着地型ツアーのダークホース? 「観光タクシー」の可能性

2018年10月11日
インバウンドを加速させるために、着地型旅行や個人旅行をより活性化することが求められています。しかし旅先における二次交通の不在がそれを阻んでいます。二次交通の代表であるタクシーがサービス業としての役割を果たせるなら? 観光需要を掘り起こす道筋を高速バスマーケティング研究所代表の成定竜一さんが探ります。

「うどんタクシー」は、香川名物の讃岐うどんに詳しい知識を持つ乗務員が、有名店のほか、ガイドブックに載っていない隠れた名店などを案内する観光タクシー。今年7月には全国のタクシー事業者によって構成される「日本ご当地タクシー協会」も発足した

 わが国のツーリズム産業において、「従来の(発地型)旅行商品から『着地型商品』へのシフト」が言われ始めてからもう20年ほどが経過する。バスツアーの分野でも「着地型ツアー」が隆盛すると言われ続けてきた。その間の、様々な取組みに敬意を表する一方、残念ながら、着地型ツアーを上手に活用した個人旅行が一般的になったとは言いづらい。ハードルは二つある。

 一つ目は、着地型活用を含めた「個人旅行の流通網」が確立しないこと。既存旅行会社の支店カウンターが発地型のパッケージツアー中心の取扱いから脱却できない、という点は仕方ないとして、それに取って代わると考えられてきたウェブ予約が、宿泊や交通の単品予約の枠を超えられていない。ダイナミック・パッケージ(DP)を提供するサイトで着地型ツアーをオプションとして選択できるようになったり、着地型ツアーや現地アトラクションに特化した予約サイトが成長したりと個別の動きはみられるものの、日本人の旅行のあり方を変えたと呼べるには程遠い。

 交通機関のダイヤや宿泊施設のスペックなど詳細な情報を調べ、予約や決済を行うという「手配」の各ステップについてはウェブ上で完結するようになったが、それ以前の「旅程を作成する」ステップが、一般の旅行者が自ら行うにはまだハードルが高いのだろう、というのが筆者の考えだ。いや、そもそも「どういう旅行をしたい」と想起するステップ、かもしれない。やがてはAIが担う機能かもしれないが、「旅行者一人ひとりの興味関心に沿ったオリジナルの旅程」をストレスなく作成するソリューションが求められているはずだ。

 着地型ツアーがブレイクしないもう一つの理由が、商材が揃わないことだ。こちらも、特定の観光協会やDMOの努力により成功事例も見られるが、未だ個別の成功にとどまっている。特定のデスティネーションでしか提供されないのであれば、一般の旅行者が「現地でツアーに参加できるはずだ。調べてみよう」という習慣は生まれないだろう。

 着地型ツアーが全国の多数の地域に広がらない最大の原因は、「儲からないこと」だろう。そもそも、より「分化」し「深化」する旅行者の興味関心に対応するため画一的ではないツアーを提供する、というのが着地型の考え方だから、従来の発地型ツアーに比べて収益性が劣ることは仕方ない。

「ウェブマーケティングなど流通のあり方の変化によって、遠来の客も地元客も、また海外からの客も1台のバスに混乗させることで乗車率が高まって収益性低下を回避できるはずだ」という論理は、前述の通り流通網の変化が遅れており成立しない。着地型が主流となれない第一の理由と第二の理由は、お互いに「ニワトリと卵の関係」に陥ってしまっている。

 このうち、「第二の理由」、着地型ツアー商品の品ぞろえ充実に向け、興味深い取り組みが2件、発表された。いずれも「観光タクシー」に関係するものだ。

 一つ目は、本年7月に発足した「日本ご当地タクシー協会」である。香川県で「うどんタクシー」を運行してきたコトバスタクシーら全国のタクシー事業者によって構成される。「うどんタクシー」は、その名の通り、地元名物の讃岐うどんに詳しい知識を持つ乗務員が、有名店のほか、ガイドブックに載っていない隠れた名店などを案内する観光タクシーである。同協会には、同様にアップルパイ(弘前市)、カステラ(長崎市)など地元の名物料理を名乗る観光タクシーがラインナップされている。当面は名物料理がフィーチャーされているが、趣旨からいえば、今後、必ずしも料理にこだわるものではないだろう。

 二つ目が、高速バス事業の急成長で知られるWILLERが提供を開始した「ツーリストタクシー」事業だ。コースづくりの段階からWILLERが関与することで、従来の、地元の名所を総花的に回るだけの観光タクシーとは異なる商品を提供する点や、同社のウェブ予約エンジンを活用することで、観光タクシーではまだ導入事例が少ないウェブ予約を実現した点などが特徴だ。

 FITを対象に外国語でのウェブ予約も開始したほか、今後、タブレットなどを用い多言語での車内ガイドを実現する専用アプリも参画事業者に対して提供するという。ウェブ予約段階で決済まで済ませるので、運賃収受に関して外国語でのやり取りが不要となる点は、事業者や乗務員の「気持ち」を楽にするだろう。

 前者は、もともと観光タクシー事業で実績があり自ら一定の企画力を持つタクシー事業者が、彼ら自身のブランド化を進める取組みである。一方で後者は、これまで観光タクシー事業に取り組んでこなかった事業者に新たなチャレンジを促す動きである。後者のサイトで前者の商品の予約が可能であるなど、お互いに連携する部分はあるようだ。

 あわせて、観光タクシー事業のFIT対応という観点では、定期観光バスや着地型バスツアー向けに開発された「多言語自動ガイドシステム」も、タクシー向けの商品がリリースされている。GPSによって把握した走行位置に応じて多言語で観光案内を行うフュートレック社の「U・feel」は、本来はイヤホン型レシーバーのチャンネルを合わせることによって言語を選択し案内を聞くことができるシステムで、1台のバスに乗る多数の乗客がそれぞれの言語で観光案内を受けることが想定されている。一方、イヤホン型レシーバーではなくカーステレオの外部入力端子と接続することで車内スピーカーから音声案内が流れる廉価版があり、これは1台に1グループしか乗車せず1言語での案内で済む観光タクシー事業にぴったりだ。

 観光タクシー事業は、あらかじめコース設定や乗務員のトレーニングなどは必要であるものの、観光タクシーとして予約が入っていない日は通常のタクシーとして車両と乗務員を活用できることから、バスツアーを設定するのに比べると小さいリスクで着地型にチャレンジできるという利点がある。

 さらに、全国ほとんどのタクシー事業者は、これまで、タクシー乗り場で客待ちする、または迎車の電話予約を待つという「待ちのビジネス」が中心であった。自ら商品を企画しそれを流通に乗せていく、という商売の経験が少ない事業者がほとんどだ。人口減少によりタクシー需要の先細りが予測される中、「自分たちの街をご案内するのは、俺たちに任せてくれ」というタクシー事業者らの新たな挑戦が、着地型ツアーの品ぞろえ強化につながることを期待している。

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執筆者: 成定竜一 - 高速バスマーケティング研究所株式会社代表
高級都市ホテルチェーンを退社後、06年に楽天バスサービス株式会社に入社。楽天トラベル「高速バス予約」サービスの事業責任者を経て、同社取締役に就任する。11年に退職すると、高速バスマーケティング研究所を設立。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員(10年度)、「国内観光の振興・国際観光の拡大に向けた高速バス・LCC等の利用促進協議会」(15年度~)などを歴任する。

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