どこに“期待”をするべきか?

2018年12月12日
コミュニケーションの達人、「おもてなし電話」の江尻高宏さんの連載コラム。今回は具体的な方法論から少し話題を変え、対人関係における心の有り様について考えます。テーマは「相手への期待」です。

 こんにちは。クラウドCTI「おもてなし電話」の江尻です。

 今回はたまたま同じテーマに関する出来事が続いたので、そのことに関してお話ししたいと思います。

 それは「相手への期待が強いプレッシャーになっている」という事象です。

 一つ目は子育てのケースです。
 子供はたくさんミスもしますし失敗もします。
 私も小学校低学年の息子がいますが、とてもやんちゃで日々何かしらやらかしますので、いちいち叱っていたら仕方がないなと思うことがあります。
そんな子供の失敗時に叱るということですが、ある外資系企業の女性役員さんの子供への叱り方がとてもユニークです。
 それは、失敗したことを叱るのではなく、「あなたが将来なりたい大人はどういう人なの?」と子供に聞くというものです。子供もミスをするような大人になりたくないため、「ちゃんとできる大人になりたい」といいます。つまり、将来こうなりたいという約束を自分とするのです。そうすることにより、ミスをしても自分で気づき、次はちゃんとできるようになろうとプラスで考えます。「なんでできないの?」と怒ってしまうと、自分に自信を無くし、出来ない自分を責めてしまうこともあるとのことでした。

 子供がミスをしたときになぜ叱ってしまうのでしょうか?
 それは子供に期待しているからです。こういう人になってほしいという期待をしているため、その期待に応えてくれないとどうしても起こってしまいます。ミスをした時に「どういう大人になりたいの?」と言いたいのですが、先に「なんで間違うの?」と言ってしまいます。どうしても期待を裏切られた、期待値に達していないということが感情的になり、叱るということになってしまいます。これが重なると子供にとって強いプレッシャーになっていくようです。


 二つ目の話は、ある心療内科医の先生から伺った話です。先ほどの、分かってはいるけど期待しているからこそ強いプレッシャーになってしまうという話よりも、残念な方向に一歩進んでしまった話です。
 拒食症になった子供の話なのですが、その原因が両親にあるというものでした。父親は元自衛官であったため、とても厳格な親でした。ミスをしたときも厳しくしつけられ、それが続くことにより、ちゃんとやろうとしているけどミスばかりしてしまう、自分は能力がないのだと、自分に自信を無くし、過度のプレッシャーから拒食症になったしまったというものでした。
 元自衛官の子供なので余計に“ミスをしない子供”であってほしいと願っていたのかもしれません。

 これらはともに子育てに関することでしたが、人を育てるということであればもちろん組織にも当てはまります。
 部下や新人に対して、こうあってほしい、こうなってほしいという期待を持ってしまいます。

 期待って本当にやっかいで、自分の意見や考えを人に押し付けてしまいます。期待が強ければ強いほど強いプレッシャーになってしまいます。“人と過去は変えられない”と分かっていても、人は変えようとしてしまうのです。過去は変えられないから変えようなんてことは一切考えないにもかかわらず。
 その強いプレッシャーが人をつぶしてしまうことすらあるのです。分かっていてもなかなかうまく対処できない。知らず知らずのうちにプレッシャーをかけていることがあります。目つきだったり、無言の態度だったり。相手はそれを鋭く感じ取ってしまい、ストレスを体内に抱え込んでしまうことがあります。

 じゃ、期待をしなければいいのでしょうか?
 これも難しい。期待をせずに全力で相手を教育できるのかというと、少し疑問です。期待をするからこそ育て甲斐があると思っています。将来のビジョンを共有するからこそ、モチベーションが湧くと思っています。

 ここでふと気づいたことがあります。
 期待するのは“今すぐのこと”ではなく、“将来”なのだと。

 相手を期待することは何ら悪いことではありません。むしろ、とてもいいことではないかと。期待してはいけないのは今の行動、特にミスしたときにこうあってほしいということです。期待するのは大きな未来である“将来”です。途中のルートではありません。“将来”という期待に応えてくれるのであれば、どんなルートを通ろうが、少々寄り道しようが、一向にかまわない。そんな気持ちを持てばいいのです。
 ミスをしても失敗しても、「なぜできないんだ」ってプレッシャーをかけるのではなく、将来はこうなってほしいという大きな期待の下、自由を与えた応援者であればいいのです。将来さえ共有できていればなにも問題ありません。

 私にも最近こんなことがありました。
 小学生の息子の学校行事で演劇をするということで、鑑賞に行きました。ストーリーはある国の国王の誕生日に街中でお祝いをするというもので、登場人物は王様や大臣、王様にプレゼントを渡すケーキ屋や音楽隊など様々な役割がありました。そんな中、息子は「家来」の一人でした。け、家来!?と思いましたが、抽選か何かで負けて仕方なく家来なのかと思っていたら、自ら家来を志望したとのこと。とても驚きました。私がすぐに感じたことは、主人公の王様とか、もっと目立つような役割を希望してほしいということでした。これは私の息子はこうあってほしいとの私の期待を裏切られた気持ちがあったためです。少し前の私だったら、「演劇は主役を取るからこそ目立つし、一番になれる。そこを目指さないとだめだ」とプレッシャーをかけていたことでしょう。今の私は、目の前の行為を期待しているのではなく、息子の将来を期待しています。将来まではある程度自由でいいかと思えるようなりました。なりたい将来さえしっかりと見えているのであれば、今演劇で王様をやることと家来をやることはそう変わりません。むしろ、どちらをやろうがいい経験になっているはずです。期待値を将来に持っていくことで、私もこう思えるようになりました。

 一つ一つの細かいことまで自分の思い通りの結果や行動をとってもらおうと期待してもしかたありません。それはプレッシャーとなり、相手の重荷になります。
 それより、未来を共有し、共有した未来に対して期待することが望ましいのでしょう。将来を期待したら、あとはドシンと構え、細かいことはもう任せてしまうのです。

 期待するのは、日々の細かい行動や結果ではありません。
 将来です。

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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執筆者: 江尻高宏 - 株式会社シンカ代表取締役社長
関西大学大学院工学研究科修了後、株式会社日本総合研究所に入社。金融系の情報システム開発に従事し、広範囲の開発プロジェクトに参画、チームリーダやプロジェクトマネジャーを経験。その後、株式会社船井総合研究所に入社。営業、マーケティング、商品戦略を中心に、中小IT企業向けのコンサルティングに注力。特にクラウドビジネス分野に強く年間約20本の講演を担当。2014年1月に株式会社シンカを設立。「おもてなし電話」をはじめ、クラウドサービスを中心にITを世界に広めることに注力している。

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