移住者への事業承継を積極推進! 七尾市の地域創生はここが違う

仕事の組み合わせができる街、新しい働き方の可能性

2018年10月26日
地方の中小企業において最重要といってもいいのが「事業承継」です。後継者不足が「黒字なのに廃業を選ぶ」という事態を招いています。中小企業がなくなることはそのまま地域の衰退につながるため、それを食い止めなければ地方創生も危うくなります。その課題に官民ネットワークという手法で解決しようというプロジェクトが石川県七尾市で始まりました。「家業を継ぐ」という家族経営的な風土を排し、首都圏の移住者からも後継者を募るという試みです。

石川県七尾市で首都圏の移住者からも後継者を募るという試みが始まった。「七尾街づくりセンター株式会社」戦略アテンダントの友田景さんはそのプロジェクトの中心人物のひとりだ

地方の中小企業において最重要といってもいいのが「事業承継」です。後継者不足が「黒字なのに廃業を選ぶ」という事態を招いています。中小企業がなくなることはそのまま地域の衰退につながるため、それを食い止めなければ地方創生も危うくなります。その課題に官民ネットワークという手法で解決しようというプロジェクトが石川県七尾市で始まりました。「家業を継ぐ」という家族経営的な風土を排し、首都圏の移住者からも後継者を募るという試みです。それは新しい働き方や生き方を求める現代人のライフスタイルにも適合しています。また、全業種におよぶバランスのいい産業構成である七尾市で暮らすということは、副業や兼業という視点でもブレイクスルーを生み出す予感にも満ちています。そのプロジェクトの中心人物のひとりが「七尾街づくりセンター株式会社」戦略アテンダントの友田景さんです。株式会社ビズリーチとの共催で行われた後継者募集イベント会場で、友田さんに話を聞きました。

地域が連携して、事業活性化のための経営交代や事業承継を推進

ーー事業承継や後継者をどうするか?というのが日本の中小企業の大問題です。七尾市では「七尾事業承継オーケストラ」という官民ネットワークによって支援していくという試みが始まりました。

経済団体、金融機関、士業、行政などの公的機関の23機関が集まり、事業承継を支援する官民ネットワークです。多数のプレーヤーが関わるので「オーケストラ」という名称にしました。これまでもそれぞれの立場で支援を行ってきましたが、連携することはあまりありませんでした。情報共有できるものは情報共有して、地域の中でコミュニケーションを密にしていきたい。それが全国初の試みとなる「七尾事業承継オーケストラ」です。

七尾市では、2013年と17年の4年間を比較すると、企業数が229社減っています。1年間だと50数社です。七尾市は創業にも力を入れているのですが、その数は年間20数社です。いくら創業に力を入れても追いつかない。

経産省の発表によると全国で約130万もの会社がこれからの10年間でなくなるという予測が出ています。その割合31.5パーセントをそのまま七尾市にあてはめると、2025年までの10年間で、1100以上の会社が廃業することになります。このままでは、七尾経済の地盤沈下は避けられません。それをなんとかしないといけないということで、特に後継者不足の企業・事業所に対して、全国から後継者を呼び込む動きをしていきます。

「事業継続できる方法をいっしょに探っていきましょう、という流れを生みたい」( 友田さん)。イベント会場では後継者を募集する経営者と移住を希望する人とのマッチングが行われた。(左から)湯川温泉・龍王閣 高森龍夫さん、道田農園 道田照雄さん、天池合繊 天池源受さん、野の花 本田雄志さん

ーー後継者に値するバックグラウンドを持つ人材がすぐに見つけられるものでしょうか?

経営というのは経験が最重要だと思われる方が多いかもしれませんが、中小企業庁のデータによるとそうではないということがはっきりしています。実は一番売上げを伸ばしているのは30代の経営者なんです。その次は20代。早めに経営交代した方が利益率もあがっています。「経営は勢いと意欲」なんです。70代の社長が40歳の息子に対して「まだまだ経営なんて・・・」というのは認識違いです。経営交代や事業承継は後ろ向けにとらえられがちですが、本当は前向きな作業なのです。事業を活性化させるために経営交代や事業承継をするのだということを積極的に打ち出していきたい。

ーー儲かっているのに廃業する会社もあると聞きます。

約3割は経営が悪いわけでなく、たんに後継者がいないばかりに廃業しています。七尾事業承継オーケストラはその3割を中心的に取り組むつもりです。

これまでは事業承継相談というのは後継者がいる会社に向けてやっていました。「うちの息子にどういうタイミングで引き継げばいいのか?」というような相談に答える場所でした。後継者のいない会社はそもそも相談には来ませんでした。今回の取り組みを機に「後継者がいない会社こそ来てください」「事業継続できる方法をいっしょに探っていきましょう」という流れを生みたいと思います。

「後継者がいるけれど経営状態が悪い」よりは、「後継者がいないけれども経営状態はいい」という会社のほうが場合によってはスムーズにいく可能性が高いのです。あるいは、事業継続するための経営幹部も含めて、10年後を見据えた経営体制を広い意味で募集します。

具体的には、ビズリーチが運営する求人検索エンジン「スタンバイ」上に、後継者を探している七尾市の10事業者が後継者や経営幹部を募集する求人サイトを開設し、7月に首都圏在住のビジネスパーソン約30人を対象に、七尾市の4事業者による後継者募集イベントを渋谷で開催しました。また、経営の選択肢として事業承継M&Aも視野に入れるために、4事業者向けに事業承継セミナーも同日開催し、事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」の任意での登録会も実施しました。

ビズリーチが運営する求人検索エンジン「スタンバイ」上に、後継者を探している七尾市の10事業者が後継者や経営幹部を募集する求人サイトを開設した

ーー家族経営から脱するという流れでしょうか?

七尾は江戸時代から北前船で儲けてきました。そこそこ裕福な地域です。空き家が出たとしても、家を貸さなくても食べていける。そんな風土のなか、会社を誰かに譲ることを恥ずかしいと思う文化があるんです。

ーー「家業を継ぐ」ことが江戸時代から続いて来た。

それもあって危機感が薄いのです。事業主の約半分は法人にしておらず、その大半は個人事業主です。会社にしていないので、息子以外に継ぐという選択肢がない。つまり息子がやらないのなら会社をたたむことを選ぶわけです。

七尾市の魅力は働き方の組み合わせができること

ーー産業構成の面から見た七尾市の特徴を教えてください。

七尾には3,500社くらいの企業があります。市街地もあるし、田舎もある。能登半島の中心地なので、ホワイトカラーもいれば、農業、漁業、サービス業や観光業もあります。もちろん製造業もあります。つまり全ての産業がバランスよくあるのです。働き方の組み合わせが地域内で容易にできるわけです。仕事を選択できる幅広さが七尾の強みといえるでしょう。このところ兼業、副業が盛んにいわれていますが、それは地域内でいろいろな産業があって初めてできることです。七尾は分散投資の考え方を働き方に当てはめた「ポートフォリオワーカー」に適した地域なんです。

たとえば、旅館業だと忙しいのは週末に限られます。ならば平日は町でオフィスワークをして、週末は旅館で働く。民宿業を始めたとして、すぐに客がつくわけではないので、ほかの仕事で日銭を稼げる。

漁業や農業をやりたいと思っていても、漁業・農業だけでは季節労働の側面もあり、リスクが高い。しかしながら七尾では農業をしながら、前職でのスキルをいかしたデスクワークも可能です。その例で言えば、漁業にも需要があります。漁師は個人事業主が多く、彼らが苦手なのは経理の仕事なんです。船で海に出てもらいたいわけではない。表計算ができる人が欲しいんです。PCのスキルからネット販売というビジネスも考えられます。組み合わせの中から新たな可能性が生まれることにも期待しています。

能登半島の中心地である七尾市の特長は全ての産業がバランスよくあること。市街地も田舎もあり生活環境としても魅力的だ。「ポートフォリオワーカー」に適した地域といえるだろう

ーー移住者はどんなサポートを受けられるのですか?

中小企業の多くは人事部がありません。民間のまちづくり会社2社が連携して、「能登の人事部」として後継者がいない会社のサポートをします。後継者候補として準備が足らなくても私たちがフォローするので、安心していただいて大丈夫です。

もうひとつは暮らしの支援。地方は働くことと暮らすことはセットです。そこは、一続きとして考えないといけません。暮らしの情報はウェブサイト「能登半島・七尾移住計画」で発信していますし、年間の移住者は100人を超えており、すでに移り住んでいる皆さんによるネットワークや交流会もあります。困りごとを共有し、移住者が孤立しないようにサポートしています。

ーー七尾市はどんな風土をもった地域なのでしょう?

ひとことでいうと派手。祭りが盛んな土地です。春から秋までどこかで祭りをやっている。日本で一番大きな山車は七尾にあります。そういう歴史や文化を大事にしています。「ヨバレ」という、祭りを見にくるひとを接待する習慣があります。祭礼の日、町の家々の玄関や窓が開け放たれ、誰でも出入りできる、そんなオープンな精神があります。

仕事を始めるのに年齢は関係ない。仕事・地域への愛情が大事

ーー七尾市で今後期待される産業は何でしょうか?

能登の里山、里海は世界農業遺産に登録されています。その豊かな自然を利用した、牡蠣、しいたけなどの一次産業ですね。一次産業はこれまでマーケティングをしたことがありません。それをきちんとやると爆発的に稼げる可能性があります。

もうひとつは観光業。能登には漁業と農業がある。自分たちの採った食材を民宿で出せばいいのですから、利益率がいいわけです。しかし、インバウンド対応はまったくできていない状態です。やるべきことはたくさんあります。

ーー高級しいたけで有名な道田農園も七尾市ですね。

道田さんはしいたけ栽培を50歳で始めました。難易度が高い原木栽培は、生産者が激減しており、この技術を次世代に承継していきたいという熱い思いがあります。道田さんは「しいたけを好きになってくれて残したいという思いさえあれば、スキルはいらない」といいます。

牡蠣養殖の木村さんも40代で仕事を始めました。今では牡蠣春巻きや牡蠣ジェラートなどの6次産業化にも取り組んでいます。

過去の経歴にこだわらずに素直に仕事に向き合ってくれれば「ものになる」ことを彼らは証明しています。七尾の自然や街、人に愛情を持ってくれる人なら、やっていけるはずです。

ーー友田さんは政治家としての経験もあります。まちおこしにおいて新しいタイプです。

大学卒業後、2001年に大阪府柏原市の市議会議員になりました。同時にNPO法人の理事としても活動、その後、民間に移り企業再生のコンサルタントとして中小企業の事業再生や事業承継支援に携わりました。昨年、独立して大阪で創業し、大阪と七尾の2つを行き来しています。

コンサルタントやビジネスマンとして優秀な方は私の他にたくさんいるでしょう。しかし、政治・行政、企業経営、NPO――この3つのセクターを経験しているひとはあまりいません。これまでのキャリアのなかで色々な立場の方とつきあってきたことは、まちづくりに役に立つはずです。

地域というのはある意味、面倒くさいところです。ビジネスライクには進まないところがたくさんある。面倒くささにつきあえないと、前に進みません。そのなかで最適解を模索しながら、日々七尾の地域と向き合っています。

政治・行政、企業経営、NPOの3つのセクターで活躍してきた友田さん。その経験が後継者問題や地域創生の最適解を導こうとしている

★関連リンク

★おすすめ記事

  • 社長業は突然に。経営破綻をV時回復させた「ひとり親方」の覚悟

    いま、東京近郊では2020年に向けた鉄道関連の工事が盛んに行われています。電車の中から窓越しに見える風景で印象的なのは、狭い場所ながら太い鉄の杭を打ち込むダイナミックな重機の姿です。そんな特殊な条件をものともせず、日本の建設・土木業の優秀さを示す仕事を50年にわたって続けてきたのが、横浜にある「恵比寿機工株式会社」です。しかし、創業者の晩年に会社が経営不振に陥り、倒産寸前まできてしまいました。その窮状を救ったのは職人たちのリーダーであるひとりの職長でした。

  • どうする?事業承継! 貸切バス業界の今すぐ取り組むべき課題

    中小企業の事業承継は日本全体の大きな課題です。バス業界も同様ですが、これまで事業承継はほとんど問題となってきませんでした。しかし、今後は一気に急増することが予測されます。その解決の一助となるのが、貸切バス事業者を対象にした「事業承継支援プログラム」です。

  • 中小企業の経営課題をクラウドで解決!「Yokohama Big Advance」に迫る

    横浜信用金庫によるワンストップで中小企業の経営課題を解決するクラウドサービス「Yokohama Big Advance」(YBA)。その発表会が4月19日に行われました。フィンテック、マッチング、従業員向け福利厚生サービスなどが揃った画期的なサービスに注目が集まっています。HANJO HANJO編集部も早速、横浜の会場に向かいました。

  • 事業承継と親族後継者の「学び」

    今日の中小企業の最大の問題でもある、円滑な事業承継による存続と発展。問題は、「うまく受け継ぐ」ことだけにあるのではない。広い意味での「学び」をどう位置づけ、実行するかにより、事業承継と世代交代の「成否」も相当に左右されると痛感する。

執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

インタビュー新着記事

  • 地域に新しい共創を生み出す! 本業との一体型社会貢献を目指すリノベーション会社

    中小企業や小規模事業者にとって「地域」というのは非常に大切な場所です。そこで人と出会い、そこで仕事が生まれるからです。その最新形の「リビングラボ」という方法で成果をあげているリノベーション会社が横浜市にあります。「株式会社太陽住建」は、「本業との一体型社会貢献」を掲げ、地域社会にしっかりと根付くための施策を次々と打ち出してきました。

    2019年1月25日

    インタビュー

  • 教育と人材で「介護」の未来を変える! 前例なきビジネスモデルの革新者 

    超高齢社会を迎える日本。その中で「介護」の重要性は増すばかりですが、そこに携わる人材が不足していることは、皆さんもご存じの通りです。その危機的状況を打破するべく、介護業界の未来を担う人材の育成、引いては業界全体における労働環境の健全化に取り組んでいる会社があります。2008年創業の「株式会社ガネット」が運営する「日本総合福祉アカデミー」は、これまでにはない「分校」というビジネスモデルで急速にその展開数を拡大し、いま注目を集めています。

    2018年12月14日

    インタビュー

  • ローカルビジネスの活性化で日本を元気にする! 個店のマーケティングをまとめて解決するITの力

    「ローカルビジネス」という言葉をご存知でしょうか? 飲食店をはじめ地域で店舗ビジネスを行っている業態の総称です。これまで総体として考えてこなかった、ある意味では遅れていた領域だったかもしれません。そんななか、日本の経済を活性化させるためにはローカルビジネスが鍵を握る、という思いをもって起業したベンチャーがあります。いま話題のEATech(イーテック)で、誰でもがすぐに個店のマーケティングを行える仕組みを提供する株式会社CS-Cです。

    2018年12月7日

    インタビュー

  • 「自動車整備工場」の二代目女性社長という生き方

    町工場を思い描く時、脳裏に浮かぶ代表的な業種のひとつが自動車整備工場です。どこの地域にもあり、油まみれで働く工員の姿が“勤勉な日本の労働者”をイメージさせるのでしょう。そんな日本の高度経済成長を支えた会社を事業承継し、新たな時代に向けて活力を与えようとする女性社長がいます。横浜の町の一角で昭和39年に創業した「雨宮自動車工業株式会社」代表取締役の小宮里子さんです。

    2018年11月26日

    インタビュー

  • 21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【後編】

    世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。後編では代表取締役・杉山智行さんの現在のビジネスに至るストーリーをお送りします。

    2018年11月22日

    インタビュー

  • 21世紀の金融を革新する! 投資型クラウドファンディングが世界を変える【前編】

    世界中を震撼させた2008年のリーマンショックは、お金について私たちに再考を余儀なくさせる世界史的出来事となりました。果たしてお金とは、金融とは何なのか? その問いに対して徹底的に考え抜き、新たな手法で金融に革新を起こそうというベンチャー企業が日本から生まれました。投資型クラウドファンディングのクラウドクレジット株式会社です。金余りの国・日本から資金を必要とする発展途上国へとお金の流れをつくる「インパクト投資」がいま、国内外で大きな注目を集めています。金融の新しい波とは何か? クラウドクレジット代表取締役の杉山智行さんに前後編の2回で話を聞きます。

    2018年11月20日

    インタビュー

  • 社長業は突然に。経営破綻をV時回復させた「ひとり親方」の覚悟

    いま、東京近郊では2020年に向けた鉄道関連の工事が盛んに行われています。電車の中から窓越しに見える風景で印象的なのは、狭い場所ながら太い鉄の杭を打ち込むダイナミックな重機の姿です。そんな特殊な条件をものともせず、日本の建設・土木業の優秀さを示す仕事を50年にわたって続けてきたのが、横浜にある「恵比寿機工株式会社」です。しかし、創業者の晩年に会社が経営不振に陥り、倒産寸前まできてしまいました。その窮状を救ったのは職人たちのリーダーであるひとりの職長でした。

    2018年10月15日

    インタビュー

  • 「水素水」をもっと日本の企業、事業所へ!〜 ウォーターライフケアという新発想

    昨年、東京都健康長寿医療センター研究所がガイドライン「健康長寿のための12か条」を発表しました。そのエビエンスブックでとりあげられたもののひとつが「水素水」です。病気の予防領域において水素の有効性が認められつつあることで、今、その存在に改めて光が当たっています。今回、紹介するのは、水素を安く簡単に提供する装置、水素水サーバーを開発・販売する「株式会社 ドクターズ・マン」です。

    2018年10月9日

    インタビュー