地域資源をマネタイズし雇用を生む、せとうちのローカルベンチャー 〜尾道/ディスカバーリンクせとうち編〜 

どうマネタイズするか? そのビジネスモデルを考えることが地域創生の重要な視点

2018年12月4日
全国各地で行われている地域資源を活用した特産品や観光開発。多くは「作る」ことがゴールになり、それをどう「売るか」にまで力が及んでいません。しかし地域資源活用とは、どうマネタイズするか、そのビジネスモデルを考えることに尽きます。今回は独自の視点で地域資源を収益事業化する、せとうちのローカルベンチャーにフォーカス、そのビジネスモデル構築の視座と手法に迫ります。

県所有の旧海運倉庫の上屋をリノベして整備された「ONOMICHI U2」外観

「ONOMICHI U2」の中にある客室の壁に自転車をハンギングできる宿泊施設。尾道デニムをイメージする青を基調とした落ち着ける空間デザイン

 全国各地で行われている地域資源を活用した特産品や観光開発。多くは「作る」ことがゴールになり、それをどう「売るか」にまで力が及んでいません。こうした地域でよく耳にする言葉が「宣伝下手」。つまり良いものはあるけど、売るのは下手だという論理です。

 しかし、地域資源活用とは地域特産の野菜を使い加工品を作ることではなく、それをどうマネタイズするか、そのビジネスモデルを考えることに尽きます。今回は独自の視点で地域資源を収益事業化する、せとうちのローカルベンチャーにフォーカス、そのビジネスモデル構築の視座と手法に迫ります。
 2012年に設立されたディスカバーリンクせとうちは、「尾道デニムプロジェクト」や「ONOMICHI U2」などの取り組みで注目を集める広島発のローカルベンチャーです。社名には地域の魅力とは何かを発見(discovery)、それらを繋ぐ(link)ことにより、地域を活性化したいという思いが込められています。

 設立メンバーは地元で繊維業や重工業などの家業に携わる人やそこで働く人など、それぞれが「これから先、自分たちは地元でどう仕事をしていくか」、「子どもたちの世代にはどの様な将来が待っているか」など、同じ危機感を共有した人たちです。

 危機感の一方で、自分たちが有す瀬戸内、尾道など優れた資源に着目。それをどう活かし、地域に新たな事業を立ち上げ、雇用を生むか。また利益と共に、地域の宝である美しい風景や歴史文化など、この土地ならでは魅力を大切にして地域の未来を創っていくか。経営の根幹には常にこの2つの視座があります。

尾道デニム、ONOMICHI U2に学ぶ、地域資源活用の視点

尾道本通り商店街の中にある尾道デニムプロジェクトのショップ「ONOMICHI DENIM SHOP」( photo Tetsuya Ito / by courtesy of DISCOVERLINK Setouchi)

 同社が最初に取り組んだのは広島県東部の備後地方で作られるデニムと、尾道のまちの魅力を発信することを目的とした「尾道デニムプロジェクト」。最大の特徴は一本一本のデニムに個性とストーリーを付与したことにあります。

 プロジェクトは国産デニム業界で著名な福山市出身のデザイナー、林芳亨氏のブランドRESOLUTEとの共同企画。製品はメイド・イン・ジャパンにこだわり、織布から染め、縫製、仕上げまで全生産工程を備後地区を中心とする熟練のデニム職人たちの手によって行います。

 地域とこうした著名なクリエイターなどとのコラボは決して珍しくありません。何とかシェフ監修の〇〇などと謳う店や商品はそこら中にあふれています。中には優れたコラボも存在しますが、見るからに名前頼み、丸投げに近い安易な開発も散見されます。

 尾道デニムで特筆すべきはそこにユーズドデニムという視点を取り入れたことにあります。国内有数のデザイナーが手掛けるこだわりのデニムというだけでも通常、十分すぎる付加価値がありますが、そこに敢えてユーズドテイストを与える。

 しかもそのユーズドテイストを尾道に暮らし、働く人々に一年間穿き込んでもらうことでつけ、同じものは一つとしてない個性を有するデニムにするという発想。それぞれのデニムには実際に穿いた漁師や大工、農家などの職業がタグ付けされており、一本一本に物語があり、それを手にする人との間に一期一会の出会いを生みます。

 2016年世界の繊維需要量は1990年比の約2.3倍に増加。一人当たり需要量も約1.6倍に拡大していますが、国内では繊維事業所数、製造品出荷額とも1991年比の約4分の一に減少しています。(出典: 2018年6月「繊維産業の課題と経済産業省の取組」)

 市場動向分析を行うエヌピーディー・ジャパンによれば、国内のジーンズの市場規模は1018億円。市場は低価格化が浸透しており、購入金額でみると約8割が1万円未満ですが、尾道デニムは1本2~4万円という高価格帯で売られています。

 尾道デニムのショップはJR尾道駅から約1.3km、徒歩で約17分のところにある尾道本通り商店街の中にあります。その佇まいはスタイリッシュで、店内を覗くとまるで宝石や絵画を飾るように、一本一本のデニムは大きなテーブルの上に広げて置かれています。

 デニムはネットショップでも購入できますが、ユーズドデニムはONOMICHI DENIM SHOPでの対面販売のみ。世界に二つとない個性、物語を持つデニムを生んだ尾道は憧憬の的となり、いつか訪れてみたいという思いを抱かせるでしょう。

 ブランディングで目指すべきゴールとはどこか。それを見据えていなければ、決して到達することのない高みです。

テナントに頼らず、全て直営「ONOMICHI U2」

尾道水道に面した「ONOMICHI U2」の(左)ボードウォーク、(右上)オープンテラス席 (右中)ここでは瀬戸内のロースター豆を使った珈琲、瀬戸内産レモンを使ったオリジナルジュースなどを楽しめる (右下)施設の中にある「Yard Café」から見たテラス席

 2014年尾道市に国内初となるサイクリストに向けた複合施設「ONOMICHI U2」がオープンしました。旧海運倉庫を活用した施設で敷地面積約2000平米。自転車を客室に持ち込める宿泊施設や、自転車に乗ったまま利用できる”サイクルスルー”カウンターを擁するカフェなど、6つのセクションからなる施設。目を惹くのは施設だけでなく、その商品やサービスのクオリティです。

 こうした複合施設の場合、成否を握るのがテナントリーシングです。いかに良いテナントに出店してもらうか、それが施設の魅力や集客力を決定づけます。

 地元食材を使った焼き立てパンやグリル料理、宿泊客にも提供されている備後産のデニム生地を使用したルームウェアなどのグッズのクオリティは極めて高く、サイクリストだけでなく、日常使いする地元ファンの心も惹きつけます。

 驚くことにショップはいずれも同社直営。現在約80名の社員・アルバイトの雇用を創出し、地元人材が働いています。

「The RESTAURANT」では瀬戸内の新鮮な食材を炭火でダイナミックにグリルした料理が楽しめる。ディナーコースの料理は、瀬戸内らしさを感じさせ、クオリティが高い。体力を消耗するサイクリストも満足させるボリュームがある。特に個性あふれるブレッド類が美味しく、ワインにも合う

 連携する優れた外部クリエイターの力もありますが、バックグラウンドには尾道デニムをはじめ、2012年に手掛けた尾道の歴史的建造物をリノベした宿「せとうち 湊のやど」などで得た経験やノウハウ、地域での学びの場で人材を育てる「尾道自由大学」、新たな交流の場となるコワーキングスペース「ONOMICHI SHARE」などの取り組みがあります。

 特に地方にいると不足する知的刺激が得られる「尾道自由大学」は、食から仕事、暮らし、まちづくりや観光など多様なテーマで地域を捉え、体験や交流を通じて学び、人や地域をつなぐ地域づくりの土台になっています。

 地元の人材が育たない中、外部の力だけ借りる連携ではなく、外部の力を地域のエンパワーに活かし、その中で地域の中核を担う人財へと成長していく。地域資源活用で最も重要な視座であり戦略です。

コワーキングスペース「ONOMICHI SHARE」(photo Tetsuya Ito / by courtesy of DISCOVERLINK Setouchi)

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執筆者: 水津陽子 - 地域活性化・まちづくりコンサルタント
合同会社フォーティR&C代表、地域活性化・まちづくりコンサルタント。地域資源活かした地域ブランドづくりや観光振興など、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、執筆を行う。2014年地方創生法に関連し衆議院経済産業委員会に参考人出席。著書に「日本人だけが知らないニッポンの観光地」(日経BP社)などがある。

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