「いきなり!ステーキ」、客離れを取り戻した戦略とは?

2016年7月25日
【記事のポイント】 ▼現代人は“安さ”以上に“時間”を重視する ▼来店動機を広く取るビジネスプラン
シンガポール企業における生産性向上の取り組みを支援しているシンガポール生産性本部では、2組の視察団を日本に派遣、小売業や飲食業におけるベストプラクティスを学ぶツアーを行った。HANJO HANJOでは、日本生産性本部の協力のもと行われた今回のツアーを同行取材、様々な角度で日本の飲食業界・小売業界の現在を伝えていく。

特集第2回は、シンガポール視察団が訪れた「ペッパーフードサービス」に注目。同社の事業拡大についての取り組みから、企業が参考とすべき人材教育と来店動機を多角化することの重要性について考える。

立ち食い向けのテーブル、オープンキッチン、ディスプレイされたワインボトルなどが注目を集めていた

■急激な店舗拡大がもたらしたサービス低下

同社のステーキレストラン「いきなり!ステーキ」では、13年12月の1号店オープン後、翌年には30店舗までの事業拡大を目指した。他の既存店舗の売り上げは順調に伸びており、拡大は決して無謀な試みではないと、社員全体が夢を膨らませていたという。しかし、売り上げが9月に突然伸び悩む。その原因とは一体何なのか? 視察団からの質問に対して、ペッパーフードサービス海外事業本部副本部長の猪熊宙氏は「サービスの低下が原因でした」と答えている。

「厚切りステーキを焼くというのはテクニックが必要になります。お客様に喜んでいただけるような商品を提供できなかったのが原因。私たちはこれを“9月ショック”と呼び、同じことを繰り返さないように努めてきました」

 具体的には本部に研修センターを設立。一定のスキルを身に付けた者をマイスターと呼ぶ制度を設け、レベルの向上に取り組んでいるという。
  • 会場では「ペッパーランチ」の立ち上げから、「いきなり!ステーキ」を軌道に乗せるまでの、一連の事業展開が紹介された
  • 視察団からは9月ショックのほか、「いきなり!ステーキ」の運営についての質問も集まった。その回答によると、現在の原価率は50~60%、スタッフはキッチンが3人、ホールが5人から6人の体制だという

■来店動機を増やすために具体的な戦略を

いきなり!ステーキの9月ショックは、他の飲食店にも十分に起こりえる。サービスの質が低下した、商品単価を上げざるを得なかった、あるいは単純にお店の味に飽きられてしまうこともあるだろう。

 このような客離れが起きたときに、店としては一体何ができるのか。視察団にとっても、それは興味深かったようで、いくつもの質問が猪熊氏へと投げかけられた。実際にいきなり!ステーキが9月ショックに対して起こした行動は大きく2つ。椅子席の追加と肉マイレージカードの導入だ。

 いきなり!ステーキは「俺のイタリアン」をヒントに、高級なステーキをリーズナブルに楽しめる店としてオープンした。そのスタート地点にあるのは、系列店の「ステーキくに」で一番人気のステーキを半額で提供するということ。これは原価率がゆうに70%を超える試みだったという。しかし、滞在1時間、客単価3000円という想定で、徹底的に無駄を省けば勝算は十分に見込めるプランだった。
勝算のひとつが、ステーキに対する来店動機の多岐化だったという。最近ではお年寄りも魚より肉を好む傾向にあり、糖質制限している人にもリーズナブルな肉は注目されている。働き盛りの若い女性も1人でステーキ店を訪れる傾向にあるようだ。その上で、いきなり!ステーキはビジネスの第一線で働く人々が最も欲している“時間”にフォーカス。時間をかけずに、きちんとしたものを、リーズナブルに食べてもらうという業態を取っている。

 椅子席の追加はこうした来店ニーズをさらに多様化させるためのものだった。当初は危ぶまれていた回転率の低下についても、さほどの影響は無かったという。これについては、コストカットを目的に、提供するメニューの数を絞ったことがプラスに働いた。

講義のあとは、「いきなり!ステーキ」と同じメニューも提供している「ペッパーランチ」で、試食を兼ねた昼食会が行われた

 一方の肉マイレージカードは、新規顧客を増やすために同店が行った初の販促活動だった。1号店の成功などもあり、いきなり!ステーキの名前はマスコミを通じて、多くの人に知れ渡っている。そこに、2周年記念としてポイントを3倍とし、名前は知っていても、実際に店舗を訪ねたことが無い人を集めるという戦略だ。

 これらの戦略もあって、いきなり!ステーキの売り上げは回復。今年度も順調な滑り出しを見せているという。新規店舗をオープンした時、何に注意すべきか、また客離れしたときに何ができるのか。飲食ビジネスに関わるもの全員にとって、一つの参考例になるだろう。

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執筆者: HANJOHANJO編集部 - HANJOHANJO編集者
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