小売業界のIT導入はネットから実店舗へ〜中国AI企業とローソンの事例から見る店舗ビジネスの今後〜

ITによる実店舗ならではの利便性の向上が魅力の再確認につながる/Japan IT Week 2018秋

2018年11月28日
インターネットの登場以降、ECサイトが先行してきた「ユーザーの利便性向上」や「導線分析」。しかし、ハードウェアやAI技術の発達により、実店舗でもECサイトで培ってきたノウハウを導入できるようになっています。ネットショッピングに顧客を奪われ続けてきた小売業界ですが、実店舗ならではの利便性の向上が、その魅力の再確認につながりそうです。今回の記事では、10月25日に開催された「Japan IT Week」のセミナーの中から、「実店舗におけるIT活用」をテーマに中国と日本におけるAI技術の導入事例についてレポートします。

国内最大級のIT展示会「Japan IT Week 2018秋」。2018年10月24〜26日の期間、幕張メッセで開催された

 国内最大級のIT展示会「Japan IT Week 2018秋」が2018年10月24〜26日の期間、幕張メッセで開催されました。

 「Japan IT Week」は年3回開催される複数の展示会を合同開催するイベントで、今回はAI・業務自動化展など10の展示会が開催(AI・業務自動化展、店舗ITソリューション展、IoT/M2M展、通販ソリューション展、ビッグデータ活用展、データセンター展、モバイル活用展、Web&デジタルマーケティングEXPO、情報セキュリティEXPO、クラウド コンピューティングEXPO)。来場者数は3日間で53,212人を記録しました。

 イベント当日は出展企業によるブース展示や相談ブースのほか、様々なテーマでセミナーが開催。会場が満席となるセミナーも多く、注目度の高さが伺えました。

 今回の記事では、10月25日に開催されたセミナーの中から、「実店舗におけるIT活用」をテーマに中国と日本におけるAI技術の導入事例についてレポートします。

「実店舗におけるIT活用」というテーマで、中国と日本におけるAI技術の導入事例についてセミナーが行われた

人工知能や生体認証を活用した小売業の革命

 最初に登壇したオウ・シンライさんは、静岡大学で博士号を取得した後、池田電子工学研究所(文部科学省関連)にてシニアリサーチャー、2006年よりRoland DG Corp部門にてR&D研究開発、2016年よりDeepBlue Technology (Shanghai) Co., Ltd.にて、Chief Strategy Officerを務めています。

 オウさんは自社技術の小売業界での導入事例として「コンビニエンスストア」「自動販売機」「移動店舗」の3パターンを紹介。指紋認識による生体認証(バイオメトリックス)技術や画像処理による顔認識技術、ユーザーの視線分析といった自社の独自技術を紹介するとともに、それらの技術によって小売業界のビジネスモデルがどのように変化していくかを語りました。

 「自動販売機」へのIT導入事例では、販売機が顔認識技術を持つことにより、飲料メーカーが商品を購入しているユーザーの情報を直接集めることができる点を強調。具体的な導入事例として大手飲料メーカーのコカ・コーラとのビジネスを挙げました。
 
 そのほか、店舗に設置したカメラによる顧客の導線分析、自動運転技術と組み合わせた「お客様が求める商品をこちらから届けにいく」移動店舗の構想など、様々な事例を紹介。「人工知能を活用して、リテール業界を再構築したい」と今後について期待を述べました。

DeepBlue Technology (Shanghai) Co., Ltd.のChief Strategy Officerオウ・シンライさん、株式会社ローソンの理事執行役員、オープン・イノベーションセンター長を務める牧野 国嗣さんが登壇

デジタルローソン実現に向けての挑戦

 続いて登壇したのは、大手コンビニエンスストア、株式会社ローソンの理事執行役員であり、オープン・イノベーションセンター長を務める牧野国嗣さん。牧野さんは、ITシステムを導入するユーザーの立場から、実店舗におけるIT活用について話しました。

 ローソンのIT技術導入事例として「ローソンスマホペイ」「フレッシュピック(生鮮食品などをネット経由で注文した後で、店舗で受取ができるシステム)」「プチローソン(セルフレジ機能を導入した設備でオフィスなどに無人店舗を設置)」の3事例を紹介しました。

ローソンスマホペイは、顧客が自分のスマホで商品のバーコード読み取りから支払いまで完了することによって、レジを通らずに買い物ができるようになるシステム。特に朝夕の時間帯にレジに長い行列ができてしまう問題を緩和する効果があると期待されています。すでにレジの行列が特に発生しやすい店舗での実証実験を開始しています。また、店舗側としても店員のレジ対応が緩和されることにより、人件費の削減が見込めるとのことです。
 
 次に、オープン・イノベーションセンターに設置したコンビニ店舗型ラボの紹介がありました。店舗型の実験設備を社内に導入することによって、実際の店舗での実証実験を行うことに比べて事前の確認・承認事項が簡易になり、システムのテストがスピーディーにできるようになります。
 
 先日のCEATECでデモ展示を行い大きな話題となった「RFIDを商品管理に利用した無人コンビニ」のシステムについても紹介がありました。レジの無人化・決済時間の短縮化に加えて、RFIDで店舗内の全商品の在庫や消費期限をリアルタイム管理することにより、「在庫情報を公開することで、来店したのに在庫切れといったお客様に不便な事態を無くす」「消費期限が切れそうな商品にクーポンを発行することで、食品の廃棄ロスを減らす」といった施策が打てることで、サステナブルという点でも効果が期待できそうです。

広い会場は満席。セミナーでは英語での同時通訳も入り、グローバルに注目を集める講演であることが感じられた

 インターネットの登場以降、ECサイトが先行してきた「ユーザーの利便性向上」や「導線分析」。今回の発表では、ハードウェアやAI技術の発達により、実店舗でもECサイトで培ってきたノウハウを導入できるようになってきていることが明らかになりました。ネットショッピングに顧客を奪われ続けてきた小売業界ですが、実店舗ならではの利便性の向上が、その魅力の再確認につながりそうです。
(レポーター/HANJO HANJO編集部)

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