もうインバウンド集客で悩まない!【第2回】

外国人観光客を5年で40倍にした自治体もやっている、動画プロモーションの始め方

2018年11月12日
訪日外国人に対して情報発信をしたいが、有効な手段が分からないというインバウンドマーケティング担当者のために、「今だからこそ実施すべき、動画広告のゼロから100まで」を、分かりやすくハウツーでご紹介する新連載。第2回では、兵庫県豊岡市・城崎温泉の動画プロモーションの成功事例から押さえるべきツボをピックアップします。

なぜ城崎温泉は訪問意向対前年度比175%増に成功したのか? 動画プロモーションで押さえるべきツボを解説

 近年、動画戦国時代とも言われるほど、「デジタル動画広告」はプロモーション手法として主流になりつつあり、それは、地方自治体の観光プロモーションにおいても同様である。本連載では、外国人観光客を呼びたい地方自治体やインバウンドマーケティング担当者に対して、今トレンドでもある「デジタル動画広告」のハウツーを解説していく。“そもそもデジタル広告とはなにか”といった基本についてお話した第1回に続き、第2回では具体的な事例として、外国人観光客を5年で40倍にした兵庫県豊岡市(以下、豊岡市)のデジタルPR動画施策についてご紹介できればと思う。以下、豊岡市大交流課課長の谷口雄彦氏と、豊岡版DMO(一社)豊岡観光イノベーションのアドバイザーであり、データストラテジー株式会社代表取締役兼CEOの武田元彦氏にインタビューを実施し、当時抱えていた課題から戦略、実施、そして効果測定まで、押さえるべきツボを当社でまとめた。

 豊岡市は、神戸牛のルーツである“但馬牛”や、高級ガニの“津居山カニ”、1,400年の歴史を持つ日本屈指の名湯“城崎温泉”といった様々な観光資源があり、年間4万人を超える外国人観光客が宿泊している自治体である。とはいえ、当時、多くの地方自治体と同じように、豊岡市もインバウンドに対する様々な課題を抱えていた。その豊岡市が、訪問意向対前年度比175%増という高い結果を出すことに成功したのはいったいなぜなのか。

●兵庫県豊岡市  兵庫県の北部に位置。50年以上にわたり、一度は日本の空から姿を消したコウノトリを、もう一度人里に帰す取り組みを続け、現在では約146羽が大空を自由に飛んでいます。神戸牛などのルーツである“但馬牛”の産地でもあり、冬(11~3月)には高級ガニの“津居山カニ”が楽しめるなど、食材の宝庫としても知られています。観光産業も盛んで、年間4万人を超える外国人観光客が宿泊しており、1,400年の歴史を持つ日本屈指の名湯“城崎温泉”は、海外の有名旅行ガイドブック「ロンリープラネット」で“Best Onsen Town”、「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」では2つ星観光地として掲載。

豊岡市が抱えていた課題

 豊岡市城崎温泉は、蟹シーズンには旅館の予約が取れないほど、国内では人気の温泉郷である一方で、閑散期の集客が1つの課題となっていた。そこで、市は年々増加傾向にある外国人観光客に着目し、2013年には、インバウンドマーケティング部門である大交流課を設立し、海外における認知獲得に動き始めた。手始めに、その当時、地方自治体に流行し始めていたPR動画を制作したはいいが、ただ再生回数に一喜一憂するだけでなく、より訪問につながる人たちに届けるための手段を模索していた。
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●兵庫県豊岡市城崎温泉「Hideaway Kyoto」キャンペーンについて
<概要>
目的:PR動画“Hideaway Kyoto”を使った、外国人観光客の誘客。
   “外国版宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」”へのトラフィック増加。
ターゲット:西日本への旅行を計画かつ、日本文化に興味関心のある外国人観光客
配信国:アメリカ、フランス、イギリスを中心とする欧米9か国横断配信
(編注:「Hideaway」は「隠れ家」の意)

<結果>
[視聴完了率:95.78% / クリック率(以下 CTR):6.20% / シェア率1.31%]
いずれのキャンペーン指標も業界平均を大きく上回りました。
特にCTRは、対業界平均 ×2.4倍という高パフォーマンスを獲得し、「Visit Kinosaki」内のLPに、[直帰率:49.63%改善/ 滞在時間 : 227.8%増]というキャンペーン効果をもたらした。
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認知獲得のための戦略

① PR動画の受け皿づくり(外国版宿泊予約サイト)

 前述のような課題を解決し、外国人観光客に対して豊岡市の認知を獲得するため、谷口氏が率いる大交流課、アドバイザーである武田氏、そして、当社GlassViewでは、大きくは以下の4つのことを行った。
 デジタルPR動画施策では、動画クリエイティブの制作と露出だけではなく、予約サイトを受け皿として用意し、インフラを整えることが下準備として重要である。いくら今ある動画を多くの人に観てもらうことができ、興味関心を持ってもらっても、最終的な受け皿となる予約サイトがなければ集客には寄与しない。その点、豊岡市には行政が運営の主体となっている外国人観光客向けの観光情報および宿泊予約ができる多言語対応のサイト「Visit Kinosaki」というインフラが整っていたため、インバウンド動画プロモーションのゴールを“「Visit Kinosaki」へのトラフィック誘導の最大化”と設定し、いかに訪問につながる外国人観光客に効果的に情報を届け、サイトへ来てもらえるかという点を重視した設計を行うことができた。

② 動線づくり(ランディングぺージ)

 インフラは整っているものの、元々別のものとして制作された動画「Hideaway Kyoto」と宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」の世界観をどのように違和感なくつなげるかという点が、本施策で最もチャレンジングな課題の一つとなった。

 豊岡市では、アドバイザーである武田氏の協力の元、豊岡版DMOである一般社団法人豊岡観光イノベーションと協働で、そもそも現時点で観光に来ている外国人が城崎温泉のどういった点を気に入ってくれているのか、インタビューすることを始めた。その結果、外国人の多くは、長い旅程の中で、いつも大都市を観光するのではなく、その内1〜2日は静かなところでゆっくりしたいという希望があることがわかった。このインタビューでの発見をもとに、“静かなところでゆっくりできる”という要素と、PR動画「Hideaway Kyoto」の世界観を組み合わせたランディングページ(LP)を地元のWEB制作会社と制作。これにより、外国人観光客は、PR動画に登場するシーンをLPでなぞることが可能となり、ディスティネーションとしての城崎温泉の魅力を訴求しつつ、立地・アクセスなど具体的な情報を提供することで見込客化し、「Visit Kinosaki」で宿泊予約をしてもらうという導線を確立した。

③ PR動画配信設計(どこで、誰に見せるのか)

 PR動画、LP、宿泊予約サイトと、インフラと導線を整理することができた。あとはいかに正しいターゲット(潜在客)を誘導できるかがクリアすべき課題であった。豊岡市では、当時増加していたアジア圏からの観光客ではなく、欧米諸国からの観光客を誘致したいという明確なターゲット戦略があったため、海外メディアへの動画配信を強みとする当社GlassViewは、旅行口コミサイトを含む欧米9カ国のプレミアムメディアをPR動画掲載先として選定し、日本に興味がある“旅マエ観光客”をPR動画配信の最も基本的なターゲットとして設定した。絞り込み条件として、日本への旅行者には富裕層が多いため、欧米の所得が高い国を選定するとともに年収も制限し、各国言語で「日本」、「温泉」といったワードを検索した形跡がある潜在層、「浴衣」などの日本文化に興味がある潜在層をターゲティング。さらに、豊岡市はその立地条件上、東日本ではなく、大阪、京都などの西日本エリアからの方がアクセスしやすいという傾向があるため、はなから東京方面の外国人観光客ではなく、より訪問の見込が高い西日本関心層に的を絞る配信設計も行った。

④ 効果測定(ウェブ解析、態度変容調査)

 豊岡市では、再生回数やクリック率などのデジタル指標の他、ウェブ解析ツールを活用し、当社が配信したPR動画を経由し、LP誘導に成功したユーザーがその後サイト内でどのように行動したのか、サイトにおける滞在時間や直帰率などの指標を持って、一連の施策を総合的に評価する仕組みづくりに対しても抜かりがなかった。滞在時間や直帰率の分析は、サイトを訪問した顕在ユーザーの関心度を測る指標として読み換えることもできるので、本当に精度の高いターゲティングで優良ユーザーを誘導できたかどうか、客観的かつ建設的に動画配信パートナーを評価する指標として有効である。(評価される側は、もちろん実力を試されるが…)

 効果測定については、さらに「ブランドリフト」という態度変容調査も実施した。広告配信においては、リーチや再生回数などの量的な効果測定はスピーディーで利便性が高いものの、実際にPR動画を観たユーザーがどのような態度変容を起こしたのかという質的な部分については把握できない。そこで、当社では豊岡市のご要望にお応えして、PR動画の広告効果を「認知度」、「好意度」、「訪問意向」といったブランディング指標でも計測を行った。

認知度や好意度、訪問意向において大きな成果

 以上の施策により、インバウンドプロモーション動画「Hideaway Kyoto」は、視聴完了率が95.78%、クリック率(CTR)が6.20%、シェア率が1.31%と、いずれの指標も業界平均を大きく上回る結果となった。特にCTRにおいては、対業界平均2.4倍という高パフォーマンスを獲得した。LPのウェブ解析についても、着実に関心層を誘導した結果として、直帰率49.63%改善、滞在時間227.8%増という成果を収めた。ブランドリフト計測では、城崎温泉への訪問意向が175%アップリフトし、世帯収入が高めな40〜50代知識層女性の興味を引きつけたことも明らかになった。また、観光客からの「Hideaway感がいい」とのコメントから、PR動画の訴求内容が狙い通りターゲットに伝わったことが定性的にも証明された。

デジタルPR動画を最大化させるために

 ここまで、豊岡市と実施した事例についてご紹介してきたが、改めて「デジタルPR動画施策」を成功に導くために地方自治体やインバウンドマーケティング担当者が留意すべきポイントをまとめよう。

① “まちとしてどこを目指すのか”、ゴールをプロジェクトメンバーで共有

 第一回でお伝えしたとおり、静止画に比べ、動画を活用することではるかに伝達することができる情報量は増える。しかし、動画があっても、“誰に対して何を伝えたいのか”といった訴求内容にブレがあると、その効果を最大化することはできない。まずは自治体として、「どうなりたいか、どこを目指すのか」というゴールを定めることが重要である。ゴールが定まると、自分たちがどのフェーズにいるのか(認知獲得フェーズなのか、理解醸成フェーズなのか)が自ずと見えてきて、潜在層を見つけるべきなのか、顕在層を連れてくる必要があるのかといった、ターゲットが明確になる。この点について、豊岡市は、明確なインバウンド戦略を持った模範的な自治体と言えるだろう。

② 自治体として、“発注力”を身につける

 近年、マーケティングにおいても不可欠なワードとなっている、「データ」や「デジタル」といった言葉は、それ自体が効力を発揮するものではなく、扱う人間によって有効かそうでないかが異なってくるものだ。特に自治体に多いのは、施策におけるデータが優位なものかどうか判断できないことで、代理店に任せっきりとなり、施策の成功や失敗がわからなくなってしまっていることである。「今、自治体に欠けている最も重要な能力は、“発注力”であると考える」と谷口氏・武田氏は口を揃えて言う。“発注力”とは、チームで共有しているゴールに向け、代理店・社外パートナーに対して正しい依頼ができる能力のことである。適切なパートナーを選び、実現したいことを正しく伝えることが、成功する「デジタルPR動画施策」への第一歩と言える。

 次回、第3回では、現在地方自治体において流行しているデジタルPR動画プロモーションにおける“成功”とはいったい何か、効果測定について詳しくお話したい。

★関連リンク

★連載「もうインバウンド集客で悩まない!」

  • もうインバウンド集客で悩まない! 【第1回】

    インバウンドが増え続けています。全国の地方自治体やDMOなどの関係機関は、幅広い地域からの訪日外国人客を誘致するためにウェブサイトの外国語対応や、集客のためのプロモーションなど、情報発信に追われているはず。新連載では、訪日外国人に対して情報発信をしたいが、有効な手段が分からないというインバウンドマーケティング担当者のために、「今だからこそ実施すべき、動画広告のゼロから100まで」を、分かりやすくハウツーでご紹介していきします。

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執筆者: 岩本香織 - GlassView Japan合同会社COO
ニューヨークに本拠地があり、グローバルでブランディング動画広告配信ソリューションを提供するGlassViewを日本に展開。入社以前は、日産自動車のグローバル商品戦略マーケティング部門を経て、消費者インサイトアナリストとして、世界戦略車を担当。広告主視点に立ったメディアプランニングやKPI設定、市場のニーズに即したB2Bやインバウンドプロモーションに特化したメニュー開発にも携わる。慶應義塾大学総合政策学部卒。台湾生まれ、日英中台湾語を話すマルチリンガル。

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