斜めから見る〜今月の一冊 ⑤『大本営参謀の情報戦記』

情報の取扱い方、ただし70年前の教え

2018年10月24日
今年は戦争、特に太平洋戦争の際の日本軍(の失敗)についての本が、ビジネスとの絡みでよく読まれました。そのなかでも定番とも言えるポジションを得ているのが、今月の一冊『大本営参謀の情報戦記』です。文庫本の帯では田端信太郎さんも絶賛されています。70年前の戦史をいま、どうビジネスに活かせばいいのでしょうか? 長沖竜二さんが斜めから読み解きます。

 伝え聞きは、伝言ゲームというものがあるくらいで、正確には伝わらないものです。いや、ゲームをするメンバーは味方同士で、一所懸命正確に伝えようとする。なのに正確には伝わらないものです。敵対関係だったら正確に伝える以前に情報を隠したり嘘を言ったりするでしょう。そして伝言がゲームなら失敗しても笑って済ませますが、戦争でこれだったら部隊は全滅です。

 今回は昭和も二時代前のことになろうというのに太平洋戦争の体験記を紹介します。そして、言いたいのは上に記しましたことがほぼ全部です。が、聞いてください。

 表面上、あまりにたやすく情報を請求(≒検索)できて、それに対してあまりに大量のテキストや画像・動画が返されてくる世の中になったので、私たちは浮かれているようなところがあります。

・ネット上にない情報はこの世にないのと同じだ、とか、
・確実な情報と間違った情報を見分ける目を養いましょう、とか、
・やりたいことを決めたら参考になる情報をしっかり調べましょう、とか。
逆に、多くの人に正しく効果的に伝えるにはどうすればいいでしょう、とか、
ちょっと呑気なのです。

 セキュリティといって、大事な情報が漏れないようにすることにも頑張っているようでもありますが、総じて、お金を払って「外部の大きな力」に任せているということであって、主体的に何をしているわけではありません。

 本書は平成1(1989)年に昭和18(1943)年から昭和20(1945)年のことを振り返るかたちで書かれているものですから、著者はもう故人です。そう、この本は伝言ゲームではありません。いま歴史家、評論家、政治家などで戦争当時に責任世代だった人はいませんから、本でも読まない限り、伝言ゲームに浸って話すことになります。いや、本もかなりの割合で伝言ゲームです。そういう点で本書を掘り出してくることには意味がある。

 本書は、一時期、ビジネス研修の教材によく使われたと言います。いや、情報環境が全く異なる(ように思える)70年も前のことなのに、2018年の今読んでも、身につまされるような言葉が次々出てきます。つまり現代においても有効な「情報取扱入門」なのです。

 「日本陸軍なんて“竹槍・突撃・精神主義”のレベルでうろちょろとしてて、コテンパンにやられあたんじゃないか。なんでそんな人らに情報の基礎を学ばなければいけないの? アメリカの最新の情報学を勉強した方がいいんでないの?」、そう思うひとが本書を読み始めたら思うツボです。つまり中途半端な知識・経験・成功体験、こういうのこそころっとヤラれる。この場合は、著者 堀栄三さんに。

 詳しくは読んでいただいてのことなのだけれど、上記、最近の“情報教育”とは違う教訓であるなと思うのはこういうところ。

 「情報とは複雑怪奇、迷いに迷うものである。数字的実証と、目で確かめた真実がない限り確実な情報と称するものはあり得ない。したがって戦場では、情報の判断が感情とか、期待とか、迷いとか、当惑とか、焦りとか、不安で揺れ動くものである。」
=緊迫した状況下では、100%確実な情報などなく、また胆の据わった人でも冷静ではいられない。それを前提に判断し、行動しよう。

「情報とはこのようなものである。常に断片的な細かいものでも丹念に収集し、分類整理して統計を出し、広い川原の砂の中から一粒の砂金を見つけ出すような情報職人の仕事であった。」
=検索しただけで、解決直結の正答が出るとは限らない。そんな簡単な物事しか問題にしないようでは勝ちは望めない。

「情報は常に作戦に先行しなければならない。」
「作戦当事者が誤るのは、知識には優れているが、判断に感情や期待が入るからであった。それゆえに作戦と情報は、百年前から別人がやるように制度が出来ていたのであった。」
=“やりたいこと”の前に“状況分析”があるべきだ。

***

 ああ、折角です。情報の取扱いについての本を紹介しているので、もう一点、本書のかなりの美点を挙げておきましょう。

 世の中全般に自意識が高くなっていて、教訓に耳を傾ける/傾けさせるのが随分難しくなっています。あるいはやたらへり下って不器用にすべてを聞き入れたりするか。著者 堀栄三さんの語り口、書き方は、図らずもヒリヒリした今の時代には合った“教授法”だと思うのです。

 「日本(あなたの先祖)はダメだった。たしかにダメだったけど、いい芽はあったんだ。それが証拠に是々だ。しかし、如何せん遅すぎた。次は気をつけてゆこう」と、こんな風です。

 如何でしょう。保革問わず、老若問わず、怒らず冷静に聞いてもらえそうな物言いでは。


●今月の一冊
『大本営参謀の情報戦記』
堀 栄三/文春文庫

★長沖竜二の連載

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執筆者: 長沖竜二 - スモールビジネス調査員
『現代用語の基礎知識』編集長、『小さな組織の未来学』編集長などを経て、現在、公共施設業界のコンベンション運営、中小事業者やまちづくりについてのメディア取材・編集などを行っている

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