NHKドラマ『透明なゆりかご』 私たちのすぐとなりにある現実。働く男性にこそ、見てほしい

2018年9月14日
NHKで金曜夜10時から放送されているドラマ『透明なゆりかご』は、海辺にある小さな病院・由比産婦人科を舞台にした物語です。時代は1997年。高校の准看護学科で学ぶ17歳の青田アオイは、産婦人科で看護師見習いとして働くことになります。

NHKドラマ10『透明なゆりかご』 [総合](金)夜10時〜ほか

 NHKで金曜夜10時から放送されているドラマ『透明なゆりかご』は、海辺にある小さな病院・由比産婦人科を舞台にした物語だ。

 時代は1997年。高校の准看護学科で学ぶ17歳の青田アオイ(清原果耶)は、産婦人科で看護師見習いとして働くことになる。

 彼女が初日にいきなり担当するのは中絶手術の助手だ。突然、手術の現場に放り込まれたアオイは、戸惑いつつも院長の指示のもと的確な動きをし、「度胸あるね」と言われる。

 手術が終わった後、アオイは「命だったかけら」(胎児の遺体)を瓶に詰めて、業者のおじさんに渡す。この場面はアオイのナレーションで淡々と進む。

 その後、すぐにアオイは呼び戻される。今度は出産の立会いだ。赴任したその日に、アオイは中絶と出産を同時に体験することになる。

 原作は沖田×華の漫画『透明なゆりかご 産婦人科医院 看護婦見習い日記』(講談社)。 脚本を担当しているのは安達奈緒子。『リッチマン、プアウーマン』や『失恋ショコラティエ』といった月9(フジテレビ系月曜9時枠)のドラマを多く手がけており、医療モノでは『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命3rd season』を執筆している。

 NHK BSでは『宮崎のふたり』等のドラマを手がけたが、地上波のNHKドラマは、今回がはじめて。月9の華やかなドラマを書いていても、仕事や恋愛に対するシリアスな人生哲学が垣間見える生真面目さが、安達脚本の面白さだったが、NHKドラマと、安達の作風は相性が良く、原作のエッセンスを最大限に活かした上で、シリアスで緊張感のある物語に仕上げている

 由比産婦人科には様々な女性が訪れる。夫と出産を待ちわびている妊婦もいれば、一人で中絶に来る妊婦もいる。人知れず産んだ子供をどうすればいいのかわからずに、病院の前に捨てた女子高生もいる。産む人も中絶する人もそれぞれに事情を抱えている。そんな女性たちの姿をアオイはひたすら見つめて、寄り添おうとする。

 物語は一話完結で、未成年の中絶や出産、性的虐待を扱ったショッキングなエピソードも多い。しかし、本作はそういった話を、あくまで私たちのすぐとなりにある現実として多面的な視点から描こうとしている。

 それがよく現れていたのが第6話だ。お金がなくて男に同意書も書いてもらえなかった若い妊婦・ハルミ(モトーラ世理奈)と、3万円で中絶手術をおこなっているモグリの医者の元に向かうことになったアオイ。妊婦が二度目の中絶手術だとわかったアオイは「無責任すぎます」と批判するが、「それ、男にも言ってくれよ」と言い返されて、何も言えない。

 産婦人科で働く医師や看護師たちの葛藤も拾い上げている。第8話では、アオイの先輩看護師・望月紗也子(水川あさみ)が妊娠する。休暇はとらずに今までどおり仕事をしようとする紗也子だったが、中々うまくいかず、優しいが苦労を理解してくれない夫に苛立ってしまう。

 第2話のタイトル「母性って何?」が象徴的だが、母性を神格化することが現代の女性に対して抑圧となっていることを本作は丁寧に見せている。対して、男は妊娠した妻を前にして、オロオロしたり責任放棄をしたり、逆に過剰に強く振る舞ってしまい、終始頼りない。そこで描かれるのは男と女の断絶だが、理解できないなりに寄り添おうとするのが、由比産婦人科の院長・由比朋寛(瀬戸康史)だ。

 第8話、妊娠してノイローゼ気味の望月紗也子が、何が不安なのかどんな助けを求めているのかわからない、という望月の夫・広紀(柄本時生)に由比は「僕らには子宮がありませんからね」と言った後、以下のように言う。

 「僕も産科医ですが、妊娠した女性の身体の中で起きていることは医療的にはわかっても、気持ちはわかりません。それが無償に悔しく思うこともあります」
 「でも、わからない分、わかりたいって思う気持ちは強いです。女性の医師が女だからわかるって流してるところも、僕は勉強して経験を積んで、わかろうとします」

 感情的にならず理知的に妊婦の出産や中絶と向き合っている由比だが、彼も決して完璧な人間ではない。分娩で命を落とした妊婦の夫から激しく非難されて、分娩は施設の整った大きな病院に任せるべきではないかと悩むこともある。

 第6話で「先生はどうして中絶手術をするんですか?」とアオイに聞かれた由比は、こう答える。

 「できればやりたくない仕事だよ。うちではやりませんって断ることもできる。でも、断ったところで、その妊婦さんは別の病院で手術を受ける。病院に断られて、どうすることもできなくて、自殺を選ぶ女性だっている。だからね。僕はこう思うようにしてる。アウス(人工妊娠中絶)はいつか望んだ時、またちゃんと妊娠できるようにするための手術だ。だから、できる限り丁寧に処置をする。中絶も分娩も同じようなものだと僕は思う。どちらも新しい命を迎えるための仕事だよ」

 由比のスタンスは、他の仕事にも通じる考え方だろう。筆者は本作を、働く男性にこそ、見てほしいと思う。


■NHKドラマ10『透明なゆりかご』
[総合](金)夜10時〜ほか

★おすすめ記事

  • TVドラマ『dele』 二人の軽妙な会話が作り出す、今までにない“新しい”バディもの

    テレビ朝日系金曜深夜の『dele』はデジタル遺品を題材とした連続ドラマだ。物語の舞台は、依頼人が設定した時間を超えてパソコンやスマホに触らないと通知が行き、デジタル遺品を消去してくれる会社。この会社を経営する車椅子のプログラマー・坂上圭司(山田孝之)と、会社に雇われている何でも屋の真柴佑太郎(菅田将暉)の二人が、デジタル遺品の消去を依頼した故人のことを調べるうちに意外な真相にたどり着くというのが、本作の見所だ。

  • TVドラマ『宮本から君へ』 働く人間なら、誰の心にも必ず「宮本」がいる

    ドラマ『宮本から君へ』は1990~94年にかけて連載された漫画が原作だ。今と比べれば、一生懸命になることはダサいことだと多くの日本人が思っていた時期の作品である。そんな時代にあって、恋愛にも仕事にも純粋で暑苦しい男・宮本を登場させることで、激しい賛否を巻き起こした。当時はバブル景気に浮かれていた日本に対する強烈なカウンターだったわけだが、大きく時代を隔てた2018年の20代に、本作はどのように響くのだろうか?

執筆者: 成馬零一 - ドラマ評論家
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。WEBマガジン「ich」(イッヒ)主催。主な著作に『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の評論家』(河出書房新社)がある。
https://twitter.com/nariyamada
https://note.mu/narima01

コラム新着記事

  • 株式会社シンカができるまで Vol.2 ~ベンチャーはこうして世に羽ばたく~

    株式会社シンカ・江尻高宏さんのコラム、シリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。

    2019年6月14日

    コラム

  • <シリーズ>「地方創生」2期へ! 1期を検証する ①

    令和を迎えた2019年、地方創生は1期5年の最終年となり、国は2期に向け有識者会議を開催、自治体も次期地方総合戦略の策定に動いています。1期は各年1000億円の地方創生関係交付金を投じるなど、財政支援を地方創生版・三本の矢の一つとして多額の予算が次ぎ込まれましたが、果たしてその大盤振る舞いに見合った成果は出ているのか。水津陽子さんの新シリーズでは、地方創生の1期の現状と課題を分析、2期に向け必要なものは何かを探ります。

    2019年5月31日

    コラム

  • TVドラマ「きのう何食べた?」 性的マイノリティともし同僚や友達だったら・・・

    近年、性的マイノリティを主人公にした作品が、世界中で作られるようになってきています。テレビ東京の『きのう何食べた?』もまた男性カップルの日常を描いたドラマです。自分がもしも性的マイノリティの同僚や家族、あるいは友人だったら、どういう距離感で接するべきか? を常に考えさせてくれるのが、本作の魅力です。

    2019年5月24日

    コラム

  • 斜めから見る〜今月の一冊 ⑧『昭和ノスタルジー解体ーー「懐かしさ」はどう作られたのか』

    前回の改元や世紀がわりのビジネスチャンスには上手くやれていた「ノスタルジー需要コンテンツ戦争」。改元からひと月も経っていないのに“過去形”で言うのは、負けが確定したからです。「すべての世代が当事者」のノスタルジー市場のなかで、今次どうして負けたのか? 今回紹介するのは、その分析用そして今後の戦略策定用の参考資料としての一冊です。

    2019年5月17日

    コラム

  • 株式会社シンカができるまで Vol.1 〜ベンチャーはこうして世に羽ばたく〜

    株式会社シンカ・江尻高宏さんの連載、今回からはシリーズとして会社創業時から現在にいたる汗と涙の道のりを振り返ります。何が成功を導いてくれたのか? 何が足りなかったのか? どんな出会いがあったのか? どんな発想で切り抜けたのか?・・・ベンチャー企業創業者だからこそ語ることのできるリアルストーリーです。

    2019年5月9日

    コラム

  • NHK大河「いだてん~東京オリムピック噺~」 失敗から後続の人々は学び、次の時代へと進む

    オリンピックと日本人の関わりを描いた大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)。戦国時代でも幕末でもなく、明治末から昭和にかけての日本を描く、とても画期的な挑戦です。誰かが最初に始めたからこそ道は生まれる。失敗から後続の人々は学び、次の時代へと進んでいきます。オリンピックを通して脚本の宮藤官九郎が描こうとしているのは、引き継ぎの連鎖なのです。

    2019年4月26日

    コラム

  • 「損して得取れ」のすすめ

    スタートアップで成長できている会社、継続できている会社の特徴は何なのでしょうか? これまでに数百の中小企業を見てきた李日生さんが、経験に基づいて検証します。

    2019年4月22日

    コラム

  • 在留外国人300万人時代!先進例に学ぶ、多文化共生のまちづくり(愛知県豊橋市)

    2018年末現在、日本に在留する外国人は273万人、前年比約17万人(6.6%)増で過去最高を記録。6年間で約71万人増加しました。今年4月の改正出入国管理法施行により、今後5年間で最大約35万人が増加すると見込まれていますが、このペースでいけば、2年を待たずに300万人を突破する可能性もあります。今後、多様な国や地域の人々とどう共生していくのか、日本社会のあり方が問われています。水津陽子さんの今回のコラムでは、人口の約5%を占める外国人住民との多文化共生のまちづくりに取り組む先進地にフォーカス。今後あるべき地域と外国人との関わり、多文化との共生について考えます。

    2019年4月15日

    コラム