地元が主役の“強烈”なまちおこし、山形・庄内で進化中!【後編】

ヤマガタデザインはなぜ、地方創生の「新たな潮流」と呼ばれるのか?

2018年9月18日
もしまちづくりを成功させるもう一つの可能性があるとしたら? その問いに対する答えを出したのが、山形県鶴岡市で民間企業としてまちづくりを行っている「ヤマガタデザイン株式会社」です。9月19日には、山形県庄内地方の魅力を体現する施設がオープン、そこに至る道筋をたどります。キーとなったのは「完全地域主導」のまちづくりでした。

ヤマガタデザイン株式会社 代表取締役 山中大介さん。「自分自身の最大限を使って鶴岡をよくしていきたい。なんらかの価値を生むことはできないか。そこからすべてが始まりました」

地方創生の必要が叫ばれてもう何年も経ちます。日本各地で様々な取組みが行われてきましたが、なかなか結果を導き出せていません。その要因のひとつは、誰が主体的にまちづくりに関わるのか? ということにあるかもしれません。これまでまちづくりを推進してきたのは主に3つのパターンー中央による資本投入、地域の行政主導、そしてNPOーです。でももしまちづくりを成功させるもう一つの可能性があるとしたら? その問いに対する答えを出したのが、山形県鶴岡市で民間企業としてまちづくりを行っている「ヤマガタデザイン株式会社」です。9月19日には、山形県庄内地方の魅力を体現する施設がオープン、創業から4年の集大成となるプロジェクトのお披露目を前に、山中大介代表取締役に話を聞きます。後編ではヤマガタデザインの歩みや思想に焦点をあてます。

ヤマガタデザインはなぜ生まれたのか?

ーーまちづくり会社であるヤマガタデザインはどういう経緯から生まれたのですか。

人口減少が続く鶴岡市は学術に投資を行い、2001年に慶應義塾大学 先端生命科学研究所を誘致しました。それから「サイエンスパーク」と呼ばれるエリア構想が始まりました。土地の面積は21ヘクタール、そのうち7ヘクタールは17年間という長い年月をかけて行政主導で開発を行ってきたのですが、問題は残りの14ヘクタールをどうするか、でした。

僕は5年前に東京からサイエンスパーク内の「スパイバー」という会社への転職で鶴岡に移り住みました。14ヘクタール問題が議論されている最中でした。僕自身はまちづくりのためにこの地に来たわけではなく、あまり関係ないという認識でいたのですが、議論に巻き込まれてしまったんです(笑)。自分が出会った場所で皆が困っているようだ。自分自身の最大限を使って鶴岡をよくしていきたい。なんらかの価値を生むことはできないか。そういう風にどんどんボルテージが上がっていったんです。そこからすべてが始まりました。

いろいろなひとに話をきいていくなかで、この場所で一番大事なことは地域とサイエンスパークの融合やコミュニティを醸成することだという認識にいたりました。この地でまちづくりをしよう。そしてヤマガタデザインが生まれたのです。

下部が慶應義塾大学先端生命科学研究所ほかがはいる「サイエンスパーク」。駐車場をはさんで上部がヤマガタデザインによる「ショウナイ ホテル スイデンテラス」と「キッズドームソライ」

ーーなぜ土地の活用問題がコミュニティづくりにつながったのですか。

サイエンスパークは外部からは非常に成功しているように思われています。安倍首相は国会で取り上げ、石破地方創生相(当時)は地方創生のモデルだと来訪しました。でも中央の政治家が騒ぐ時は、地元の人が興ざめしていることが多い。鶴岡市がユネスコ食文化創造都市に認定されたときもそうだったと聞きます。地元の人にはピンと来ていなかったり、どこかしら自分には関係ない事柄だと思われていたのです。

僕が移住した5年前でもそんな状況でした。「なんかすごいらしいね」「行政が何億円もお金を使っているんだって」「地元住民の生活にお金をまわしてよ」というような賛否両論が10年以上続いていたわけです。まちづくりをするにあたってはその壁や距離がすごい問題だと思ったのです。地元の皆さんにサイエンスパークを自分ごとだと思ってもらい、サイエンスパークと交流できる仕組みをつくらないと、本当の意味での成功はないのです。

地元の皆さんの気持ちを「デザイン」できたから事業につながった

ーー資本金10万円で会社を始めました。

地方銀行をはじめ地元の企業の皆さんはすぐにぼくのビジョンを理解してくれました。サイエンスパークがうまくいったのも、行政と地銀さんの判断の速さによるものだと思います。

ーー見方を変えると、鶴岡市は追い込まれていたともいえるのでは?

鶴岡市は増田レポートによると消滅可能性都市にランクインしていますし、山形県内で庄内地方の人口減が甚だしかったことは事実です。「やるしかない」というのはあったと思います。しかし、資本金10万円の会社で、よくわからない若者に任せようというのは普通だったらありえません。

一番大きかったのは「天の時、地の利、人の和」だったと思うんです。それまで地方創生といってもだれもなにもできていなかった。14ヘクタールで鶴岡市が困っていた。地元銀行の貸出先がなくなってしまった。地域経済を活性化しないといけないという喫緊の課題。いろいろなことが重なり合っていました。サイエンスパークで冨田勝さん(慶應義塾大学 先端生命科学研究所所長)や関山和秀さん(スパイバー代表執行役)が地元で積み上げてきた信用や期待も相当大きい。そんななか、この14ヘクタールでまちづくりをしようと僕がいい出した。「なにかわからないけれどよさそうだ」「メリットしかなさそうだ」と思うひとが増えていた。そんな気持ちをデザインできたのが事業へとつながったのだと思います。でもそれも手段でしかない。なによりも地域やひとが良くなったり暮らしやすくなったりすることにわくわくしてくれることが大事なんです。

プロジェクトが現実に至ったのは「『天の時、地の利、人の和』があったから」(山中さん)

ーーヤマガタデザインは庄内地域で75億円の事業をつくり出すこととなりました。

スイデンテラス、ソライ、ウェブメディア、農業施設、集合住宅など分野横断的に展開しています。

これから本格的に動き出すもののひとつが「農業」です。有機農業、循環型農業を庄内に根付かせたい。サステナブルな農業を学んで自立する経営者を育てたいと思っています。そのためにOJT型の学校のような仕組みを創りたいと考えています。

いま、農業に魅力を感じ就農する層がどんどん減っています。庄内の就農者の平均年齢は70歳前後。このままでは5年ほどで崩壊します。農家は自分の子どもは継がせたくない。すると耕作放棄地が出てきます。家族以外の就農希望者に任せられるのか? その時大切なのは、地元の農家が信頼できるマッチング機能があることです。ヤマガタデザインがその役割を担おうと考えています。

農業はポテンシャルのある産業です。そこでは担い手のクオリティが大事になります。ヤマガタデザイン独自のカリキュラムをつくり、優秀な担い手を送り出せるようにしたい。

ーー会社名にある「デザイン」はなにを意図していますか。

デザインというのは「課題を解決する」ことです。地域のありとあらゆる問題を解決する、そこを標榜して社名に入れました。

しかしやがては「まちのデザイン」も超えていくことになります。その行き着く先が“民間行政”だと考えています。それは既存の公共の行政を補完する組織体のことです。いまの行政は難しい舵とりを迫られています。税収が減っているのにやることばかりが増えている状況では、既存の行政を補完する民間の行政が必要だと思うんです。第三セクターでもない、もうひとつの行政体が今後のヤマガタデザインの進む方向です。

山形庄内で次世代に繋ぐ街をデザインすることをミッションとするヤマガタデザイン。スイデンテラス、ソライ、ウェブメディア、農業施設、集合住宅など分野横断的に業務を展開している

地域に大切なのは「継続」。「儲ける」から始めてはいけない

ーー75億円のビジネスになったわけですが、採算をどうとっていくのですか。

採算性について疑問を呈するひともいます。しかし当然ながら事業としての採算性がないと銀行は融資してくれません。おそらく「なにをもって経済性と考えるのか?」という根本的な考え方において世代間のギャップがあるのだと思います。

ぼくたちはミレニアル世代(1981年〜1996年生まれのひと)と呼ばれていますが、GG世代(いま55歳以上のひと)とは異なった価値観をもっています。それはビジネスの入り方にも表れています。

GGは「どうやったらお金がもうかるか?」を経済的に合理化してきたと思います。そしてその発想が大量生産大量消費をうむモデルとなっていきました。しかしミレニアルである僕が考えているのは、「この地域に必要とされているのはなにか?」です。それをいかに事業としてデザイン=解決していくのか、から入っている。そこがおそらく議論したときに噛み合わないところなんだと思います。

僕たちはスイデンテラスもソライも必ず利益を生むと思っています。銀行にも行政にもすべてお話しして、儲けたお金は地元に再投資するということで融資していただいています。この地域に対して、この地域を訪れてくれる人々すべてに対して最善を尽くしているので、そのスタンスが変わらない限り、僕たちのビジネスは持続するだろうと信じています。

――「持続」という点においてこれまでのビジネスとは違うということですか。

うちの会社が潰れるというひとがいるとしましょう。でも僕は「なんでそれが問題あるのか」といいたいんです。うちの株主はすべて地元企業です。つまりいま進行しているのは、地元を巻き込んだ“強烈な”まちおこしなんです。万が一失敗しても地元の企業はファンドに売ったりはしないだろうし、よりよいサステナブルな方向を選ぶはずです。ヤマガタデザインが潰れるときは、庄内に誰も来なかったり、この場所で子育てをする人がいなくなるときです。

日本の小都市があちこちで破綻しそうな中、都市間競争が激しくなっています。でも庄内は必ず勝つ。それは意思表明などではなく、事実として庄内ほど転入する若者が転出する若者を超えている地域はないからです。庄内はすでに閾値を超えているのです。このポジティブスパイラルが止まることはないと確信しています。

地元民がおもしろがっている地域にはひとが集まってくる

ーー庄内地方に若いひとの流入がふえている理由はなにでしょうか。

庄内の文化や風土が、「都会的な価値観」に疑問を持つ層に響きやすいということ。そしてもうひとつはここが若いひとのチャレンジを応援してくれる場所であるということ。ここには移住者を受け入れるだけでなく、応援してくれる機運があるのです。いぶかしげにみて査定してやろうということは一切ありません。それが「移住するなら庄内」というイメージを生んだ理由だと思います。

ヤマガタデザインの基本理念は「ノーブレス・オブリージュ」。責任あるものが、負うべき義務という意味だ。「地域が当事者だからこそ実現可能な、独創的、長期的なまちづくりがこれからの社会を豊かにしていく」(山中さん)

ーーアートや観光など地方都市には“目玉”となる産業や施策がありますが、庄内ではなにを用意しますか。

なにかを目玉にするというのはちょっと違うと思います。地元民がおもしろがるということが一番大事なんです。日本で最も地元をおもしろがっている地元民が多い地域をつくることができれば、勝手にひとはふえてくる。若い世代は庄内の文化、自然環境、仕事すべてをめちゃくちゃおもしろがっています。

ーー起業から4年、苦しかったことはありますか。

悩むことは当然あります。いまも苦しいし4年前も苦しかった。でも、僕自身が一番恐れていることは自分が「価値を生まない」存在となることです。その尺度でいえば、いますごく充実しています。めちゃくちゃ苦しいんだけれど、毎日が最高に充実しています。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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