地元が主役の“強烈”なまちおこし、山形・庄内で進化中!【前編】

ヤマガタデザインはなぜ、地方創生の「新たな潮流」と呼ばれるのか?

2018年9月14日
地方創生の必要が叫ばれてもう何年も経ちます。日本各地で様々な取組みが行われてきましたが、なかなか結果を導き出せていません。その要因のひとつは、誰が主体的にまちづくりに関わるのか? ということにあるかもしれません。もしまちづくりを成功させるもう一つの可能性があるとしたら? その問いに対する答えを出したのが、山形県鶴岡市で民間企業としてまちづくりを行っている「ヤマガタデザイン株式会社」です。9月19日には、山形県庄内地方の魅力を体現する施設がオープンします。

ヤマガタデザイン株式会社 代表取締役 山中大介さん。山形県庄内地方のまちづくりを民間主導で行っている。地方創生においていまもっとも注目すべき人物のひとりだ

地方創生の必要が叫ばれてもう何年も経ちます。日本各地で様々な取組みが行われてきましたが、なかなか結果を導き出せていません。その要因のひとつは、誰が主体的にまちづくりに関わるのか? ということにあるかもしれません。これまでまちづくりを推進してきたのは主に3つのパターンー中央による資本投入、地域の行政主導、そしてNPOーです。でももしまちづくりを成功させるもう一つの可能性があるとしたら? その問いに対する答えを出したのが、山形県鶴岡市で民間企業としてまちづくりを行っている「ヤマガタデザイン株式会社」です。9月19日と11月1日には、山形県庄内地方の魅力を体現する2つの施設がオープン、創業から4年の集大成となるプロジェクトのお披露目を前に、山中大介 代表取締役に話を聞きます。前編では「ショウナイ ホテル スイデンテラス」と「キッズドームソライ」の魅力について、後編ではヤマガタデザインの歩みや思想に焦点をあてます。

庄内平野の水田に浮かぶホテル「ショウナイ ホテル スイデンテラス」

ーーいよいよ今月19日に「スイデンテラス」がグランドオープンですね。

「地元」「ローカル」の格好よさを使ったまちづくりを目指してきました。庄内地方の最大の魅力は一次産業が生み出す原風景にあります。スイデンテラスは、まさに水田の上に必要最低限の建築物をたてるというのがコンセプト。その風景のまま街のひとが集まる場所にしたかった。農地も市街地に滲み出しているし、市街地も農地に滲み出している。市街地でこんな環境を作らせてくれる山形、鶴岡はすごいと思います。

ーースイデンテラスに足を踏み入れた途端、木の香りに包まれます。

143室ある客室はすべて木造です。木造としては、日本最大規模のホテルです。施設の周りには、田園風景と馴染むように修景用の稲を植える予定です。館内は原則として間接照明にしました。水田の自然光を受け入れながら、日中変化していく空間を楽しんでいただけると思います。

今月19日にグランドオープンするホテル「スイデンテラス」。庄内平野の水田に浮かぶ木造建築はプリツカー賞受賞の坂茂さんの設計によるもの。田園風景とのコントラストが美しい

ーー建築界のノーベル賞ともいわれるプリツカー賞受賞の坂茂さんの設計です。ものおじすることはありませんでしたか。

いえ、むしろ、めっちゃくちゃ注文しました(笑)。坂さんが慶應義塾大学環境情報学部の教授をされていたことのご縁もあり、なんとか仕事を受けていただけたのだと考えています。

ーー学生時代の縁とはありがたいものですね。

スイデンテラスの隣にあるサイエンスパークは、慶應義塾大学先端生命科学研究所が核となって生まれた、研究所やベンチャー企業が集まるエリアです。慶應のつながりがあったからこそ僕たちの考えが形にできました。本当に感謝しています。

世界中で設計してきた坂さんが「こんな建物はどこにもないよ」とおっしゃっていました。普通、造成といえば原風景が保たれることはありません。「水田の風景を守ろう!」という皆の思いがなかったらスイデンテラスはできなかったはずです。

ーー共用棟では一方の端からもう一方までが吹き抜け、その先には雄大な山々が見えます。「庄内に来たんだ」という思いがこみ上げてきます。

お客様には庄内の豊かさを感じていただき、それを持って帰っていただきたい。ここでは自然のなかで考える時間があります。そんななかで「自分の人生とはなにか?」といった自分の内面と向かい合うことができます。それはある意味、贅沢な時の過ごし方だと思います。

華美ではない、シンプルな美しさがスイデンテラスの特長。木造ならではの温もりのある館内、客室からは庄内平野の原風景や中庭など、趣のある景色が臨める。共用部にはライブラリーもあり、「オトナもコドモ コドモもオトナ」をテーマに選んだ1000冊の本を自由に読むことができる。レストラン/バーでは地産地消の選ばれた素材による食事が提供される

メインターゲットは地元の皆さん

ーーまちづくりにおいてスイデンテラスやソライにどんな役割を担わせようと考えたのですか。

僕たちのプロジェクトは、地元の大人も子どもも日常生活のなかで使える、サイエンスパークと地域を繋ぐ融合地点をつくりたいというところから始まりました。そして大人の交流施設と子どもの交流施設の二つをつくろうということになったわけです。

スイデンテラスは、お酒を酌み交わしながら地域のひとが外から来るひとを受け入れる場所というのがベースです。機能としてはホテルですが、僕たちがあえて「宿泊滞在複合施設」といっているのは、地元のひとが日常生活のなかで使える、日常生活のなかで自分も使うし、家族も使う、友達を鶴岡に呼びたくなるような施設としたかったからです。

ーー140という客室数だと、インバウンドを大きく視野に入れているのかと思いました。

結果として、あるいはひとつの手段としてインバウンドはあると思います。しかしメインターゲットは地元の皆さんです。地元をおもしろいと思う地元のひとが庄内に知り合いや友人を招く。鶴岡市と酒田市で27万人の市民がいて外部から年間4人を呼べば、交流人口は100万人以上増えます。地元の皆さんに友人や知人をスイデンテラスに泊めたいと思ってもらえれば、それがベースになると考えています。

ーー庄内は「食の都」と呼ばれますが、あまり知られていないような気もします。

地元の皆さんは「食」にプライドを持っています。でも、地元で十分まわっているので外に向けてメッセージを発していないんです。そこでスイデンテラスをハブにして、庄内の食材、料理、料理人の素晴らしさを伝えようと考えています。たとえば「サテライトレストラン」。地元のレストランのシェフにスイデンテラスの厨房を使ってもらいお客様に提供する。ショーケース的に庄内の食を知っていただけるし、「次は実際のお店にも行こうか」ということにもつながります。スイデンテラスでも自前のレストラン/バーを持ちますが、夜のサービスはあくまで単品を出すにとどめ、お客様にはできるだけ域内の飲食店を訪れていただくように考えています。

地域にひらかれた、子どものための施設「キッズドームソライ」

11月1日オープン予定の全天候型の遊戯施設「キッズドームソライ」。延べ床面積2000㎡の屋内の遊び場と約1haの屋外のプレイパークで構成されている。子どもの創造性を爆発させる遊びの空間。こちらも坂茂さんの設計

ーー「キッズドームソライ」は建物も空間も自由でわくわく感にあふれています。

庄内地方は雪国でありながら、これまで全天候型の遊戯施設はありませんでした。もちろん地元のパブリックコメントとして要望は根強くありました。僕たちのスタート地点は「大人と子ども」です。スイデンテラスと同時に子どもの交流施設についても考えていました。エンターテインメント型のカテゴリーではなくて、児童館や学童保育という地元の生活に密着した、その延長にソライはあります。「地域の交際環境をどう変えるか」という観点で子どもの交流施設を作りたい、民間で力を尽くすので行政も協力してほしい、と鶴岡市に依頼し、ソライのプロジェクトが始まりました。

ーーオープンまでには数々の模索があったと聞きました。

サイエンスパークには託児所があるのですが、慶應大学の教職員の子どもしか入れないんです。同じパーク内にはUIターンもいるし慶應の卒業生も働いているのですが、大学という枠組みがあってダメなんです。そこで「近くで保育園をつくってもらいたい」という要望が出てきたのです。

でも特定の人々のための保育園をつくるのは危険だと思ったんです。実は待機児童はこの地域にはいません。つまりサイエンスパークと地元との間に溝や距離が生まれてしまう可能性が高い。では「地域と子ども」というテーマで僕たちにできることはなにか? 新しい施設は地元全体に開かれている、そのなかの一部として保育園があるという整理にしました。それなら誰もが応援したいと思うはずです。地元の子どもにとって一番有意義な遊び場と学びの場、放課後の時間を豊かにする施設をつくってやろうと決めた瞬間でした。

いま、子どもの放課後は塾か学童保育の二つの選択肢しかありません。ソライが提案するのは、詰め込み式の塾でも学童でもない、第3の軸と呼べるものです。その原点は児童館にあります。子どもの天性が発揮できる、遊びながら学べる空間が児童館だと思うのです。

ーーソライの名前は荻生徂徠から来ています。

山形庄内には素晴らしい伝統があります。徂徠学をベースとした藩校「致道館」の教育です。温故知新はどの地域でも変わりません。地元の皆さんが応援したくなるのは土地に根付いたやり方です。致道館の教育方針は「天性重視個性伸長」「自学自習」「会業の重視」です。これは現代に置き換えても最先端の考えです。その内容にほれたということと地元へのリスペクト。この二つが重なり、名前は「ソライ」以外はないだろうと決めました。

(左)ソライの内部イメージ図。丘のように起伏のある床面と空が見える天井、自然にそのまま屋根をかけたような空間だ (右)ソライの空間イメージ図。構想したのは山中さん自身。「子供が自分でリスクを考える、子どもが自分を解放できる。そんな空間にしようと思いました」

ーーソライの空間イメージは山中さんが作ったとか。

子どもにとって「よりよい遊びの環境」とはなんだろう? めちゃくちゃ勉強しました。そこで浮かんだテーマは「大人も楽しめる場所」でした。大人が童心に帰れるような場所をつくらないと意味がない。なにより子どもは子ども扱いされるのを一番嫌います。子供を喜ばせようと意識したものはよくありません。子どもが自分でリスクを考えるような、登ったり滑ったり、隠れることができたり・・・。子どもが自分を発散できる、解放できる。そんな空間にしようと思いました。

デザインを描くときはめちゃくちゃ楽しかった。僕たちは民設民営で、建物のオーナーでありソフトの運営者でもある。自由に発想して形にすることができます。ならばと、天井も全部遊び場にしてしまいました。

ーー子どもにはどう育ってもらいたいですか?

こうあってほしいというのは大人のエゴに過ぎません。日頃、これはダメだということから解放してあげて、自分の目で見ることを大事にしたい。子どもは本当に危険なことは自分で理解します。好きなものは何かをストレートに感じられる場所。何かに熱中できる場所。長所、好きなものと出会える場所。それがソライです。

ーーまずは子どもの反応ですね。

狂喜乱舞すると思いますよ。子どもだけでなく大人も(笑)。

山中さんは1985年生まれ。「山形庄内で次世代に繋ぐ街をデザインする」をミッションにヤマガタデザイン を立ち上げた

  • 地元が主役の“強烈”なまちおこし、山形・庄内で進化中!【後編】

    もしまちづくりを成功させるもう一つの可能性があるとしたら? その問いに対する答えを出したのが、山形県鶴岡市で民間企業としてまちづくりを行っている「ヤマガタデザイン株式会社」です。9月19日には、山形県庄内地方の魅力を体現する施設がオープン、そこに至る道筋をたどります。キーとなったのは「完全地域主導」のまちづくりでした。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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