (右)囲碁の本因坊戦が三度開催されている

 また、施設の指定管理者である柳町商店街振興組合の存在も大きな要因です。お座敷で食事ができるお昼の「金勇らんち」、夜お酒やきりたんぽ鍋などが頂ける「金勇夜物語」では商店街のお店が協力しています。

 「金勇らんち」は7つの店がそれぞれに趣向をこらした1500~3240円のお弁当を提供、客の好みで注文できるシステムです。お弁当は一つの時もあり、店によっては面倒に感じることもあるのではないかと思いますが、こうした協力も商店街活性化の取り組みで小林さんが信頼関係を築いてきたからできることでしょう。

 館内を案内してくれる「金勇ボランティアガイド」は現在7名、2017年度のガイド利用者数は4500名超えています。館内では能代春慶塗の常設展示のほか、木都能代の父と呼ばれる明治期の実業家「井坂直幹(なおもと)」の企画展や落語会などのイベントも開催。メディアの露出とも相まって話題のスポットとして注目が集まるようになっています。

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★シリーズ「歴史的ハコモノで終わらせない! 地域の潜在資源の活かし方」

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執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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