横浜港を彩るレストランクルーズ船! ロイヤルウイングの独自戦略

「もの」から「こと」へ。体験型消費の先駆者が語るサービスの原点

2018年9月10日
山下埠頭や新港地区の開発、IRの誘致などウォーターフロントエリアが活況を見せている横浜港。その横浜港の顔ともいえる存在が、レストランクルーズ船の「ロイヤルウイング」です。ベイブリッジをくぐり、東京湾、横浜港を周遊する観光クルーズ、そしてレストランでの美味しい料理。「もの」から「こと」へのトレンドのなか、体験型消費を象徴する記念日やウェディングなどの「ハレの日」向けのサービスも大人気です。
山下埠頭や新港地区の開発、IR(統合型リゾート)の誘致などウォーターフロントエリアが活況を見せている横浜港。その横浜港の顔ともいえる存在が、レストランクルーズ船の「ロイヤルウイング」です。ベイブリッジをくぐり、東京湾、横浜港を周遊する観光クルーズ、そしてレストランでの美味しい料理。「もの」から「こと」へのトレンドのなか、体験型消費を象徴する記念日やウェディングなどの「ハレの日」向けのサービスも大人気です。世代を超えてお客様から支持を得ている理由は、サービス品質への絶え間ないブラッシュアップがあったからでした。「株式会社ロイヤルウイング」の中村信仁 代表取締役社長に話を聞きます。

ウォーターフロントエリアが活況を見せている横浜港。その横浜港の顔ともいえる存在が、株式会社ロイヤルウイングが運営するレストランクルーズ船の「ロイヤルウイング」だ。中村信仁さんは6年前、代表取締役社長に就任した(左から5番目が中村さん)

「もの」から「こと」へ。体験型消費の先駆者

ーー横浜では、ラグビーW杯やオリンピックといった国際的イベントが続きます。体験型消費の流れという点で、ロイヤルウイングはその先駆者ともいえますね。

「もの」から「こと」へというトレンドは、特に東日本大震災後から大きくなったように感じています。着地型観光の進展もここ3年程度の印象です。お誕生日のお祝いなどの経験型サービスを専門に扱っているギフトがあるのですが、商品としてロイヤルウイングが扱われるようになったのがやはりその頃からです。いまでは扱い量的にもかなりの数字になっています。

ーー「ハレの日」の贈り物ですね。

結婚記念日、還暦、入学などの節目でいらっしゃるお客様が多いです。そのほか、特別な機会としてはプロポーズの場として使われる方も増えています。

ーー「プロポーズプラン」は人気商品になっています。

こんなにご好評いただけるとは思っていませんでした。年間で200件にもなります。週末の最上階の貴賓席はほぼプロポーズプランで使われています。いまのお客様の特徴として、消費にメリハリをつける傾向があります。それにあわせてアニバーサリー系の高額商品を増やしています。

ーーロイヤルウイングのサービスの基本は何でしょうか?

船といっても私どもは中国料理のレストランがメインの業態です。まずは美味しいものを食べていただく。そして笑顔になっていただく。ロイヤルウイングがお客様に支持されているのは、すべての調理を船内で行っていることが大きいと思っています。

ーーネットの評判を見ていると「ロイヤルウイングの料理はこんなにも美味しいのか!」と驚きの声が多くあります。

3年前に料理長が代わったのを機にサービスのオペレーションを見直しました。食事のマネジメントを改善することで、これまでの評価をさらにアップできたと思います。

「もの」から「こと」への体験型消費の流れのなか、「プロボーズプラン」など新たなサービスを提供、世代を超えた支持を集めている

船内で暮らしてみてわかった「無駄はなくそう!」

ーー中村さんは6年前に社長に就任されました。

私が着任したのは東日本大震災の1年半後のことです。売上げが25パーセント程度も落ち込んでいる状態で、私の役割は「会社を立て直す」ことでした。

ーー再建は何から手をつけたのでしょうか。 

売上げが落ちたのは世の中の動向だから仕方がありませんが、社内外のいろんな物事が理路整然としていませんでした。話し合ってコンセンサスを作るという習慣もありませんでしたし、予約管理も手台帳でやっているような状態でした。エンターテイメントの作り方は素晴らしかったし、商売の土台はあったのですが、そこから先は見えないような状態でした。

ーー中村さんはサービス業界のご出身ですか?

いいえ、前職はまったくの畑違いです。横浜港の港湾関係企業に勤めておりました。前職の会社がロイヤルウイングを支援することになり、私はその窓口役だったんです。そんななかで社長どうしが話しあって「次の社長をお前やるか?」ということになったんです。社長になるなんて思ってもいませんでしたし、こんなに大変だとも思っていませんでした(笑)。

ーー立て直すにあたって苦労したのはどの部分ですか?

やっぱりひとです。どうやって社員のマインドを変えて新たな方向にむかっていこうかということです。過去とは違う方向に進めなければいけない。その意識づけですね。でも走りながら考えなければならない状況だったので、まずは「やってみよう!」という精神で進めました。

会社を立て直すにあたって苦労したのは「やっぱりひと」と語る中村さん。走りながら考えなければならない状況のなか、まずは「やってみよう!」という精神で進めたという

ーーそれまでの会社の常識を変えるために中村さんご自身でトライしたことがあったとか。

現場の実際を見るために一ヶ月半ほど船内で暮らしてみました。同じ制服を着て同じ釜の飯を食ってみたわけです。自分の目で見て初めてわかることがあります。そこで思ったのは「無駄はなくそう!」でした。

私自身、サラリーマンだった時に無駄なことをやるのが嫌だったので、今の部下にもそうあってほしい。「金はかかってもいいから楽をしろ」と言っています。無駄なものやことがあるということは無駄な仕事をしているということ。そんな無駄なエネルギーをもっとやりたいことに振り替えるべきなんです。

ーー改革を続けてきて、会社が変わった実感はありますか。

「普通の会社」としての業務は一通りできるようになりました。次に必要なのは、社員に複数の業務をやってもらうことです。これまではチェックインカウンターの担当はその業務を行うだけでしたが、これからはほかの業務も経験してもらおうと思っています。たとえば経理を経験することでお金の流れや手間がわかる。判断の幅が広がるわけです。今後の会社の発展を考え、社内でひとを循環させようと思っています。外からひとを連れてくるのは簡単ですが、自前の人材だからこそのジェネラリストを育てたいと考えています。

複数の視点をもつことで新しい可能性を生む

ーー「エンターテイメント レストラン船」という他にない業態です。

その特別性によって、なにもしなくてもお客様は来てくださるかもしれません。横浜という場所だから選んでくださっているのかもしれません。でもそれがおごりになってはいけない。お客様視点をもつために、社員が「ひとりのお客様」としてロイヤルウイング のレストランで食事をする機会を設けるようにしています。働いている場面と違う観点で自社の業務を見つめ直してもらいたいからです。

そのほかに一般客として他社の船や客船も体験してもらうようにしています。客船は私たちとはサービス内容が違いますが、船という共通基盤があります。そこで船員さんのホスピタリティーのあり方を感じ取ることができます。

一方、レストラン業で働いてきたひとはレストランとしてのあり方はわかるのですが、私たちは空間と時間を売る商売です。レストラン的なサービスだけだと、お客様に買っていただいている時間と空間を満たすことはできません。

ひとつの視点だけだとややもすると傲慢になってしまう。それが複数の視点をもつことで、将来的にもっといいものに発展する可能性が生まれるのです。

3年後に船を新しくする計画を立てています。そのために半年をかけていろいろな国内外の客船を見に行きました。社員も順番に行かせています。

「エンターテイメント レストラン船」の魅力をさらに高めるために、ウェディングや生演奏など様々なアイディアを具体化させてきた

ーー体験型消費というと付加価値の創造が重要です。

付加価値、つまりプラスアルファの部分を上げていく努力をしています。レストランサービスの延長でないところでの演出です。生演奏やバルーンアートはもちろん、それに続くもののアイディアを日々、練っています。大きな何かを発想するというのではなく、ちょっとした発見の積み重ねを大切にしています。

ーーどういった層のお客様がいらっしゃるのですか。

20〜50代以上の幅広い層です。平日、特にお昼はシニア層がメインで、夜はお勤め帰りのお客様が多くいらっしゃいます。全体的には30〜40代がやや多いという分布です。

うちは着席でマックス450名を入れることができます。単なる外食業態で1店舗でこんな大きな箱はなかなかありません。その数をまかなうためには、限られた層だけにテンションをかけることは避けなければなりません。プロポーズなどのハレの日プランはご提供していますが、基本的には世代をまたいで複数の層に来ていただくという方針です。

ーー乗り物といえば子どもにも人気があるでしょうね。

横浜市中区の小学校の児童を順番に招待しています。大学生、社会人になって再び来てくださる方も多く、それは本当にうれしいですね。子どもの時の記憶から、ここで働きたくてアルバイトに応募してくれる人もいます。修学旅行でうちを選んでくれる学校も増えています。

――船で食事というと敷居が高いというイメージがあります。

経験のない方にはハードルがあると思います。「ドレスコードがあるんですか?」ーー初めていらっしゃるお客様の多くがこう尋ねられます。そんなお客様にとって居心地よく過ごしていただくためには、緊張を強いるような場所にしてはいけません。広告の文言も「ハレの日」と言いすぎないようにしています。中国料理レストラン、つまりフォークとナイフではなくお箸というのも、親しみやすさにつながっていると思います。

ロイヤルウイングは中国料理のレストランがメイン。「フォークとナイフではなくお箸というのも、親しみやすさにつながっていると思います」(中村さん)

ーーリニューアルしたホームページが素晴らしい出来栄えです。

ホームページを多言語化〜日英中国韓国スペイン語〜対応にしました。ウェブ上の予約システムはASPを使っているのですが、それを自社運営に切り替える検討も進めています。自社でやると制作コストは高くなりますが、自由度が全然違いますし、一気通貫でできます。それに、同じウェブで販売するのなら可能な限り自社システムでの販売に誘導できるように努めています。

リーダーに必要なのは「ぶれない」こと

ーーロイヤルウイングは横浜ベイスターズのテレビ中継にCM出稿していますね。

テレビ神奈川さんからご提案をいただきましたので、CM出稿させていただくことにしました。これも「やってみよう!」という精神から始めました。私は野球に詳しくないのですが、それがきっかけでベイスターズの試合をみるようになりました。直接球場に観にいくこともあります。

生の真剣勝負を観て思うのは、選手間の気持ちのやりとりがすごいことです。特に抑えや中継ぎののピッチャー。ノーアウト満塁で「行け!」といわれても、私にはとても無理です(笑)。彼らの集中力はみならわなければいけないなと感じます。選手の皆さんが自分の名前を告げられる時、どれだけのものを背負ってグランドに向かうのかわかるような気がします。10回登板してそのうち1回くらい打たれても仕方ないだろ、という腹の括り方をしているように感じます。成功体験にとらわれてもいけないが、失敗にとらわれてもいけない。あきらめるときはスパッとあきらめる。そして次の場面に向かう。その気持ちは経営者としてもすごく参考になるなと思います。

ーーリーダーとしての心構えに通じるものがありそうです。

リーダーに必要なのは「ぶれない」ことです。肝心なのは「ロジックは同じにする」こと。「過ちては改むるに憚ること勿れ」です。方針は変わってもいいんです。でもロジックが変わってはいけない。入れる情報の量が多ければ別の答えが出てくることもあります。なにかにこだわって変えないというのは最悪です。そもそも人間は間違える生き物。間違えたら直せばいいんです。

リーダーに必要なのは「ぶれない」こと。「方針は変わってもいいんです。でもロジックが変わってはいけない」(中村さん)

ーーロイヤルウイングは横浜という風景のひとつです。港とずっとかかわってきた中村さんから見て、横浜の魅力とは何でしょうか?

新しいものと古いものがぎゅっと狭い空間にあるのがいい。歴史とモダンが混在してエキゾチックな感じがいいんですね。東京は広すぎます。この辺りに昔から住んでいる方は桜木町から山手までのエリアを横浜と呼ばれているように感じます。つまり港周辺が「ザ・横浜」なんでしょうね。

ロイヤルウイングの汽笛が聞こえると、「もうそんな時間なんだ」と思われる皆さんも多いとうかがいます。昔は苦情がきたらしいんですが、いまは馴染んでいるので、聞こえなかったら、「どうしたんだ」と心配される方もいらっしゃるそうで(笑)。新しい船になってもこの汽笛だけはもっていきたい。最近では電子音がスピーカから流れる方式が多いのですが、うちはずっと圧縮空気で鳴らしているんです。船が変わっても、サービスや料理はオーソドックスなスタイルを守りたいと思います。

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執筆者: 加藤陽之 - HANJO HANJO 編集長
コンピュータ関連の出版社からキャリアを始め、カルチャー雑誌などの編集長を歴任。これまで数多くの著名人をインタビューしてきた経験を活かし、HANJO HANJOでは中小企業経営者の深く掘り下げた話を引き出し続ける取材の日々。

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